1章 ここから新しい人生設計がはじまる1
誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。
更新日は水・金・日です。
久しぶりのミリア目線です。
ー身体が、何かに侵食されていく。
ー皮膚が…柔らかい肌色の皮膚が、別の…硬い何かに変わる。
(嫌よ…嫌……やめて………)
自分の身体が細胞から変化していく。ものすごい勢いで。
(私は………変わらない!変わりたくない!!)
私は逆らった。侵食してくる何かに。
修復魔法と同じ要領で、変わってしまった細胞をさらに変えて元の皮膚に戻す。
魔力なんてない。もう残っていないし、回復もしていない。
ただ…ただ、意思の力で、イメージで変える。
だが、元に戻した柔らかい皮膚はまた、硬い何かに変わる。
何度も何度も何度も何度も、侵食され、元に戻すを繰り返す。
ー何度も何度も長い間、何度も何度も。
何が正しい身体なのか、どの細胞が私なのか分からなくなってくる。
それでも私は、私であるために抗った。
…
どれくらい時間が経ったのだろう。
身体中汗をかいている。ベトベトして気持ちが悪い。
しかし、身体が崩壊する気持ち悪さや、身体を書き換えられる気持ち悪さに比べれば、天と地ほどの差だった。
もう、私の身体は変化をやめていた。私が勝ったのだろうか?分からない。
私の身体はどうなったのだろう。
……目は、見えない。
目を開くが、何も見えない。瞼を持ち上げているのか、自分を疑ってしまうほどだ。
瞼を透けて入ってくる光なのか、ぼやけてしまった私の視界なのか判断ができない。
……耳は聞こえる。
声を出してみた。久しぶりに声を発した。最初は出にくかったが、ちゃんと「あ」が聞こえた。話せるし、聞こえる。
……匂いもわかる。
新緑の匂いがした。土の匂いがした。冬が終わり、春が始まろうとしていることがわかる。
……触れた感覚、痛覚はある。そして皮膚は柔らかい。
爪で皮膚を引っ掻いた。ちゃんと痛いし、傷が多分付いた。両手で顔を覆おうとする。多分顔は変わっていない。でも、顔に触れるのは右手だけだった。
……左手と右足がない。
左手が崩壊して千切れたのは覚えている。足もあの時、千切れていたのだろうか。今の私には立つことが出来なかった。触った感じ、左手は肩から10センチくらいまでしかない。左足はちょうど膝上あたりからなくなっていた。
(残るは……味覚ね。)
私は口の中、ちょうど頬の裏あたりを噛んだ。血の味がする。味覚はあるようだ。
「無くなったのは、視覚と左手と右足ね。それにしても何が……どうして私は生きているの?」
「……起きたのか。」
後方から声が近付いてくる。ギラの声だ。ギラ…本名はギラディオナス。レオの父親で古いドラゴン。そして私の友人だ。久しぶりだった。結局、殿下を拾ってから一度も会えていなかった。
「ギラ。……私に何をしたの?貴方が私を助けてくれたの?」
「助けたとは言い難いが、命があるのは私のおかげだ。……食べるといい。あれから一月半経っている。」
ギラは私の手に食べ物を乗せた。私の目が見えなくなっていることに気付いているらしい。確かに私は空腹だった。渡された甘い果実を口に入れる。口の中に甘酸っぱい味が広がる。美味しい。
「助けてくれてありがとう。それで……私に何をしたの?……私の身体なのに、私の身体じゃないみたいだわ。」
「……簡単に言えば、私の魔石の一部をお前に埋め込んだ。ミリアリア、お前の身体はドラゴンの影響を受けた。」
「魔石……え、これが魔石……?」
自分の身体の状態を確認するだけで、気付いていなかったが、魔石と聞いて、魔力を発していることに気付く。ちょうど胸の……心臓に近いところに硬い石のようなものが埋め込まれている。石の形は…羽……だろうか。2つある。違和感はあまりなかった。この魔石は私の身体に馴染んでいる。
「……眠っている間、皮膚が硬い何かに侵食されていったわ。あれは……ドラゴンの鱗?」
「そうだ。よく人間の身体を保つことが出来たな。……普通は変化に逆らえない。例えばエルのように。」
