2章 仮告白
誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。
レノヴァティオ公爵邸で過ごすようになって1週間が経った。この1週間で義手・義足をかなり使いこなせるようになり、皮膚を服で隠せば、本物の手足のように見えるようになった。
レオは公爵邸で寝泊まりしているだけで、普段は武器屋に入り浸っている。公爵家の使用人達には、私の護衛ということで話を通した。御飯時になると、公爵家に戻ってくるため、使用人達ともそれなりに交流しているようで、早くも馴染んでいる。
アレクシル殿下には、会っていない。代わりにまた手紙が届くようになった。かなり忙しくしているようだった。
もう少しで、レギイラ侯爵家の処刑が行われる。その時にリーナも殺されてしまう。
今から準備をすれば間に合うだろう。私はレオに相談して行動に移すことにした。もう作戦は考えてある。
…
レギイラ侯爵家、処刑3日前に殿下がやってきた。私に話したいことがあるとのことだった。
ここ最近、私とレオは慌ただしく行動していた。もしかして、何か気付かれてしまったのかと焦ったが、そういうわけではないらしい。
殿下に最後に会ったのは、王宮を抜け出す前だ。手紙とお兄様の話から、殿下の様子は知っていたけれど、直接会うのは緊張する。ちなみに、殿下とレオを会わせると碌なことにならないとお兄様も言っていたので、レオには用事を頼んで、公爵家から離れてもらった。
煌びやかなドレスを纏い、化粧をし、髪を結い……準備に2時間もかかった。シシリーが張り切りすぎたためだ。
私は公爵家の令嬢らしく、殿下に挨拶をする。
「王太子殿下、レノヴァティオ公爵家長女、ミリアリア・レノヴァティオがご挨拶申し上げます。」
「…ああ。堅苦しくなくていい、其方と私の仲だからな。」
「光栄でございます。」
挨拶を終えた後、使用人を下げる。部屋には、殿下とお兄様と私の3人になった。使用人たちは私が殿下と交流していたことを知らない。身近な使用人には事情を説明するだろうが、今は堅苦しくした方が、外聞もいいだろう。
「今後はミアではなく、ミリアリアと呼んだ方がいいかな。」
「お好きなようにお呼びください。」
「……。」
「……。」
殿下は私を見たまま何も話さない。フリーズしているのだろうか。何も反応がないので、どうしたらいいのかとお兄様に視線を送った。お兄様は呆れたようにため息をつく。
「アレク…妹に見惚れるのは分かるが、返事くらいしろよ。」
「あ……すまない。令嬢姿のミリアリアを初めて見たからついな。それにしても、こうして見るとライルとミリアリアはそっくりだな。圧倒される。」
「オズリオにも言われたな。……なぁ、ミリア。お前、今日の話し合いの趣旨、検討がついているだろう?」
「そうね………」
応接室で、お兄様と私は隣同士に、向かいの席に殿下が座っている。お兄様は私の肩に腕をどかっと乗せて、足を組みながら問いかけてきた。妹の私から見ても態度がデカい。殿下に威圧でもしているのだろうか。殿下も流石の態度に眉間に皺を寄せている。……喧嘩?何故?
