表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/294

情けは人の為ならず(その6)

(2)情けは人の為ならず <続き>


気付いたら私は、暗い部屋にいた。鉄格子が見えるから、留置所のようだ。

3件目までは覚えているが、その後は記憶がない・・・。

私は何をしたのだろう?


しばらくすると、警察官2名が通訳を連れて入ってきて、私の罪状を読み上げた。

警察官は現地の言葉で話しているから、通訳が私に分かる言葉に翻訳した。

『売春』、『薬物』、『恐喝』など物騒な単語が聞こえてくる。


警察が読み上げた罪状によれば、どうやら私は何件目かに行った店で女を買おうとしたらしい。

その際に、薬物のディーラーともめて喧嘩になり、それが恐喝行為に該当するという。

レスリーたちも同じ容疑で捕まっているようだ。


全く身に覚えがない。

私は警察官に『弁護士に連絡したい』と言ったが、聞き入れてもらえなかった。

警察官たちは「すぐに裁判が行われるから、それまでそこで待つように」と言って出ていった。


外国の裁判所で、弁護士なしで私に有利な判決が出るとは思えない。

サンマーティン国は『金で何とかなる国』と聞いているから、賄賂を渡せば出してくれるのだろうか?


レスリーたちに話が出来れば、状況は好転するかもしれないが、彼らの話し声は聞こえないから近くにはいないのだろう。


私は不安を抱えながらも眠気に勝てず、留置所の中で眠りについた。



***


留置所に入ってから、どれくらい経っただろうか?


部屋が暗いので時間の感覚が徐々になくなっているが、食事の回数は記憶している。

食事は1日3食与えられているはずだから、多分、今日は4日目だろう。

食事の回数が実は1日2回だったら、6日経過しているのだが、私には知る術がない。


看守から与えられる食事も映画のように不味いわけでもない。

日頃の食生活と比べると、留置所の食事の方が健康的なメニューが提供されているように思う。


やる事がないだけで、健康な生活だ。

留置所に入った初日は、あの日の記憶を思い起こそうとしたが、結局思い出せなかったので、早々に諦めた。脱獄できないかと思って部屋の中を色々と探ってみたが、難しそうだったから諦めた。


やることがないので、私は筋トレをしようと思い立ち、腕立て伏せを始めた。


若い頃は100回くらいできたはずだが、やってみると10回しかできなかった。

お腹も出ているから、腹筋ができるかどうかも微妙な体系だ。


オッサンになったことを実感する。


次はスクワットを100回してみた。

スクワットは100回できたが、足がプルプルする。


その後も私は暇だったから、健康的な食事を採りながら、筋トレを続けた。

今日の時点で腕立て伏せは80回できるようになった。スクワットは300回、腹筋も100回連続でできる。

連日の筋トレで、筋力も戻ってきたようだ。

ポッコリしていたお腹もへこみつつある。


こうして私は留置所の中で、健康的な食生活と身体を取り戻した。


それにしても暇だ・・・。


***


留置所に入って5日目に見覚えのある男がやって来た。サンマーティン鉱業のチャンだ。

私のことを聞いて、助けに来てくれたのかと思って、チャンに感謝した。


チャンは警察に聞いたらしく、私に状況を説明してくれた。

まず、罪状は私が通訳から聞いた内容と相違ないようだ。

次に、レスリーたちは何度か同様の件で逮捕されているようで、実刑は確実のようだ。

私は初犯だが、直ぐの保釈は難しいらしい。


保釈される方法をチャンに聞くと『国会議員のトマスが警察に言えば直ぐに出られる』と私に教えてくれた。

私が「トマス議員に頼んで欲しい」と言うと、チャンは「情けは人の為ならず」と言った。

私が「そうだ」と答えると、「聞いてみる」と言ってチャンは帰っていった。


それから2日して、チャンが再び留置所にやってきた。

今度は、トマスも一緒だ。


トマスは『私の保釈に協力しても構わないが、条件がある』と私に言った。


チャンには札束の入った茶封筒を渡せばいいとして、トマスは何を要求してくるのだろうか?


トマスが言った条件は、外務省の関連会社に販売する銅をベルグレービア商事からトマスの会社に810JD/kgで販売することだった。


外務省の関連会社へ販売する銅を、サンマーティン鉱業からこれ以上確保するのが難しいらしい。


トマスの個人会社から外務省の関連会社に850JD/kgで販売しているが、その販売する銅をベルグレービア商事から810JD/kgで調達したい、とのことだ。


【図表3:サンマーティン国の議員の提案】

挿絵(By みてみん)



トマスは、我々が『石の上にも作成』によって販売できない余剰在庫を抱えていることを知っていた。

どこからか、情報を入手したのだろう?


トマスは「私は寛大だから、余剰在庫を売れば保釈してあげよう」と私に言った。


ただ、私の独断では、余剰在庫を売ることを判断できない。


私が黙っていると、トマスは「『情けは人の為ならず』だよ。

余剰在庫を売らなければ、君はいつまでもここから出られない」と言って留置所から出て行った。


私はいつになったら、ここから出られるのだろうか?


<続く>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