2章 王太子2人
誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。
アレクシル殿下目線です。
フュナンゼ国との同盟記念パーティ。
私は、そのパーティに、楽しみのような不快なような、何とも言い難い気持ちで臨もうとしていた。
怪訝な顔をして、私の側近であるセジルが言った。
「殿下、パーティではそのような表情はお控えください。フュナンゼ国のグレイル殿下も出席されますので。」
「ああ、分かっている。だが、ミアが参加するのがどうしても不安なんだ。ミアが社交界入りすると、何だか手が離れてしまうような、遠くに行ってしまうような、そんな気がしてならない。」
「…ミリアリア様は殿下の婚約者でも何でもないですから。」
「…………。」
セジルが容赦なく痛いところを突いてくる。昔はもっと可愛げのある奴だった気もするが、最近はライルのように遠慮がない。しかし、ここで悩んでも仕方がない。私は社交界用の笑顔を張り付けて、パーティ会場に足を踏み入れた。
パーティが始まってから、しばらく経った後、会場入口でレノヴァティオ公爵家の名前が呼ばれた。遅れた登場により、大勢の視線がライルとミアに向かう。
「美しい……」
「まさしく聖女だ。」
「盲目なんて…瞳も見てみたいものだ。」
ミアに対する声がどうしても耳に入ってくる。
ライルとお揃いの衣装。夜の海のようなドレスに、映された星空が宝石になって輝いている。ドレスとは対照的なミアの白い肌が、さらに美しく見えた。そして、閉じられた瞼が、余計に、誰にも心を開いていないような気高くも儚い雰囲気にさせていた。
「瞳を見てみたい」という男の声があちらこちらから聞こえてくる。確かに、あの瞼が開かれた先にいるのは、自分であったらと切望してしまうだろう。それは、私以外ありえないが。
そして、大勢の視線を惹きつけたまま、ミアはデビュタントの儀式を終えた。
父上の贔屓には驚いたが、おかげで、ミアを王太子妃にした時の反発は少なくなるだろう。この国の王のお気に入りなのだから。
私は、国の重鎮や新しく宰相となった者に挨拶をしながら、横目でライルとミアのダンスを見ていた。
ライルが妹に向ける顔は、本当に緩んでいる。パーティでも眉間に皺を寄せていることが多いライルだが、今は破顔している。視界の端で、新たに恋に落ちたとわかる令嬢がいた。今日、あの兄妹に落とされた貴族は何人になるのだろうか。
私は、挨拶もそこそこに、ミアの下に足を運んだ。
もう、彼女を誰の目にも触れさせたくない。そんなことは無理だと分かってはいるが、少しでもどこかに隠しておきたい。そう思い、私は人のいないテラスへ彼女を誘導した。
私は遠慮なく彼女を問い詰める。
「貴女に好意を向けた男は誰?…どれだけ私が愛を乞うても反応しない。そのくせ、自分の気持ちを伝える時は目に涙を溜めて赤面する。……せめて、恥じらう姿だけは私のものであってほしい。」
「……。」
ミアは答えない。
困らせていることは知っているが、彼女を困らせるのは…悩ませるのは、私だけの特権だ。これで、私の心は僅かでも満たされるのだから、相当性格が悪いというか、自分でも拗らせてしまっているのが分かる。
しかし、私たちの空間に邪魔者が入ってきた。
「こんばんは。ミリアは今日も美しいな。」
「フュナンゼの王太子が何の用かな?それに、彼女を気安く呼ぶとは…やめていただきたい。」
やってきたのは、フュナンゼ国の王太子、グレイル・フュナンゼ。
事前に、ミアとグレイル王子は交流があったとライルから聞いていたが、まさか愛称で呼んでいるとは…不愉快だ。
しかし、反してグレイル王子は、面白がるように言った。
「私と彼女は友人だ。友の名を気安く呼ぶのは当たり前だろう。」
「ふん。ライルを殺そうとしておいて何を言う。それに、今は公式的なパーティだ。たとえ友人でも、他国の王子が公爵家の姫を愛称で呼ぶのは控えるべきだ。」
「……それは嫉妬か?執着する男は嫌われるぞ。」
「はっ!あぁ嫉妬だ。想い人に馴れ馴れしくする男がいれば当たり前だろう。」
「!!………へぇ…先ほども思ったが、好意を隠そうとは考えていないようだな。…ミリアも苦労する。」
「あぁ、知っている。」
グレイル王子は、呼び方を全く改めようとしない。彼がミアに好意を寄せているわけではないことは見れば分かる。しかし、自分の方がミアと親しいように言われるのは、度し難い。
会話が一息ついた後、私は違和感に気付き、後ろを振り向いた。グレイル王子も今気付いたようで驚いた顔をしている。
そう、ミアを庇うように立っていた私だが、いつの間にか私とグレイル王子の2人になっていた。
「「また逃げられたか。」」
声が揃った。私ともう1人、同じことを言った者がいる。
「……は?」
「……ちっ」
ここには2人しかいない。つまり、私とグレイル王子の声が重なったということだ。
また逃げられた。グレイル王子も、ミリアに逃げられたことがあるということか。
風が虚しく吹いて、木の葉が目の前を滑っていった。
相手を負かしてやろうという気持ちも、どこかへ飛んでいってしまったみたいで、急激に気持ちの熱が冷める。
先に口を開いたのはグレイル王子だった。
「……まぁいい。アレクシル、同盟会議の議題でもあげるつもりだが、大災害についてどう考えている?」
