2章 デート2
誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。
「……ぅ。」
殿下の唇が、私の唇に重なっている。
「……んん!」
「…………。」
抵抗しようにも、殿下は力をこめて抑え込む。
私は未だに状況がよく分かっておらず、固まっていた。身体のバランスも悪く、無理矢理引き寄せられて、キスをされているので、どこが重心になっていて、どこに力を入れればいいのか分からない。
それに、直前まで殿下の魔力に集中していたので、自分の状況が全く分かっていなかった。
殿下の髪が私の頬に触れる。
私はくすぐったくて、瞼を持ち上げて瞬きをした。どうしてそう思ったのかは分からないが、殿下と目が合ったような気がする。
「……!」
殿下の唇がゆっくりと離れていく。
彼は、私に額をくっつけたまま、小さく笑った。
「……どうして…笑うのですか?」
「…嬉しくて。」
殿下の魔力に直接触れたからだろうか、私の心もつられてぐらぐらと揺れる。
そのせいか、今まで何とも思っていなかった近すぎる顔と、優しくて低い声を無性にやめてほしいと思った。
心臓が大きな音を立てて身体中に響いているのが分かり、私は急に恥ずかしくなる。
「…顔が赤い。」
「………殿下の魔力に直接触れましたから。流石の私も……その……」
「…ドキドキする?」
「う………はい、仰る通りです。あの……」
「ん?」
「放していただけませんか?」
今の私は、殿下に抱き抱えられている。つまり、私は全体重を殿下に任せてしまっていた。私は離れたいのだが、殿下は「否」というように、私の腰を引き寄せて…膝の上に乗せた。
「駄目。放したら貴女は逃げるだろう?」
「…逃げるようなことをするからではないでしょうか。」
「キスのこと?それはさっき、ミリアリアが別の男のことを考えていたからだよ……前回と同じ人かな?」
(す、鋭い……)
以前、殿下に■■■のことを少しだけ話したのを覚えている。私はそんなに分かりやすい顔をしていたのだろうか。
私は返事をしなかったが、殿下は私の反応から「肯定」と受け取ったようだ。先ほどまでの様子とは打って変わって、彼は責めるように言った。
「前にも言ったと思うけれど、他の男のことを考えられるのは、あまり気分のいいものじゃない。」
「……ええ。…申し訳ございません。」
「分かっているならいいよ。……ねぇ、そんなに、彼と私は似ているのかな?」
問われて、私は■■■の顔を思い出す。■■■と殿下は、全然似ていない。容姿は殿下の方がずっと整っているし、■■■は年下で可愛い後輩だった。殿下とはまるでタイプが違う。
「……似ておりません。ただ、私に向けられる感情が同じなので、思い出してしまうのです。」
「…そう。どっちにしろ不愉快だけどね。彼とも…キスをしたのかな?」
「え?キス…ですか……して、ないと思います。」
正直、あまり覚えていない。あの時は、自暴自棄で来るもの拒まずだったから。ただ、■■■とそういうことをすると、彼を手放せなくなると思って、拒否していたのは事実だ。結局、後輩として慕ってくれる彼を拒みきれなくて、呪い殺してしまうという結果になってしまったのだけれど。
「ふーん…じゃあ、貴女の唇を奪ったのはレオだけ?」
「え?……レオ?」
「ん?…していたよね?……私の目の前で。」
「えー…と?…………あ!」
殿下に言われて思い出す。そういえば、レオに口移しでドラゴンの血を飲まされたことを。私にとっては、キスというより、血を飲まされたという記憶に変換されているし、その後の殿下の変わりようの方が印象強かった。
私は考えながら「気にするほどのことでも…」と口を溢す。すると、一気に殿下の雰囲気が重くなったのを感じた。
(あ……やってしまった?)
「で、殿下……?」
「ふーーーん?ミリアリアにとってキスはその程度のことなんだ。よーーーく分かったよ?」
(まずい!)
