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1章 葡萄酒の毒

誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。


更新日は水・金・日です。

「はははっ!!ライルが王宮に連れてくるのも分かる!!こんな逸材をどこで見つけた?」


「私は落ちていたのを拾っただけですよ。」


私が副団長に勝利した後、再戦を申し込まれたが、以降は開始の合図とともに勝負を終わらせた。その間に、レギイラ侯爵とお兄様は椅子を用意され、談笑をし、くつろいでいた。本当はくつろいでいるように見せて、心穏やかではないだろうが。私はお兄様から指示があるまで、申し込まれる試合に応じた。もちろんお兄様達からは目を離さずに。ギャラリーに紛れて妙な視線も感じたが、殺気を放っているわけではないので無視をした。


もう十分だとお兄様から指示をもらい、お褒めの言葉をもらう。私の息は切れていないが、魔力が減ってきたところだったので助かった。それに、お兄様と距離があればあるほど守りにくい。お兄様は妹に守られたくないと思っているかもしれないが、心配なものは心配だった。


「ミルと言ったか。十分な力量だな。楽しませてもらった礼と急な私の誘いの詫びだ。護衛任務中だろうが、受け取って欲しい。先ほど、メイドに準備させた葡萄酒だ。ライルのもあるぞ。」


「…ありがたく頂戴いたします。」


私はメイドから葡萄酒を受け取った。ここで飲み物を用意されるのはおかしなことではない。護衛任務中にお酒を飲むのはもちろん御法度だが、平民が上流貴族の飲み物を断れるわけがなかった。そしてこれはお兄様にも用意されており、器は銀ではない。毒が用意されている可能性が高い。しかし、レギイラ侯爵は自分で用意したのではなく、メイドに準備させたと言った。毒を準備させた犯人は別で用意しているのだろう。


メイドは私の後ろを通り、お兄様に葡萄酒を渡せる位置に移動している最中だ。

…まだ、お兄様は葡萄酒を受け取っていない。


(匂いは…微かに葡萄酒の他に甘い匂いがするわね。葡萄の匂いに毒を合わせてきた…考えられる毒は3種類。量にもよるだろうけれど、猛毒ではないわね。それでも死ぬリスクは高いけれど…私ならきっと大丈夫。)


私が口元で器を傾けたので、お兄様がギョッとする。


「お、おい!」


(焦るということは、お兄様も毒だと気付いていたのね。)


私はお兄様が葡萄酒を受け取る前に、飲み干した。正直、この行為はお兄様に対して失礼に当たるが、お兄様に毒を飲ませるよりはずっとマシだ。私は味をしっかり確かめながら、毒を1種類に絞った。


(これは、ケイナの実かしら?思ったより量が多いわ。)


「申し訳ございません。打ち合いで喉が渇いていたので、先に飲んでしまいました。」


「あ、あぁ。」


私は笑顔で器をメイドに返した。レギイラ侯爵も流石に私の行動に驚いたのか、魔力が緊張し始めた。表情には現れていないが、私の様子を見て緊張しているということは、毒が入っていると知っていた事になる。今まで、お兄様が飲み物を用意された時、どのように回避していたのかは知らない。しかし、今の反応を見るに、レギイラ侯爵は毒を用意した時のお兄様の反応ではなく、私の反応を知りたかったということだろう。最初からターゲットはお兄様ではなく私だったということだ。私の反応によって何かの情報や判断材料にするつもりだったのだろう。


「美味しい葡萄酒でした。ですが、ライル様は飲まない方がよろしいかと。葡萄酒の他に、東方で取れる小さな実の味がしました。確か、ライル様は苦手だったと思います。侯爵様も飲まないようにお気をつけください。」


「「!!!」」


どうせここで犯人を追及してもレギイラ侯爵は無実を証明できるだろう。お兄様はまだレギイラ侯爵と敵対関係にあることを態度に出していない。ということは、この場は、穏便に収めるように動いた方がいい。


「侯爵。どうやら私たちは狙われているようですね。といってもよくあることですが。犯人は私が調べますので、この場は失礼させていただいてもよろしいでしょうか?」


「…そうだな。私にも手伝えることがあれば言ってくれ。だが、こういうのはお前の得意分野だろうから任せる。元はと言えば、私が無理に連れてきたせいでもある。大切な護衛を早く休ませてやりなさい。」


「では、失礼いたします。」


私もお兄様に合わせて、小さく頭を下げ、修練場を去った。お兄様は足早にどこかへ向かう。毒を飲んだ身体は、段々と言うことを聞かなくなってきた。思考は働くのに身体がついていかない。こんなに多くの毒を飲んだのは初めてだが、少量ならば試しに飲んだことがあったので、大丈夫だろうと思っていたが、思ったより深刻だった。


(ここは…宿舎?)


