1章 幼馴染と兄1
本日1話更新です。
「領地もいいが、やっぱり王都の方が俺には合ってるなぁ」
馬車から王都の景色を見てポツリと呟く。レノヴァティオ公爵領では、溜まっていた決裁を片付け、領主がいなくてもそれなりに運営していけるように体制を整えてきた。だが、どうしても次から次に問題は出てくるので定期的に領地に足を運ばなければいけない。領主はレノヴァティオ公爵なのだが、公爵は…あまり仕事が出来る方ではないので、領地のほとんどの仕事を次期公爵であるライルが担っていた。
「まずは、陛下や宰相に挨拶して…アレクにも会いに行かないとな。王太子が倒れたとは噂では聞かなかったが、状況が改善してるとも思えねぇ」
2週間前、アレクの身体は限界ギリギリだった。まだ我慢しているのか、適当な令嬢に目星をつけ始めているかのどちらかだろうとライルは考えていた。
…
「はぁ!?番を見つけた!?」
「あぁ。」
陛下と宰相に挨拶した後、ライルはアレクの執務室に足を運んでいた。目の前には、2週間前のアレクと同一人物なのかと疑ってしまうほど、生き生きしている王太子とどう対応したらいいのか困惑している側近のセジルがいた。
「お前…気がおかしくなってついに脳内彼女を作ったのか…」
アレクに問いつつもセジルに目線を向けて「どうなんだ?」と訴える。セジルは声に出さず、ゆっくり首を振った。
「ライル、幼馴染で気心が知れていると言っても、私は不敬罪で訴えることもできるんだぞ」
どうやら、頭が沸いたというわけではないらしい。
それにしても本当に番を見つけるとは…
喜ばしいことだが、調子に乗っているアレクの顔を見ると、無性に腹が立つ。
「それで?誰だったんだ!?」
「それがね…話は長くなるんだが…」
……
……
「…というわけさ。」
アレクは2週間の出来事を語ってくれた。だが、別目線でその話を先に知っていたライルは、アレクの話が進むに連れて、冷や汗が止まらなくなっていた。
(2週間前の出来事なら知っている。妹から相談を受けて、セジルだけが通るであろう場所に意識を失ったアレクを置くように指示したのは俺だ。)
領地への出立直前は、妹が怪我を治療しただけだと思っていた。アレクの素行については前から知っていたので、それで怪我をしたのだろうと予測もついていた。しかし、不在の間に、こんなことになっているとは。頭が痛くなる。ライルはとりあえず不自然にならないようにアレクに質問をする。
「それで…お前はどうしたいんだ?」
「とりあえず、彼女について知りたい。1度会いに行ったが、まだ彼女について分からないことだらけだ。本当は今すぐにでも王太子妃にして、首輪の儀式をしてしまいたいが…それでは…彼女に嫌われてしまう。私の正体についても彼女は知らないのだから。」
(いやいや、妹はお前の正体に最初から気付いているぞ…)
「それに…彼女には彼氏がいるようだ。しかも顔が整っているらしい。広場のお姉様方が言っていた。」
(…多分、それは俺のことだな。)
「なんとか私に振り向いてくれたとして、王太子妃にするには、身分が必要になる。養子にしてくれる貴族も探さないといけない。」
(いや…妹は公爵令嬢だから身分は十分すぎる。)
しかし、公爵令嬢が平民と同じように暮らしているなんて言えるわけがない。だから、世話を焼いている知り合いの男性のフリをして妹に会いに行っていた。兄妹だが、ライルは変装をしているわけではないので誰も兄妹だとは思わない。妹といる時はよく恋人同士と間違われていた。
「彼女はとても知的で、王太子妃としての素質も十分あると思う。反対は多いと思うが、なんとかならなくもないと思うんだ。」
(こいつ頭の中がお花畑になってやがる。本当に妹が平民ならそんなに上手くいくはずがねぇだろ。)
セジルに再度目線を向ける。困惑している理由は、アレクの番が平民ということだろう。たとえ貴族の養子にしたとしても、王太子妃が平民出身だと周りの貴族が黙ってはいない。だが、セジルには悪いが、アレクの番であれば、王太子妃にする・しないに関わらず、接触は必要だ。現時点ではアレク相手に王太子妃がどうのこうの言うつもりはなかった。セジルは不満そうだが、現実、問題はそこじゃない。
「はいはい。お前の頭の中がお花畑になっていることは分かった。番のことは置いといて、身体の調子はどうなんだ?」
「お花畑…。お前酷いな。身体の調子は何故かとても良いよ。彼女に治療してもらった時に何故か良くなったんだが一時的なものみたいだ。また少しずつ悪くなって来ているよ。」
「一時的なもの?彼女に何をしたか聞いたのか?」
「いや、聞いてない。まずは少しずつ距離を詰めていきたいと思っている。…彼女にはなんだか秘密があるような気がしてならないんだ。」
(秘密だらけだぞ…。)
妹は昔から異常なほど努力家だった。勉強にしたって魔法にしたって何でも追求していた。…何かに追われるように。今の平民の暮らしも色々な理由をつけて父を丸めこんでいたが、おそらく俺の知らない理由が他にあるはずだ。俺としては、公爵令嬢として戻って来て欲しい。妹がアレクの番というならば、王太子妃になってくれたら嬉しいと思う。だが、妹の覚悟も相当なものだ。今は街中で一人暮らしをしているが、今の部屋の契約はあと半年。おそらく半年後、妹は王都を、いや、国を出て行くつもりなんだろう。家族を大事にしているし、この国のためによく働いてくれているが…。本人は何も言わないが、何かが妹を追い詰めているようだった。
(とにかく妹の様子も見てくるか…っとその前に…)
「距離を詰めるとは言っても、お前忙しいだろ…いつ会いに行くんだ?王城には呼べないだろ?」
相手が貴族令嬢なら王城に呼んで、業務の合間に交流することも出来るが、妹は(一応)平民だ。王城に呼ぶことはできないし、アレクも王太子ということは伝えていない。
「私の業務はだいたい青の日にキリがいい。1日の業務量を増やして、なんとか青の日に会いに行けるようにしようと思っているよ。」
「分かった。それじゃあ青の日にお前が休めるように俺も調整してみるわ。」
「あぁ。ライル、助かるよ。」
アレクが青の日に妹に会いに行くならば、それ以外の日に会いにいけばアレクと鉢合わせることはないはずだ。アレクは王太子だ。本来はアレクを優先すべきなのだろう。彼女が俺の妹で、公爵令嬢であることを教えてあげるべきだということは分かっている。けれど、妹が今までどれだけ努力をしたのか、どれだけ悩んで今の生活を決断したのかを俺は知っている。アレクも今まで相当苦しんできたことは分かっているが、簡単に教えてあげようとは思えなかった。
(とりあえず状況整理だな。)
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