2章 暴露
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「おーおかえり。」
「お兄様…ただいま…」
デートから帰った私を出迎えてくれたのはお兄様だった。
お兄様は、疲れている私の様子から何かを察したようで、2人分の夕食を私の部屋に運ぶよう指示をする。そして、そそくさと何処かへ行ってしまった。向かった方角から考えて、おそらくまたお父様のワインをくすねてくるのだろう。
私はといえば、学舎で素敵なデートを満喫したのだが、帰りの馬車で迫ってくる殿下をずっと拒否するのに疲れてしまっていた。もう、王太子妃になるならないに関わらず、殿下の行為を受け入れた方が疲れないんじゃないかと考えてしまうあたり、前世での素行の悪さが残っているなと思う。ただ、私の気持ちと都合で待たせてしまっている人に、行為だけ許すなんて不誠実な真似はしたくないとも思った。
私が楽な服装に着替えていると、思った通り、上等のワインを持って、お兄様が部屋にやってきた。
私たちは食事が届くより前に、乾杯をして話し始める。
「お前…アレクに迫られて疲れてるんだろ?着替えてる時に、キスマーク見えたぞ。」
「え!?うそ!?」
「嘘。」
「……。」
私が首筋に手を当てて驚いたのを見て、お兄様は「あーはいはい。そこにされたんだな。」と言った。完全にカマをかけられてしまい、私はまんまと引っ掛かってしまった。
以前、オズリオ様に恋愛相談する等、色々考えていたが、結局お兄様に話を聞いてもらっている。
テロをきっかけに、セレリィブルグ王国の人事は大きく変わり、引き継ぎが始まると、お兄様は以前よりも時間を作れるようになった。忙しいのは変わらないが、兄妹でお酒を飲む時間が増えたと言える。それに、今日は珍しくレオがいないので、本当に兄妹水入らずの時間だった。
「で、学舎を見てきたんだろ?楽しかったか?」
「ええ、勿論楽しかったわ。色々考えてくれてありがとう。」
「まぁな。国にとっても悪くないし、雇用も増える。フェレスのおかげで人も増えたし、大半はお前のおかげだ。」
「それでも、殿下やお兄様がいないと実現しなかったことよ。本当にありがとう。」
私が再度お礼を言うと、お兄様は照れたように笑った。
その後、学舎の経営だとか雇用がどうだとか就職がどうだとかを話し合う。私が前世の学校を思い出しながらアイデアを出すと、面白いと言って話を聞いてくれた。
しかし、学舎のことで話がひと段落すると、すぐにお兄様は話を元に戻した。
「話を戻すが、アレクとの関係に進展はあったのか?」
「進展ね………………………………………………ないわ。」
「いや、何かあった間だろ。今のは。」
「ねぇ………進展てなに?恋愛ってなに?もう分からない…本当に人を好きになったら私は私の事情を話せるのかしら?分からないわ……」
「………いや、知らんけど。」
「………お兄が言ったんでしょ。」
もうすでにワインのボトルが4本空いている。自分でも酔ってきているのが分かった。疲れているのか、今日は酔いが早い。
お兄様は私が酔ってきていることに気付いたようで、ゆっくりと諭すように言った。
「好きになれば、少しでも話しやすくなると思ったから言ったんだよ。はぁ、何があったんだ?大体分かるが……」
「分かるなら言わせないで……って何で分かるのよ。」
「詳しいことは分からんが、あれだろ?アレクにキスされて、お前が大した反応を見せなかったから、アレクが怒って気まずくなったんだろ?」
「……だから何で分かるのよ。」
デートの帰り、殿下はまた隙をついて私にキスをした。ただ、直前に殿下の魔力に触れたわけでもなかったので、驚きはしたが、心が揺れることはなく、普通に「やめてください」と言い返してしまった。それに不機嫌になった殿下はことあるごとに私に触れようとしてくるので、最終的には魔法を使って拒否をして、帰ってくるということになってしまった。
私は、どうせ大体分かっているのならと、お兄様に一連の流れを話した。お酒の勢いもあっただろう。それを聞いたお兄様は、ワインが美味しいようで、もう1本空きを作っていた。
「なぁ、前から聞きたかったんだが、お前は距離が近いのに抵抗はないのか?レオとも近いだろ?」
「正直……あまり抵抗はないわね。殿下は、最初は怖かったけれど、今はそうでもないし…殿下もレオも綺麗な顔をしているでしょう?不快感あまりないのよね。特にレオは下心一切ないし……」
「ん?え?ちょっと待て。ミリア………お前…処女だよな?」
「それは……そうだけど。」
