1章 占い師が明かすミアの秘密2
本日2話更新です。
ミアに気付かれないように、王宮の端の小窓から様子を伺う。私の心配をよそに、ミアは近衛騎士を圧倒していた。余裕なのか、もはや近衛騎士を見ていない。父上が私を止めるはずだ。私の助けなど、余計な苦労をさせるだけだった。男として、彼女に想いを寄せる1人として、目を逸らしたくなった。強さだけが男の証明ではないが、私の存在意義が問われたように思われた。それでも、彼女を好きなことは変わらないし、諦めたいとも思えない。ただ、ただ、自分が情けなくなった。占い師も彼女の強さに驚いているようだ。
「あれが番か?………ははは…これは、あり得ないだろう!!」
「ええ…私も初めて知りました。ミアは戦闘もできるみた………」
「そうじゃない!!なんだあれは!!…………はっ!水晶に何も映らないわけだ………」
占い師は大声を出して、私の言葉を否定した。そして、渇いた声でつぶやく。先ほどとはあまりに様子が違うので父上も私もどういうことだと不安に駆られた。
「占うまでもない。王子様の番様は、神に憎まれ、神に愛されている。人間の干渉できる域を超えているよ。」
「神に憎まれ?意味が分からない。ミアがなんだと言うんだ。」
私は占い師に対して敬語で話すことも忘れて、掴みかかるように聞いた。人間の域?…嫌な汗がダラダラと流れる。どうか、どうか「何もできない」ということにはならないでくれ。私は願うように占い師に続きを促した。
「番様はね、神に呪われているんだよ。生まれる前から、その魂が活動を始めた時から呪われている。だから、私達人間にはどうしようもない。この呪いが何なのかは詳しく分からないが、他人に作用するものだろうな。」
「ミア、が、呪われている?彼女が何かをしたのか?」
「いや、彼女は何もしていない。生まれる前に呪いにかかっているからな。可哀想な子だ。しかし、彼女…ミアといったか。ミアは、自分が呪われていることに気付いたんだろう。だから、国を出て行く。愛する者が呪われないために。」
「それで国を…。いや、まず神の存在が………いや、そんなことは今は……」
「混乱するのも分かる。私も驚いたからな。……落ち着け。」
占い師が私の肩に手を置いて、深呼吸させる。神と言われて、ミアが呪われていると言われて、何をまず考えればいいのか、何を聞けばいいのか分からなくなった。頭が上手く働かない。私の代わりに父上が占い師に質問をした。
「神が呪った…か。その呪いを解く方法はないのか?」
「ないね。もう君達に出来ることはないよ。ミアはもう奇跡を起こしている。それでも、変えられない結果だ。」
「奇跡?奇跡とはどういうことだ?」
私は聞こえてきた単語を復唱することで、無理矢理頭を切り替えた。
「神に愛されているとも言っただろう。ミアの身体には人間じゃない神に近いものが混じっている。これは…血か?よく身体に影響が出ないな。でも、呪いの方がまだまだ力が強い。レオというのが…いや、でも……」
「すまないが、理解が追いつかない。…ミアは神に会って、血をもらったということか?だが、それでも呪いを解くことができないと。そういうことだろうか。」
「ああ、そうだ。神といっても、ミアが会ったのは神の代理人のようなものだろう。だから呪いに対抗できていない。代理人といってもな、普通は会えない存在なんだ。だが、ミアはそれを成した。充分、奇跡のような話だ。」
父上が思い出したように呟く。
「ミアは言及すれば国が滅ぶと言った。番については神に聞いたということか。はははっまさか神とはな。想定以上の話だったか。…命をかけて嘘をつくわけだ…」
「神じゃなくて代理人な。まぁ同じようなものか。神の考えなんて人間に分かる訳がない。逆鱗に触れれば国どころか世界が滅ぶ。世界を滅ぼすなら何で世界を創ったのかとかそういう話になるが、今はどうでもいいな。」
占い師は恐ろしいことを言うが、それこそ人間が考えても無駄なことだった。それに、言及すべきことは他にある。
「レオが神の代理人なのか?」
ちらと見ただけのあの男が。ミアに口付けをした男が神の代理人というのなら、私が彼に勝てる要素はあるのだろうか。しかし、占い師は肯定しなかった。
