1章 ここから新しい人生設計がはじまる3
タイトル変更しました。
誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。
遅くなってすみません。
1章の最終話になります。
「ミア……?」
魔力で確認しなくても声で分かる。
私の名前を呼ぶ声。出会ってからの日数は短いけれど、何度も何度も呼ばれた。
「……殿下。」
彼は今、どんな顔をしているのだろう。
「殿下」と答えてしまったが、もしかして変装していただろうか。魔力でなんとかなるだろうと、たかを括っていたが、色が分からないというのは本当に不便だ。今後、髪色は分からなくても、相手の服装や表情が分かるくらいに魔力操作の精度を上げる必要がある。
私は、自分の魔力を殿下まで届かせようとした。しかし、殿下の魔力に触れる直前で躊躇ってしまう。殿下の気持ちを、心を、知るのが怖い。
「あ………」
「………っ。」
代わりに話しかけようとするも、何を言えばいいのだろうか。私のことをどこまで伝えれば納得してくれるだろうか。殿下も何も話さない。なんとなく、言葉に詰まっているような気がする。そんな私達を見て、ウィズが助け舟をくれた。
「こんなところで固まってないで、2人で話してきな。代金はガイナスに付けとくからさ。王子様?」
「そう、だな。…ミアは私と2人になっても大丈夫だろうか?」
3人いれば、誰に話しかけているのかも分かりにくい。今みたいに名前をいちいち呼んでもらわないと困ってしまう。皆が皆、2人みたいに気遣って話してくれるわけではないはずだから。
「…お兄様との、約束のことをおっしゃっているのですね。はい、私は大丈夫で……」
「ミア?どうした?」
私の様子を見て、殿下が問う。
殿下には聞きたいことが沢山あるし、リーナのことも気にかかっていたので、2人きりになることを了承しようとした。目も見えない、手足もない私に無理をさせるはずがないというくらいの信頼はある。
しかし、私の身体に魔力が流れ込んできたので、思わず言葉を止めてしまった。
この感覚は2回目。ギラから『彼』の過去を聞いてしまったので、次はどんな顔をして会えばいいのかと思っていた。
『彼』は、いつか話してくれると、いつか話を聞いてほしいと言っていたのに。
前回とは違い、今回は着地に成功したようで、私の隣に『彼』は現れる。
「こりゃあ……すごいねぇ。転移をこんなに自由に……」
「その赤髪!!あの時の……!!」
レオが私の中の魔法陣を使って転移した。
会うのは4・5ヶ月ぶりくらいだろうか。レオは、彼の番に会いに行っていた。もうこの世にいない番。レオはずっと番を失った悲しみに打ちひしがれている。
だからギラは私に魔石を埋め込んだ。
レオは私の右手を掴み、引っ張って立ち上がらせた。
片足がないので私はバランスを崩し、レオの胸に飛び込む形になってしまう。
「え……ぇえ?……レオ?」
「………。」
レオは無言のままだ。
先程も殿下と同じようなやりとりをしたが、状況がまるで違う。
見えていないし、魔力を確認したわけでもないのに、殿下が沸点に到達したのが分かった。空気が冷たい。
殿下の手がこちらに伸びてきている気がする。
「……あとで返す。」
「ちょっと、まっ………」
殿下の手が届く前に、私達は姿を消した。
完全に、私はレオに連れ去られた形になってしまった。以前、レオと一緒にいた時に殿下に連れ去られたが、今回は逆だ。
なんというか、2人が私を取り合いしているかのような構図になってしまってはいないだろうか。決してそんなことはないのに…レオも人が悪い。
レオと私は、レオと番の思い出の場所に転移した。
到着早々、レオは私に平謝りする。
「……ミリア、ごめん。俺のせいだ!!俺のせいで……そんな……ん?なんだその姿は!?」
「え……っと。レオはギラからどこまで聞いたの?」
レオは寄りかかっている私を起こしながら謝り、そして私の姿を初めてちゃんと見たのだろう。目と手足がない私。レオの様子から、ギラから私に何があったのかまでは聞いていないようだ。
「ミリアの身体に魔石を移したっていうことだけ……っていいや。……面倒くさい。」
「……え、ええ、いっ!?」
痛みが走る。
レオは、私の右手の手首のところに噛み付いた。
急に噛み付いたことにも驚いたが、レオが噛み付いた瞬間、私の手首に鱗が生えたことで、噛み付いたことなんてどうでもいいと思えるくらいにギョッとした。そして、私の鱗なんて構わずに、レオはそのまま、牙でバキバキと鱗を破壊した。鱗を噛み砕いた衝撃で、レオの牙が私の右手首に深く刺さる。レオは、私の血を飲んだ。
(私に鱗が……もしかして防衛反応!?いえ……それよりも何か……頭を滑っていくようなこの感覚って……まさか!!)
