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王子が私の前にやってきた(その2)

(1)王子が私の前にやってきた <続き>


自動車メーカーを退社した私は、第13穀物倉庫で働き始めた。

これといった理由は特にない。たまたま募集を見て、条件が良かったから応募しただけだ。


まず、第13穀物倉庫は国営の穀物物流会社なので、公務員並みに給料は安定している。

ノルマも無いし、各種手当も充実している。ジャービス王国では珍しいホワイト企業だ。


第13穀物倉庫では購買部に配属された。仕事はなかなか面白かった。

穀物倉庫と聞くと、物流会社や配送業者をイメージするかもしれないが、事業内容はちょっと違う。どちらかと言うと、食品専門商社の方が近いだろう。


穀物と言っても、取扱商品数が多い。小麦、米、トウモロコシ、大麦、えん麦、ライ麦、ライ小麦、キビ、ブルグル、モロコシ、それに大豆などの豆類も扱っていたので、全部で20種類あった。

ジャービス王国の農業生産は多い方だが全ての穀物が国内生産している訳ではない。例えば、小麦は国内生産量で国内消費量をまかなえるので、調達した小麦を国内販売した後は余剰分を外国へ輸出している。逆に、米は国内消費量を賄えないので外国から輸入して国内で販売している。


それと、穀物の生産量や価格は、天候、自然災害、紛争に左右される。値動きも非常に粗い。過剰在庫を抱えないように注意しながら安定的に安い価格で仕入れないといけないし、損失が出ないように販売価格を設定しないといけない。


商社ビジネスは非常にゲーム性が強いのだ。

バスケットボールの選手だったせいか私はゲーム感覚で仕事をしていたと思う。


そして、第13穀物倉庫で働き始めて3年が経った頃、私はある事件を起こした。

みんな知っているだろうからあえてここでは説明しない。


もし知らない人がいれば第1回活動報告を見てほしい。


***


ある日、私が第13穀物倉庫に出勤するとターニャが休憩室で誰かと話していた。

ターニャはとにかく噂好きだ。

他の人の情報を仕入れてきては社内外に拡散している。

ガブリエルが『パパラッチ』と陰で呼んでいるのだが、まさにそんな存在だ。

そしてターニャは声が大きいから聞こうとしなくても会話の内容が耳に入ってくる。


ターニャは休憩室にいた何人かに「明日、王子が来るらしいよ」と言った。


私は耳を疑った。


― 王子がやって来る?


私の聞き間違いだろうか?

でも、ターニャは確かにそう言ったような気がする。


おみくじの『待ち人来たれり』のような神のお告げか?



明日、私の前に高身長の王子が現れるのか?


私はずっと待っている。

高身長の王子を・・・



***


そして次の日、第13穀物倉庫に行くと、王子がいた。


― 王子、来た~!


きっと昨日聞いたのは、ターニャを通じた神のお告げだったのだ。


思わずテンションが上がった。


ジャービス王国には4人の王子がいる。

私の前にやって来た王子は第4王子だ。

顔は知っている。

家にある王族カレンダーの7月・8月に出ていた顔だ。


確か、どこかの大臣をしていたと思う。

どこの大臣なのかは思い出せないが、独身なのは覚えている。


王子は休憩室でターニャと話していた。

パパラッチに捕まった不幸な王子。

そんな王子を見ている私。

遠くからでも身長が高いことは分かる。


― 私の高身長の王子じゃないか?


私はたまらずに王子の後をつけて行った。


王子が作業部屋に入ると、そこにはミゲルと綺麗な女性がいた。

女性は見たことがない顔だ。外部の人間だろう。

王子は女性と話をしているのだが、女性は王子を邪魔そうに扱っている。


― この綺麗な女性は王子に興味がない


私はそう確信した。


王子だし、身長は高いし、ライバルはいなさそうだ。


― この王子だったら何とかなるんじゃないか?


さっきまで王子はターニャと話していたから、私はターニャに王子と何の話をしていたか聞きにいった。情報収集は重要だ。

ターニャは私に『小麦の在庫数量を調べているらしい』と教えてくれた。


これは困った・・・・

どうやら、王子は私がやってしまった件を調べているようだ。


― ああ、神よ。私たちの仲を引き裂こうとされるのですか?


私は神を恨んだ。


それにしても、王子はどこまで調べたのだろうか?


私の推理が正しければ、まだ私が犯人とは気付いていない。


だって、もし気付いていたら私に会いに来るはずだから。


<続く>

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