XFTの破産(その2)
(6) XFTの破産 <続き>
ガブリエルと一緒に会いに行ったジョセフは初老の男性だった。
ジャービット・エクスチェンジのホセたちと年齢が近そうだ。
カルタゴ証券は平均年齢が高かったから、みんな同年代かもしれない。
まず、ジョセフが自己紹介と近況を説明した。
「私は、5年前までカルタゴ証券で働いていました。ジャービット・エクスチェンジのメンバーはほとんどがカルタゴ証券の同僚です。私もカルタゴ証券を退職する時にホセからジャービット・エクスチェンジに誘われたのですが、以前から付き合いのあった不動産会社社長の誘いの方が魅力的だったので、今の不動産会社に転職しました」
「そうでしたか。いつも当社の不動産物件の販売にご協力いただいて、ありがとうございます」と俺はジョセフに言った。
「いえいえ、こちらこそ。御社の販売する不動産物件は相場よりも安く販売できるので、当社の顧客から好評なんです」とジョセフは言った。
念のために説明しておくと、内部調査部はi4という会社で不動産の競売物件を落札して、ジャービス国内の不動産会社を通じて販売している。ジョセフが勤務している不動産会社も、i4の競落(競売で競り落とすこと)した不動産物件の売却を仲介する会社の一つだ。
「今日面談をお願いしたのは、ジャービット・エクスチェンジのことを教えてほしいからです」
「ええ、電話で概要は聞きました。具体的にどういう内容でしょうか?」
俺はジョセフにジャービット・エクスチェンジの調査目的を正直に言うことにした。
「率直に言うと、ジャービット・コインのパフォーマンスが良すぎて、『何か裏があるのでは?』と同業者は思っています」
「そういう噂があるんですね」
「今日の午前中に、ジャービット・エクスチェンジに訪問して話しを聞きました。会社から聞いたジャービット・コインが値上がりしている理由については、特に違和感はありませんでした。同業者とジャービット・エクスチェンジのどちらの言い分が正しいのか、判断に迷っています」
「『何かある』と『何もない』の双方の意見がそれなりに合理的なのですね?」
「そうですね。ジョセフが知っている話を、話せる範囲で聞かせてもらえればありがたいです」
すると、ジョセフは「参考になるか分かりませんが」と含みながらジャービット・エクスチェンジの社長について話し始めた。
「ジャービット・エクスチェンジの社長のホセは同期入社です。性格は非常に真面目です。会社が儲かることでも、顧客のためにならないことはしません。ただ、それが原因でカルタゴ証券では出世しませんでしたが・・・」
「何かあったのですか?」と俺はジョセフに聞いた。
「カルタゴ証券が破産した直接の理由は、詐欺グループの未公開株式の販売でした」
「それは知っています」
「当時ホセは、カルタゴ証券の社長にその未公開株式を顧客に推奨しないように、何度も進言していました。でも、その銘柄は販売手数料が高かったので、会社の利益を優先して、カルタゴ証券の社長は顧客に推奨することを全役職員に通知しました。ホセはその会社に実態がないことを早い段階で見抜いていたので、自分の顧客には販売しませんでした」
「へー、そんなことが」
「会社が販売推奨している銘柄を販売しないから、ホセはますます社内で冷遇されました。何度もその銘柄の推奨を止めるように社長に交渉しましたが聞き入れられず、最終的にホセはカルタゴ証券を退職しました。そして、ホセの退職から3カ月後にカルタゴ証券が破産しました」
「そういう経緯があったのですね。それにカルタゴ証券は全員同じ時期に退職したと思っていましたが、ホセが先に退職していたのですね」
「そうですね。3カ月とは言え、退職時期は違います」
<続く>