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1章 最後の日4

更新日は水・金・日です。


今回長くなりました。

「んがっ……く、そ………」


レギイラ侯爵が抵抗する。

話そうとしても、私が口を押さえつけているせいで上手く話せていない。


私は、私の血が浸透する時間を稼ぐために、口元から手を離し、代わりにレギイラ侯爵の服の襟を掴んだ。


この状況、レギイラ侯爵は私に、せめて一言言わないと気が済まないはずだ。そうして、ずるずると時間を引き伸ばせばいい。


レギイラ侯爵は口に入ってしまった私の血をペッと床に吐いた。吐いたとしても大量の血が侯爵の中に入ったはずだ。



「はっ…はっ………き、貴様!!私を誰と心得てい…!!」


「ふふっ。お久しぶりですね。…レギイラ侯爵様?」


(まずは煽って、時間稼ぎをしなければ……)



私は、「勿論、知っていますよ。」と舐めた口ぶりで、語尾のトーンを上げた。思った通り、レギイラ侯爵は、額に血管を浮き出すほどに頭にきているようだ。しかし、彼は宰相。感情のコントロールは得意なのだろう。すぐさま状況を判断するために深呼吸をした。


殿下は、私の様子を見守ってくれている。



「久し…?………その銀髪に菫色の瞳…まさか、ライルの!?……それに、先ほど殿下はミアと……は、はははっ!!無能という噂は嘘であったか!」


(流石、レギイラ侯爵…頭の回転が早いわね。)



もう少し煽って、時間稼ぎをするつもりだったが、冷静に正確に状況を判断されてしまう。私はとりあえず会話を長引かせるように話しかけた。



「……さて、単刀直入に。レギイラ侯爵、貴方が無差別殺人(テロ)の首謀者なのでしょう?」


「先ほど、殿下にも問われたがな。証拠など何もないだろう。…私ではないからな。それより、襟を放してくれるかな。レノヴァティオ公爵家に脅されたと、私は罰することもできるのだがな。」


「いいえ。この手を離すことは出来かねますわ。罰なんて怖くありませんもの。」


「やれやれ。その傲慢さ。私には分かりかねるな。」


(こっちのセリフだわ。)



侯爵は私を見下すように言った。「どうせ、お前達にはもう何もできることはない。」と遠回しに言っている。嘘を貫き通せば罪に問われることはないと確信しているのだろう。滑稽で笑いそうになってしまう。記憶を読み取れば、どこをどう探せば証拠を掴めるかなんて簡単に分かるはずだからだ。


血の浸透まであと少し、集中力が上がっている今はいつもより魔力を効率よく速く扱える。それでも、今までで1番遅く感じてしまうのは時間に追われているからだろう。


(まだなの…?……私の身体の崩壊までに間に合うかしら…?)


平静を保って話すのもキツくなってきた。

私の状況を理解したのかは分からないが、殿下が代わりにレギイラ侯爵に問う。



「ライルのことも貴様の仕業なのだろう!!」


「ライルか…聞こえてきた限りでは、とてもじゃないが助からないと聞いた。本当に惜しい人材を逃したものだ。私が責任を持って犯人を見つけるつもりだ。」


「よくも……そのようなことを平然と……!!」


「殿下、言いがかりはやめていただきたい。私がやったという証拠はあるのかね?ないだろう?……なら……」



殿下とレギイラ侯爵がまた言い争う。

侯爵は徹底して言い逃れするつもりのようだ。話が平行線を辿って進まない。しかし、私にとってはいい時間稼ぎになっている。


私の身体は血だらけだ。それでも、殿下は私の邪魔をすることなく辛抱強く様子を見守ってくれている。そして、欲しいところで助け舟をくれる。医師達は私の邪魔をしようとしたが、殿下は私を見ても耐えてくれているようだ。


(……殿下がいてくれて助かった。これで、情報の引き継ぎもしなくて済むわ。)


