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1章 手紙

誤字脱字報告ありがとうございます。本当に助かってます。


更新日は水・金・日です。

「手紙…?」


「うん。銀髪のにーちゃんが先生にって!」


カイは手紙を渡して走り去っていった。ちょうどフェレスとして活動をして部屋に戻ってきたところをカイが訪ねてきたのだ。


「お兄様が手紙を…?」


お兄様は、あまり手紙を使わない。しかも、こうやって誰かに配達を依頼することもしない。情報が証拠として残ってしまうし、ましてや誰かに手渡すなど情報を漏らしてくださいと言っているようなものだった。


「昨日、会ったばかりだし…カイに託すなら急ぎでもないわよね?」


声に出して1人確認するも、もちろん返事をする者はいない。私は恐る恐る開封した。一応、情報に気を遣っているようで、セレリィブルグの言葉ではなく、アナーナ国の言葉で書かれていた。目に入ってきた名前はアレクシル殿下。これはお兄様からではなく、殿下からということだ。今度は何なのだろうか。私は妙に緊張しつつも文字を追った。



何でもない手紙。


重要な内容が書かれているわけでもなく、恋文というわけでもない。

本当に何でもない手紙だった。



幼い頃の殿下のこと。お兄様との出会い…



『……私には兄弟がいない。誰かと切磋琢磨することもない。比べられることもない。危機感もない。教育係も周りも、皆が私の命令を聞き、何でもないことでも褒める。私にはそれが普通だった。勉強も武芸も少し頑張れば認められる。私は自分で何かを成したわけでもないのに、私は偉く、素晴らしい人間だと思い込んでいた。………』



(…今まで見てきた限り、王族の教育は二分化されるわ。どろどろに甘やかされるか、命が危うくなるほど厳しくされるか。てっきり、殿下は後者だと思っていたのだけれど、前者だったのね。)


意外だった。私の前では何かと問題のある殿下だが、周りの評価は悪くない。それに、初めて会った時の崩壊しそうなほどの身体。相当厳しい鍛錬をしなければ、耐えられるはずがないのだ。私にとって良い印象はないが、甘やかされているという印象も受けたことがなかった。



『……ライルに会った。ライルは私より年齢が2つ上なので、当時は友達というより兄のような存在だった。私はライルに、こんなことも出来ないのかとよく怒られていたよ。勉強も武芸も私はライルの足元にも及ばなかった。それに、ライルは周りに貴族がいなくなると、口調が(がら)の悪い冒険者みたいになる。私を褒めない。媚びを売らない。私にとって初めての存在だった。………』


(ふふっお兄様は最初から失礼な態度だったのね…流石だわ。)


『……ライルが私の手本で先生だった。いつも厳しい彼だが、私が間違えれば真っ向から否定してくれる大切な友人。彼がいたから今の私がいる。恥ずかしながら、世間での私の評判は悪くないものだと聞いている。それもこれも全てライルのおかげだ。………』



『……ミアには私のことを少しずつ知って欲しい。国を出た後、少しでも私のことを思い出してくれたらと思う。この手紙は読んでもらうのが目的なので返事を強要するものではないから気負わないでほしい。貴女を傷付けることはしないと誓う。……また手紙を書くよ。』



『好き』、『愛している』、『国を出ていくな』そんな言葉は見つからなかった。私が言われたら困る言葉はどこにもなかった。それにお兄様との思い出。


私も、同じ思い出を大切に心のうちに持っている。


「兄が私を1人にしないでくれた。私も、兄がお手本だったわ……」


幼い頃、といっても前世での記憶があったから精神年齢は幼くなかったけれど、学びたい・本を読みたいという私のために、お兄様は沢山の本を用意してくれた。また、私が質問をしてもお兄様は答えてくれたし、調べてくれた。お兄様が私の先生だった。


