2章 社交界デビュー2
誤字脱字報告ありがとうございます。
遅くなりましたが、更新です。
今回、長くなってしまいました。
アレクシル殿下とグレイル殿下が睨み合う。
2人の会話は、私に対して馴れ馴れしいだの、名前の呼び方がどうの、どちらが親しい等と言って牽制し合っている。アレクシル殿下は本気だが、グレイは揶揄っている部分もあり性質が悪い。
ギャラリーが集まってきそうな雰囲気になってきた。
私は、男に取り合われて困惑している恋愛漫画の主人公になりたいと思わないし、思われたくもない。そして、2人の言い合いを止めようとするのは、火に油を注ぐ行為ということも知っている。
私は、今のうちにと、姿を薄くしてその場から逃げた。
会場で居心地の良さそうなところを求めて歩く。
別に隠しているわけではないが、盲目の私が1人でズカズカと歩いている様を見せるのは憚られたので、姿を薄くしたまま歩いていた。
しかし、そんな私を見つける方がいた。
「こんばんは。ミリア。社交界デビューおめでとう。」
「こんばんは、オズリオ様。お祝いのお言葉、ありがとうございます。」
声をかけてきたのは近衛騎士団第一団長のオズリオ様だった。オズリオ様は帰国したばかり。やっと仕事が落ち着いたというところだろうか。オズリオ様とは、テロの日に強引にエルに乗せてそれきりだった。
彼はテロを思い出しているのか、少し苦しそうに言った。
「テロの日、何があったのかはライルから聞いた。…ありがとう。ミリアのおかげでほとんど犠牲が出なかった。」
「出来ることをしただけです。それに、ほとんど犠牲が出なかったのはオズリオ様のおかげです。あの日、オズリオ様が私を探しにきてくださらなければ…あの時、オズリオ様が騎士を統制していなければ…考えただけでもゾッとするほどの犠牲者が出たはずです。こちらこそ、ありがとうございました。」
陛下も私を賞賛してくださったが、私だけでは勿論無理だった。大きく行動したのは私だが、そんなのは当たり前のことだ。私は、彼らと違って、何の業務も責任も請け負っていないのだから。殿下やお兄様達が裏から沢山サポートをしてくれていたからこそ、私は自由に行動できた。ただ、それだけだ。
しかし、オズリオ様は「それが騎士団の役目だ。」と言って、私の言葉を聞き入れては下さらなかった。魔力を見れば、悔やんでいることが分かる。
テロは大変だったが、結果は悪くない。私には、何に悔やんでいるのか分からなかったが、すぐに教えてくれた。
「ライルへの攻撃を防げなかった。そして、ミリアが犠牲になることも止められなかった。」
「しかし、代わりに王都は守られました。」
「いいや、王宮にも少なからず騎士団はいた。貴族の盾となってこそ騎士団だ。騎士団が守るべき存在に守られた。これでは何のために騎士団長になったのか。」
「……。」
オズリオ様の拳が震えている。
優しい方だと思った。正義感が人一倍強く、そのために努力も後悔も惜しまない。ただ、ここまで思い詰められると流石の私も黙っていられない。
「…人にはそれぞれ力があり、役割があります。役割以上のことまで背負おうなんて傲慢なのでは?」
「…なっ!」
私が厳しい言い方をするとは思わなかったのか驚いている。でも、すぐに私の意図に気付いたようだ。私はそのまま言葉を繋げた。
「私は、出来ることはしましたが、持ちうる力の全てを使ってテロを止めたわけではありません。私は…役割を全うしなかった。……私の負傷は私だけのものです。それを奪おうなんて、私に対する侮辱行為と同じです。」
「……………ミリアは、優しいんだな。」
「ふふっ。オズリオ様には負けます。」
オズリオ様はきっと、ずっと後悔してしまう。だからあえてきつい言い方をしたけれど、私の言葉はちゃんと届いたようだ。
その証拠に、オズリオ様は冗談混じりに提案してきた。
「ミリアが主君なら騎士は幸せだろうな。護衛騎士を探すなら立候補させていただくよ。」
「近衛騎士団長を護衛騎士だなんて、陛下も殿下もオズリオ様も、どれだけ私に暗殺者を集中させれば満足するのでしょうか。」
