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1章 偽名追加

誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。

水・金・日が更新日です。


やっと黒幕の登場です。

(え、あれって…まさか!)


私は前方から歩いてくる人を認識する。その人は、こちらと距離が近くなるなり、すぐに話しかけてきた。


「ライル、初めて見る者を連れているな。」


「ええ、侯爵。うちで雇っている者ですよ。王宮に連れてきたのは今日が初めてになりますね。」


お兄様と王宮に入って、2人で殿下の執務室へ向かう途中だった。何人かとすれ違ったが、明らかに他の者より、重圧がある。黒髪で少し痩せた男。身体が大きいわけでも、特に背が高いわけでもないのに、顔の小皺(こじわ)のせいか、表情のせいか、凄みがある方だ。


(キーシャス・レギイラ侯爵…)


セレリィブルグ王国の宰相であり、お兄様の上司、そして敵である。この方が…王都を巻き込んだテロを目論んでいる。


(変装しておいてよかったわ。……私を気にしているということは、お兄様の身辺について調べているのかしら?)


私は護衛らしく、お兄様の後ろに立ち、レギイラ侯爵へ小さく会釈した。レギイラ侯爵と私の面識はほとんどないが、幼い頃に数回会ったことがある。それに、レギイラ侯爵とお兄様は私の話をたまにすると言っていた。噂のおかげでミリアリアの偶像が出来ているが、髪と瞳の色を変更しただけのミアを見れば、ミリアリアだと気付いてしまう可能性もある。今日、こういう事態に備えて男装したのは正解だったようだ。


「ああ、随分若いな。しかし、お前がここに連れてくるということは実力は本物だろう。お前、名は?歳は?」


「はっ。ミルと申します。今年で15になります。」


「ふーん…」


私は声を低くして、レギイラ侯爵の問いに応えた。本当は今年で18だが、男装しているので若めに15と偽った。疑っているのだろうか。単純な興味だろうか。グレイル王子と同じで、あまり魔力に変動がない。お兄様は、レギイラ侯爵の様子を「焦っている」と判断していた。私は魔力をみてもよく分からないのに、長年の勘というやつだろうか。私は貴族との対人経験が圧倒的に少ないので、相手が何を考えているのかは、全て魔力で判断するしかない。


「15で公子の護衛か。優秀だな。しかも女性と言われても納得できるくらいに容姿もいい。ライルには負けるだろうが、引く手数多だろう。」


「……。」

(やっぱり疑われている…?侯爵はどこまで知っているの?)


「レギイラ侯爵。珍しいですね。うちの護衛に興味を持つとは。ミルは確かに容姿もいいですが、私が惚れ込んだのは実力ですよ。それにしても、なぜ侯爵はこちらに?今日は休みだと伺っておりましたが…」


「ああ、今日は休みなのだが、娘がどうしても殿下に会いたいというのでね。殿下は王太子妃をなかなか決めないだろう?少しでも力になれればと思ってね。今ちょうど殿下と娘が話している。もしかして殿下と約束があったのか?」


「……。」


(あ、お兄様、絶対今心の中で舌打ちをしたわね……)


和やかに会話しているように見せているが、空気は殺伐としている。貴族の表情を読めなくても、お兄様の心は表情や魔力を見なくても何となく分かる。やっと都合がついて今日私はここに来たのに、なかなか上手くいかない。私としては、殿下が別の女性と交流を重ねるのは願ってもないことだ。相手がレギイラ侯爵の娘じゃなければだが…。娘はレギイラ侯爵の計画をどこまで知っているのだろう。しかし、ここで下手に食い下がることはできない。


「…そうですね。殿下と約束がありましたが、御令嬢が来ているならば、仕方がないですね。出直すことにしましょう。では、これで…」


お兄様は会釈して来た道を戻ろうとしたが、レギイラ侯爵に呼び止められる。


「待て、ライル。約束がなくなったならば、時間があるだろう。私は自慢の護衛の実力を見てみたい。騎士団の修練場に行こう。それくらいの時間は取ってくれるな?」


「…ええ。侯爵のお誘いは珍しいですからね。ぜひ、ご一緒させてください。」


(絶対疑われているわね…ミアとして?ミリアリアとして?それとも殿下の(つがい)として?まさか…フェレス?…私に何をさせたいの…?)


