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カクヨムを始めました  作者: あじさい
2023年
68/87

カクヨム運営の注意喚起について。

2023年12月02日


 どうも、あじさいです。


 去る11月29日、カクヨム運営が「【コンテスト応募のルールについて】カクヨムコン9に応募する前にご確認ください」と題する記事をアップしました。

 皆さんご覧になりましたか。

 https://kakuyomu.jp/info/entry/webcon9_notes


 カクヨムWeb小説コンテストの公式な略式方は「カクヨムコン」なのか! という驚きもありますが、それはそれとして、おそらく昨年まではなかった興味深い注意喚起(かんき)がありました。

 今回、このエッセイでは、一部をご紹介し、筆者なりにやいのやいの申し上げたいと思います。




●「投稿作品のタイトル、キャッチコピー、あらすじ等で過度に性的な表現を使うことはお控えください」。

→「タイトルやキャッチコピーは、ランキングや新着欄への表示などで、多くの人の目に触れる可能性があります。そのような場所に過度に性的な表現が増えていくことは、青少年の文化促進や一般社会への創作普及にも力を入れているカクヨムとして、望ましくない事態であると考えています」。


<あじさいの小言>

 カクヨムの運営は前々からこういったことを言っていたと思いますが、ここで改めて注意喚起(かんき)が来ましたね。

 書店や読書文化をおびやかしかねない小説投稿サイトの1つが「青少年の文化促進(そくしん)や一般社会への創作普及(ふきゅう)にもちからを入れている」と豪語ごうごしているのは引っかかりますが、小説の執筆という趣味が一般化することは悪いことではないと思いますので、良しとしましょう。

 筆者あじさいとしては、表現が「過度に性的」なこともそうですが、「差別的」なことにも危機感をいだくべきだと考えています。

 たとえば、異世界ファンタジーで「奴隷どれいの少女」や「ハーレム」を云々といったタイトルは、「過度に性的」なわけではないと思いますが、「差別的」な点で問題ですし、カクヨムで深刻なのはむしろこういった表現の方でしょう。

 また、仮にも通称・LGBT理解増進法がある現在でも、ここで「差別」という文言もんごんを入れられないのは、悪い意味で“さすが大手”という気がします。性差別に限定するとかどが立つなら、外国人差別や人種差別などを含めて「差別的な表現は禁止」と言えば良いはずですが、それさえもできない(しない)辺り、小説投稿サイトはやはり、サブカルチャーの中でも特にアウトサイダーでしかないのだろうと思います。




●「ランキングスコアは読者からの評価が優先されます」。

→「カクヨムコンのご意見やご感想を皆様からお寄せいただく中で、複数人の友達同士でコンテストに応募している人達がお互いに評価しあうため、個人で参加する人達が相対的に不利になるのではないかというご質問をいただくことがあります。(略)ランキングを決定する評価ロジック〔の調整〕によって((ママ))改善を試みています」。

→「具体的にはランキングのスコアを算出する際に、同じコンテストに自身が参加している方のレビューよりも、参加していない方のより客観的な視点でのレビューを重視するような調整です。このランキングロジックにより、特定の方が不利益を被らないように公平な運営を目指しています」。


<あじさいの小言>

 少し分かりにくいと思いますが、カクヨム運営の文章には、「書き手」と「読者」を別物としているふしがあります。そのため、この表題の「読者」としては、「Web小説を書かない、もっぱら読むだけのカクヨムユーザー」が念頭ねんとうに置かれていると思われます。カクヨムユーザーがよく使う言葉で言えば、「せん」ですね。


 話の内容は、カクヨムコンではお互いに評価し合う“友達”が多い書き手が有利になり、ソロプレイの書き手は不利になってしまう、それは不公平だという声が多いから、“友達”同士の評価はカクヨムコンでは低く見積もられるように(“外部”の人間の評価が重視されるように)、運営は頑張ってシステムを調整しています(だから今は我慢がまんしてね)、ということです。

 カクヨムでは“友達”が多いユーザーほど高く評価されているのではないか、というのは、書き手なら一度は考えることではないかと思います。もっと言うなら、(ろくに読まなくても)評価ボタンを押し合うことが習慣化している“友達”が多いユーザーは、作品の点数をかせぎやすいし、それによって人目に付く機会も増えて、小説投稿サイトでは“人気者”になれる。であるならば、愚直ぐちょくにシナリオや文章の技術をみがくよりも“友達”を増やした方が、手っ取り早くコンテストの審査突破や作家デビューができるのではないか、ということです。

 もちろん、“友達”作りや広報もネット小説家としての“実力”のうちだとか、単に色々な人にびを売るだけでなく自作の更新こうしん頻度ひんどを高めておかないと常連さんはつかないとか、色々反論はあるかと思いますが、仮にWeb小説が直面する最初にして最大のかべが、「いかにして人目に付くか」だと考えるなら、この疑念は当然出てきますよね。