「ミリアを殺せる暗殺者がいれば、スカウトにいかないとな。……でも、本当に護衛騎士についてはどう考えているんだ?」
「お兄様にはまだ言っていないのですが、お願いしたい方がいるんです。あの………」
私は、オズリオ様に目当ての騎士の名を伝えた。思っていた通り、オズリオ様も知っている方で、直接話を通してくれることになった。
デビュタントを終えた貴族には護衛騎士を任命する権利を与えられる。護衛騎士を任命している貴族は半々で、殿下やお兄様は任命していない。男性貴族は個人的に実力で護衛を探す人が多く、対して、女性貴族はファッションのように護衛騎士を任命する。護衛騎士の自慢大会は、お茶会では定番のネタらしい。
オズリオ様を護衛騎士にしたらそれこそ自慢できるだろうが、騎士団を辞めさせることになる。陰謀や嫉妬に狂って暗殺者が来そうだ。既に陛下や殿下のせいで妬まれているというのに。
その後、オズリオ様ともダンスを踊り、知り合いの貴族を何人か紹介してもらった。やっと社交界らしくなってきたと思ったら、次は典型的な野次に絡まれてしまった。
「おいお前。聖女って言われてんだって?奇跡のような回復魔法が使えるんだろ?見せてみろよ。」
絡んできたのは、私と同い年くらいの男性。容姿は綺麗な顔立ちをしているが、髪型が残念で、半分は掻き上げて、半分は下ろしている。服の着方も少し変で、着崩しているのか、きっちり着こなしているのか微妙なところだった。きっとこの分だと、服の配色も微妙なのだろう。お兄様には説明されなかった、大したことのない2割の貴族だった。
名乗りもしないこの男性に対し、腹が立つのを通りこして呆れてしまう。私は嘲笑しながらわざとに無視をした。
「………。」
「おい!耳は聞こえてるんだろ!?無視するな!!」
教育を受けた貴族とは思えないほどの言動。子どもと同じだ。私は揶揄ってあげようと思って返事をする。
「……もしかして……私のことでしょうか?」
「ああ!そうだよお前だよ!!聞こえているならさっさと返事しろよ!!目も見えないくせに偉そうにパーティに参加しやがって!!」
「ええ。おっしゃる通り、私は目が見えないので耳が頼りになります。ただ、自分から名乗りもせず、急に話しかけられては目が見えていたとしても分かりかねますわ。……貴族が参加するパーティなのですから。」
私は、暗に「礼儀ができていないお前は本当に貴族なのか?」という意味を込めて言った。こういうタイプの相手は経験があるので得意だ。感情と言動が一致しているし、単純。可愛さすら感じる。ただ、過去の相手は皆、5、6歳の子どもだったが。
思った通り、相手の男は頭に血が上ったようで、さらに声をあげて反論してきた。
「はあ!?馬鹿にしてんのか!?……俺は!エルーレレ侯爵の息子のジョイル・エルーレレだ!分かったか!」
「ふふっ。そうでございましたか。大変失礼いたしました。私、ミリアリア・レノヴァティオと申します。」
私は余裕をたっぷりと含んで名乗り返した。しかし、まさかの侯爵の息子。思ったよりも身分は高い。でもきっとジョイル君は「侯爵」という言葉で私を牽制するつもりだったのだろう。今まで侯爵という身分をかざせば、誰も文句を言ってこなかったんだなと容易に想像がつく。
彼は、私の態度にご不満のようで、マウントを取ろうと必死になった。
「はっ!本当は怯えているのにわざとに偉そうにしてんだろ!可哀想なやつ!!ほら!早く奇跡の回復魔法を見せてみろよ!」
「分かりました、と言いたいところですが、困りましたね。怪我人がいなければ回復魔法は使えません。それに『奇跡の』と言われると、欠損が必要ですね。」
「そんなん誰か探せばいいだろ。」
「いいえ、時間がもったいないです。ふふっいい事を思いつきました。私が、貴方の腕を切り落として差し上げますので、それを治してご覧にいれます。」
「……は?……っはあ!?」
名案を思いついた!というように、物騒なことを笑顔で言ってのけた。流石に、ジョイル君もギャラリーも私の発言にびっくりしている。ジョイル君ほどではないにしろ、魔法を使えと強要してくる輩は出てくるだろうと思っていた。彼には申し訳ないが、この場を利用させてもらう。
