2章 追いかけっこ
誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。
ミリア目線とライル目線です。
「あーもう!何で付いてくるんですか!?」
「あはははっ!面白いからね!」
私は今、王宮を舞台に盛大な追いかけっこをしていた。
もう20分くらいは走り回っているだろうか。最初は早歩きだったものが、段々とスピードが上がり、今では普通に走っている。
令嬢が走っている姿を見られるのは良くないので、魔法で姿を消しているのだが、それでもセイルズ様は私の居場所が分かるようだった。ちなみに、私の護衛をしていた近衛騎士は早々に私を見失っている。
こんなに走っているのにセイルズ様はまだまだ余裕のようだ。
「ねぇ君、結構体力あるよね。しかもドレスに、義足でしょ?すごいなぁ。」
「そうですよ!もう体力の限界ですから私のことは放っておいて下さい!」
「またまたー!全然息上がってないよね。そろそろ捕まえてじっくり……」
「ひっ!!」
「………!!」
私はもういいやと思い、足に魔力を流し、一気に王宮の2階テラスまで跳んだ。
どうせ、私の姿は他人には見えていないし、魔法騎士団長に少しくらい能力がバレてしまっても構わないと思った。それくらいセイルズ様の笑みが怖かった。しかも、本気を出せば私をいつでも捕まえられたのに、ギリギリの距離を保ったまま走り続けさせる性格の悪さも怖かった。
私はテラスからさらに王城の屋根に跳んで逃げる。しかし、セイルズ様はまだ追いかけてきた。
「何で諦めてくれないんですか!!」
「えー?このまま観察するのも楽しくなってきたからかな?でもほんとにすごいねぇ。ねぇ、まだスピード上がるでしょ。なーんか余裕に見えるんだよなぁ。」
「余裕なのはセイルズ様では!?何で付いて来られるのよ〜!」
「何でだろうねぇ。あれでしょ?目は見えてないけど、物体は把握出来てる感じかなぁ?でも、かなり細かく視れてるよね?この会話も外に漏れないようになんかしてるし、ますます連れて帰りたいなぁ。」
「このっ!状況で分析しないでください!」
もう言葉遣いとかマナーとかどうでもいいくらいに私は嘆きながら走った。スピードはセイルズ様の言う通り最大加速ではないが、それでもこのスピードに付いてこられる冒険者はいなかった。
彼は魔法騎士団長なので、ある程度は鍛えているだろうが、それでも魔法を使って戦うのがメインスタイルのはずだ。でも、これは完全にオズリオ様レベルの動きだ。
私はさらにスピードを上げて、セイルズ様を引き剥がした。
そして、誰でも入れるバラ園に身を隠す。
「はっ……はぁ………」
私はやっと一息つけた。
と思ったが、セイルズ様の魔力が迷いなくバラ園に向かってきた。
(な、ななな何で!?)
「みーつけた!」
「嘘でしょう!?」
私はまた走って逃げる。何なんだこの人は。
「何で居場所が分かるんですかっ!!」
「んー?何だか興味ある人の居場所って何となくだけど分かるんだよねぇ。」
魔力で私の居場所を察知したのだろうか。確か、私の魔力は妨害され、私も妨害した。でも、セイルズ様は『魔力』という単語を使っていない。もしかしたら無意識的に使っているのだろうか。私が苦労して会得した魔力操作を、感覚で使っているなんて紛れもない天才だ。
私はこのままじゃ埒が明かないと思い、誰か頼れる人はいないかと探した。すると、訓練場の方にお兄様と殿下とオズリオ様の魔力を見つける。私は最大加速で訓練場へ向かった。
……………………
「おい、ライル。いつもより仕事が遅いぞ。どれだけ飲んだんだ昨日……」
「さあ?ワイン10本くらい空けたんじゃないか?あー……いてぇ……」
「は?10本!?飲み過ぎどころじゃないだろう……」
俺は、コメカミをぐりぐりと押さえながら書類を処理していった。
ミリアのように1回吐けばよかったと後悔するが、もう遅い。身体に入れてしまったアルコールはどうしようもないので、痛む頭を無視しながら、業務を行っていく。
すると、ミリアに付いていった近衛騎士が勢いよく執務室に入ってきた。
「魔法騎士団長のセイルズ様と遭遇し、公女様が追いかけられております!」
「はあ!?……あいつ何したんだ………それでお前はどうしてここにいる?」
「私は……お2人に付いていけず、見失いました。」
「マジか………」
近衛騎士が付いていけないというなら本気でミリアは逃げているんだろう。
それにしてもセイルズか…と考える。セイルズは異色の経歴を持つ人物だった。平民出身だが、色々あってジキール伯爵家当主となった。元々は宮廷魔法士として働いていたが、オズリオの剣に興味を持ち、剣術を身につけ、魔法騎士団長となった。戦闘力も地位もあるが、政治や社交界には一切興味を持たず好き勝手するセイルズが、俺は大の苦手だった。
別の近衛騎士が報告にくる。
「セイルズ様がお1人で王城のあちこちを走り回っているとのことです。何やら独りで会話をして笑っているようで…その、いつも以上に奇行が激しいかと……」
「あー……その先にミリアがいるんだろうなぁ…」
報告を聞くに、一応ミリアは外聞を気にしているようだ。
アレクは既に仕事が手についていない状態だった。ミリアが男に追いかけられていると知れば、落ち着いてなんていられないだろう。ただ、俺の考えでは、セイルズとミリアは馬が合うんじゃないかと思う。