「!…やはり、フュナンゼも警戒していたか。100年ごとに都市を壊滅させる正体不明の大災害のことだな?」
「ああ。」
いきなり呼び捨てとは驚いたが、同盟国の王太子同士、面倒な呼び名はさっさとやめた方が今後も都合がいいだろうと思い、咎めることはしなかった。
それよりも、大災害について聞いてくるとは思わなかった。セレリィブルグ王国側も同盟会議で議題にあげるつもりであったが、先に意見が聞けるなら、それに越したことはない。
100年ごとに起こる大災害。どこで起きる災害なのかは分からず、一瞬のうちに都市が壊滅する。そして、災害の正体も判明していない。調査をしようにも100年に1度という頻度で、災害は瞬きのうちともなれば、情報も集まらない。100年前はアナーナ国で起こった。その前はセレリィブルグ王国とフュナンゼ国の国境付近だ。
昨年がちょうど、災害から100年だった。もう、いつ起きても不思議じゃない。
私はまず、一般論から述べた。
「災害がどこで起こるのかも、どうやって起こるのかも不明な現状、取れる対策は限られている。対策を取ることすら諦めている国も少なくない。だが、国を預かる身としては、何もしないというのは無責任だと考えている。」
「そうだな。私もそう考えている。現王は諦めているが、王太子としては、見過ごすわけにはいかない。」
「…意外だな、グレイル。」
「…何のために王太子になったと思っているんだ。」
グレイルはその後に「手を出せる権限を増やすためだ」と言った。
そういえば、ライルから聞いた話だと、グレイルはよく変装をして平民に紛れているという。手段は綺麗とは言えないが、グレイルにはグレイルなりの信条と考えがあるのだろう。
その後は、険悪な空気になることはなく、災害についての方策やその他の施策について思いの外、話に花が咲いた。ただ、今までの彼の行いを考えると、気を許しすぎても良くない。線引きが重要なのだと、社交界での鉄則を思い出した。
私たちはテラスで話していたが、会場が騒がしくなってきた。何かあったのだろうと様子を見れば、渦中にミアがいた。近くの者に事情を聞くと、胸糞悪くなるような話だった。
『回復魔法を強要してくる者が出てくる。』
これは、あらかじめ想定していたことだが、それでも気分が悪い。私はミアが無事なのかどうか、改めて彼女を見た。そして、彼女の表情を見て、同時に思い出す。ミアはライルの妹であったことを。
侮辱されたにも関わらず不敵に笑うミア。気付けば、私は野次馬に混じって彼女の様子を眺めていた。
「これは、私が奇跡と呼ばれる回復魔法を使った代償です。左腕の他に、両目と右足がなくなりました。私は、童話に出てくるような聖女ではありません。…私に回復魔法を使わせたいなら、両目と手足を差し出しなさい。話はそれからです。」
彼女の透き通る声が会場に響く。
もし、ミアが普通の貴族令嬢なら、侮辱を否定するだけで会話が終わるだろう。しかし、彼女は楽しそうに相手の男を脅したついでに、他の貴族にもはっきりと忠告する。相手を負かして、意見を周知させるというのは案外難しいのだが、ミアはそれをやってのけた。
そして、驚くことに彼女は絶大な力を持つレノヴァティオ公爵家の名前を使わなかった。これは、上級貴族を相手に、心理戦ができるということを意味する。
しかし、彼女はそれだけに留まらなかった。
「ふふっ。実は、私には心の声が聞こえるのです。私には貴方の姿は分かりませんが、他人の心の声が聞こえます。んー……顔は悪くないのに、髪型と格好が残念って聞こえます。」
重くなった空気が一気に軽くなり、笑い声まで聞こえるようになった。近寄り難い印象から、親しみやすい印象に変わる。そして、相手の男の顔が一気に赤くなり、ミアに落とされた。後日、レノヴァティオ公爵家には、あの男からの求婚状が届くのだろう。不愉快極まりない。
いつの間にか隣に来ていたオズリオが笑いながら言った。
「ミリアは、容姿だけでなく性格までライルにそっくりだな。」
「……ああ。」
「身体に障害があれば、社交界で敬遠されるかもしれないと思っていたが、問題なさそうだ。ミリアとダンスを踊ったが、全く違和感がなかった。」
「オズリオ…ミアと踊ったのか?」
「まさか、殿下は踊っていないのか?連れ去っていただろう?」
「…逃げられたんだ。」
目の前の惨状に追い詰められ、最後にオズリオにも追い詰められてしまった。せめて、今からでもダンスに誘おうかと思ったが、同じように考える貴族は多く、見かねたライルがミアを連れて帰って行ってしまった。
後ろの方で重鎮達が楽しそうに話す。
「しばらく、社交界はレノヴァティオ公爵家の話題で盛り上がりそうですな。」
「本当にな。それにしてもエリオスの子どもとは思えんな。」
「全くだ。」
「はははっ!」
その後もパーティは続いたが、誰も彼もミアとライルのことを話題にしていた。ミアには秘密が多い。だから、そこらの有象無象に心を許すことはないと分かってはいるが、それでも嫌だった。
(これ以上、魅力的にならないでくれ……)
無理なことは分かっているが、それでも願わずにはいられなかった。
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