前世では経験豊富だが、今世では勿論ない。でも、お兄様が不思議がるのも分かる。私は、自分の貞操観念が貴族令嬢として普通ではないことを自覚している。だから、恋愛が分からず困っているのだ。
私は一応言い訳するように言った。
「…フェレスの時、強姦されている女性を何度も保護したわ。盗賊や犯罪者ってそういうの多いもの。だから…そういう行為に夢を見なくなったし、慣れてしまったの。」
「…………俺が、きっと育て方を間違えたんだろうな………」
「お兄……何でもかんでも責任感を発揮するといつかハゲるわよ。私、ずっと格好いい兄の妹でありたいわ。」
「じゃあ!兄がハゲないような行動をしてくれよ………」
「……もう、手遅れかもしれない………」
お互いお酒が入っているせいで、しょうもないことに口が回る。私が、髪が生える魔法を開発しておくと言えば、それでお金を儲けようという話になった。話が脱線しては、元に戻しの繰り返し。
私は酔いがさらに深まったところで、気になっていたことを聞いてみた。
「お兄って……ほんとのところ、どこまで知ってるの?レオから色々聞いてるんでしょ?」
「…その身体の宝石のことか?それは俺から言うべきじゃないだろ。お前から言うべきだ。」
「……。」
「俺から言ったところで何になるんだ?人任せにするのか?ちなみに俺は何も知らないぞ。」
お兄様はツンとそっぽを向いた。
「だって…受け入れてもらえるのかが怖いの…私のせいで家族や殿下達が非難されるのが怖いのよ……」
「まだ言ってないことで悩んでも仕方ないだろ。あーあ……ミリアに1番信頼されてるのは俺だと思ってたのになぁ。お兄様は妹に冷たくされて悲しい。」
「冷たくしてないわ。ものすごく甘えてる。それで、もっと甘えようとしたら、人任せにするなってそっぽ向かれたところ。」
「はいはい。」
お兄様は立ち上がって、私の隣に寄り添うように座った。お兄様の腕が私の肩に置かれる。
「もう魔力操作が上手く出来なくてお酒飲めてないだろ。ほら、これ飲んで酔いに任せて言ってしまえ。」
お兄様の言う通り、私は酔ったせいで細かな魔力操作が出来なくなっていた。おかげでどこにグラスがあるのか分からなかったが、大量にワインを入れたグラスをお兄様が私に手渡した。
「言えば楽になるぞ。俺も相談に乗ってやれるし、一緒に悩んでやれる。良いことばっかりだなぁ。」
そう言いながら、お兄様は私の頭を優しくぽんぽんと撫でた。
色仕掛けならぬ兄仕掛けだ。グレイの色仕掛けなんかよりも何百倍も効果がある。
「う……お兄って、こうやって情報を吐かせてるのね……参考にするわ。」
「ちっ……思ったよりまだ冷静だったか。」
「ううん。冷静じゃない…かも………私が何か吐いても…その後に本当に吐いても、格好いいお兄様でいてくれるって約束してくれる?」
「吐くこと前提かよ。…内容によっちゃハゲるかもしれないが、約束する。」
お兄様の返事に思わず笑ってしまう。
私はグラスのワインを一気に煽った。
急性アルコール中毒のように頭がぐらっと傾いて、平衡感覚を失う。でも、私の身体はそんなやわじゃない。
私はグラスを机に打ち付けて割った。
そして、尖ったグラスで、思い切り自分の首を刺した。
「お、おいっ!!………って…………え?」
焦った声が聞こえるが、同時に言葉を失ったことも分かった。
私の身体は、酔っていてもちゃんと鱗が生えたようだ。私はそのまま勢いに任せて言った。
「私はミリアリア・レノヴァティオ。それは変わらない。でも……生まれた時の身体では…なくなってしまったの……!」
私はボロボロと泣きながら「ごめんなさい」と何度も謝った。
両親がくれた身体を失ってしまったこと、同情で受け入れてほしいと少しでも考えてしまっていること、結局詳しいことは言えないこと、この身体になったせいでお兄様に苦労をかけてしまうこと等、色んなことへの申し訳なさで私はいっぱいいっぱいになった。
「うっ…………」
「ちっ!…ほら!ここに吐け!」
そして、私は吐いた。
私は、涙の嗚咽と一緒にこみあげてきたものを、お兄様が準備していた甕に吐いた。
背中をさすってくれるお兄様の手が震えている。上から「本当に吐くとは」と声が降ってきた。予想も予告もしていたが情けない。こんな公爵令嬢は嫌だと自分でも思う。
お兄様はサジアを呼び、割れたグラスと甕を回収させた。サジアは何も言わずに片付けてくれて、最後に「旦那様には黙っておきます」と言って部屋を出て行った。本当にありがたい。
そして、お兄様はひとしきり笑った後、「予想通りだ!」と言って頭を撫でてくれた。
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