2章 社交界デビュー1
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王宮で開催されている、フュナンゼ国との同盟記念パーティ。
お兄様と私は、そのパーティに参加するために馬車に揺られていた。
お兄様は私を足下から頭まで見てから言う。
「お前がそんな派手なドレスを着てるのは違和感があるわ。似合ってるけど。」
「やっぱり派手なのね。形は分かるけど、色が分からないから地味なのか派手なのか…ただ、似合っていることは知っていたわ。だって、お兄様とお揃いなんでしょう?顔も髪も服もね。」
私とお兄様は、夜空のような濃い青を基調としたお揃いの衣装を着ているらしい。私の噂は偽情報だと既に知られているらしいが、まだ疑っている貴族は少なくない。そのため、私達はお揃いの衣装にして、仲が良い兄妹であることを見せる必要があった。
初めてのパーティ。初めてのお披露目。公爵邸にいるメイド総出で私は磨かれた。パーティは夜なのに早朝から準備していたほどだ。おかげで既に疲れている。使用人たちが私の姿を褒めてくれる中、お父様は私の姿を見て号泣した。喜ぶだろうと思ってはいたが、まさか号泣されるとは思わなかった。
馬車が王宮に入り、パーティ会場前に到着する。
私はお兄様にエスコートされて、会場に足を踏み入れた。
その瞬間、大勢が一斉にこちらに注目する。
「ライル様よ!」
「今日もとても美しいわ。」
「ダンスに誘ってくださらないかしら。」
令嬢たちの浮足だった声が聞こえる。対して、お兄様は眉間に皺を寄せてうんざりという顔をしているが、それすらも令嬢たちには「憂いた顔が美しい」らしい。
そして、私も注目の的だった。
「あれが…聖女…」
「兄妹そっくりじゃないか。双子のようだ。」
「盲目というのは本当のようだな。」
「腕は……あるじゃないか。義手というのは嘘なのか?」
私たちは注目を浴びながら陛下の前までゆっくり進む。
この国ではデビュタントで儀式を終えなければ、貴族の一員として認められない。そして、デビュタントを終えた貴族にだけ扱えるようになる魔法も存在する。そのため、社交界デビューをする貴族は真っ先に陛下のところへ挨拶に行かなければならなかった。
陛下は待ち侘びていたように私を見据える。
私は、お兄様とその他貴族に見守られながら、陛下の目の前に立った。私は片膝を折り、騎士と同じような礼をする。あとは、陛下が詠唱して、出された盃を飲むだけ。
私は顔を上げることが出来ないが、魔力操作で陛下の様子を見ていた。詠唱は終わり、あとは盃を頂くだけ。しかし、陛下は片手を上げ、パーティを止めた。
(え、何をする気…?)
顔を上げて、何をするつもりか聞きたいが、もちろんそんなことは出来ない。パーティが静まり返る。私は騎士の礼をしたままなので、下を向いた状態で待機だ。背中に視線が突き刺さる。
陛下は、皆が注目したことを確認して、話し出した。
「レノヴァティオ公爵家長女、ミリアリア・レノヴァティオ。其方の忠義に感謝する。不名誉な噂が流れても、盲目になろうとも、手足をもがれようとも、気高くあろうとするその姿、賞賛に値する。……面をあげよ。」
これは完全に特別扱いだ。陛下が私を気に入っていることは知っていたけれど、まさかここまであからさまにするとは思わなかった。しかし、私にはゆっくりと顔を上げるしかできることがない。貴族の視線が痛すぎる。こんな小娘が贔屓されているなんて誰だって気に食わないだろう。
そんな私の心情を無視するように、陛下は言葉を重ねた。
「其方がこの国に生まれたことは何か意味があるのだろう。…期待している。」
「光栄にございます。陛下。」
(『この国に生まれたことは』ね。つまり、『どこにも行くな』ということね。鎖のような言葉だわ。)
そうして、私は盃を受け取って、飲み干した。陛下の魔法がかかった特別なお酒。味はものすごく美味しいワインだった。
これで、儀式は終わりだ。私は踵を返し、お兄様の手をとって会場の中央へ行く。正直、ここからが1番大変だった。もう既に大変なことになっているが、終わったことを気にしても仕方がない。
ため息をつく私に、お兄様が笑って言う。
「ほら、ダンスは踊れるんだろうな。」
「もちろんよ。……説明をお願い。」
パーティでは、最低でも1回は踊ることを推奨されている。そして、初めてのダンスは基本的に婚約者か親族と踊る。私には婚約者がいないので、必然的にお兄様と踊ることになった。私たちは音楽に合わせて踊り始める。
予定通り、お兄様は踊りながら貴族の説明をしてくれた。
「扉から見て左の柱の所にいるのが、ウェイラー子爵家の長男………その向かいが……………」
「…………隣で踊っているのが、リフレット伯爵と夫人の……………………」
