2章 王太子と兄
誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。
アレクシル殿下目線です。
私は、執務室で書類を見るふりをして、先程のライルとミアの会話を思い出していた。
「私は大きな勘違いをしていたみたいだ。」
「勘違い?急によく分からないが、仕事しろ。」
私の呟きに返事をするのは、宰相補佐・王太子補佐であり、ミアの兄であるライルだ。執務室には私とライルしかいない。
レギイラ侯爵がいなくなった今、宰相の業務の一部を王太子である私が担っている。そのため、ライルは私の執務室に入り浸るようになった。代わりに、セジルには細かな雑務とその他部署との連絡係をしてもらっているので、王宮で走り回っている。
「少しくらい相手をしてくれても良いだろう?…私の恋敵は、レオだと思っていたんだ。……いや…それは今でも代わらないが……でも、本当の恋敵はお前だった。」
「……は?寝言は寝て言え。」
「寝言じゃない。ライル、ミアは兄の前だと随分可愛くなるんだな。普段の様子と全然違うからとても驚いたよ。」
「そりゃーミリアは妹だからな。母親はいないし、父親は頼りない。だから兄である俺に懐くのは当然だろ。」
ライルは私の方を見ないで、ずっと書類に目を通しながら手を動かしている。ガリガリガリと凄いペースで書き込まれていく決裁書類。業務が次々に遂行されていくのは頼もしい限りだが、今は腹立たしくて仕方がなかった。
兄妹だから仲が良い。ミアに懐かれて、愛されて当然。仕事の片手間に答えられるほど、当たり前の関係。私が欲しくて欲しくて仕方がないものを、ライルは当然のように享受している。
ミアが勢いに任せて言った本心。彼女にとって、私よりもライルの方が大切な存在であることは明白だった。
「…まさか『一緒に死ぬ』とは。ミアから情熱的な言葉をもらって平然としているお前が本当に不愉…………羨ましいよ。」
「おいちょっと待て。今、不愉快って言いかけただろ!って、その殺気をやめろ!」
「っと、つい。」
「つい、で殺そうとするな。はぁ。……で、ミリアのことどうするんだ?」
このままではまずいと思ったのだろう。ライルは話題を変えた。
新しい話題は、ミアについてどう公表し、どういう立場にするのかということだろう。最終的には、私の伴侶、つまり王太子妃として迎えるつもりだが、そう単純な話ではない。世間では既に、ミリアリア・レノヴァティオが神の如き回復魔法を持っており、童話に登場する聖女のようだと広まっている。
「個人的には一生閉じ込めておきたいけれど……」
「おい冗談だよな?」
「ははっもちろん冗談だ。ミアに嫌われたくないからな。」
「だったらそんな顔で言うな。顔は笑ってるのに、目が笑ってないんだよ。冗談に聞こえねーわ。」
正直、一生閉じ込めておけるならそうしたい。
ミアの回復魔法は、どの国も喉から手が出るほどほしいと思うはずだ。それに、回復魔法を除いても、ミアの有用性は高すぎる。ミアの生存を公表すれば、拉致・監禁・殺害のリスクが高くなる。ただでさえ、愛する彼女を人の目に晒したくないと思うのに、頭が痛い限りだ。
「ミアの回復魔法…それについてはもう世間に知られているから仕方がない。それに、王太子妃にするなら、生存を公表する必要もある。」
「まぁ………あーそうだな。既に、ミリアの生存に勘づいている貴族もいるだろうし、公表は早い方がいい。王族が聖女を秘密裏に囲っているなんて情報を流されたら、面倒なことになるぞ。」
「分かっているさ。王宮の新しい人事もある程度は定まった。没収した領地も新たな爵位も…しばらくはバタバタするだろうが、上手く機能してくれるだろう。聖女の公表時期としては悪くない。テロで止まった経済の起爆剤にもなるだろうしな。」
「…王太子らしく考えているようで安心したわ。なら、レギイラ侯爵の処刑の直後がいいな。処刑で沈んだ空気を変える要因にもなるだろうし、その時には、ミリアは義手・義足を使いこなしてるだろう。」
「ライル、それは早すぎるんじゃないか?処刑まであと3週間ほどしかない。まだ義手・義足の素材すら集まっていないのに、それは言い過ぎだろう。」
「いいや、アレク。お前はまだミリアを分かってない。ミリアの兄として断言できる。処刑日には既に、ミリアは自由に走り回ってるぞ。」
