1章 回復魔法と修復魔法
遅くなりました。本日1話投稿です。
連載ペースが少し遅くなります。
(お兄様には回復魔法について言ってなかったかしら?)
私の魔法について知っているのは、お兄様とギラと、あとはレオくらいだ。ギラとレオは別にいいとして、お兄様にはどの程度まで話しているのか、どの程度まで話してしまっていいのかよく分からなくなる。私は物事に対して追求することは得意だが、状況を把握して戦略を考えたり、判断を下したりすることが苦手だった。基本的には、お兄様が指示をして私が実行するという役割だ。
(言ってしまっていいのかしら?お兄様は味方だし、半年後には…関係なくなるはず。)
「おい!聞いているのか?」
「えぇ。」
準備した紅茶をお兄様に渡す。紅茶の良い香りが気持ちを落ち着かせてくれる。
「殿下にかけた魔法のことね。あれは回復魔法なんかじゃないわ。回復魔法だと傷跡や違和感が残ると思ったのよ。次期国王の身体に傷はできるだけ少ない方がいいでしょう?」
「まぁな。この国の軍事力は他国と比べてもかなり高い。でもそれは王の戦闘力や魔法力が圧倒的だからだ。将来、国を背負って戦う必要があるアレクに後遺症なんて残ってしまったら大変だけでは済まされない。」
「そう。だから私は…修復魔法を使った。」
「修復魔法?聞いたことねぇな。」
「私が考えたのよ。この魔法は、怪我をした本人の魔力と私の魔力を組み合わせて、欠損した細胞…えぇと欠損した筋肉を複製するの。」
この世界の回復魔法は、ゲームに出てくるような魔法と比べてかなり拙い。欠損部分はほとんど治らないし、傷跡も残る。回復魔法を使った場合の傷口の再生率と自然治癒に任せた場合の傷口の再生率はほとんど同じだ。これでは魔法を使う意味はあるのかと思ってしまうところだが、回復魔法を使えば、数年かかるところを数秒で治してしまうことが出来る。魔法なんてない世界にいた私からすると十分便利だった。そして、殿下の傷は刃物で少なくとも2回は刺され、暴行も受けている。回復魔法だけでは全てを治しきることは出来ない。
「欠損部分を複製!?お前は欠けた部分を元に戻すことが出来るのか?」
「出来るわ。でも、この魔法は万能じゃない。魔法を使った本人にかなりの負荷がかかるのよ。」
私が生み出した修復魔法であれば、ゲームのように傷を回復させることが出来る。しかし、私の魔法はアナログだ。詠唱をすれば自動的に魔法が発動するこの世界の魔法に対して、私の魔法は魔力の性質を操り変化させ組み合わせなくてはならない。魔法を発動させるには想像力が大切だと言われているが、その必要とされる想像力が桁違いだった。例えば、回復魔法であれば治したい箇所を定めて治癒と詠唱すれば傷が再生する。しかし、修復魔法は、欠損した筋肉の形だけではなく、再生する細胞から作成し、血管や肉質を考慮して再生する。もちろん細胞は人それぞれ違うし、筋肉の質も形も全然違う。つまり、1から人間の筋肉を作る必要があった。前世で細胞について知識がある私だからこそ出来ることだ。そして使用する魔力量ももちろん修復魔法の方が圧倒的に多い。残りの魔力量が0になれば人は疲労で意識を失ってしまうのだ。結果だけ見れば修復魔法も便利なように思えるが、魔法を行使する立場から言えば、回復魔法の方がずっと便利だ。
「…ということは魔力量がかなり必要になるのか?」
(流石お兄様。話が早い。)
「えぇ。お兄様も知っての通り、私は魔力量が並の人間以下。殿下の傷を治すのにポーションを5本使ったわ。」
「な!!お前!身体は大丈夫なのか?お前、ポーションを大量に飲んだ人間がどうなるのか知っているのか!!」
「規定は1日2本まで。3本飲んでしまうと1週間は身体が思うように動かなくなる。体調が悪くて1週間休む人ってだいたいポーションを3本飲んでしまった人よね。男の子は人生に1回はやらかすって聞いたことがあるわ。ただ、4本以上は知らない。4本飲めたという人を聞いたことがないもの。お兄様は知っているのね?あと、私の身体は見ての通り問題ないわ。」
お兄様は私を見て、ため息をついた。相当焦ったのだろう。