私はレギイラ侯爵が敵だということは知っているが、レギイラ侯爵自身のことはあまり知らない。王宮でのことは全てお兄様に任せてきた。レギイラ侯爵がどこまで情報を掴んでいるのか、今どんな怪しい動きを見せているのか、私は知らされていない。今の私に出来ることは、お兄様の意図を汲んで行動すること。そしてお兄様を護衛らしく守ること。私は、ミスをしないように自分に言い聞かせ、お兄様の背中に付いて行った。




(思っていたより広いのね……)


修練場に到着し、私は辺りを見回した。セレリィブルグ王国は他国と比べて軍事力が高い。王宮外に大規模な軍事施設があることは知っているが、王宮内でも修練場の設備は申し分ないほど整えているようだった。修練場にはオズリオ様がいるかと思ったが、今ここで修練しているのは近衛騎士の第2団のようだ。それにしても護衛の相手役として近衛騎士を選ぶなんて、レギイラ侯爵は性格が悪い。近衛騎士とは騎士の中でも実力が認められた者しか入団が許可されない。そして、その実力には身分や爵位は関係がなかった。


「さて、ライル。ミルの相手は誰がいいと思う?折角だから賭けをしないか?」


「いいですよ。ですが、誰でも結果は変わりません。この場合、侯爵は損することしかないですが、いいんですか?」


「本当にお前は生意気だな。エリオスの息子とは思えん。いいだろう。では、子爵。この場で1番強い者を連れてきてはくれまいか。」


「は、はい!」


レギイラ侯爵の指示によって、第2団長の次に強い者、副団長が連れてこられる。30後半くらいの年齢だろうか。身体が大きく、顔も怖い。明らかに私をみて不信感を抱いている。第2団長であるエピード子爵はレギイラ侯爵の隣に立ち、一緒に見物するようだ。私は怪しまれない程度にお兄様に指示を仰いだ。


「ライル様、いかがいたしましょうか?」

(私だったら、わざと負けたふりをするかしら?脳ある鷹は爪を隠すというし…ここは賭けに負けても大人しく…)


「ん〜……3分打ち合ってから勝て。一瞬で決められると面白くないからな。よく周りも見て打ち合え。」


「はっ!」

(あ……勝つのね。それにしても周りを見て…ね。)


こんな大勢がいる中でも、レギイラ侯爵がお兄様を殺そうとするかもしれない。3分と周りに聞こえるように指示をしたのは、暗殺を仕掛けるなら3分しかないぞと暗殺者に挑発するためだろう。誰でも時間がなければ、焦る、そしてミスに繋がり、証拠として残る。もしくは、3分しかないなら暗殺は辞めておこうと思わせることもできる。3分の意図の正解は分からないが、こんなところだろうと私は考えた。しかし、そんな事情を知らない者から見れば、3分で副団長を倒すなど舐め腐っているようにしか聞こえない。


(だいぶ、怒っているわね…。)


私は対峙するために、副団長の前まで歩く。お兄様の言葉が相当頭に来たのだろう。副団長は私を睨み続けている。いつの間にかギャラリーも増え、第2団全員が修練を止めて私達に注目していた。


「ミルと申します。よろしくお願いいたします。」


「命令だからって俺に勝てると思うなよ!若造が!!」


副団長は相当怒っているようだ。近衛騎士は王宮勤務なので、思っていることを言葉遣いや態度にそのまま表すことはしないはずだが、そんなことはどうでもいいくらいにキレているらしい。彼は名乗りの挨拶で名乗らず、規定位置に向かった。私は彼のことを知らないし、周りのギャラリーも「副団長」と言っているので、名前が分からないままだ。