ライルは「甘い、甘すぎる。」と首を振った。私は、ミアのことを分かっていないと言われて、また腹が立ったが、反論ができないのも事実。それにフェレスなら不可能じゃない。実際、ミアは目が見えていないのに、人の表情が分かるくらいまでになった。
彼女は順応性が高すぎる。目が見えない、手足がない状況を当たり前のように受け入れ、なんでもないように振る舞える。普通は無理だ。だから、外出しようなどと考えるとは思っていなかった。
「…分かった。公表は処刑の次の日にしよう。あとは、聖女という肩書きと、身体のことだが……」
「義手・義足で目が見えないということは公表した方がいいな。」
ライルは即答した。
障害を持っているなんて、誰も公表したがらないものだが、彼女の兄は考えが違うらしい。しかし、私もライルの意見に賛成だった。
「やはり……そうか。五体満足であるように見せれば、修復魔法を気軽に考える輩が出てくる。『神の如き回復魔法は使えるが、自身を犠牲にするから使えない。』ということにしよう。」
「ああ。ミリアを守るためにもそれがいいだろう。実際のところ、身体を壊すのはポーションのせいだけどな。嘘じゃないが真実でもない。ただ、身体に障害があると公表すれば……」
「王太子妃にするのは難しい、と言いたいんだな。」
「ああ。」
障害を持っている者を王太子妃にするのは困難だ。対外的に印象が悪くなるので、反発する貴族も多いだろう。しかし、父上がミアを王太子妃として迎えられるよう尽力してくださる約束だ。実際、そこらへんにいる貴族令嬢よりも、今のミアの方が能力が高い。圧倒的にミアが上だ。
私は、王太子妃については問題ないと答えようとしたが、ライルが先に発言した。
「ただ、さっきも言おうとしたが、ミリアは王太子妃になるなんて考えてないんじゃないか?」
「…………どういうことだ?」
「ミリアは『受け入れる』と言っていたが、王太子妃になることを受け入れると言ったわけじゃない。まぁ、まだ受け入れてないがな。……で、長年兄をやっている俺が思うに、番を受け入れると言ったんだと思う。」
「……つまり何が言いたい。」
「つまるとだな。番として側にいる覚悟をしただけということだ。側にいる方法は、王太子妃だけじゃない。側室、護衛、部下……今なら聖女として側にいることも考えられる。」
「それは……そういえば、ミアは一度も王太子妃になると言っていない……!」
「やっぱりな。あいつの性格を考えると、アレクの部下でいたいと思ってるんだろうなぁ。まぁ、今気付けて良かったな。話が食い違った状態で、ショックを受けるよりマシだろ。」
「……………そうだな。」
「既にショック受けすぎだろ。」
私はミアを愛しているし、他の者を愛することもない。しかし、ミアは違う。ミアは私以外の者を好きになる可能性がある。私は、嫌われていないというのは何となく分かるが、好かれていると感じたこともない。王太子妃になれと命令することは可能だが、何かと理由をつけて断られる可能性もある。
「アレク、もう1つ聞きたいんだが…ミリアの胸にある石については聞いたのか?」
ミアの胸にある石。彼女の胸には羽の形をした美しい石が埋め込まれていた。身体に石を埋め込むなんて、お洒落でできる訳がない。
「ああ。しかし、答えられないと言われた。ギラという友人に助けられたと言っていたから、あの石はギラが関係しているんだろう。ギラとレオについては本人に聞いてほしいと頼まれたから、ミアを問い詰めるわけにもいかなかった。聞けば、レオも事情を知っているようだし、レオに聞いた方が早いだろうな。」
「そうだな。占い師に言われたことで、まとめると…ギラが神の代行者で間違いないな。ミリアが『ギラとレオについては答えられない』と言うなら、レオもギラに準ずる何かということだろう。」
「レオ…か。オズリオの剣を首で弾いたこと。そして、自由に転移出来ること。まず人間じゃありえない。」
「はー……。妹ながら交友関係が謎すぎる。あ、そういえば、ミリアはフュナンゼ国のグレイル王子とも交流があったな。オズリオがフュナンゼで後処理を終えたから、グレイル王子と一緒に戻ってくると書簡が届いてたわ。」
そして、ミアからフュナンゼ国について話が移った。
ミアが心から笑える国を目指して、かなり改革は進んだが、まだまだ問題は山積みで、考えなければならないことが沢山あった。
私とライルは、盛大なため息を1つ吐いてから、書類に意識を集中させた。
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