「…懐かしいわね………殿下も、同じだったのね……」


昔のことを思い出したのか、家族が恋しい。……鼻の奥がツンとする。涙は我慢した。


私はもう一度手紙を読み直す。返事は強要しないと書いてあったが、強要しないだけで、返事は欲しいというのが本音というところだろう。私は殿下の想いに応えることはできない。でも、思い出に浸るくらいは許されるだろうか。


私は、文通相手としては相応しくない文字数で返事を書いた。



『手紙ありがとうございます。思い出話、もっと教えていただけませんか。』



手紙は公爵家のお兄様の机の上に置いた。

思った通り、手紙は殿下へ渡ったようで、数日後、またカイから手紙を受け取った。そうやって、殿下と手紙のやりとりをするようになった。


フェレスとして過ごす中で、殿下の手紙は大切な家族の思い出を想起させた。


「やっぱり家族と一緒にいたい。」


なぜ私は呪われているのだろう。前世も今世も何度そう思ったのだろうか。

呪いを解く手がかりは見つからない。


いや、もうこの呪いに抗うことをやめてしまったのだから。


前世で抗うことに疲れ果ててしまったから、私はこの世界にいる。



『……一度、ライルに頭を撫でてもらったことがある。ライルは、しまった!というような顔をしていたが、幼い頃の私はそれがとても嬉しかった。今では勘弁だが。もし頭を撫でられたら、何事かと鳥肌が立ってしまうだろう。………』



(お兄様は私の頭を今でもよく撫でてくれるわ。ふふっきっと私への態度と間違えてしまったのね。…国を出たら、撫でてもらうことはなくなるのでしょう。)


殿下の手紙を読んで、私は1人でも笑うようになっていた。しかし、寂しいと思うことも増えた。


感情がぐらぐらと揺れる。




フェレスとしての活動もあと少しで終わりだった。つまり、国を出るまでのタイムリミットも近付いてきたということだ。予定としては、フェレスの契約が終わった後、ミアとしてしばらく過ごして、時期を見て出発する。


王都はフェレスが来る前に比べてかなり活気が良くなった。経済が回り、子どもたちの笑顔も増えた。レギイラ侯爵が何か仕掛けてくるんじゃないかと構えていたが、毒を盛られてからの2ヶ月は静かなものだった。嵐の前の静けさとも言えるので油断は禁物だが。


殿下との手紙は相変わらずだ。

でも、先ほど受け取ったばかりの手紙にはいつもと違う内容が書かれていた。



『……ミアの大切な者の話が聞きたい。ミアの話を聞かせてくれないだろうか。』



殿下には、以前、前世の人の話をしたことがある。もちろん、殿下は前世の話だとは夢にも思っていないだろうけれど。今まで、殿下への手紙には返事と呼べるような言葉を書いたことがなかった。


後少しで国を出ていくからか、家族の話をして恋しくなったからなのか。

私も自分の思い出を書きたくなった。誰かに知っておいてほしいと思ってしまった。



『……私にも兄がいます。失敗した時も、成功した時も、怒られる時も、褒めてくれる時も頭を撫でてくれる大切な兄です。』



ーあぁ…私は、()()()()()について書いているのだろう…


ーいつから…お兄ちゃんのことを思い出していたのだろう。


ーいつから、前世の家族のことも思い出していたのだろう。



今世での家族も、前世での家族も、私にとって大切な家族だった。皆、私を愛してくれたし、私も愛している。


そういえば、お兄ちゃんとは殿下と同じように手紙でやりとりをしていた。

どうして、今思い出してしまったのだろうか。

殿下の手紙に返事をしてしまったのは、お兄ちゃんとの思い出があったからだろうか。


殿下と話すと、いつも前世を思い出してしまうのは何故なのだろうか。



私は、自分の思いに蓋をするように、封筒を閉じた。

読んでいただきありがとうございます。


ブックマーク&評価でやる気が上がるのでよろしくお願いします。


もう少しで1章が終わります。多分。

早く書き終えてメインの話に移りたいです。


次話以降も読んでいただけると嬉しいです。

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