「レオは多分、神の代理人じゃない。代理人が人間と戦う必要がないからだ。…人間が及ぶことの出来ない存在は代理人以外に確かにいる。高等種族であったり、魔獣であったり…最初はその可能性を考えたよ。それすらあり得ないと思ったが、神の代理人の血をもらっているなら、レオの正体が何であっても今更驚くことじゃないだろう。それに、ミアの戦い方を見ると、人間の可能性もあると思わせられるな。」
「…結局、レオについては分からないということか。…ミアの戦い方とはどういうことだ?」
「あれは魔力を操っているな。私達魔女も似たようなことをするが、ミアは魔力操作が桁違いに上手い。どこまで何が出来るのか…応用の幅は無限だ。ミアなら皮膚の直前で刃物を止めることくらい雑作もないことだろうね。それにしてもあれが番か。神は本当に何を考えて役割を与えているのか…」
「ミアの魔法については驚く方が時間の無駄だと教わったが応用が効くということか。慣れない言葉が次々に出てきて混乱するが…その…役割とは何だ?」
「皆、生まれた時に神に役割を与えられていて、生まれる場所や種族がそれに当たる。そして、特別な役割を与えられる者もいる。それが、神の代理人や私のような魔女さ。番もその一つ。魔女といっても役割はそれぞれ違うんだ。秘薬を作る魔女であったり、呪いを生み出す魔女であったり…私は本質を見る魔女。占い師と名乗ってはいるが、その人の本質を見極めて未来を予測する。未来予知の魔女といってもいいね。呼び方は時代によって様々さ。」
役割が何であるかを占い師の言葉を聞いて考える。何故、神は役割を与えるのだろうか。私はチェスの駒を思い出した。駒は役割に沿った動きを求められる。そして、その役割を最大限に生かした競技者が勝者となる。
「……役割を与えられたということは、意味があるということか。」
「ふふっ!そうだよ王子様。だから番という役割をミアが任せられたのも意味があることだ。役割を与えられるのは生まれた時。そして、ミアの呪いは生まれる前にかけられたもの。つまり、呪われているミアに対して神が『番』という役割を与えた。神の考えていることは分からないがそれは間違いない。」
占い師の言葉に希望が見えた。しかし、だからといって何ができるのだろうか。占い師はニヤニヤと私をみる。父上はもう話を聞く側に回っていた。
「今希望があると思っただろう。でも、ミアに役割を与えたのは、ただの神の気まぐれかもしれない。ミアの足掻く姿が面白そうだと思ったからかもしれない。役割を真当したとして、ミアが幸せになるとは限らないね。それに、現時点で王子様にできることは何もない。出来るとしたら、彼女の相談相手くらいじゃないか?」
「…相談相手どころか、話をすることも難しい状況だな。」
小窓からミアを見つめる。彼女はちょうどレギイラ侯爵と別れたところだった。これからどこに向かうのかは分からないが、ライルから報告があるだろう。
「…会話が難しいなら書けばいい。手紙は苦手かな?返事がもらえるかは分からないが想いを伝えることはできるよ。それに手紙ならミアが国を離れてもやり取りできるじゃないか。手紙を送り合う仲になっておけばの話だけど。」
「手紙か…。今まで会いたいという思いが先行していて盲点だった。そうだな、手紙を送ろう!占い師殿、感謝する。希望は見えなかったが、できることが見つかった。」
「それはよかった。サービスでもう少し質問に答えてあげよう。面白い人間を見ることも出来たしな。ガイナスも特別に占ってあげるよ。」
「それはありがたいな。」
私はその日の業務を終わらせ、一晩かけてミアに手紙を書いた。手紙はライルに届けてもらう。返事が来るかは分からないが、共通の話題としてライルのことばかりを書いてしまったのは良くなかったのではないかと反省した。
ミアにとってその内容が、思い出を想起させるものだと知ったのは、彼女の美しい字で書かれた手紙だった。
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