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1章 幼馴染と兄2

本日1話更新です。

一通りの業務を終わらせて、王城を出る。少し暗くなってきているが、屋敷には帰らず、直接妹に会いにいくことにした。この時間に会いに行くことはほとんどないが、妹も今日か明日には俺が訪ねてくることは分かっているだろう。いつものように広場に向かって歩く。直接、妹の一人暮らしの部屋に向かっているが、大体途中でおばさん達に捕まってしまう。今日も例に漏れず捕まってしまった。


「あら、ミアちゃんの彼氏じゃない!ミアちゃんに悪い虫がついたようだよ?まぁちょっと待ってね。ミアちゃん呼んでくるから!」


早速、アレクについて教えてくれた。しかも返事をする前におばさんは走って行ってしまった。いつも返事をする前に次の話題に移ったり、先に返事を言われてしまったり…おばさん達と話すのは少々苦手だ。しかしだいたい笑っていればなんとかなることも知っている。俺は走っていったおばさんとは対照的にゆっくり歩いて後をついていった。


「おーい!ミアちゃん!!彼氏が来てるよー!!」


「え?本当に!?」


おばさんは妹を見つけたようだ。さっきまではアレク達と話したおかげで色々と疲れてしまったが、いつも通りの日常に安心する。妹も元気そうだ。


「イル!久しぶり!元気だった?」


妹は街中では俺のことをイルと愛称で呼んでいる。兄妹であることを隠すためだ。愛称で呼んでいるのも恋人と間違われる要因なんだろう。


「よう!久しぶりだな。それなりに元気だ。話したいことがあるんだが…これから予定あったか?」


「いや、ないよ。会いに来てくれてありがとう。暗くなってきたし私の部屋に行こう。昨日美味しい紅茶をもらったの。」


「おーそれは楽しみだな。」


街の人にはヒューヒューと言われてしまうが、もう気にしなくなった。俺たちは…自分でいうのはなんだが、仲がいい。地位だけで偉くなったつもりのそこらへんの貴族どもより、妹と話す方が建設的で有意義だと本気で思っている。


茶化されながらも俺たちは妹の部屋に到着した。

部屋に入った瞬間、妹は盗聴防止用の結界を張る。魔法は本来、詠唱を必要とするが、妹は無言で造作もなく魔法を発動させる。無詠唱で魔法を発動させるなんて知っている限りでは妹にしかできない芸当だ。俺は妹が部屋に入った瞬間に結界を張ることを事前に知っているから魔法が発動されたことに気付くことができるが、事前に知らなければ魔法を使ったことにすら気がつかないだろう。しかも、妹が使う魔法は魔法探知にもかからないことが多い。本人曰く、魔法とは呼べないものだとか、自動ではなく手動だとか俺にはよく分からないが、レノヴァティオ公爵家長女、ミリアリア・レノヴァティオが天才的な魔法士であることは間違いなかった。



「お前…アレクに見られていたんだな。」


昨日手に入れたという紅茶を準備している後姿のミリアに問いかける。


「そうみたい…まさか意識が一瞬戻ってたなんて気付かなかったわ。せっかくお兄様に助言をもらったのに無駄にしてしまってごめんなさい。」


助言とは、セジルが通る道にアレクを放置するように指示したことだろう。確かにアレクに見られていなければ、妹はいつも通りの日常を送れていたかもしれない。


「まぁ見られていたことは仕方ない。もう終わったことだ。それにお前は良くやった。アレクを助けたんだから。誰が悪いと言うのなら、路地裏で怪我して倒れているアレクが悪い。」


「ふふ…殿下相手にそんなこと言えるのはお兄様くらいだわ。それでお兄様はもう殿下に会ってきたのでしょう?何故殿下は私にわざわざ会いに来たのかしら?」


「あー…それは…な。…うん。」


話す内容はもちろん事前に決めてある。しかし、内容が内容なだけに言いづらい。俺は覚悟をほんの少し先延ばしにした。


「あー…その前に、アレクが会いに来た時のことを教えてくれるか?」


「いいけど…。あの時は………」


ミリアは1週間前にアレクが会いに来た時の様子を事細かく説明する。思ってた以上にアレクは誠実に妹と距離を詰めているようだった。しかし、次に会う口実を作るあたり、やはりミリアを手放す気はないようだ。


「あー…やっぱりかぁ。あのなぁ。言いにくいんだが……アレクはお前に惚れたらしい。」


「……………は?」


公爵令嬢として話している時は、ミリアは毅然としているが、珍しく思考が追いついていないようだ。ミリアがアレクの(つがい)だと言ったらどうするのだろうか。しかし(つがい)については伏せることにした。そもそも(つがい)はセレリィブルグ王国の王族にしか存在を確認されていない。王族はもちろん、一部の上流貴族も知っているが、基本的には秘匿性のある情報だった。もし、(つがい)の存在が他者にバレたとしても、誰が(つがい)なのかは、公表しない限り、王族本人にしか分からない。だが、誰が(つがい)なのかバレてしまった場合は、(つがい)を政治的利用するために他方から狙われることになる。ミリアは当事者であるし、いつかは教えてあげるつもりだが、ミリア自身の重荷になるし、今は伏せることにした。


「殿下の魔力を見た時、もしかしてそうなんじゃないかとは思っていたわ。でも、普通こんな街娘を好きになるかしら?公爵令嬢の私を見たならまだ納得はするけれど…まさか、本当に?」


「間違いない。本当だ。魔力を見ても恋愛感情とははっきり分からないのか?」


ミリアは魔力を見ただけで相手の感情を読み取ることができる。本当に便利な能力だ。だから、公爵令嬢として育っても、街中で平民に溶け込んで暮らすことができていた。


「直接触れて魔力を感じるなら、恋愛感情も分かるかもしれないけれど、触れずに見るだけなら、簡単な喜怒哀楽くらいしか分からないわ…」


「そうなのか。触れたとしても、治療したときは意識がない状態だから感情なんて分からないしな…そういえばお前、アレクを治療する時に何かしたか?体調が良くなったと言っていたぞ。」


「それはよかったわ。もう身体が崩壊しそうだったし、治療する時に邪魔だったから、殿下の魔力を少し整えたわ。やっぱり苦しそうだったのは、暴れている魔力が原因だったのね。」


「……ん?身体が崩壊しそうだった!?いや、いやいやちょっと待て。回復魔法には相手の魔力なんて関係ないだろ。魔力を整えたということも意味がわからん。」


「あの状態でよく耐えられるなぁと思っていたわ。」


「おい。無視するな。」


アレクがそこまで限界だとは思わなかった。これからはもっと体調管理をさせるように気をつけなければ。それより今はもっと気にすべきことがある。とりあえず、無視をかましてくれた妹に対して、疑問を解決させていかなければ。


「お前、回復魔法を使ったんだよな?」


「…。」


妹は、俺の問いかけになかなか答えない。基本、しっかりしている妹だが、兄の前では気を抜いていることが多く、たまに情報をぼろぼろこぼしてしまうことがあった。兄としては、妹の可愛いらしい一面だと思うが、溢れてくる情報はいかんせん可愛くないものばかりだ。


(今日はなかなか帰れそうにないな…)

読んでいただきありがとうございました。

次話以降も読んでくれると嬉しいです。

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