あと少し……お兄様のことを聞いて苦しそうな表情をする殿下を救うため、レギイラ侯爵の鼻を明かすため、私は2人の言い争いに無理矢理爆弾を落とした。



「殿下、ご安心ください。お兄様は死にませんよ。………私が、お兄様を死なせるわけないでしょう?」


「!!……それは……本当か!?」

「……何を言っている?……脇腹がえぐれ、腕がないのだろう?助かるわけが……」


「本当ですよ。もう傷一つ残っていません。……私の命を捧げたのですから。」


「どういうことだ!?」



命と聞いて動揺する殿下。何か言っているが、時間がないのでオズルトに説明を任せた。


もう、血は浸透した。

私はすぐさま、つかんでいた襟を放し、レギイラ侯爵の頭を押さえつける。抵抗されるが、残る力で必死に抑え込んだ。



「……っ!!」

(記憶……10年以上前に遡るのは……頭が割れ、る。)



頭が割れそうなのはレギイラ侯爵も同じ。

私は耐えてレギイラ侯爵の悪行を探す。記憶が頭の中で滑っていく。走馬灯のように勢いよく時間が流れる。私は惜しみなく魔力を使い、身体の影響なんて考えなかった。どうせ私は死ぬ。


私は、ほんの数分で記憶を読み取った。丁寧さよりも速さ重視で強引だったからレギイラ侯爵も私も無事ではない。



「…殿下!……セジル様!……い、今から…言うことが、事実です。……すぐに再調査を……はっ…は……お願い。」



上手く話せなくなっていた。崩壊が一気に進む。

私は、残っている魔力で、せめて会話が出来るように修復する。私は意識を失わない程度に魔力を使い切った。これで魔力の操作は終わりだ。あとは伝えるだけ。


もう身体は修復できない。……目が見えない。……血の味でいっぱいだったはずなのに今は何の味もしない。耳は…まだ聞こえる。心配する殿下の声が届くのだから。


私は、話せるうちに必死で言葉を紡ぐ。



「テロ。使った魔道具を集めたのはイーラ商会。…仲介人は黒髪の痩せた男。今はアキリ村の小さな宿に滞在しています。」


「っぁ!?」



レギイラ侯爵から焦った驚きの声が聞こえる。思ったよりレギイラ侯爵の回復が早い。邪魔されれば終わり。抵抗する力が戻るまでに伝え切らなければならない。しかし、おかげで、私の言った言葉は真実だと受け取ってもらえただろう。


目が見えないのが惜しい。お兄様を殺そうとした男の、絶望した表情を見ることはもう叶わないのだから。



「お兄様は、王宮のフットマンが攻撃。そのフットマンの始末を任されているのは侯爵のメイド。名前はティナ。」


「……なぜそのようなことを……知って……」



誰かが何かを言っているが、相手をしている時間はない。伝えなければ……レギイラ侯爵を裁くことが出来ない。裁くことに意味があるとお兄様は言っていた。裁けないのなら、私はレギイラ侯爵を殺害し、罪と一緒に死ぬ方がずっと楽だったはずだ。苦しい方を選択したのならば、やり遂げなければ意味がない。


紙に何かを書いている音がする。きっとセジル様だろう。私は安心して、話を続けた。



「侯爵の裏帳簿は、領地にある侯爵邸の自室の机の3段目、引き出しの下の板を剥がせばあります。」


「やめ……ろ……」


「16年前、外交官のキーリアス伯爵を王都の侯爵邸の地下室で殺害。その罪を、殿下の教育係になるはずだったレシル子爵になすりつけて殺害。裏帳簿に不当な金銭の証拠があります。」


「11年前、ジキール伯爵を毒殺。毒は、イーラ商会から取り寄せたセザの葉。」


「10年前、……方法は…………」


「……………」


「……」


「…」



「…私に分かったのは、以上です。」


私は読み取れた悪行を、舌が回るうちに、レギイラ侯爵に邪魔されないうちに話しきった。これだけ伝えれば、どこかで証拠を掴むことができるはずだ。これで、私の役目は終わり。王都を守り、お兄様を助けた。たくさんの命を救うことができた。もう、いつ死んでも構わない。