私は急いで、自分の口元を両手で覆った。
「……。」
「……。」
殿下の唇が私の手の甲に当たっている。危なかった。
咄嗟の行動だったが、私は間違っていなかった。間違っていたら、それはそれで自意識過剰で恥ずかしいことになっていたかもしれないが、殿下に愛されていることは、もう十分知っている。
私は口元を覆ったまま話す。
「これ以上は魔法を使って抵抗します。」
「へぇ…寛容だな。だから私は不安になるのだけれど、まぁいいよ。ちょうど着いたようだしね。」
殿下の言っている意味が分からなかったが、確かに馬車が止まったので、私は考えることをやめた。というより疲れたので、考えることを放棄した。
私は殿下にエスコートされながら馬車を降りる。目的地には、予想外のカイがいた。
久しぶりの再会。私はカイを思いきり抱きしめた。
「カイ、会いに行けなくてごめん。」
「寂しかったけど大丈夫。事情はにーちゃんに聞いたし。それより、先生に見てほしいものがあるんだ!!って、見えないのかな…?」
「ふふっ、大丈夫!なんたって先生だからね。目が見えなくても分かるよ。何を見せてくれるの?」
そう言うと、カイは嬉しそうに私の手を引いて誘導してくれた。殿下は後ろからゆっくり付いてきてくれている。
前に進むにつれて、増えていく子どもたち。知っている子に知らない子、ボールを持っている子に本を持っている子。ここまでヒントがあれば、流石の私も分かる。
「せんせー!!着いた!!」
誰かが言った。私の前には、均一な窓が沢山付いている大きな建物。まさしく、予想していた通りの「学校」がそこにあった。
カイが子どもたちを代表して説明してくれる。ここは、平民の子どもが学べるところで、優しい先生とちょっと怖い先生が色々なことを教えてくれるのだそうだ。他の子どもたちも、カイの後に続いて、面白い授業や苦手な授業があることを教えてくれた。
子どもたちには、私がいなくなることをあらかじめ伝えていたので、心配はあまりしていなかった。ただ、テロのおかげでまともなお別れができなかったことだけが心残りだった。
殿下が私の手を握って言った。
「ミリアリアに心から笑ってほしくて、ライルやカイ達と相談しながら創設したんだ。今日のデートはね、ここの見学なんだ。」
そして、殿下は「私は視察を兼ねているけどね。」と付け足した。
ミアの時、平民も気軽に通える学校があればと何度も思った。しかし、国を出ていく私には、大きなことも責任のあることも出来ないと諦めていた。
私が零したものを殿下が拾い上げてくれていた。
私は言葉が出てこなかった。嬉しいと、驚きと、期待と、興味と、他にも色んな感情が溢れてきて、どう伝えればいいのか分からない。殿下が私の反応を、言葉を待っている。でも、胸の奥が震えて声が出ない。
私はなんとか声を絞り出して言った。
「……すごく、嬉しい…」
「…うん。そう言ってもらえて私も嬉しい。さて、デートのエスコートをさせてもらえるだろうか。パーティでの名誉挽回をさせてほしい。」
「ふふっ!…ええ、喜んで。」
私は、殿下に手を引かれ、新設された学舎に足を踏み入れた。
その後、私は、殿下と子どもたちと一緒に昼食を食べ、授業を受け、一緒に遊んだ。
馬車では先行き不安で仕方なかったけれど、本当に素敵なデートが用意されていた。
この学校は、国の税金を使って運営されていた。
しかし、今後も存続させていくための工夫もしっかりされていた。例えば、昼食の料理は、見習い料理人の練習の場になっていること。学業に合わせて、新種の作物の研究や販売できる商品の作成を子どもたちが担っていること等。まるで会社のように運営されていた。
私は国庫の心配をしたが、殿下曰く、識字率が上がれば、経済も潤うので税金を使うのは問題ないとのこと。反対する貴族もいたが、テロのおかげで出てきた膿で十分賄えるとのことだった。
まだまだ手探り状態で不安なところもあったが、子どもたちの笑い声と、楽しそうに話す殿下の声を聞いていると、不思議と大丈夫だろうと安心できた。
私は、今日何度言ったか分からない感謝の言葉を口にする。
「殿下、ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
私はこの日、殿下や子どもたちと一緒に、声を出して、心の底から笑うことが出来た。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク&評価してくださるおかげで、なんとか執筆ペースを保てております。
本当にありがとうございます。
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次話以降も読んでいただけると嬉しいです。