「おい!オズリオ!!今すぐ開けろ!!」


「ん?ライルか…どうし……って顔色が悪いぞ!!」


どうやら、オズリオ様の部屋だったようだ。王宮で完全に人目がないところといえば、個人の部屋が確実だ。それで事情を知っている者となるとオズリオ様ということになったのだろう。私は手をひかれ床に座らされたが、言うことを聞かない私の身体は倒れるように前のめりに崩れた。


「侯爵に毒を飲まされた。水を用意してくれ。…おい!ミリア!」


「お兄……大丈夫だか、ら。…休めば、大丈…夫。」


呂律が回らない。経験上、今がしんどいだけで後々回復してくるはずだ。だからそこまで心配しないでほしいし、寧ろ心配させてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「ライル、水を用意した。あと、これに…………」


オズリオ様の言葉の後半が聞き取れなかった。視界も霞む。でも、多分オズリオ様が何かを用意してお兄様が受け取ったのだろう。今は、お兄様が私の顔を前からのぞきこんでいるような気がする。


「ミリア、我慢しろよ。」


「…え?…………ぅぐっ!!」


お兄様が私の喉に指を差し込んだ。その瞬間、喉から込み上げてきて、私はそれを用意されていた桶に吐いた。元々、公爵令嬢としての振る舞いなんかしていないが、流石にこれは…令嬢失格どころの話ではない。


(前世でお酒を飲みすぎた時に1回だけ指を使って吐いたわね…まさか今世でもするとは…)


「はっ…はっ……はぁ……」


「ミリア、水を飲め。それでもう1回吐け。胃液が出るまでやった方がいい。」


「お、兄様…自分で………する……あと、オズ……」


「分かった、もうしゃべるな。背中をさすっといてやる。オズリオは部屋から出て行った。これでいいか?」


私はコクコクと頷いた。こんな姿を見られるのは流石に恥ずかしいのでオズリオ様に出ていってほしいと頼もうとしたが、すでに退出してくれていたようだ。本当にありがたい。その後も私は、水を飲んで吐くことを何回か行った。私はベッドで横になり、後片付けはお兄様が全部やってくれた。魔法も使ったので、今は綺麗な部屋になったが、部屋を胃液の匂いで充満させてしまった事実は変えられない。

事情が事情だが、私はオズリオ様に土下座して平謝りしなければと、横になって休みながらずっと考えていた。



「落ち着いたか?」


「ええ。本当にごめんなさい。あの場は、ああするしか思いつかなくて…情けないわ。」


「いや、謝るのは俺の方だ。はぁ……ごめんな。だが、おかげで穏便に片付いた。」


今はもう夕方。オズリオ様の部屋に長居してしまった。お兄様は後処理のため少し席を外していたが、今は戻ってきて私の頭を撫でてくれている。オズリオ様は部屋の鍵をお兄様に託して業務に向かった。レオのことで聞きたいことがあったが、今日も聞く機会を失ってしまった。オズリオ様からレオについて聞きたいと言っていたが、もういいのだろうか。


「だが、反省してくれ。お前が強いということは知っているが、命に関わることはやめてくれ。肝が冷える。家族が大事なのはお前も一緒だろ?」


「…そうね。ごめんなさい。次からはもっと考えるわ。」


「そうしてくれ。」


お兄様は私の頭に頭をくっつけて、私を抱え込むようによしよしと撫でた。


「それで、この毒の件は(おおやけ)にしないのよね?どうするの?」


「どうせ調べてもレギイラ侯爵と繋がっているなんて証拠は出てこない。ただ、東方の小さな実ということはケイナの実だよな?その取引をしている商会を調べる。イクシタン男爵に問い合わせれば何か出てくるだろう。こういう時のためにフェレスに頑張ってもらっているからな。活用しないともったいない。」


「…私、レギイラ侯爵を暗殺した方が早くて楽なんじゃないかと考えるのよ。でも、そうはしないのよね?」


「ああ。侯爵を暗殺してもまた同じことをする奴が出てくる。罪状を(おおやけ)にし、裁判にかけることで報われる家族もいるし、見せしめにもなる。殿下の立場からすると、けじめという意味にもなるだろうな。俺達は、レギイラ侯爵を追い詰め、証拠をつかまなきゃならない。」


「分かったわ。私にできることは言ってね。私だってこの国が好きなんだから。第一、お兄様は働きすぎなのよ。」


「……お前に言われたくないな。」


お兄様は「国を出ていくな」と私を引き留めない。いつもその言葉を飲み込んでくれる。もしかしたら裏で陛下や殿下と画策しているのかもしれないが、私の前では決して言わない。おかげで、私は素直に本心を言葉にすることができた。こういえば、また引き留められるんじゃないか、否定されるんじゃないか、なんて考えなくていい。


私は家族が好きで、家族が守るこの国が大好きだった。これは紛れもない本心だ。


「殿下にはこれから会いに行けばいいのかしら?」


「いや…さっき会った時に事情は伝えた。アレクの体調は良いとは言えないが、お前がアレクを拾った時に比べれば全然いい方だ。気にするな。また、時間を作ればいい。それに、最優先事項はクリアしている。大丈夫だ。」


「…うん。それじゃあ殿下に謝っておいてくれる?あ、あと、オズリオ様にもお礼を。」


「ああ。伝えておく。」


結局、私は殿下に会うことなく、1人暮らしの部屋に帰った。お兄様の最優先事項というのが引っかかったが、必要な情報であれば教えてくれるはずなので、何も聞かなかった。また、毒を飲んだが、身体は回復していたので、殿下の魔力を調整しなくても本当によかったのかと気になった。殿下の想いに応えるつもりはさらさらないが、身体が崩壊しそうになるまで我慢していたことを知っている身としては、一王国民として心配だった。


そんな私の胸中を知ってか知らずか、私が王宮に行った翌日、殿下から一通の手紙を受け取った。

読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&評価でやる気が上がるのでお願いします。


次話以降も読んでいただけると嬉しいです。

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