「どうしたのでしょう?まさか、腕を切り落とすのが怖いなんて言わないですよね?」
「はあ!?頭おかしいのか!?き、切り落とすんだぞ!?や、や…やめろ!!」
ジョイル君も流石に動揺している。私が手を伸ばせば、彼は尻餅をついてしまった。
腕を切り落とすのが怖くない人なんているわけがない。そんな人がいれば、ジョイル君の言う通り、頭のおかしい人なのだろう。しかし、私は声に軽く殺気を混ぜて間髪入れずに言った。
「頭がおかしいのは貴方ですよ。ジョイル・エルーレレ。」
「ひっ…ぇ……え……あ…………」
ジョイル君は初めて殺気を浴びたのだろう。声がまともに出ていないし、目に涙をためていて可哀想だ。
騒動を知って、さらにギャラリーが集まるが、誰も止めようとしない。私の殺気に気圧された人と私の対処に興味がある人、そして、面白がっている私の知り合い達。
私はジョイル君とギャラリーの前で、ゆっくりとグローブを外した。私の、精巧に作られた左腕の義手が顕になる。皆に見えるように、聞こえるように、私は少し声を張って、ジョイル君に言った。
「これは、私が奇跡と呼ばれる回復魔法を使った代償です。左腕の他に、両目と右足がなくなりました。私は、童話に出てくるような聖女ではありません。…私に回復魔法を使わせたいなら、両目と手足を差し出しなさい。話はそれからです。」
「……で、でも!その手は自由に動いているじゃないか!め、めめ目だって!まるで見えているみたいに!!」
「この義手は特別ですから。でも目は見えません。代わりに耳がいいんですよ。」
「み、耳がいくら良くたって……!」
「ふふっ。実は、私には心の声が聞こえるのです。私には貴方の姿は分かりませんが、他人の心の声が聞こえます。んー……顔は悪くないのに、髪型と格好が残念って聞こえます。」
「んな!!!」
クスクスとギャラリーが笑う。やはり皆思っていたことだったらしい。笑い者になっていると気付いたジョイル君は恥ずかしそうにあちらこちらへと首を振る。
もちろん、心の声が聞こえるというのは嘘。精密な魔力操作で形が分かるだけだ。髪色も瞳色も服色も分からない。8割は可愛いジョイル君を揶揄うためだが、あとの2割は、私の敵になりうる貴族への情報撹乱のためだった。
すごい勢いで私たちの下へ歩いてくる人がいる。ジョイル君と魔力が似ているので、この方がエルーレレ侯爵だろう。
エルーレレ侯爵は私とジョイル君の間に立って、私に頭を下げた。
「私は、この馬鹿息子の父親、エダン・エルーレレと申します。息子が大変無礼な事を言ったと聞きました。息子に代わって謝罪いたします。」
「私、ミリアリア・レノヴァティオと申します。エルーレレ侯爵がまともな方で安心致しました。しかし、謝罪は結構ですよ。」
「それはどういう……」
「ふふっ御子息様の反応が可愛らしくて、思わず揶揄ってしまいました。なので、お互い不問ということです。」
私は未だに尻餅をついているジョイル君に近寄り、膝を折って目線を合わせて言った。
「次会う時は、髪を全て掻き上げてくださいね。その方が私の好みです。」
「だ、誰がお前の好みなんか……」
「ふふっ」
「………!!」
私が笑うと、ジョイル君は照れたのか視線を外してしまった。本当に子どもを相手しているみたいだ。しかし、前世を思い出すと、高校生は子どもみたいなものだった。そう思うと、精神年齢が高い貴族の中で、ジョイル君は年相応なのかもしれない。
そうして、色々あったが、社交界デビューは何とか無事に終わった。
帰りの馬車の中で、お兄様にやりすぎだと小言を頂いたが、面白かったから許すとも言ってもらえた。
あと、殿下から逃げたままで挨拶もせずに出てきてしまった事を伝えると、お兄様はため息をついて、「フォローしとく」とだけ言った。
馬車から見えるだろう月明かりで、パーティの余韻に浸りたいところだが、それができないことが、少し残念に思えた。
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