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2章 殿下の考え方1

3日連続更新です。


外から秘密通路を使って部屋まで戻った。

騒いでいる様子はなく、誰にもバレずに外出できたことに、ほっとする。


私はいつも通りベッドに入り、いつ誰が来てもいいように呼吸を整えた。


そして、わずか20分後にアレクシル殿下と兄のライルが入ってきた。

いつもより早い訪問。

すぐに帰ってきてよかったと思うと同時に、次の外出はさらに気をつけようと改めた。



「ミア、触れてもいいかい?」


「ええ、大丈夫です。」



いつものように殿下は私の側にきて、手を握りながら話す。

お兄様は黙ったまま。会うのは、私が公爵邸で倒れて以来だった。



殿下は何か話そうとして、口を閉ざした。殿下の手がピクリと動いたことが、私の手まで伝わる。

そして、何も話さず、私の手を握ったまま顔を近づけてきた。


「お、おい!」


お兄様の静止は聞かず、殿下は顔を近付けて…


私の匂いを嗅いだ。


(な、なに…?)


殿下は私から離れて眉間に皺を寄せる。よく分からないが、怒らせたことは確実なようだ。


お兄様も私もどういうことか不思議に思っていると、殿下はため息を吐きながら理由を言った。



「ミア、正直に言ってほしい。外に…行ったよね?」


「ぅえ!?」

(え…?え!!な、なんでバレたの!?しかも、動揺しすぎて変な声出たわ!)


「は?お前、外に行ったのか!!」



私の反応で、外に行ったということがバレてしまった。


まずい。これは非常にまずい。

今後の私の監視も気になるところだが、殿下の機嫌が悪くなっていっていることが、1番まずい。



「…ライル、ミアと2人にしてくれないか?」



殿下が低い声でお兄様に問う。


お兄様は私のために殿下と約束してくれていたのだが、流石に私を(かば)えないと思ったのだろう。近衛兵と一緒にお兄様は部屋を出て行ってしまった。


部屋には、殿下と私の2人しかいない。


殿下はベッドに腰掛けて、私の隣に座った。手は相変わらず握ったままだ。



「ミア。」


「…………はい。」



私は観念して、小さく返事をした。

何を言われるのか、怖い。でも、全面的に私が悪いのだから受け止めるしかない。


殿下は、ゆっくりと息を吐いた。

息が揺れている。怒りを鎮めるために深呼吸したことが分かる。お父様やお兄様に怒られるよりずっと怖い。



「…ミアには秘密が沢山あることは分かっている。私はミアに嫌われたくないし、ミアの意志を出来るだけ尊重したいと思っているから、今までしつこく聞くことはなかった。」


「…はい。」


「でも…もう限界だ。1週間前はミアを信じると言ったが、信じられない。…ミア、ちゃんと話して欲しい。………これは…私から言いたくはなかったが……」



また、殿下は深呼吸する。

私は殿下が話すのをじっと待った。



「……ミアが呪われていること、私は知っている。」


「ぇ………」



頭を金槌で殴られたような衝撃を受ける。


(…そんな……なんで………なんで………)


「なんで?」という疑問が何度も何度も頭を駆け巡る。

殿下はどこまで知っているのか。なぜ知っているのか。前世のことも知っているのか。


私が混乱しているうちに殿下は話を進めてきた。



「ミアが国を離れたがったのは、呪いのせいだよね。」


「な…なんで知っているの!?……っ…どうして!!」



私は敬語を忘れて、声を荒げた。

冷静になれない。ずっと隠してきたことを、どうして殿下が知っているのか。

私とは反対に、殿下は静かな声で教えてくれた。



「この間、ミアと一緒にいた占い師がいただろう?彼女に教えてもらった。ただ、どんな呪いかは知らない。……教えてほしい。」


「占い師…ウィズのことね。………いやよ。言いたくない。言いたくないわ。」



私は、子どものように首を振って拒否を示した。

でも、殿下は許してくれない。



「ミア。私はこれから先、死ぬまでミアと一緒にいるつもりだ。私が(つがい)を手放すつもりがないことは、ミアも十分分かっているだろう。」


「いや……お願い。」


「ミア。その呪いのこと、レオは知っているのか?」


「……っ!」



ここでレオの話。レオは私の記憶を読んだ。もちろん呪いのことも知っている。彼が私の呪いについて知っているのは不可抗力だが…そんなのは言い訳にすらならない。


殿下がぎゅっと強く私の手を握る。痛いくらいに。



「…レオは知っているということか。………どうして?」


「それは………(…言えない。)」


「……それも言えないのか。ねぇ、ミア。私は王太子という立場だけれど、ミアさえいればいいと思っている。正直、この国なんてどうでもいいと思うくらいに。」


「……私が、(つがい)だから。」


「そう。……でもね、ミアは、この国が好きだと言ってくれた。だったら、ミアが心から笑顔になれる国にしようって思ったんだ。…ミアがいない間、これでも結構頑張ったんだよ。」


