2章 兄妹喧嘩
誤字脱字報告ありがとうございます。本当に助かります。
外出禁止が言い渡されてから3日。
私はまだお兄様と会話していない。
お兄様がどれだけ忙しくても、会いに来ないのはおかしい。いくら私の存在が隠されているとしても、同じ王宮にいる。
「これは…怒っているわね。」
そう。お兄様は怒っている。しかも相当。いつもは優しく怒ってくれる兄だが、私に対して我慢ならない時は黙ってしまう。もちろん理由も知っている。勢いで怒鳴ってしまわないように、落ち着いて会話ができるまで口をきかないだけだ。本当に優しくて自慢の兄である。
そんな兄だが、3日前に殿下と会いに来てくれていた。しかし、その貴重な機会を私が外出したせいで無くしてしまった。つまり、折角落ち着いたお兄様を私は再度怒らせたということだ。
私から謝った方がいい。
なんとなくお兄様が怒っている理由は分かっている。それに、私は寂しかった。近くにいるのに話せないのは辛い。
その日の夕方。
お兄様は私の部屋にやってきた。見張りに伝言を頼んでいたが、すぐに対応してくれたようだ。お兄様と一緒に殿下も来たが、部屋の入り口の近くで壁に背を預けて私たちの様子を見張りの代わりに伺っている。
大丈夫。お兄様に怒鳴られる覚悟はできている。今日は何を言われても全て受け止めるつもりだ。お兄様が間違っていることなんて今までなかったから。
私の隣に立つお兄様は、怒りが沸騰するのを必死で耐えているように思った。
「お兄様、…久しぶりね。」
「……話ってなんだ?」
やっぱり、お兄様はそっけない。怒鳴らないように耐えているのだろう。
「…ごめんなさい。心配かけて。」
「ああ、心配した。でも、形だけの謝罪はいらない。どうせお前はまた無茶をする。」
「……それでも、ごめんなさい。」
形だけの謝罪と言われても、私には謝るしか思い付かなかった。無茶をしないと約束するのは、多分嘘をつくのと同じだ。私は、どこからどこまでが無茶になるのか、線引き出来ていないのだから。
「形だけの謝罪はいらないと言っただろ!!」
「……っ」
お兄様の大きな声が部屋中に響く。怒鳴られると分かっていたけれど、身体がビクッと反応してしまう。
「お前なあ!!……っそんな身体で勝手に外に行ったことは、この際どうでもいい!俺が!言いたいのは!なんで命を捨てるような真似をしたんだってことだ!!」
「?…それはお兄様を助けるためによ。」
自分でも驚くほど冷静な声が出た。そんな当たり前のことをなぜ聞くのだろう。何を言われても、あの時の選択に悔いはない。
「そんなことは分かってる!」
「じゃあどうしてそんなことを聞くの?お兄様を助けるためには、あれしか方法がなかったわ。」
「方法がない?俺を助けないという方法もあっただろ!お前が命をかける必要はなかった!」
「な、何を言っているの?…お兄様を見捨てろと言うの?そんなこと出来るわけないじゃないっ!!」
「助けない」そんな選択肢は考えたことがないし、考えたくもない。前世でお兄ちゃんは死んだ。私が死ねばよかったんだ。
「出来る出来ないじゃねぇ!あの場は…あぁなったのは俺のミスだ。俺が目を覚ました時、隣にお前がいた。血だらけで、身体が崩れていくお前がだ!!妹の命をもらって、生かされて…良かったなんて…思える訳がないだろ!!」
「いいえ!!お兄様が死にかけたのは私の責任なの!私の…呪いのせいなの。殿下から聞いてもう知ってるでしょ?でもね、たとえ呪いのせいじゃなくても私はお兄様を助けたわ。私こそ、大切な兄を見捨てて良かったなんて思える訳ないわ!!」
お兄様も私も息を切らして言い合う。なぜ分かってくれないのだろう。お兄様は埒が明かないと思ったのか、「もういい!」と言って、部屋の扉へ向かう。
お兄様にイライラするのは初めてじゃないだろうか。私は自分らしくないと冷静に考え直す。しかし、私の意見は変わらない。そしてすぐ、謝るどころか喧嘩になってしまったと、寂しくて側にいてほしいと思っただけなのにと後悔した。
(お、追いかけないと…!!)
