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1章 フェレスと侯爵令嬢の約束

誤字脱字報告ありがとうございます。助かってます。


更新が遅くなりすみませんでした。

更新日は水・金・日です。

フェレスとしての活動もあと少し。

今日も私はギルドに来ていた。


「よう!フェレス!もうこのままここにいろよ!」


「いや、契約期間が来たら出ていく。」


ギルドでの顔見知りも増えた。いつも誰かが声をかけてきて、二言目には勝負する流れになるのが定番になってきた。


「俺、ちょっと鍛錬を変えたんだ!相手してくれよ!!」


(ほらね…)


「はぁ、相手するよ。その前に何か連絡が入っていないか聞いてくる。待ってろ。」


私はギルド職員に話を聞きに行くが、ギルドマスターが待っているということで奥の部屋に通された。


ギルドマスターの目の前に沢山の手紙や書類がおいてある。ミアの時はハーバーさんと呼んでいるが、フェレスの時はギルドマスターと呼んでいた。必要以上に仲良くなると困るからだ。


「ギルドマスター、用があると聞いたがどうした?」


「あ、あぁ…フェレスか。」


「……。」


「……。」


自分から呼んだくせに、煮え切らない返事をする。この時期に私に言い辛いこと。1つしかない。


「はぁ…。私は考えを変えるつもりはない。期限は今週までだ。」


「え、えぇ…まだ何も言ってないのに…そんなに分かりやすかったか。どうしても無理か?」


「無理だ。」


「頼む!!報酬は用意するから!!」


「駄目だ。」


ギルドマスターはどうしてもと土下座までした。椅子から立ち上がり近付いてきた時は焦ったが、私の前で急に姿を消したかと思えば、足元で土下座をしていた。王都のギルドマスターなら、他の街のギルドマスターよりも立場は上だろうに、ハーバーさんにはプライドがないのだろうか。それとも、そこまでして私に残ってほしいということなのだろうか。


しかし、何をされても私は意思を曲げるつもりはない。


「くどい。」


「…取りつく島もなしかよ…」


私はギルドマスターの提案をはっきりと断り、今週で王都を出て行くと伝えた。ギルドマスターの机にある書類は、私に王都に留まってほしいという懇願書らしい。あちこちから届いているということは、私は皆の役に立てたということだ。


その後、残りの日数で何を優先すべきかをギルドマスターと話し合っていた。しかし、途中でギルド職員が部屋に入ってきて話を中断する。


「申し訳ございません。フェレスさん指名で依頼が来ました。いかがいたしましょうか。」


「フェレス指名?内容は?」


「それが、1日相手をしてほしいと…依頼金額が…その……100ペグーだと…」


「100ペグー!?」


日本円にすると1億円。そんな大金を提示するということは、依頼人は貴族だろう。元々、フェレス指名の依頼は受けないことになっている。そうしなければ、依頼が殺到して処理しきれないからだ、しかし、どうしてもフェレスにという時はギルドマスターの判断に任せていた。


「残り日数が少ない中、フェレスの1日を拘束されるのは厳しいが、100ペグーか…ギルドに入る手数料も大きい。…フェレス、お前はどうする?」


「…受けよう。」


依頼を受けるか悩んだが、申し込んできたのが若い女性と聞いて私は受けることにした。


ギルドマスターとの話を終え、ギルドの受付に戻る。依頼人の女性は私を見るなり、何も言わず、私の手を引いて外に飛び出してしまった。私はかろうじで、鍛錬の相手をする約束をした冒険者に「また明日」と伝えることができた。



「貴女がフェレスね?とりあえず、誰もいない2人きりになれる静かなところに行きたいわ!連れて行ってくれる?」


「あ、あぁ。……少し遠いがいいだろうか。」


「ここから遠いところがいいわ!!」


依頼人の名前を聞くより先に、私は依頼人を抱きかかえて走った。

普段は空気抵抗等は考えていないが、今日は依頼人を守るために魔力で守った。私達は王都を抜け、魔獣が時々出没する川のほとりに腰を下ろした。


「ふふっ本当に速かったわ!こんなに楽しいのは初めて!」


やはり、すぐ行動に移して正解だったようだ。それにしても、ただ走っただけなのに、今までで1番楽しいと言う依頼人。彼女は顔を隠していたフードを取った。黒い艶やかな髪色に茶褐色の瞳。きっと魔法で色を変えているのだろう。そして、顔は整っているが、綺麗というよりも、可愛らしい顔立ちをしていた。


「挨拶が遅れたが、フェレスだ。貴女のことは何て呼べばいい?」


「……そうね。依頼用紙にはリズと書いたけど、本名はリーナよ。フェレスにはリーナと呼んで欲しいわ。」


私は彼女の名前を聞いて驚いた。リーナといえば、レギイラ侯爵の娘と同じ名前だからだ。私が知っている中で、他に同じ名前の貴族令嬢はいない。しかし、リーナの魔力とレギイラ侯爵の魔力の性質は親子とは思えないほどに似ていなかった。私の記憶では養子でもなかったはずだ。


「まずは、私とお話をして欲しいの。普段、こうやって気兼ねなく誰かとお話しすることができないから。」


リーナは私が質問をしなくても次々に話題を提供した。

会話をする相手に飢えていたのだろうか。しかし、おかげで間違いなく彼女はレギイラ侯爵の娘であることが分かった。言われてみれば、確かにリーナの顔立ちはレギイラ侯爵に似ているような気がする。