「……。」


「ミアにも事情があるのは十分分かっている。でも、ミアに拒絶されたら私は…頑張れない。頑張る理由がない。…私に黙って外に行く上…尚且つ、他の男は拒絶していないときた。……もう、頭がどうにかなりそうだ。」



殿下はギリギリと歯を噛んで、気持ちを抑えている。不誠実なのは私だ。私が我慢させている。

今思えば、1週間前も、結局私が殿下に我慢をさせて会話を終わらせたのだ。私は、私の秘密を何も話していない。


私は殿下の手を握り返した。

殿下の言う通り、私は殿下が死ぬまで側にいなくてはならない。殿下のことを慕っているわけではないけれど、傷付けたいわけでもない。この国を見捨てたいわけでもない。


ギラやレオのこと以外は、私自身の秘密で…話せないことではなく、話したくないことなのだ。

そして、いつかは話さなければならないことだ。



「……ぁ………。」



話そうと声を出そうとするが、唇が震える。やはり、本心を、秘密を話すときは冷静に話せない。1週間前は、結局言わなければならないことを避けたから冷静でいられただけなのだ。


殿下は私の様子に気付き「ゆっくりでいい」と言ってくれた。

息を吐いて、覚悟を決める。



「………私の、呪いは…周りの者に死をもたらす、呪いです。…私に近い人から順に…死んでいくのです。」


「…死ぬ、ということか。」


「はい。…私のせいで、母が死にました。毎日抱きしめてくれた母を…私が呪い殺したのです。……お兄様が殺されかけたのも私の呪いのせいでしょう。……いえ、呪いでなくとも、私は…私の都合で沢山の人を殺しました。……そして、これからもそれは変わりません。」



私は話しながら、もう1つの可能性に気付く。

気付きたくなかったが、きっとこの仮説は正しい。



「……街の人達が、テロの標的になったのも…今思えば私の呪いのせいかもしれません。街の皆とは、かなり交流を重ねてきましたから。……私の存在は、害悪、なのです。」



私は背中を丸めて、俯いた。自分を守るように…顔を見られないように。

絞るように声を出す。



「…ぁ………知られたくなかった。…呪いの力は弱まっているから、もう距離を置く必要はないとギラは言ったけれど……私の罪が…消えるわけじゃ、ないもの…………」



レオは人間じゃない。だから価値観も感覚も違う。だから…気にせずにいられた。前世のことを知られた時は流石に動揺したけれど、それも本気で気にしていないようだった。


でも、人間は…殿下達はどう思うだろうか。


お母様を殺したのは流行り病、テロを企てたのはレギイラ侯爵。それは間違いないが、そうなるように仕向けたのは、きっと私だ。私が間接的に殺した。


怖い。話してしまった。吐き出してしまった。もう…誤魔化せない。



「……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめ、な…さい…」



涙が溢れる。私に泣く資格がないことは分かっているが、止まらない。



「……私ばかり、生きていて…ごめ……な…さ……」



話していて、思い出す前世の大切な人達。

黙っていたからといって許されるはずがないのに、私は罪を無視して生きようとしていた。

やっぱり死ねばよかった。生まれた時に、死ねばよかった。



「……ミア、顔をあげて。」


「……っ。」



殿下は、手を私の顔に添えた。上手く魔力操作ができないので、殿下の顔がどこにあるのか、どんな表情をしているのか分からない。だから、私は殿下に抵抗せず顔をあげた。



「………ミアはいつも綺麗だけれど、泣き顔は…クるものがあるね。…可愛い。」


「……え?」



そういって殿下は私の目元にキスをした。でも、そんなことはどうでも良いくらいに、殿下の発言が気になる。何かおかしなことを言わなかっただろうか。

どういうことかと混乱しているうちに殿下はまた、私の目元にキスをした。



(…どういう……え?…何……どういうこと?)



話しているうちに確認出来なくなった殿下の表情。

今は、嬉しそうに笑っていた。


読んでいただきありがとうございます。


ブックマーク&評価してくださるおかげで頑張れています。

まだの方はぜひ!よろしくお願いします。


次話以降も読んでいただけると嬉しいです。

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