 今回の注意喚起(かんき)は、その現状についてカクヨム運営がシステム改善の必要性を感じていると明言した点で、ソロプレイヤー(りのユーザー)にとって朗報ろうほう、という見方ができます。

 とはいえ、筆者は引っかかりを覚えています。


 ――そもそもコンテストの選考方法として、他のユーザーからの人気ではなく、作品それ自体の内容を吟味ぎんみすればむ話ではないでしょうか。


 応募数が多すぎるなら応募に条件を設ければいいし、選考期間が短すぎるならばせばいい、それでも手にえないならコンテスト自体をやめればいいだけです。

 結局、コンテストを開催しておきながら、選考委員がろくに目を通さない読者選考なるものを一次審査の代わりとしていることが、文芸の評価としては不誠実かつ不公平であり、その意味で“間違って”いるんだと思います。

「ネットで人気だったから書籍化しちゃいましょ」

「書籍が好調だからコミカライズしちゃいましょ」

 ということではなく、内容や完成度について、選考委員やレーベルの編集部が責任を持ち、手間を引き受けるべきなんですよ。

 責任や手間をけむたがりながら、批判を回避して利益と信用だけ手に入れようとするから、かえって面倒くさいことになる。その意味で、カクヨム運営はずっと迷走していると思います。




●「応募作が自主企画に参加した場合、同自主企画に参加しているユーザーからの作品評価は無効となります」。

→「自主企画の中にはお互いの作品を読み合って評価し合うといった性格のものがあります。そのため参加作品の評価をそのままランキングに反映すると、自主企画に参加していない作品に比べて過剰に有利に働いてしまう可能性があります。そこでランキングの公平性を期すために、「同じ自主企画に参加している人同士の評価をランキングに反映しない」としています」


<あじさいの小言>

 これは筆者あじさいが以前このエッセイに書いた、自主企画の仕組みの確認です。

 興味を引かれるのは、「自主企画の中にはお互いの作品を読み合って評価し合うといった性格のものがあります」とカクヨム運営が明言しつつ、それを批判していないことです。

 自主企画一覧をのぞいていると、いわゆる「読み合い」は規約違反だから自分たちは「読み合い」をしないという企画をちょくちょく見かけるのですが、カクヨム運営として、それは規約違反ではないと太鼓判たいこばんを押していることになります。

 そもそもの話、自主企画の参加者がきちんと「読み合い」を遂行すいこうしているか、主催者に知るすべはありません。仮に確認したにしても、「これから読もうと思っていたのに」と言われたら言い返せません。そのため、「読み合い」を義務とする企画は、それ自体が仕組みとして破綻はたんしています(そこに寛容かんようでありながら参加者の善意と良心にまかせることで成り立っています)。

 ただ、カクヨム運営がそれを否定しなかったということは、ユーザーはそういう自主企画を開催しても良いということです。

 ガイドラインでは、()()()()評価を送り合う企画は禁止されていますが、このあないて、「()()()()()()積極的に評価しましょう」といった企画は多く開催されているわけで、皆さんお察しの通り、こういう企画に喜んで参加する人というのは、他人の作品の中身を吟味ぎんみせず、時には本文を読みもせずに高評価を与えて、あわよくば自分も高評価してもらおうという満々の可能性があると推定できます。

 今回、カクヨム運営はそれらの企画に対して、明示的にOKのサインを出した、と言えるでしょう。


 小説投稿サイトの性質上、自主企画くらいはそういうものでないと盛り上がりにくいという部分はあるのでしょうが、何というか……。

 もちろん、カクヨム運営が、現状に問題があると認識し、それに対策を立てようとしていることは伝わってきます。あまり急激に変わりすぎると反動があるはずですし、“誰もが納得するような決定”などあり得ないという、ガバナンスの難しさもあるでしょう。ですが、正直、まだまだ不充分という印象がいなめません。




 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。


 近年、日本社会はどうにも短期的な利益や効率を偏重へんちょうしがちな気がしますが、筆者は、人間や文化というのは中長期的な視座のもとでしか育たないと思っています。

 カクヨム運営にもそういったことに配慮したサイト運営をしていただきたいです。

 特に文芸は、効率や経済性を追求するばかりでは面白くならないため、一時的な人気取にんきとりや話題性にみんながむらがる競争の場よりも、多様な個々人がのびのびと好きなものを書いたり読んだりできるいこいの場を構築・維持いじし、充実させていくことが重要になるはずです。

 中長期的にはそれこそが、魅力的みりょくてきな作家が生まれる土壌どじょうになるのだと思います。

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