「……それでね。アレクシル殿下はとっても美しいお方なのよ。あの方の妻になれたらどんなに幸せだろうって!」


「…社交界では他の令嬢たちにアレクシル殿下を取られないように牽制しないといけないの。どんな手を使っても敵を排除しなさいというのがお父様の教えだから……」


「…アレクシル殿下の妻になりたいわ。でも、それが殿下の幸せなのかと言われたら分からないの。」


「…お父様の命令で、時々アレクシル殿下に会いにいくの。私は会えて嬉しいのだけど、殿下は忙しそうで私に会いたくないみたい。それがとっても悲しいの。」


「…でも、本当はお父様に嫌われる方がもっと悲しい。だから、殿下に会いに行った時は、『私に会ったことにしてください』って一言伝えて、あとは王宮の隅で時間を潰しているのよ。」


「…お父様は私にあまり関心がないみたい。たくさん勉強しても、たくさんダンスを覚えてもお父様は褒めてくださらなかった。」


リーナは涙を堪えながら一言一言を紡ぐように話す。


「…お父様は…私に王太子妃に、なってほしいみたい。…だから、私頑張るのよ。今度こそ、きっと褒めてくださるわ。」


リーナは泣きながら無理矢理笑顔を作って私に言った。明るく話す彼女だが、普段はきっと違うのだろう。


リーナの願いは叶えられることはない。たとえ、私達の計画が失敗して、レギイラ侯爵の計画が成功したとしても、アレクシル殿下は、別の女性を王太子妃にするだろう。私はリーナを慰めてあげたいと思った。しかし、無責任なことはどうしても言えなかった。


私は彼女の頭を撫でて、そのまま涙を拭ってあげる。


「リーナ。今日の私はリーナのもの。…何かしたいことはあるか?」


「……そうね。気分が晴れるような……フェレスにしかできない、凄いことがしたいわ!!」


未来に希望を持っているが、父親のせいで将来がないリーナ。きっと、父親の計画について何も知らないのだろう。しかし、こうやって私に依頼してくるということは何かを感じとっているということだ。


私は少し考えて、決断した。


「誰にも言わないと約束できるか?」


「……何か凄いことができるってことね?勿論よ!秘密にする。」


彼女は今、嘘をついていない。根拠はないが、今後も秘密を守ってくれるだろうと思った。それに、秘密をバラされたからと言って、誰かが死ぬわけでもない。



私はエルを呼んだ。



「これが……空を飛ぶ感覚………!!」


「怖くないか?」


「少し怖いわ。でも!!それ以上に楽しいわ!!!こんなことが出来るなんて!!100ペグーは安いものね!」


リーナと私はエルに跨り、空を飛んでいる。貴族令嬢なら泣き叫んでもおかしくないはずだが、リーナは平気のようだった。寧ろ、とても楽しんでくれており、興奮気味に話してくれる。彼女の涙が止まってよかった。


私達はエルと一緒に色々な景色を観に行った。人がなかなか足を踏み入れることができない山脈や、森の頂上等、リーナは全部喜んでくれた。


時間はあっという間に過ぎてしまい、リーナが帰らなければならない時間になってしまった。家族や護衛を欺いて出かけているようで、まだ空が赤くなり始めたばかりだったが、これで依頼は完了ということだ。


「フェレス、今日はありがとう。とっても楽しかったわ。」


「よかった。でも、今日のことは2人の秘密だ。」


何度も確認したが、最後の最後に念を押して秘密であると伝える。リーナは分かってくれているようだった。


「ええ、勿論よ。……それでね、最後にお願いがあるの。依頼じゃないわ。ただのお願い。」


「……お願いか……聞かせてくれるか?」


まだ、お願いを叶えると言ったわけではないが、リーナはパッと表情を明るくさせる。帰らなければいけないと落ち込んでいた彼女の表情が輝いただけで、言ってよかったと思わせるほどだった。


「……私が、逃げたいと思った時に、助けて欲しいの。……侯爵令嬢をやめて、ただのリーナになりたくなった時……」


「………。」


「そんな時はきっと来ないわ!でも……もし……もし、そう思ったら……助けてくれる?」


これからどんなことが起こるのか何となく分かっているのだろう。お兄様の話では、かなりレギイラ侯爵を追い詰めているということだった。リーナにもレギイラ侯爵の焦りが伝わっていてもおかしくない。

今までの罪を考えると、レギイラ侯爵が裁かれれば、きっと斬首刑。

そして、その家族も例外ではない。


彼女の未来は明るいものではない。


「……助けられるかは約束できない。でも、その時、私がリーナの近くにいて、助けられそうだったら助ける。……これでいいか?」


「ええ!それで十分よ!!ありがとう!!」


もう少しで王都を出ていくフェレス。それはリーナも知っている。だから、この返答は『叶えられない』と言っているのと同じことだった。それでも彼女は私に感謝をして、侯爵邸に帰っていく。


私は依頼を無事終えて、報酬を得た。この報酬で一生をのんびり過ごすことが出来るだろう。王都を出る私には有難いものだったが、嬉しいとは全く思えなかった。

読んでいただきありがとうございました。


ブックマーク&評価でやる気が上がるのでお願いします。


次話以降も読んでくれると嬉しいです。

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