レギイラ侯爵の手が伸びてくる気配がする。動けるほどに回復したようだ。もう遅いけれど。



「貴様……!!私の記憶を、読み取ったのか!!」



グシャ……ブチブチブチッ



レギイラ侯爵が頭を押さえつけている私の腕を掴み、振り払おうとした。グシャリと嫌な気味の悪い音が鳴る。私の腕は掴まれただけで潰れ、振り払われれば千切れるほどに崩壊していた。レギイラ侯爵の頭を掴んでいたおかげで立っていられた私だったが、もう立つことはできなかった。お兄様を修復した時よりも崩壊が進んでしまっている。



「ミア!!」

「ミリアリア様!!!」


「う、腕が……!!あ、あぁ…あ……」



堂々としていたレギイラ侯爵も、流石に自分が掴んだせいで、私の腕が千切れれば狼狽える。

私の左腕は、お兄様に血を与えるために切りつけていた。豆腐のように脆くなっていてもおかしくない。


誰かが、私の身体を支えてくれている。声からして、殿下とオズルトだろうか。いや、セジル様の声も近い。感覚がない。もう、痛み以外分からない。


崩壊はもう止められない。回復させた喉と舌も、崩壊が進む。



「お兄様を、助けるために……命を、かけたと言った、でしょう?」


「何故…そんなに平静でいられる!?腕が!千切れたのだぞ!?」


「…満足な、結果…だから、ですよ?…私は嬉しくて…仕方、ない。…ふふっ。」


「笑って…?………化け物め。」


「ふふっ……聞き、飽きたわ。」



レギイラ侯爵の捨てセリフにも言い返すことが出来て、私は満足すぎる結果を得た。本当に表情が見れないのだけが残念だ。



「もういいミア!!喋るな!!……レギイラ侯爵を軟禁しろ!!今回の件の重要参考人になるはずだ!!誰にも会わせるな!!」


「「「はっ!」」



いつの間に騎士を呼んでいたのだろうか。バタバタと足音が増えた。


レギイラ侯爵が黒幕であるという証拠はこれから掴むことになるだろうが、侯爵の口ぶりから私の話した内容が間違っていないということが分かる。軟禁するには十分な理由だった。


殿下は騎士達に急いで指示をしている。こんな私の状態を見ても、助けられると思っているのだろうか。こんなことに時間を無駄にしてはいけない。何のために私は記憶を暴いたのか。過去のことはともかく、テロやお兄様の件についての証拠は時間と共に消えてしまうかもしれない。



「でん、か。やめて……。」


「だから!もう喋るなと!!」


「私の命を……無駄に、しないで……」


「!!………っ。」



殿下の顔を見ることができない。でも、きっと泣いているのだろう。

殿下が私に話しかけている気がする。ごめんなさい。何を言っているのか、もう分からない。



(あ………静かに……なった……聞こえなくなったのね。)



遂に私の世界から音が消えた。残るは痛みと意識だけ。

思考ができるということは、まだ死んでいないのだろう。


頭がふわふわする。


(…前世で…自殺した時とは、また違うわね。)


自殺した時は、あんなに熱くて、冷たくて、苦しかったのに……




そうして、私は意識を手放した。





『私は……あの時も、幸せになって欲しいと言ったはずだ……』



頭の中で声が響く。

しかし、何て言ったのか聞き取ることができなかった。



『…ミリアリア。』



誰かが頭の中で私の名前を呼ぶ。

おかげで意識が浮上していった。この感覚には覚えがある。脳に直接話しかけるなんてことができるのは、私が知っている中で1人しかいない。

私は心の中で相手の名前を呼びかけた。



(………ギラ?)


『久しぶりに来てみれば、ぼろぼろだな。かろうじて生きている状態というところか。』


(…………。)


『………。』



もう、感覚がないはずだが、何となく身体を持ち上げられたような気がした。

ギラは私をどうするというのだろう。


私にできることは、身を任せることだけだった。

呼んでいただきありがとうございます。


ブックマーク&評価でやる気が上がるのでよろしくお願いします。

たくさんの方に評価していただけて本当に嬉しいです。


次話以降も呼んでいただけると嬉しいです。

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