2章 デビュタント前日
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レギイラ侯爵一族の処刑が行われた。
民衆に公開する形で斬首刑。前世では考えられないことだが、この世界では普通にあることだった。
キーシャス・レギイラと共に、娘のリーナ・レギイラも例外ではなく、斬首刑となった。
テロによる平民たちの被害はほとんどなかったが、被害がなかったのは奇跡と言ってもいい。実際、王都のあちこちで爆破は行われたので、レギイラ一族に対する恨みは、平民たちも持っていた。
しかし、それ以上に恨みを持っていたのが、貴族だった。過去の事件も調査された結果、レギイラ侯爵に殺された貴族が明るみに出た。罪を着せられた一族も多く、その貴族の手前、レギイラ侯爵の処刑を悲しむものは表面的にはいなかった。
そして、私は今、ダンスの練習をしている。
練習相手はまさかのレオ。そして何故かレオは私よりもダンスが上手い。
「ミリア、ダンス下手だな。すげー意外。」
「踊る機会なんて今までなかったもの。踊ろうとも思ってなかったし…まさかこんな急に踊るなんて。」
殿下との話し合いの結果、私は聖女を名乗らないことにした。私が将来の立場を決めかねているということもあり、立場を確立しない方がいいということだった。
ただ、私の存在は早めに公表した方がいいということで、明日の社交界で急遽、デビュタントとなった。聖女と名乗るのならば、ただ公表するだけで済んだのだが、私は聖女ではなく、公爵令嬢として活動する。となると、公表は社交界が最適ということになった。
こんなことも予想していたのか、お父様が社交界のたびに用意していたのかは知らないが、お兄様とお揃いの衣装がすでに用意されていた。これには私も呆れてしまった。
メイドが区切りのいいところで声をかける。
「お嬢様、レオ様、そろそろ休憩にしませんか?お茶とお菓子を用意しております。」
「お!うまそうだ!……ほい!」
「う……ありがとう。」
レオは1口サイズに作られたシュークリームをつかんで私の口に放り込んだ。最初は休憩なんていらないと思って、1人でもダンスの練習をしていたが、メイドに相談されたレオが、私を休憩させるために、無理矢理お菓子を口に放り込んでくるようになった。
クリームの柔らかな甘味が口いっぱいに広がって美味しい。
私たちはお菓子を食べながら、メイドを下げさせて、リーナについて話す。
「リーナのこと、誰にもバレてないのか?」
「多分ね。殿下もお兄様もリーナの偽死体を見ても何も疑問に思っていなかったわ。本人を見れば気付くかもしれないけれど…。」
「まぁ、あれは誰も気付かないだろ。人間の死体には変わらないんだから。」
リーナは生きている。私とレオで共謀して助け出した。倫理的に最悪の方法で。自分でも、よくこんな方法を考えつくものだと思った。前世であれば、サイコパスなんて呼ばれていたかもしれない。
救出作戦を思いついたのは、レオの何気ない一言だった。
『ミリア、ギラの魔石を移植してから顔が綺麗になったな。』
私は、ギラに魔石を移植された時に、何度も何度も、作り変えられる細胞をさらに作り変えた。人間の見た目にするために。そして、今の私が出来上がったのだが、以前より顔が綺麗になったという。そこで、修復魔法は思っていた以上にイメージが濃く反映されることに気付いた。つまり、私は実際の自分の顔よりも、綺麗なイメージを持っていたということだ。かなり恥ずかしい。
そして、イメージを強く持って修復魔法を行えば、整形はもちろんのこと、人の顔を作り替えることができるのではないかと考えた。そこで、指名手配されている盗賊から、リーナとよく似た背格好の女性を探し出し、生きたまま顔を焼いて修復した。声を出されたら困るので外から分からないように声帯を潰した。
処刑前日、レオの転移を使って、リーナを入れ替えた。偽リーナは目で訴えてきたが、どのみち私に首を切られるか、ギロチンで首を切られるかしか変わらない。また、自分の行いを正当化したいとも思わない。
そして、今日の朝、処刑は行われた。魔力で人々の反応を見たが、リーナの処刑に疑問を抱いている者はいなかったので、偽装は成功したと言っていいだろう。
現在、リーナ本人は髪と瞳の色を変えて、とある子爵家で保護されている。彼女の希望はまだ聞いていないが、助けだす時に、フェレスの役に立ちたいと言ってくれた。フェレスの正体をまだ伝えてはいないけれど、令嬢目線での社交界の情報を教えてもらえたらと個人的に思っている。
「とにかく、今は明日のことで精一杯ね。基本のダンスは覚えないと…。実際に大変なのは当日だけどね。」
「目が見えないっていうのは大変だな。こうして話していると、不自由ないように思えるけど。」
「不自由よ……まず色は全く分からないし、『あっち』とか『こっち』って言われても難しいのよ。魔力操作で表情を見るのも簡単じゃないしね。」
「ふーん。でも、心を見ることができるんじゃなかった?」
「ええ、できるわ。でもね、心の内で考えていることをそのまま話す貴族はいないのよ……」
そして、パーティ当日は初対面の人に囲まれる事になる。誰が誰なのかはお兄様が教えてくれるとして、それを間違いなく覚えないといけないのが大変だ。
ダンスはもう諦めてもいいかもしれないと思っていたら、レオが別の提案をしてきた。
「なぁ、ちょっと対戦しねぇ?」
「対戦?……もしかして剣で?」
