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1章 最後の日6

遅くなりましたが、更新します。


アレク目線です。

ミアのやろうとしていることが分からない。


待っているだけなのがもどかしい。私にできることはないのだろうか。私は、こんなにも頭を回転させたことはないのではないかというくらい必死で考えた。


愛する人を眺める。血だらけなのは服だけでなく、レギイラ侯爵を掴んでいる左腕もだった。剣で切られたような傷だ。


しかし、ミアは身体を気にすることはなく、侯爵と会話を始める。



「ふふっ。お久しぶりですね。…レギイラ侯爵様?」


「……は、はははっ!!無能という噂は嘘であったか!」



私は、ミアのやろうとしていることを判断するため、2人の様子に注視する。


会話の内容は、私が話していた内容と何ら変わりはない。会話の内容に意味があるとは思えなかった。



(会話する意味……侯爵を探っている?いや、会話の内容は私が問うた内容と同じだ。…ミアは私に待てと言った。何かする気というのは分かる。……もしかして、時間稼ぎか?)



もし、私の知らない魔法なら予測なんてできるはずがない。兄であるライルもミアの魔法には驚くと言っていたのだから。



「………っ。」



ミアが言葉につまる。よく見れば顔には血を拭ったような跡がある。もしかして、話すのも苦しい状態なのではないだろうか。それでも彼女は侯爵を煽っている。



(…やはり時間稼ぎか。)



私はミアが時間稼ぎをしていると確信し、ミアの代わりにレギイラ侯爵を問い詰めた。苦しそうな彼女のため、ほんの少しでも助けになればと。



「ライルのことも貴様の仕業なのだろう!!」


「殿下、言いがかりはやめていただきたい。私がやったという証拠はあるのかね?ないだろう?……なら、いかに王太子といえども、私の名誉を傷付けたことに責任をとってもらわなければ。」


「責任?責任を取るのは貴様の方だ!言い逃れをするたびに罪が重くなることを心得よ。」



ちらとミアの様子を伺う。


私の判断は正しかったようで、ミアは目が合った時に僅かに微笑んでくれた。初めて言葉にせずとも意思疎通が出来たのではないだろうか。



(こんな時でなければ、彼女を抱きしめていたかもしれない。)



本当は、ミアがやろうとしていることを今すぐやめさせて、治療を受けさせたい。でも、私はミアの想いを優先せると決めた。私の想いはその後だ。もう間違えたくはない。


彼女の覚悟を踏みにじるようなことは、手紙でさえも伝えないと決めていた。



(それに…もう、ライルはいないのだ。彼女にも…私にも………。)


「……ライルは…もう……………」



声に出して事実を言おうとすると、唇が震えて続かない。言葉は詰まるのに、涙は遠慮なく流れていこうとする。

私はこんなにも弱かっただろうか。堂々と、侯爵を見据えることが出来ない。



「殿下、ご安心ください。お兄様は死にませんよ。………私が、お兄様を死なせるわけないでしょう?」


「!!……それは……本当か!?本当に…」


「本当ですよ。もう傷一つ残っていません。……私の命を捧げたのですから。」


「傷一つも……?いやそれよりも、命を…!?どういうことだ!?もしかしてその傷と何か関係があるのか!?」



聞き流せないことを自分から言ったくせにミアは答えない。時間稼ぎをする必要がなくなったのだろうか。


ミアは侯爵の頭を掴んだ。ミアも侯爵も何も話さなくなる。


彼女の真剣な目を見た。私の声は一切届かなくなってしまったようだ。

何も分からないが、ミアは侯爵に対し、魔法を行使しているのだろう。


代わりにミアに付いている騎士が答えてくれた。



「ミリアリア様は、魔法でライル様を治されました。傷一つ残っていないことは私も確認済みです。しかし……」


「しかしなんだ!?」


「……魔法を行使する際、ポーションを23本飲まれました。ミリアリア様は………助からないでしょう。ご自身でそう仰られました。」


「は…?………23…本……?」


「…はい。もしかすると、その前にも飲まれているかもしれません。あの服の血は全てミリアリア様の血なのです。」



ポーションは1日2本まで。それは皆が知っている常識だ。そして、3本飲んだだけでも身体への負荷は計り知れない。


私は膨大な魔力があるため、ポーションを飲んだことはないが、()()()()()()()()()。8本飲ませた時は身体が、身体たる形を保てなくて崩れた。気付いた時には足下に人間だった何かの赤い塊が残っていた。それを私は目の前で見た。そんな光景を忘れるはずがない。


私はミアを見ながら、身体が崩れた罪人を思い出したくもないが思い出す。最初は目や鼻や口から血を流していた。


…今のミアのように。

魔法を行使しながら、次々にミアから血が流れていく。



「ミア!もうやめてく……」


(ここでミアを止めてどうするというのだろうか。ミアの崩壊を止める術を私は知らないのに…!!でも、何もしないなんて…せめて……せめて……何か抗う術を何か……)


考えて考えて考えて……でも、何を…?



私は無力だった。今余計なことをすれば、ミアの魔法を邪魔してしまうだろう。

私は、自分が不甲斐なさすぎて、握り過ぎた拳から血が流れていく。私の声は相変わらずミアに届かない。しかし、代わりにミアの声は私に届いた。



「…殿下!……セジル様!……い、今から…言うことが、事実です。……すぐに再調査を……はっ…は……お願い。」


「……っ!」



話せていない。滑舌が回らないほど、崩壊が進んでいるという証拠だった。ミアからブチブチと音が鳴る。


あぁ…聞きたくない……お願いだから!!



