1章 ライルとミアの本当の関係
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アレク目線です。
フェレスが王都を去って数日が経った。
フェレスの見送りには大勢の人が集まり、ちょっとしたイベントのようだった。最後の最後までフェレスを囲い込もうとする貴族が後を絶たなかったが、警備レベルを上げ、睨みをきかせた。それでもしつこい者には裏から手を回した。
流石に気付いてしまった。
フェレスがミアだということに。
ミアの忙しさや上がってくる報告、そして近衛騎士団を圧倒する戦闘力。これで気付かない方がおかしい。ライルも肯定した。今までのフェレスの活動もライルの指示だったのかと思ったが、そういうわけではなく、彼も最近知った事実だったそうだ。
「フェレスの名声は数年前から聞くが、ライルも気付かなかったなんて意外だな。」
「ミアだとは思っていたが、確信が持てなかった。ミアだと説明できないことがあったんだよ…」
今日は、1年に4回ある「王国法審議会」の1番重要な4回目が開催される日だった。予定ではもう少し早い時期に開催されるが、フェレスの登場で人口が増え、王都全体が忙しくなった。その影響で「王国法審議会」の開催の時期が遅くなってしまった。もう対外的にはフェレスは王都を出たことになったので、落ち着いてくるだろうということで、今日開催される。1、2、3回目なら延期されずに開催されていただろうが、4回目は参加する貴族も多いし、時間もかかる。
王国法審議会では、ギルドと商人組合で行った制度を国全体で行えるように提案するつもりだった。今はまだ王都でしか導入していないが、制度の導入を国が管理し、法律として施行されれば、安全を確保した上で不正な取引をグッと減らせることが出来るだろう。
今は、「王国法審議会」が始まる前に、提案内容を詰めるため、執務室にライルがやってきていた。セジルには別の用事を頼んでいるので、今はライルと2人しかいない。
「…説明できないこと…もしかして移動距離か?」
「あぁ、よく分かったな。どうやって国から国に移動してたのか…ちなみに今も分からねぇ。」
「ミアが王宮を抜けてライルに会いに行った時に、速すぎると思ったんだ。報告を受けたライルも分からないのか…」
「あー…その時の移動手段は知っている。ただ、フェレスとして活動していた時の手段とは違うようだ。」
「その移動手段について、私は聞いていいのか?」
「んー……俺の口からは何とも…ただ、もう今更だし、聞けば教えてくれるんじゃないか?文通してるんだろ?」
ライルは執務室の机を指差して言った。机の引き出しには、ミアからの手紙が入っている。
「そうだな。最近はミア自身のことも書いてくれるようになった。最初、共通の話題といえば…ライル、お前のことしかないから、ライルを含めた幼少期のことを書いたんだが…ミアは興味を持ったようだ。おかげで文通相手に昇格した。」
「…恥ずかしいことを書いてないだろうな?」
「ライルについては悪いことは書いてない。あの頃はライルが私の見本だった。こんな生意気な補佐官だが、感謝してるんだ。ライルがいなければ私は愚か者になっていただろうな。」
「……それを恥ずかしいというんだよ。」
ライルは照れているようで目線を逸らし、頭を掻いた。いつも偉そうなライルが照れているのは珍しい。私はもう少しいじめてやりたくなった。いつものお返しだ。
「手紙には、ライルは兄のようだと書いたんだ。尊敬する兄だとね。」
「なっ!お前、そんなことを!やめろよ!恥ずかしい!!あー身体が痒くなってきた。」
「はははっ!」
ライルは全身をさすり始めた。私の目で確認できるくらいに鳥肌が立っている。ライルの意外な弱点を発見してしまったようだ。今後も積極的にライルを褒めていこう。
「おかげでミアのことを知れたよ。ライルは知っているかもしれないが、ミアには兄がいるんだな。」
「え……今なんて言った!?」
「ん?ミアに兄がいると言ったが……知らなかったのか?」
「いや………知っているが……本当に、本当にミアが言ったのか?自分から?」
「あ、あぁ…」
そんなに驚くことなのだろうか。ライルは黙って喋らなくなった。口元に手を当て、眉間に皺が寄っているので、真剣に何かを考えていることが分かる。先ほどまで照れていた男だとは思えない。
「ライ……」
「アレク。…俺は確信的なことは言えない。だが、勝手に想像するのは自由だ。」
ライルに声をかけようとした矢先、ライルから声をかけられた。彼が何を言おうとしているのか分からない。ただ、話の流れからするにミアについて重要なことなのだろう。私はゆっくり頷いて続きを促した。
「お前に倣って、俺の幼少期のことを話してやろう。」
「あ、あぁ…」
