2章 義手と義足
1話分できたので更新します。
王宮で目が覚めてから1週間が経った。
「さて…今日から脱走ね。」
『……。』
エルが呆れたようにため息をつく。
殿下は私が目を覚ましてから毎日会いに来るようになった。
業務の合間を縫って、お父様も時々会いに来てくれる。…お兄様は来ていない。
2人が会いに来る時、食事の時以外は私は部屋で1人になる。その間、私はずっと魔力操作の練習をしていた。
この1週間でかなり上達した。精密な魔力操作。もう、目がなくても人の表情が分かるくらいに。
そして、少しの間なら、圧縮した魔力で足を補えるようになった。私は歩けるようになった。
だからといって、エルの魔力で修復魔法を扱うにはまだまだだけれど。
私がいない間のことは、殿下が教えてくれた。
レギイラ侯爵は斬首刑。しかし、余罪が多く、刑が執行されるまで、1ヶ月ほどあるとのことだった。そして、貴族の殺害やテロ計画は罪が重く、レギイラ一族も斬首刑。それに連なる貴族は降格。リーナはまだ生きているけれど、死は確実だった。
(でも、まだ時間はあるわ。)
私は魔力を圧縮させて右足の代わりを作った。しかし、大量の魔力が必要になるので長くは続かない。足があるうちに外に脱出しなければ。
この部屋には窓がないが、実は抜け道がある。
魔封じを設置しているくらいの部屋だから、何かあった時の脱出口があるだろうと念入りに魔力で探った。すると、暖炉の中の煉瓦に隙間があることに気づいた。
どこの王宮にも秘密の通路はあるというものだ。
「ありがたく使わせていただきます。」
私は秘密の通路を使って、誰にも気付かれず、街に出た。
久しぶりの外。でも、殿下に外出がバレると絶対に怒られるので、2時間後には戻らなくてはならない。この2時間のうちに出来ることをやらなければ。
「早く、武器屋にいかないと…。」
私は、姿を消して急いで武器屋に向かった。
冒険者ギルドの近くの路地。知る人ぞ知る武器屋。一見さんお断りの頑固親父の鍛冶職人。
私は店の中に親父さんしかいないことを確認してから入った。
「こんにちは。」
「……ここは、お前さんみたいな女が来るところじゃねぇ。帰れ!」
店の奥には無精髭を生やした職人がいる。少し背は低く、頭にはちまきを巻いている。いかにも親父らしい親父だ。名前は、実は知らない。皆、親父さんと呼んでいる。
今の私の姿は、ミリアリアの姿だ。手足はマントで隠してある。どうせ、私の正体はバレてしまうのだから、隠してもしょうがないと思い、変装せずにきた。
それにしても、開口一番に「帰れ」と言われるとは、親父さんは相変わらずのようだ。
私は小さく笑い、近くの椅子に座った。そして、フェレスの声で返事をする。
「親父さん。いつもは快く迎えてくれるのに、ひどいな。」
「は?お前みたいなのに武器を作った覚えはねぇ!!さっさと帰れ!!」
親父さんは先ほどよりさらに強く声をあげて、私を出ていかせようとする。
こんなでも、腕はいいから親父さんの店は傾かない。
「この姿じゃ分からないか……いつもは仮面を被っているからな。」
「仮面だと…?仮面を被るなんて1人しか……いや、でも確かに声が。」
親父さんは訝しげに私を見る。信じられない様子だが、否定する要素もないといったところだろうか。
「ははっ仮面なしで髪色も変えていないから難しかったな。実は、時間もあまりないんだ。用件をいいだろうか。」
「女じゃないかという噂もあったが、本当に女だとはな。しかし、声も雰囲気もフェレスだ。間違いない。はぁ…分かった。それで?」
「義手と義足を作ってほしい。ご覧の通り、無くなってしまってね。」
私はマントを外し、身体を見せた。そしてついでに、目も見えなくなったことを伝えた。
「な!!何があったんだ、こんな身体でどうやってここまで…いや、フェレスなら不思議じゃないか…。それにしてもその服装。お前さん、どっかの貴族だったのか。」
「ふふっそうよ。でも、身分とか気にしないでくれると嬉しいわ。ただ、秘密にしていてね。」
「うっ…その姿だと、そういう話し方の方がしっくりくる……誰にも言わねぇよ。客の秘密は守る。それに、お前さんの場合は報復が怖ぇ。」
「懸命ね。それで…義手と義足は魔石で作ってほしいの。魔力を流せる手足。こんな身体ってできればバレたくないのよね。」
今の私がやるべきことは、義手と義足の作成。しかも、ただの義手じゃない。本物の手足のように動かせるもの。
エルの魔力を使っているうちに思いついた。操り人形のように外から操るのではなく、内側に魔力を流して操るのはどうかということ。私の胸にある魔石は魔力を通す。
魔石で義手義足を作れば、手足のように動かせるのではないか。
ちなみに、魔石だけで何かを作るということは、今まで誰も挑戦していないはずだ。
「魔石で作るだあ?装飾品じゃないんだぞ!」
そう。魔石は魔道具にするか、装飾品にするのが定石だ。そこまで形は大きくないし、加工が難しいとされている。でも、やってみる価値はあると思う。
「出来る?出来ないの?」