「……エル?どういうことなの?」
「魔石は2つあるだろう?…1つが私で、もう1つがエルの魔石だ。」
胸にある魔石を撫でる。魔石というのは魔獣の心臓だ。それを私に移したということ。私に影響があったように、移した側にも影響があるのではないか。私が命をかけたことで、ギラやエルに命をかけさせてしまったのではないか。満足に死ねたと思ったけれど、それが誰かの命を奪う結果になったのではないか。
自分の行ったことの責任感が今になって襲ってくる。あの時は、お兄様を助けることに必死で他のことは何も考えていなかった。
「あ……わた、しは………」
『ミリア、大丈夫。私は生きている。ミリアと命を共有しただけだ。』
声が頭に響いた。聞いたことのない、低い声。心地よい声。私はその声の主を知らないはずなのに、知っていた。
「……エル?」
『そうだ。今そちらにいく。』
目が見えないから分からないが、強い風が頬に当たる。バサバサと羽ばたく音、風に揺れる木々のさざめき。大きな魔獣が近くに降り立った。エルだ。
エルはいつものように、私にすり寄ってきた。私は、エル…彼を撫でる。彼の柔らかい毛皮はドラゴンの鱗のように硬くなっていた。それに、私が知っている彼よりも大きくなっている。元よりグリフォンのような姿だったが、より、ドラゴンのような姿になっているのではないだろうか。
「……これが、ギラの影響?」
「そうだ。エルは魔石の全てをお前に捧げた。だからお前の影響下になる。お前が死ねば、エルは死に、お前が私の影響を受ければ、エルも影響を受ける。」
「……そう、なのね。……エルはそれで良かったの?」
『もちろんだ。ずっとミリアの側にいたいと思っている。』
「……ごめんね。ありがとう。」
私は顔をエルにすり寄せた。エルは前から私の側を離れようとしなかった。でも、側にいてくれると言ってくれるのは心強い。1人は寂しいから。
「側にいたいと言ってくれ………ん?……言って!?エル!?貴方、言葉を話しているわ!?」
「はぁ、今頃か…」
『ミリアはたまに抜けているからな。』
今までは簡単な意思疎通だけで、言葉には出来なかったはずだ。しかし、今エルは流暢に言葉を操っている。私は2人にため息をつかれた。今起きたばかりであるし、一度に色々なことを説明されれば、何か1つくらい見落としてもおかしくないだろうか。呆れた顔をしているのが、見なくても分かる。
「ミリアリア。お前の呪いについてだが……」
「え?………今なんて……?」
「………。」
「………私の呪いについて…知っていたの…?」
呪いの話はギラにはしたことがない。前世からある私の呪い。近くにいる人が死ぬなんて他人に言えるはずがなかった。ギラは、先ほどよりも大きなため息をついた。今、どんな表情をしているのだろう。
(…………私が、悪いのかしら……?)
「……ミリアリア、私の魔石のおかげで、呪いの影響を抑えられる。その呪いは、周りの者に死をもたらす呪い。……今まで影響が薄かったのは私の血のおかげと、お前が盗賊やら犯罪者やらを殺しまくっていたおかげだ。」
「……え?……そう、だったの…… ?………でも……」
何故、ギラはそんなことが分かるのだろうか。もしかして、私の前世についても知っているのだろうか。私のせいでたくさんの人が死んだことを……聞くのが怖い。私にとって1番知られたくないことは前世のことだった。
「あ、あの……ギラは………」
「それより、お前の身体について説明しなければならないことがある。あと、私がお前の命を繋いだ理由も……」
「そ、そうね……教えてもらえるかしら。」
(今……話を逸らされたの、かしら?……いえ。気のせいね。)
ギラが前世の話題を逸らしたように思えたが、気のせいだろうと忘れることにした。前世については私も話したくなかったから、寧ろほっとした。
ーしかし、私はこの時、ギラに聞かなかったことを一生後悔することになる。
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