とりあえず、ミリアを捕まえないことには、逃走劇は終わらない。俺は、近衛騎士に魔法騎士副団長を訓練場に連れてくるように指示して、アレクと共に訓練場へ向かった。
訓練場には、近衛騎士第1団と団長のオズリオがいた。
俺が事情を説明すると、オズリオは笑って答えた。
「事情は理解した。セイルズを第1団で捕まえようかとちょうど悩んでいたところだったんだ。それで、結局どうやって捕まえるんだ?」
「あぁ、それはだな…ミリアにとって頼れる人物は…俺、アレク、オズリオ…あとはセジルもか?…まぁそれくらいだからな。拓けた訓練場である、ここに集まっていれば、ミリアから飛び込んでくるだろ。」
「そんな罠を張るみたいに……ああ!だから殿下がそわそわしているんだな。」
「……そういうことだ。」
アレクはさっきまでミリアに会っていたというのに、また会えるというだけで嬉しくて仕方がないようだ。それに、頼れる人物として挙げた名前の中に自分が入っているということで、喜んでいる。
しかし、兄ながら思う。多分、ミリアの頼れる人物ランキングは、1位が俺、2位がオズリオ、3位がアレクとなっていることに。そこにレオも加われば、さらにアレクの順番が落ちる。恋愛対象としてはアレクが1位だろうが、彼は頼れる人物というわけではないのだ。
そうこうしているうちに、魔法騎士副団長も到着した。
あとは、本命を待つのみ。俺は、そわそわしているアレクに声をかけようとした。
「おい、アレク………え。」
瞬間、目の前が暗くなった。
そして、すぐにミリアが目の前に降ってきたと気付く。
俺は腕を広げて妹を抱きとめたが、何せ二日酔いと、降ってきた人間の重さに耐えきれず、そのまま尻餅をついた。ドレスと解けた長い銀髪が顔を撫でる。
「っ…ミリ………」
「お、おお兄!お、おに、おにぃさ……な、何あれ、あ、ああれ……!」
ミリアは相当混乱しているようで、言葉になっていない。それに、周りには騎士団もいるというのに素になっている。チラリと隣を見ると、アレクが腕を広げて固まっているのが見えた。が、俺は見なかったことにして、ミリアの頭を撫でなから宥める。
「ミリア…言葉になってないぞ。ゆっくり話せ。」
「な、ななんか!どこまでも追いかけてくるの!ずっと!笑っててっ……隠れてもっ!すぐにっ!」
結局ほとんど会話できていないが、状況は分かった。ミリアが必死にしがみついてくるせいで、かなり苦しい。そしてかなり恥ずかしい。ミリアは気付いていないが、ここにいる騎士団全員から微笑ましい視線を向けられている。
近衛騎士団には、騎士階級だけでなく、貴族の者も多い。つまり、社交パーティでのミリアの様子を見ていた者も多いということだ。折角、貴族令嬢らしく格好良く振る舞っていたのに、今は兄に甘えるただの妹だった。
そして、すぐにミリアを追いかけていた元凶が現れた。
「あれ?ライル?…って、ああ!君の妹か!ねぇ、その子貸して欲しいんだけど。」
「ひっ!」
何事にも動じない妹がここまで怯えるのは珍しい。そして、セイルズは騎士団に囲まれているにも動じず、話を続ける。
「さっきの移動。ちょーっと速すぎだよねぇ。今まで生きてきて1番びっくりしたかも。ねぇ、ライル。その妹貸してよ。」
「セイルズ、ちょっとお前はアレクと副団長に説教されてこい。その後、妹を貸してやるから。」
「はい!?」
「やったー!約束だよ?」
「ああ。」
セイルズは嬉しそうに、魔法騎士副団長の下へ走っていった。そして、俺の話を聞いていたアレクもその後を追う。
ミリアは怒っていた。
「お兄様!何で私を売るような真似をするの!?」
「はいはい。お兄様は二日酔いで頭が痛いんだよ。それより、お前ここが何処か分かってるんだろうな?」
「知ってるわよ!ここは王宮の訓練じ……………」
ミリアが周りの騎士達の存在に気付く。
セイルズから逃げるのに必死で、周りの状況を気にする余裕がなかったのだろう。ミリアはみるみる青ざめていった。
ミリアは、国を去るのをやめてから素直になった。家族や友人からすると、その変化は嬉しいが、公爵令嬢としてはリアクションが分かりやすいのはどうかとも思う。そして、能力が高すぎるから手に負えない。
例えば……
「…ここにいる全員の記憶を消せばいいわよね…?」
「……いいわけないだろ。」
冗談だとは分かっているが、たまに本気でとんでもないことをするから恐ろしい。
社交パーティでも、冗談だと分かっていたが、ミリアなら状況に応じて、相手の腕を切り落とすくらいなら平気でやりそうだとも思った。
俺はミリアの頭を軽く小突いて言う。
「セイルズは悪い奴じゃないから仲良くなっても損はないぞ。それに、副団長がミリアと話したいと言っていた。仕事が終わったら迎えにいってやるから、魔法騎士団で遊んでこい。」
「…そんなこと言って、本当はセイルズ様が苦手なだけじゃないの?」
「それもある。」
ミリアは「やっぱり」と言って笑った。
妹が納得した後も、セイルズはまだアレクに怒られていたため、その間、ミリアの護衛騎士についてオズリオと相談した。
そして、頭痛に耐えながらも業務を終わらせて、魔法騎士団に向かう。
思った通り、ミリアはセイルズと仲良くなっていた。
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