お兄様はもう扉の目の前だ。早くしないと部屋から出て行ってしまう。
「行かないで…待って…!」
私は左足に魔力を込め、1歩でお兄様に追いついた。しかし、片足しかなく、とにかく急いだので止まり方が分からない。というか、止まれない。
お兄様は背後で気配がしたと思い、振り返った。
「うわっ!」
「ミア!ライル!」
大きな音を立てて倒れる。
扉の向こうから近衛騎士の心配した声が聞こえる。殿下が対応してくれるだろう。
それより、私はお兄様の肩をつかみ、正面から押し倒す形になってしまった。お兄様も不意打ちのことで受け身を取ることができなかったようだ。私は、自分のやらかしに気付かないままお兄様を責め立てる。
「お兄様の馬鹿!!なんでどっか行っちゃうの?なんで分かってくれないの?なんで……なんで………うっうぅ……」
「は…?お前泣いてんのか?」
「っ!泣いてないわ!!」
もちろん嘘。10人中10人が泣いていると言う。実際、私の涙はお兄様の頬に落ちて流れていく。
ギラに生かされてから、私は変わったのだろう。拒絶されただけでこんなに悲しくなるなんて…私の涙腺はこんなに緩くなかったはずだ。
目が見えなくなってから涙が止まらなくなるなんておかしな話だ。
「いや……その……色々降ってくるんだが……?」
「だから泣いてないってぇ……!!」
「あーはいはい。そうだな。……よしよし。」
お兄様は私をあやすように頭を撫でる。もう怒ってないのだろうか。お兄様の手があまりにも優しくて、さらに涙が止まらなくなる。
謝りたかったはずなのに、涙と一緒に湧いてくるのは、悲しい怒りだ。
「うっ……1人で死ぬとか言わないで……もしお兄様を助けられなかったら、私も一緒に死んでやるんだからっ!!」
「おいおい……それをアレクの前で言うか?………はぁ、分かった。俺も悪かった。」
「口だけでしょ?……どうせ、私が悪いと思ってるんでしょう?」
「思ってないから。お前も、俺と同じ気持ちだったってことだろ?」
「………………うん。」
「怒鳴って悪かった。これからは、死なない努力をする。お前もそうしろ。これでいいよな?」
「……うん。」
お兄様は私ごと身体を起こして、床に膝をつく。私は床にお尻をついて座りこむ形になった。
「もう泣き止めって……顔がびちゃびちゃだな。……ほら。」
「う……お兄様のせいよ。」
「へーへー。」
お兄様は袖で私の顔を拭いてくれる。涙と一緒に鼻水も出ていたが、それも一緒に拭いてくれた。お兄様は小さく「うっ鼻水……」と言っていたが、無視した。
お兄様は、私をベッドまで運んでくれたが、その時に殿下も近くに来た。恥ずかしすぎるところを見せてしまったので、かなり気まずい。本気で記憶を消そうかと思ったが、相手は王太子なので、流石に思いとどまった。
「さて、泣き止んだな。これで喧嘩は終わりだ。………で。」
「……?」
「ミリア、本当にお前は昔から抜けているところがあるよな。…秘密主義の妹を持つ兄としては、そのままでいてほしいと心から思うよ。」
「え…え?……私、何かした?」
お兄様はいつも通りの兄の振る舞い。隣で殿下は苦笑いをしている。この様子だと殿下も私がしたことに気付いているようだ。私は何をしてしまったのだろうか。鼻水をズズッとすすりながら考えるが思い当たる節はない。
お兄様は盛大なため息をついてから言った。
「ミリア、お前は魔封じしていても魔法が使えるんだな。」
「………あ。」
言われて気付く。そういえば、お兄様に追いつくために魔力操作をした。片足で部屋を横断するなんて魔力を使わないと無理だ。もちろん魔法は使えないが、魔力操作も他人から見れば魔法と変わらない。
いつか、王宮を脱出する時の切り札にしておこうと思っていた。
3日前は「秘密にできてよかった。」なんて考えていたのに、やってしまった。
これからさらに私の見張りは厳しくなるのだろう。
それから私は、「なぜ魔法が使えるのか」と殿下とお兄様に問い詰められ、こってり絞られることになった。
3日前に殿下に絞られたばかりなのに。
ものすごい勢いで私の秘密が露呈している。
もう、何を秘密にして、何を暴露したのか分からなくなってきた。
殿下とお兄様は、私の情報をどこまで開示するか決めかねているらしい。今はまだ、私の生存を隠しているが、それが露見するのも時間の問題のようだった。
私が自由に行動できるのはいつになるのだろう。
絞られた結果、殿下とお兄様には「ギラ・レオ関連」と「前世」以外、大体知られていることが分かった。
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次話はアレクシル殿下目線です。