「やめて!!!!」
私は腕を無理矢理引き戻し、レオの牙から離した。強引に引っ張ったせいで、レオの噛み跡が深く残ってしまった気がする。この身体に慣れていない私は修復魔法が使えない。鱗はもう消えている。自分の感覚と触った感じ、人間の手首に歯形がついた状態になっている。
でも、今はそんなことはどうでもいい。
頭を滑るような感覚。あれは私が記憶を読む時の感覚だ。今、私はレオに記憶を読まれてしまった。
「レオ!!お願いだから!!誰にも言わないで!!レオ!!」
「………。」
レオは呆然としている。私の記憶、つまり前世のことを知られてしまったということだ。私が1番知られたくなかったこと。誰にも話していないことをレオに知られてしまった。
(ドラゴンは血を飲むことで相手の記憶を読むことができるということ?……レオは私のことをどう思うのかしら。どうしよう…こんな風に知られるなんて……)
「レ、レオ……?」
「あ、あぁ……ミリアって……前世では割と性に奔放だったんだな。」
「やっぱりそう思……え、え!?……最初の感想が、それなの……?」
「あ……いや………い、意外だなと………どう思うと思ったんだ?」
「もっと蔑まれると思ったわ。沢山、大切な人を殺したもの。」
私が家族や友達を見殺しにしたようなものだ。一緒に住む家族。学校で仲良くなる友達。みんな死んでいった。距離を置いても関係が続けば死んでしまう。別で暮らしていたお兄ちゃんも、友達以上恋人未満の後輩も、会う回数の積み重ねで死んだ。
しかし、レオにとっては蔑むことではないと言う。
「それを言うなら、俺の方が殺してる。だから、ギラはお前に魔石を移したんだ。……でも、本当の理由は別にあるな。あーーー…お前に謝るのは辞めた。」
「本当の理由?いえ……もうそれどころじゃないから今はいいわ。それに、謝って欲しいとも思ってないわ。私がこうなったのはレオのせいじゃないもの。」
ギラが私の命を繋いだ理由。それはレオの過去に関することだった。悲しい過去。レオの心の中に潜む黒い何かの正体。それはいまだにレオを蝕んでいる。でも、ギラが私に魔石を移した本当の理由は別にあるとレオは言った。もう、私は既にキャパオーバーだ。これ以上、新しい情報を私に言わないでほしい。
「そっか。じゃあ、過去についてはお互い様だな。でも!その身体!!死ぬところだったんだぞ!!あーだからギラは…………はぁ、俺の過去を聞いたんならもう分かっただろ?…番が死ねばどうなるか。」
「……ええ。」
レオは番を失っている。それも悲しい形で。だからレオは蝕まれ、今も苦しんでいる。
番に関しては、レオは私よりも殿下の味方のようだ。
「私は、アレクシル殿下の番だから、彼と結ばれないといけない。きっとそれは正しくて、殿下にとってだけでなく、皆にとっても悪くないことっていうのは分かったわ。でも……今はまだ、受け入れることができないわ…」
「まだ、ねぇ。じゃあ、それをそのまま王太子に言ってやれよ。それだけでも、十分喜ぶだろ。今まで散々逃げられてるんだから。」
「本当に…これで伝わるかしら。」
「伝わる伝わる。じゃあ行くぞ!リーナのこともあるし、急いだ方がいいだろ?」
「ぇえ!?って、わわ!!」
レオに過去を知られてしまったせいで、話の進みが早い。レオは話し合いにさっさと結論を出し、私を担ぎ上げた。俵担ぎだ。確かに手足がない以上、この担ぎ方が1番走りやすいのかもしれないが、担がれている方はなんとなく悲しくなる。
レオは私の静止を聞かずに、転移した。そして、殿下のいるところまで走って目指す。殿下の居場所は私がエルの魔力を使って探した。気は乗らないが、担がれたままあちこち走られて酔うのは私だ。
「なんか、デカい家に着いた。王宮じゃない。」
「それは…きっと公爵邸ね。……帰ってきたのね。」
担がれて走り回られたので、方角が分からなくなっていた。私は姿を隠す魔法も使っていたので、殿下の居場所は指をさして、レオに伝えていたが、ちゃんと無事に到着したようだ。殿下がレノヴァティオ公爵家にいるということは、お父様やお兄様も一緒に待っているということだろう。
レオは「また来る」と言って、公爵邸の門の前で帰っていった。ここで置き去りにするなんて。
姿を隠す魔法を解除し、公爵邸の敷地内へゆっくりと足を踏み入れる。
ここからまだ歩かないといけないと思い、ため息をついたが、門の異変に気付き、すぐに殿下とお兄様がやってきた。…速い。お父様はこの速さについてこれないだろう。