「おう。最近なんというか…イライラっていうよりムシャクシャしててな……」
「…………そっか……いいわ。普通の剣なら、私たちが怪我することもないしね。着替えてくるから先に訓練場に行ってくれる?多分、オウルがいると思うわ。」
「りょーかい。」
私はドレスを着ていたため、着替えるために部屋に戻った。
レオが焦燥に駆られているのを見たのは2度目だ。1度目は初対面。初対面は本当に酷かった。レオはドラゴンの姿だったし、まさに命をかけた戦いだった。魔力を見る限り、今のレオは初対面の時ほど深刻な状態ではない。とりあえず、戦って彼のストレスを発散すれば大丈夫だろう。そのために私がいるのだから。
公爵邸で、公爵令嬢の私が戦えることを知っているのは、お兄様とその護衛のオウルとミスト。それから私専属のフットマンだけだった。そしてこのフットマンは、なんとグレイが用意した暗殺者で、私が情報源に生かしていた生き残りだった。まさかお兄様が彼を生かしていたとは思わず、フットマンとして紹介された時は本当に驚いた。
私は、専属のフットマンであるサジアに事情を説明し、訓練場に使用人を近付けないように指示をした。今頃、オウルも訓練場から人を追い出している頃だろう。
私は戦える格好になり、訓練場へ向かった。
訓練場では既に人払いを終えており、レオとオウルしかいなかった。レオと私は真剣を手に取る。オウルはギョッとして練習用の剣か木刀にしてほしいと言ってきたが無視をした。
レオと私の身体は刃物如きで傷付かない。傷付けられると思った瞬間、防衛反応が働き、鱗が生えてくるからだ。もし、オウルに鱗を見られたら、脅すなり、誤魔化すなり、記憶を消すなりすればいい。今は、レオの感情を抑える方がずっと大事だった。
オウルが距離をとったのを確認して、私はレオに向き直る。
「レオは魔法禁止。姿は人間のまま。剣が壊れたら終了。これでいいかしら?」
「ああ、それでいい。…いつでも大丈夫だ。」
「分かったわ。じゃあ、こちらから行くわね!」
私は、左足で思い切り地面を蹴って間合いを詰めた。魔力を身体に流しているので、常人なら目で追うこともできない速さのはずだが、レオは私の剣を難なく弾く。
ガキンッ
剣と剣のぶつかり合う音が響いた。
レオは速さだけでなく力も剣技もある。比べて私、フェレスの時は軽い短剣やナイフを使う時が多く、剣技に関しては、レオの方がずっと上だった。私が勝るとすれば、速さと力の緩急のみ。
私たちは何度かそのまま打ち合うが、互角。
レオの剣が私の頬をかすめていくが、なんとか対応し、次は私の剣がレオの喉を掠めていく。こんな身体じゃなかったら、既に切り傷でいっぱいだっただろう。
ギイイイィィ……
剣同士が押し合い、ギリギリと音を立てる。
レオは私の身体ごと、剣で吹っ飛ばした。思い切り力技だ。これをされると流石に私も対抗できない。
吹っ飛ばされて体制を崩した私に、レオは追撃する。
空中では体制を整えることが出来ない。このままでは訓練場の端に叩きつけられて、さらにレオにも叩かれる。私は剣を地面に突き立て、無理矢理身体をねじり、追撃するレオの脇腹を思い切り左足で蹴った。
(脇腹硬すぎるでしょ…足の方が痛いわ…)
本当は右足で蹴りたかったが、義足ではレオを蹴り飛ばすほどの力を出すことが出来ない。しかし、左足で蹴ったにも関わらず、すぐにレオは起き上がって、剣を構えた。
(私に右足があったら、ちゃんと蹴り飛ばすことが出来たのかしら。)
私たちは向き合ってお互いを観察する。
「はぁ……はぁ……」
「はっ………はっ………」
お互い息が切れている。こんなに集中して戦うこともほとんどない。
私たちは、同時に足を踏み込み、お互い間合いを詰めて、また剣を打ち合った。
そして、程なくして、お互いの真剣が砕けて、対戦終了となった。
誰かが駆けてくる音がするが、遠くまで魔力を使う気力がない。私はオウルだろうと思い、気にしなかった。
隣で私と同じように地面に座り込んでいるレオがスッキリしたように話す。
「はぁ…はぁ……楽しかった…!!っと。ミリア怪我してるぞ。」
「はぁ…はぁぁ……どこに?」
レオが私の頬に手を伸ばしてくる。打ち合いの時に、爪が当たったのかもしれないとレオは言った。確かに、ドラゴンの爪ならば、私の鱗なんて簡単に引き裂くだろう。
レオの顔が近付いてくる。
汗の匂いが鼻にツンと来たと思った時には、私の頬の血を、レオはザラザラとした舌で舐めとっていた。
まずい。流石に一言言わないと気が済まない。
「………ちょっと!また記憶を読んだわね!!」
「ほほう……その傷程度ならもう治せるんだな。それに、ダンスも魔力操作でなんとかなりそうで安心した。」
レオは、私の頬に触れた時に指に付けた血も、ついでのように舐める。ニヤリと笑うその顔が憎たらしくて仕方なかった。一発殴ってやらないと気が済まない。
しかし、そう思った時には、レオはお兄様に殴られていた。後から来たオウル曰く、レオが私にキスしたように見えたとのこと。弁解してあげたい気もしたが、記憶を読んだことのお返しに、私は何も言わなかった。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク&評価のおかげで、やる気が上がり執筆ペースを落とさず、ここまでこれました。
感謝してもしきれません。ありがとうございます。
もし、まだの方がいましたら、ブックマーク&評価をお願いします。
次回から、やっと公爵令嬢編らしくなりそうです。読んでいただけると嬉しいです。