「殿下からお話があるということだったのですが、今の「話し合い」というので大体分かりました。……私、聖女になりたいとは思っておりません。」
「……じゃあ、アレクを受け入れる努力をするって言ってたが、具体的にはどういう立場を望んでるんだ?」
「具体的に……私が考えていたのは、番として殿下の近くにいることです。例えば、配下としてですね。ただ、それで聖女の立場が都合良いのであれば、受け入れます。」
「………ほら。」
「…そう、か…………………」
お兄様は殿下に顎で私の意見を投げる。私の意見をあらかじめ知っていたみたいに。殿下は見て分かるほどに落ち込んだ。長い息を吐いて下を向いている。
私はこっそりとお兄様に聞いた。
「私って何か不味いことを言ったのかしら?」
「んー言ったんじゃね?見るかぎり落ち込んでるし。」
「……お兄様は殿下が落ち込む理由を知ってるんでしょう?」
「知ってるが……俺から言うのはなぁ。」
「……?」
お兄様は私を咎めることはしなかった。だが、私の言葉で殿下が傷付いているのは事実。謝った方がいいのだろうか。ただ、何が悪かったのか分かっていないのに謝るのは失礼にあたる。どうしたらいいのだろうか。とりあえず、話が進まないので、声をかける。
「殿下、あの………」
「ミリアリア、私はミリアリアに隣を歩いて欲しいと思っているんだ。」
「隣……?隣……とな………え、まさか王太子妃でしょうか!?」
「そうだ。」
私は思い切り隣を向き、お兄様を見る。お兄様はしっかりと頷いたが、口の端が小刻みに揺れている。笑いを堪えきれていない。完全にこの状況を楽しんでいた。
「あの、殿下。殿下が私を好いて下さっていることは存じております。ですが、私はこのような身体ですし、他の貴族は許さないでしょう。」
「……その身体は治るんだろう?」
「ええ、治ります。ですが、時間がかかります。今の私の身体は……以前とは違うのです。」
「だが、私が望むのはミリアリア、貴女だけだ。」
「それは…身に余る光栄ですが………受け入れられません。」
「受け入れられない理由は……胸にある宝石に関係するのか?」
「………はい。」
私の身体は以前とは違う。私は人間だが、人間の身体とは変わってしまった。見た目に影響が出ていないように見えるだけで、しっかりとギラの影響が反映している。あと、数年もすれば、私がただの人間ではないことくらい誰もが分かるようになるだろう。
しかし、兄の方が上手だった。
「んー…ミリア。兄としては、王太子妃になってくれたらいいと思ってる。だからな、レオに聞いたんだよ。ミリアは王妃になれるのかって。」
「……え。」
「レオは詳しいことは言わないが、要は聞き方次第だな。普通に答えてくれた。『なれる』って。」
私はどうしてここまで頭が回らなかったのだろう。レオがドラゴンの核心をつくようなことを言わないとは分かっていたが、聞き方を変えれば、どうとでもなる。それに、私が王太子妃になれるかどうかは、身体の問題というより、私の身体を他人が受け入れるかどうかという問題だ。王太子妃、王妃の1番大事な役割は子を成すこと。確かに、それはこの身体でも可能だ。
お兄様は、一応私が嘘をついたわけではないことを殿下に説明する。
「ただ、『人間は受け入れるのが難しいんじゃないか?』とも言っていた。まるで、レオは人間じゃないというような言い方だな。ま、オズリオの剣を生身で受けても刃が通らなかったくらいだから、予想通りではあるが。」
「え!!??」
私はそういえばと思い出す。オズリオ様は、レオについて聞きたいことがあると言っていなかっただろうか。結局それから色々あって聞けていなかった。やってしまった。いや、やってしまったのはレオだが、私がオズリオ様から話を聞いていれば、口封じするなり、記憶を消すなり出来ていたはずなのに。
レオはこれでいいのだろうか。情報がザルすぎる。
殿下はレオについてお兄様からある程度聞いていたようで、お兄様の言葉に続いた。
「私は、ミリアリアのことであれば何でも受け入れる。まだ、その身体の事情を知らない私に言われても信じてもらえないだろうが、本心だ。」
「……ありがとうございます。そう言っていただけて、嬉しいです。しかし、私がまだ…自分の身体を理解していないのです。それに、殿下が受け入れてくれたとしても、他の貴族が私の事情を受け入れるとは思えません。いずれ、きちんとお話しします。それはお約束します。」
「……いつまで……いや、最初に待ってほしいと言っていたな。すまない。」
「いえ……これは私のわがままですから。謝らないといけないのは私の方です。」
いずれ話すと言っても、いつになれば私は話せるようになるのだろう。私は殿下と家族の側に居られれば、それで大丈夫だと思っていた。それを王太子妃なんて…今はとても考えられない。
空気が重くなってしまった。話し合いのはずなのに、話が進まない。
「アレク、お前はミリアに『受け入れてもらえる努力をする』って言ってただろう?こんなことで落ち込むな。」
「…振られれば、誰でも落ち込むものだ。」
「……。」
(き、気まずい……)
振った本人が気まずい思いをするのは、ずるいことだと思う。告白されたことは前世でも今世でもあるが、こんなに気まずい思いをするのは初めてだ。王太子妃以外の立場で殿下の側にいるのはダメなのだろうか。
そんな私の心中を知っているだろうに、お兄様は殿下にトドメを刺した。
「ミリアがアレクのことを何とも思ってないことも原因だろ。お前が王太子だとしても、好きでもないやつの妻になるために、自分の秘密を話そうとは思わないだろ。」
「………ライル、お前は言葉で私を殺す気だな?」
「………。」
(私はどんな顔して、なんて言ったらいいの?誰か教えて……)
私たちの間に長い沈黙が流れてしまった。
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