「ちっ!出来なくもない。だが、魔石がない。それに魔力がよく通る魔石……そうなると………」
「魔石は私が用意するわ。どんな魔獣でも大丈夫よ。」
親父さんはぶつぶつと声に出しながら考える。どんな材料が必要になるのか考えてくれているようだ。義手義足は武器ではないが、魔石の扱いは親父さんが1番知っているだろう。私の人選は間違ってなかったようだ。
「腕と足、となると大量の魔石が必要となる。しかもその魔石は…ピラトゥー山に棲まうレッドドラゴンがいいだろうな。」
「レッドドラゴン……」
「ピラトゥー山は火山だ。しかし、レッドドラゴンは火山じゃなくても活動することができる。つまり変化に強い魔獣だ。魔石を加工した上で、魔力を流すのならば、変化に強い魔石じゃないといけねぇ。硬いだけ、魔力を通すだけの魔石じゃ話にならねぇ。」
「……。」
(…思ったより手強い魔獣ね。レオは炎のドラゴン。レッドドラゴンとは遥かに格が違うけれど、同族のように思っているなら…頼るのは難しそうね。)
「いくらフェレスでも、そのザマじゃあ無理だろうな。」
親父さんは、憐れみの表情で私の身体を見た。確かに、手足がなく、目も見えない。私の状況は絶望的に見えるだろう。でも、私には強い味方がいる。
「…どんな魔獣でも大丈夫と言ったわ。何体の魔石が必要なの?」
「は?いくらお前さんでもそりゃあ……っ…4体あれば大丈夫だろう。」
「分かったわ。他には何が必要なの?」
「……レッドドラゴンよりもさらに上級の魔獣の素材だな。魔石の加工は、それより上級の魔獣で作られたもので削る必要がある。魔石はな、皮や爪とは扱いが違うんだ。人の道具で簡単に加工できるものじゃねぇ。」
「上級の素材ね。それは…鱗とか爪で大丈夫かしら?」
「あ、あぁ…だが、レッドドラゴンよりも格が上の魔獣なんて……ここ最近討伐された魔獣だと、アーマードグリズリーが最上級の素材だ。だが、それよりも格上なんて…」
聞いたことのある魔獣を言われて、まさかと思い、つい聞いてしまった。
「そのアーマードグリズリーって…頭を落とされた、綺麗な死体?」
「あぁそうだ。どこぞの貴族が持ちこんだものだ。ん?……貴族ってまさか。」
「……そのようね。あの死体どうしたのかなって思っていたのだけれど、親父さんの手元に来たのね。」
「ちっ!全然傷がなく頭を一刀両断なんて、どこの使い手がやったんだってギルドじゃ騒ぎになっていたと聞いたが……お前さんか。…納得だ。」
「ふふっ。…話は戻すけれど、最上級の素材の方もなんとかしてみるわ。」
「なんとかって……」
親父さんが否定の言葉を発しようとするのを、私は口元に人差し指を立てて、にっこりと笑って黙らせた。
しかし、親父さんは私を見て怯えてしまった。私はそんなに不穏な表情をしたのだろうか。
せっかく話が途切れたので、今のうちにと私はエルに呼びかけようとした…が、その前に来客があった。
身体に魔力が満ちていく。私は「またか。」と思って、親父さんに「驚かないでね。」と事前に一言伝えた。
「よーミリア!元気そうだな。」
「…レオ。気軽に転移なんて使うものじゃないわ。…親父さん、これも秘密でよろしくね。」
「あ、あぁ……」
レオが転移してきた。転移は個人が使えるような魔法じゃない。しかし、レオは気にせず使う。見ているこちらがヒヤヒヤしてしまうばかりだ。
「でも、ちょうどよかったわ。レオ、義手と義足を作ろうと思うのだけれど、素材にレッドドラゴンがいるようなの。それで……」
「ん?レッドドラゴン?俺が狩ってこようか?」
親父さんは気軽にいうレオにびっくりして、喉を詰まらせてしまったようだ。苦しそうに咳をしている。
まさか、レオから協力を申し出てくれるなんて思わなかった。私は親父さんを無視して話を進める。
「レオが狩ってきてくれるなら助かるんだけど、本当にいいの?」
「ああ、いいよ。暇だし……その代わり、人間の金くれない?飯が食いたい。」
「ご飯代?そのくらいならいくらでも出すわ。」
(転移出来ないと、やきもきしていた理由は、人間のご飯だったのね。レオらしい。)
「よしっ!じゃあ今から食べに行こう。」
「あーレオ、ごめんね。私、黙って外出しているから戻らないといけないわ。」
「そう…だったな。……お前さぁ…俺の立場から言わせてもらうと、そんなことをしているから束縛されるんだよ。」
「う……それは…言い返せないわね。」
そんなこんなでレオに軽く説教されつつも、レッドドラゴンはレオが狩ってきてくれるということで算段がついた。私は自分の鱗を剥いでいくだけでいい。とりあえず、今日のところはこれで十分だろう。
親父さんには、素材が用意でき次第また来ると言い、店を後にした。
レオは私の代わりにカイを誘って食べにいくと言ったので、カイの分のお金を余分に渡し、私のことは心配しないでほしいと伝言を頼んだ。
もうすぐで、王宮を出てから2時間になってしまう。私は急いで帰路についた。
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