「ミア!身体が崩れているんだ!……お願いだから!自分を!犠牲にするようなことはやめてくれ。もう……くっ……自分を…!…大切にしてくれ……!」



悲痛な叫びが漏れる。もう頑張らなくていいと言いかけた。しかし、それを言葉にできるほど私は落ちぶれていない。頑張らせているのは、無茶をさせているのは、私なのだ。この業を私は受け継がなければならない。



「テロ。使った魔道具を集めたのは……」



ミアは私の叫びを無視して話し出す。身体を治したとしても一時的なもので…また崩壊を始める。


ブチブチブチと音が加速する。


やめてくれ…やめてくれ……



「お兄様は、王宮のフットマンが攻撃。そのフットマンの始末を任されているのは侯爵のメイド。名前はティナ。」


「……なぜそのようなことを……知って……」



後ろから、セジルから…声がする。


考えないようにしていても、ミアの心配をしていても、王太子として育った私は、勝手に頭が働いてしまう。


どう魔法を行使すれば、そんなことができるのか分からないが、ミアは…侯爵の記憶を読み、過去の悪事も含めて私に伝えている。この記憶があれば侯爵の証拠を見つけることも裁くことも出来ると…


私にはこの記憶が必要なのだと。

そのためにミアは残りの時間を使おうとしていると。



「レギイラ侯爵を拘束する。騎士を呼べ!!彼女の命を…無駄にするな!!」


「はっ!!」



ミアは悪事を話し続ける。

これが…ミアの最後の叫びになるのだろうか。



いやだ……もういやだ……



反抗した侯爵のせいでミアの腕が千切れた。

私は彼女の身体を支える。


彼女に触れたところが、グジュリと音を立てた。触れたところが陥没していく。



「あ…あぁ……そんな………」



彼女を抱きしめたい。けれど、彼女は抱きしめられるだけで死んでしまう。


彼女の瞳は真っ赤に染まっている。

もう、見えないんだ。その瞳に、私が映ることはない。



「……化け物…」


「ふふっ……聞き、飽きたわ。」



こんな状態でも、彼女は、レギイラ侯爵に対して気高く美しく笑う。



「もういいミア!!喋るな!!……レギイラ侯爵を軟禁しろ!!今回の件の重要参考人になるはずだ!!誰にも会わせるな!!」


「「「はっ!」」」


「回復魔法が使える者を連れて来い!!絶対に彼女を死なせるな!!絶対に諦めるな!!」


「医師が控えております!医務室へ!!」


(無駄じゃない。無駄なんかじゃない。ミアを助けるんだ!!他のことは考えるな!!)



口の中にしょっぱい水が入ってくる。赤い塊が脳裏にチラつく。……考えるな!!



「でん、か。やめて……。」


「だから!もう喋るなと!!」


「私の命を……無駄に、しないで……」



彼女のひび割れた頬に私の涙が入り込む。

嗚咽が出るまで、私は泣いている。

ポーションを飲んだ結末を、私は知っている。


震える唇でミアは最期に言った。



「あぁ……今度こそ…………終わり……ね。」


「ミア!ミア!!あぁ…そんな……目を開けてくれ!!ミア!!!」



彼女は、腕の中でゆっくり瞳を閉じた。

綺麗に笑って動かない。


彼女の血が、私の服にゆっくりと染み込んでいく。ゆっくりと…しかし着実に私の服を染め上げていった。


なんて美しく笑うのだろう。これで本当に満足したのだろうか。



ライル…家族は?


街で仲良くしていた子どもたちは?


フェレスを待っている冒険者たちは?


大好きだと言ったこの国は?


私をおいていってしまったのか?


本当に?満足なのか?



ーこんな終わり方で?



私は自問自答する。



こんな終わり方でいいわけないだろうが!



何も伝えきれてないし、まだまだミアのことを知らない。

まだ何も始まってすらいない。

終わりにするわけにはいかない。


まだ、彼女の身体は腕の中にあり、崩れきっていない。


まだ!死ぬまで時間がある。


私はミアの身体が崩れないように医務室へ急いだ。



ブチッブチブチブチ!!


「っ!………くそっ!!」



細心の注意を払っても、途中で、ミアの右脚が千切れ落ちる。


そんなことをしても無駄だと無情に語りかけられた気がした。しかし、彼女の身体が無くなってしまうその時まで諦めない。



「彼女に回復魔法をかけ続けろ!!絶対に諦めるな!!これは命令だ!!」


「「「はっはい!!」」」



私は医務室に集まっている宮廷魔法士や魔法騎士団に命令する。そして、セジルの下に戻り、レギイラ侯爵の証拠を掴むために動き出した。


彼女のくれた機会。絶対に無駄にするわけにはいかない。


ミアが…ミリアリアが…起きた時に笑えるように。



私は、神に誓った。


読んでいただきありがとうございます。


皆様にブックマーク&評価していただいているお陰で頑張れてます。

アクセス数もかなり増えてきました。本当に嬉しいです。


次回は水曜日に更新します。

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