私はその場に座り込む。殿下も私に合わせて膝を折ってくれた。
「ミア。無事で…よかった………!!」
殿下は私に触れていないが、彼の両腕は私を囲うように広げていた。こんな時でも、ちゃんとお兄様との約束を守ってくれているのだろう。
「殿下、私は大丈夫です。それよりもお話ししたいことがあります。えっと……決意が鈍りそうなので、このまま聞いてくださいますか?」
「………ああ、聞こう。」
私はゆっくり息を吐いて、吸い込んだ。全てを言わなくていい。大丈夫。今の私に言えることだけでいい。
「殿下。私は、殿下の番です。それを受け入れたわけではありません。でも、家族が好きで、この国が好きで……私はここで生きていきたい。」
「……ああ。」
殿下は静かに返事をしてくれた。表情が分からないけれど、声に出して「聞いている」と伝えてくれている。そのちょっとした気遣いが、嬉しい。
「でも、私がここで生きていくには条件があります。それに、こんな身体になってしまいましたし……。元に戻すには時間がかかるでしょう。」
「時間はかかるが、治るのだな。良かった……それで?」
「それで……あと……私は殿下に言っていないことが沢山あります。」
「ははっそのようだな。」
殿下は小さく笑ってくれた。そんなことは大したことではないというように。
「殿下に知られたくないこともあります。その中には、話さなければいけないことも沢山。……でも、私のわがままで話していないんです。」
「…全てを共有しろというのは、どうやっても不可能だ。だから気にしなくていい。しかし、話さなければいけないことというのは、いつか話してくれるのだろうか。」
「……はい。いつか、必ずお話します。」
「そうか。なら大丈夫だ。」
声が優しい。目が見えない分、声で表現してくれているのだろうか。それとも、元からこんな声だったのだろうか。1番伝えたいこと。大丈夫。言える。大丈夫。
「………あ、あの……だから……つまり…………待って、くれますか?……………………受け入れる…まで。」
「……………。」
「……。」
「……。」
(な、何も言わない!!声が小さかったから聞こえなかったのかしら!?絶対、私赤くなっているわ…前世で真剣に恋愛に向き合ってこなかったツケがここで響くなんて…)
好きな相手に告白しているわけでもないのに恥ずかしい。もっとさらっとレオに言ったみたいに言うつもりだったのに、上手くいかなかった。伝わったのか分からない。
「あ、殿……」
「いや、すまない。嬉しすぎて言葉を失ってしまった。……そうか…………っ!っとと、ライルやめてくれ!分かっている。」
「……?」
お兄様は多分、殿下を足で軽く蹴った。お兄様の行動まで把握していなかったから自信はないが、足が動いたように思う。殿下も私に伝えることがあるということだろうか。
殿下はゆっくり、確実に、ちゃんと聞こえる声で話してくれた。
「ミア、私は待たない。代わりに、ミアに受け入れてもらえるように努力しよう。ミアがいない間、どうすればミアは笑ってくれるだろうと考えていた。ずっとだ。……だから、その成果を、判断してほしい。………私の側でというのは気が早いと言われてしまうから、まずはライルの側で。……どうだろうか?」
殿下の言葉をゆっくり反芻する。強引じゃない。ちゃんと気遣ってくれた言葉。逃げる必要のない言葉。
「……はい!お兄様の側ということなら。」
「ははっ…………っありがとう。」
「私も……ありがとうございます。」
話すことができた。初めて殿下に向き合って伝えることができた。
身体の力が抜ける。
ずっと、ずっと…この世界に生まれた時から気が張っていた。
全てが解決したわけではない。寧ろ、ここからが大変ということも分かっている。
でも、今は……嫌なことに目を逸らして、ゆっくり休みたい。
私は、そのまま倒れるように眠りについた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これで1章は完結になります。
ここまで長かったですが、なんとか書き切りました。
読んでくれる方がいるおかげです。本当にありがとうございます。
ブックマーク&評価もありがとうございます。
まだの方はぜひよろしくお願いします。
年内の更新は一旦終わりにしますが、できるだけ早めに2章に取り掛かりたいと思います。
楽しみに待っていただけると嬉しいです。
次話以降もよろしくお願いいたします。