「幼少期、俺はお前に色々なことを教えた。あの時の俺は、お前の先生にでもなったつもりだったな。まさか兄とは思わなかったが………俺も、最初からそうだったわけじゃない。俺もお前と同じで、何もしなくても周りが褒めてくれるし、努力なんてしたことがなかった。」
「ん?ライルは幼少期から努力家だと言われていたと記憶しているが、違うのか?」
「あの父親だぞ?優しいばかりで、優秀な教育係がついていたわけじゃない。本当にアレク、お前と同じ状況だったんだよ。」
確か、ライルは天才児と言われていた。天才な上に努力家。今も昔も変わらず、そういう評価を受けている。だから、父上が私にライルを紹介して、今の関係が出来ている。でも、確かにライルの父親のレノヴァティオ公爵は、ライルの父親とは思えないほど、……その、のんびりしている。
「…ということは、私と出会うまでに、ライルが変わるきっかけがあったということか?」
「そうだ。…兄になったんだよ。妹が出来た。外見が俺にそっくりの妹がな。」
ライルの口から初めてまともに妹の話を聞いた気がする。随分と昔、ライルは妹と仲が悪いから妹の話はしないでくれと言った。その時期からライルの妹の噂が流れ始め、醜いだとか性格が悪いだとか聞いた。子どもながらに、そんな妹を持って可哀想だと思ったのを覚えている。
しかし、今ライルは、妹と外見がそっくりだと言った。
「……もしかして、妹の噂は嘘なのか?外見がお前に似ていたら醜いわけがないだろう。」
「ははっ、妹と喧嘩したことは今までに一度もないな。」
「噂の全てが嘘なのか……喧嘩したことがないって、寧ろ、相当仲がいいじゃないか。」
「まぁな。それで話を戻すが…妹は天才だった。それに、引くほど努力家だ。まだまだ幼いのに文字を覚えようとするし、国政について知りたがった。ここで俺は幼いながらに考えたんだよ。可愛い妹に兄としての威厳を見せたい。負けられないってな。それからはお前の知っている通りだな。」
「可愛い妹って……ライル、お前自分の顔を鏡で見た方がいいぞ。……緩んでる。」
呆れた。まさかライルがシスコンだったとは。本人はいつも通り話しているつもりなのかも知れないが、妹の話をする時は表情が柔らかい。話を聞かなくても妹を大事にしていることがよく分かる。
「まぁ、言いたいことはそれだけだ。っと、そろそろ時間だな。俺は先に行く。セジルが戻ってき次第、お前も来いよ。」
「え…あ、あぁ………」
ライルは何が言いたかったのだろうか。結局、妹の話をして王国法審議会に行ってしまった。そして入れ替わるようにセジルが戻ってきた。
「勝手に想像するのは自由、か……」
「何ですかそれは……。」
「いや、何でもない。セジル、ライルの妹の名前を覚えているか?」
「妹、ですか……確か、ミリアリアという名前だったはずです。」
「ミリアリア……。そうだ、ミリアリアという名前だった。」
ライルがあのタイミングで話すということは、ミアに関係があるということだ。ミア……そういえば、ミリアリアと名前が似ている……
「え……。」
私は、思わず椅子から立ち上がったが、両手は机についてさらに考える。
似ているというより、まるで、ミリアリアからもじった名前がミアのようだ。
私の名前をもじって、アシルと名乗ったように。
ミアには兄がいる。
ライルには妹がいる。
2人は恋人のように仲が良く見えた。体調を気にするライル。目で会話する2人。
恋人じゃない唯一無二の存在って家族のことなんじゃないか?
髪色なんて魔法でいくらでも変えられる。
ライルは顔も綺麗だが、銀髪が目立つ。
しかし、言われてみれば…ライルとミアの顔立ちは似ている。
2人とも切長の、綺麗な目をしている。
…父上はミアを王太子妃にすることに賛成してくれた。少しの迷いもなく賛同してくれた。
占い師を紹介してくれる等、ミアを王太子妃にするために手伝ってくれさえする。
いくら能力が高くとも、平民であれば、少しは抵抗があるものじゃないか?
「……んか………」
父上は随分と昔からミアと交流があったように言っていた。
勝手な想像だが、導き出された答えは、今までの疑問を全て裏付けしていった。
「殿下!!大丈夫ですか!?」
気付けば、セジルが下を向いていた私を覗き込んでいた。いつから呼んでいたのだろうか。全く気付かなかった。
「あぁ…大丈夫だ。そろそろ私達も行こう。王太子が遅れるわけにはいかない。」
「それは…そうですが……体調が悪いようでしたら……」
「いや、体調はいい。寧ろ、今までもやもやしていた霧が晴れたようにスッキリしている。……行こう。」
私はセジルと共に、王国法審議会へ向かった。
ーミアが、レノヴァティオ公爵令嬢。
1つの真実に、やっと辿り着いた。
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