誰が誰なのか一気に説明される。しかし、チャンスは今しかない。お兄様が妹とのダンスを終えるのを、今か今かと待ち構えている令嬢がたくさんいる。そうなると、ゆっくり説明している暇がなくなってしまうからだ。
元々知っている者も何人かいたおかげで、1曲が終わるまでに、会場にいる貴族の8割ほどの魔力と名前を記憶した。
もう十分だろうということで、曲が終わる前にお兄様が別の話題に移る。
「レオは、ミリアはダンスが下手だと言っていたが、そうでもないな。」
「いいえ、私もまさか自分が踊れないなんて思わなかったわ。今は踊っているんじゃなくて、魔力で自分自身を踊らせているの。操り人形みたいに。」
「……その発想がまさかだわ。」
ダンスが終わって拍手をもらう。そしてすぐに多くの人に囲まれた。お兄様目当ての人も、私目当ての人も。収拾がつかないとはまさにこのことで、誰の話を聞いて頷けばいいのか分からない。特に、お兄様目当ての令嬢たちの圧が凄かった。
お兄様は、盾のように私を見せつけて、悩殺スマイルで言った。
「お誘いは嬉しいのですが、妹の側を離れるわけには参りません。ですので……」
「いや、君の妹は私がエスコートするから問題ない。ライル、婚約者がいないのだからこういう場は大切にした方がいい。」
現れたのはアレクシル殿下。大勢の貴族に囲まれていたはずなのに、いつの間にか目の前にいた。そして、皆が殿下の登場に驚いている間に、私の斜め後ろに回り込み、お兄様と繋がれた私の手を優雅に奪い取った。
お兄様の額に血管が浮き出ている。これは計画にないことのようだ。流石の兄も反抗している。
「ははっ…婚約者がいないのは殿下も同じでしょう。」
「いいや、同じではないな。……私には心に決めた方がいるから問題ない。」
そう言って殿下は私を見た。令嬢達の視線が痛い。婚約者がいないと言っても、私に唾をつけているような発言だ。
私の気持ちを待つと言っていたが、待つ気がサラサラないのは私の気のせいじゃない。
私は殿下の手を振り払うことも出来ず、兄から引き剥がされてテラスの方へ誘導された。パーティでの振る舞いはお兄様よりも殿下の方が上手のようだ。
人に囲まれて熱くなった頬を夜の風が冷ましていく。そんな私の様子を見て、殿下が言った。
「……綺麗だ。」
「………ありがとうございます。」
私が返事をしたことに殿下が驚く。もしかして声に出したつもりがなかったのだろうか。取り繕うように殿下が別の話題を提供する。
「本当はライルと挨拶に回る予定だったのだろう?邪魔をしてしまったかな。」
「いいえ。今日の目的は私のデビュタントですから。交流は、また次の機会で問題ありません。」
「……では、次も貴女をさらってしまおうか。」
「…………そうなると、殿下のいないパーティを探さなければなりませんね。…私が、他の方と交流するのは気に入りませんか?」
「ああ、気に入らない。ミリアリアの姿が他の男の視界に入るだけで……殺してしまいたくなる。……貴女は、他人から好意を向けられることに慣れているね。」
「…そう、かもしれませんね。」
前世でも私の容姿は悪くなかった。それこそ一目惚れしたと言ってくる男はたくさんいた。誰とも親しくなれない私は、自暴自棄だったこともあり、一夜限りならと関係を持った人も少なくなかった。ただ、たった1人だけそうではない後輩もいたが。
殿下は私の返事が気に入らなかったようで、声色に怒りを混ぜる。
「貴女に好意を向けた男は誰?…どれだけ私が愛を乞うても反応しない。そのくせ、自分の気持ちを伝える時は目に涙を溜めて赤面する。……せめて、恥じらう姿だけは私のものであってほしい。」
「……。」
(またこの方は…返事し辛いことを……)
なんて答えようか考えていると、会場の方から見知った魔力が近付いてくるのに気付いた。殿下とは違う意味で私を振り回す方。その方は私たちの様子に気遣うこともなく、遠慮なく会話に入ってきた。
「こんばんは。ミリアは今日も美しいな。」
「……グレ…」
「フュナンゼの王太子が何の用かな?それに、彼女を気安く呼ぶとは…やめていただきたい。」
グレイは殿下を揶揄うように喉を鳴らす。いつもの平凡な青年とは違い、パーティの主役に相応しい姿をしていた。
セレリィブルグ王国の王太子とフュナンゼ国の王太子が睨み合う。流石に他の貴族もこちらに注目し始めた。他人から見れば、私は男を誘惑する悪女のように映っているだろう。勘弁してほしい。
私は、大きなため息をつく。
ふんわりとした雰囲気のシシリーが急に恋しくなった。
読んでいただきありがとうございます。
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みなさまには感謝してもしきれません。
もし、ブックマーク&評価がまだの方がいましたら、ぜひよろしくお願いします。
次話以降も読んでいただけると嬉しいです。