(仕方ないわね。確か、騎士の構えをして…合図を待つ。)


私も副団長と同じように規定位置に向かう。騎士の構えとは、剣を胸の位置に持っていき、空を刺すように剣先を上にする。フェレスとして打ち合いはよくしているが、騎士としての打ち合いは初めてだった。騎士は姑息な手段は使わず、正々堂々と誇りを持って戦う。本当に面倒臭い。


(敵に武器を晒すなんてね。これは殺し合いじゃない。正々堂々と戦うのよ。全て受けてあげればいいわ。)


私は戦い方を決めて、騎士の構えをする。審判はエピード子爵のようだ。


「カウントは30秒。…………………初め!!」


合図と同時に副団長がすぐに攻撃に移った。距離を詰められ剣を振る。横から、縦から、斜めから……私は全ての攻撃を受けていなした。


ギンッ!ギンッ!


剣と剣がぶつかり合う。副団長は距離をとって私を観察した後、再度距離を詰めて攻撃に体重を乗せ、力技に切り替える。しかし、私は最小限の動きでその攻撃も全て脇にいなした。


「な、なぜ攻撃が決まらない…」


(副団長も色々と工夫しているみたいだけれど、これならオズリオ様の足元にも及ばないんじゃないかしら?…っと、『周りを見る。』…もう、()()()()見なくても大丈夫そうね。)


打ち合いに慣れてきた私は、視線の先を副団長ではなく、お兄様達やギャラリーに変えた。副団長と私の周りだけ魔力で満たしてやれば、直接見なくてもどこに剣が来るのか、どう対応すればいいのか()()()。剣は苦手だが、魔力を使えばオズリオ様やレオの剣技には届かなくとも、戦うことはできる。それほど、副団長と私の差は歴然だった。


ギンッ!


「はっ!…このっ!…」


「……。」

(このまま副団長の剣を飛ばして、レギイラ侯爵を殺害してはいけないのかしら…?………っと魔が刺したわ。いけないいけない…)


「おいおい、どうなっているんだ?」

「ミルってやつ、防戦一方かと思ったが、わざとに防戦しかしていないんだ!」

「副団長ー!!一泡吹かせてやれー!!」

「真面目に打ち合えー!!」


ギャラリーがざわざわし始める。一方でお兄様はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた。ストレスでも溜まっていたのだろうか。周りの反応を見て、とても楽しそうな顔をしていた。レギイラ侯爵は相変わらず何を考えているのか分からない。この様子だと、暗殺者はいないと判断していいようだ。

なぜ、私が騎士と打ち合いすることになってしまったのかはさておき、お兄様が楽しそうにされているのであれば、この打ち合いは無駄な行為ではなかったかなと私は自分を納得させた。


副団長は視線の合わない私に向けて、変わらず攻撃を続けている。結局今に至るまで、副団長は私を一歩も動かすことが出来なかった。まだ3分も経っていないが、息が荒くなっている。相当、真剣に打ち込んでくれていたようだ。


ギンッ!ガンッ!ガッ!


「はっ…はっ…はっ……何で………っ」


「…………。」

(…168、169、170、171……そろそろね。)


私は3分ぴったりに終わらせるように、179秒で初めて攻撃に移った。副団長の攻撃を大きく払い除け、バランスを崩させる。私の初めての攻撃に驚き、バランスがさらに崩れた副団長は、足をもつれさせ尻餅をついて私を見上げる。私はそのまま副団長の首筋に剣を突きつけた。


「………私の勝ちですね。」


お兄様の命令通り、私は3分ぴったりに勝利した。

読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&評価でやる気が上がるのでお願いします。


次話以降も読んでいただけると嬉しいです。

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