「4本以上飲んだ場合の身体の状態については一応機密情報となっている。だが、実験をすれば分かることだ。他の国の上層部も知っているだろう。それに、お前に教えておかないと取り返しのつかないことになりそうだ。」
機密情報ということはセレリィブルグ王国も実験を行ったということだろう。拷問か死刑か。おそらくどちらかでポーションを限界まで飲ませたということだ。
「…結論から言う。1日8本飲んで生きている事例はない。」
「…そう。私の身体はとても丈夫なのでしょうね。今後、気をつけるわ。」
ポーションが身体の負担になることは知っている。しかし、8本飲んで生きている事例がないことに驚きだった。私の身体は、修復魔法を自分にかけることで何度も再生している。それに、ギラの血を飲んだことで私の身体は丈夫になっているのだろう。
「分かったならいい。それにお前も元気そうだ。…修復魔法のことについても理解した。どうやってその魔法を編み出したのかについては聞かないことにする。お前も聞かれたくはないだろう?」
「…そうね。」
「よし。それで話は戻るが、アレクの体調のことだったな。魔力を整えたと言っていたが、どういうことだ?ここまで聞いたんだ。教えてくれるだろう?」
「ここまで話して秘密にする理由がないわ。お兄様も知っている通り、殿下の魔力量は信じられないくらいに多い。そんな魔力を持っていたらいつか身体が壊れてしまう。」
「あぁ。そうだ。アレクは魔力のせいで苦しんでいる。それで?整えたというのは?」
「魔力量が多くて苦しんでいる状態は…そうね…カップに水を入れてそのまま走るとこぼれるでしょう?でもカップの水を渦のように回転させた状態で走るとこぼれにくくなるのよ。殿下の魔力も水と同じように循環させて、こぼれてしまう魔力…つまり、身体に影響を与える魔力を少なくしたのよ。」
「…なるほどな。だが、回転は時間が経つと弱くなっていく。そうするとまた魔力は身体に影響を与え始めるから、結局は一時しのぎにしかならないということか。」
「お兄様は本当に理解が早いのね。」
「他人の魔力に干渉できるお前だから出来ることだな。」
魔力を操るなんて言葉にするのは簡単だが、実際はかなり難しい。この世界の人は詠唱と少しのイメージで魔法を発動する。自身の魔力なんて操ったこともない人がほとんどだ。それを他人の魔力まで操るとなると、途方もない訓練が必要だった。私は生まれてからすぐに訓練を始めたから、魔力を操ることができるようになった。
「それにしても、殿下のあの魔力。どうにかならないのかしら?このままだと身体が崩壊してしまうわ。」
「なんとかする方法はある。アレクが伴侶を決めて儀式をすれば大丈夫なはずだ。」
「それなら簡単じゃないかしら?王太子妃になりたい令嬢は沢山いるでしょう?」
「アレクはお前に惚れたんだよ。」
「あぁ…そういえばそうだったわね。」
(我ながら今、遠い目をしてるわね)
「遠い目をしたって無駄だぞ。青の日にお前に会いに行くと言っていたからな。」
「ええ?そうなの…私は殿下の気持ちに応えるつもりなんてないわ。」
「それをアレクに言っても聞かねぇだろうよ。ただ、応えないというのなら、別の令嬢を王太子妃とするまで、アレクの体調を気にしてやってくれ。これは次期宰相としての俺からのお願いだ。」
「それは……分かったわ…」
殿下に応えないなら、他の令嬢を選ぶよう説得しつつ体調管理もしろということだ。なぜ私がこんなことにと思わなくもないが、国の未来がかかっている。仕方がない。
「よし!それじゃあよろしくな。遅くなって悪かった。帰るわ。」
「ええ、今日はありがとう。気をつけてね。あと、お父様によろしくと伝えてくれると嬉しいわ。」
「おー分かった。紅茶ありがとな」
話がまとまるなりお兄様はすぐに帰っていった。
とりあえず…
「次の青の日は、ギラに会いに行こう。」
私は殿下から逃げる気満々だった。
読んでいただきありがとうございました。
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