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1章 兄との思い出作り

誤字脱字報告ありがとうございます。本当に助かってます。


また更新が遅れてしまいすみません。

更新日は水・金・日です。

「はぁ…疲れたわ……」


私は公爵邸の自室のベッドで横になっていた。殿下やお兄様達と今後の計画について話し合った後、街に行き、ここ数日連絡が取れなかったことをおばちゃんやカイ達に謝って周り、帰ってきた。皆、カイからある程度事情を聞いたようで簡単に許してくれた。


「それにしてもオズリオ様は何を聞きたかったのかしら…大変な見落としじゃなければいいのだけれど。」


話し合いの時、オズリオ様はレオについて何か聞きたいことがあるようだった。大したことじゃないといいが、ドラゴンに関する重要な何かであれば非常にまずい。2人で執務室を出た後、オズリオ様はハイノール伯爵の下へすぐに走って行ったので、聞きそびれてしまっていた。


『ちゃんと、家に、帰って休め』とお兄様は言った。わざわざこんな強調の言い方をするということは、『公爵邸に帰って休め。ついでに話がある。』ということだ。話す内容は、おそらく今後の方針の詳細についてだろう。レギイラ侯爵を阻止するための計画では、私が積極的に動かなければならない。殿下やお兄様達では、大きな動きをすればレギイラ侯爵に悟られる可能性があるので、必然的に私が計画を実行することになった。


(どこで待とうかしら…自室でお兄様の帰りを待つのが普通なのだけれど、お兄様と話しているという事実を出来るだけ見られたくない。お兄様の帰りを教えてほしいとメイドに頼むことも出来れば避けたいわね…。)


お兄様と仲が悪くないということに気付いている者はいるだろうが、仲が悪いという設定をやめることはできない。2人で作戦会議をしているなど、見られていいわけがなかった。以前、オズリオ様が公爵邸にいらっしゃった時は、私が火傷したことと、オズリオ様が来ているということで、体裁を保ったに過ぎない。


(私は17歳。前世でのことを目安にしても、もう少しお兄様に近付いても問題ないわよね…?)


どうせあと数ヶ月でこの国を出て行く。私の呪いが発動するまでには離れることができるだろう。それなら、最後に家族との思い出が欲しい。私は少し大胆な行動に出ることにした。


私は1人で入浴を済ませ、貴族らしい部屋着を身に纏った。部屋着といっても、前世の日本や平民の価値観で言えば、十分立派なワンピースだ。これを部屋着とするなんて、貴族は大変だなぁと思う。

私は、自室のテラスに出た後、お兄様の部屋のテラスまで壁と屋根をつたって渡り、こっそりお兄様の部屋に侵入する。シシリーには睡眠をとるので、私の部屋には誰も入れないようにと言ってあるから、私がお兄様の部屋にいることはバレないはずだ。


「さて、疲れているし…ソファで寝て待っていようかしら。帰ってきたら起こしてくれるでしょう。」


私はお兄様の部屋で久しぶりに眠りにつくことにした。本当に疲れていたようで、目を閉じた瞬間に意識が飛んだ。




(…何か…音が……聞こえる……)


(ページを……捲る音……)


(………近い……)


(あ……誰かが……頭を撫で……)


(……….…お兄、ちゃんも…よく撫で……)


(お兄…………?)


私は違和感を感じて、少しずつ覚醒する。まだ頭が働かず、何も思い出せないが、私の頭をよく撫でる手の持ち主はすぐに分かった。


「………お兄様?」


「おはよう。よく寝てたな。」


ゆっくりと自分の状況を確認する。私はソファで寝ている。これは変わらない。でも、今の私はお兄様の膝枕で寝ている。しかも、風邪をひかないように毛布まで私に掛けてくれている。どのくらいの間、こうしていたのだろう。私は身体を起こそうとしたが、それをお兄様の手が優しく拒んだ。


「そのままでいいぞ。頭を動かしても起きないくらいに疲れてたんだろう。」


「……うん。」

(温かい……)


今だけは甘えてもいいだろうか。こんなに近付いても大丈夫だろうか。物理的に距離を取らなければと、お母様が亡くなった時からずっと考えていた。でも…本当はお父様ともっとお話がしたかった。お兄様と一緒に遊びたかった。これからも家族のそばにいたい。……前世の分も含めて。


(…あと少しでこの生活も終わりね。)


いっそのこと、家族関係が破綻していればよかった。貴族ならそんな関係も珍しくはない。そうしたらこんなに苦しまずに済んだかもしれない。でも、お父様もお兄様も、皆が優しくて、溺れそうになるほど温かい。前世でも家族は温かかった。そして、それに甘えた結果、私は自分の喉を切り裂いて無理やり地獄を止めることになった。今世で、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。


「………部屋に夕食を多めに持ってくるように頼んだ。後で一緒に食べよう。」


「…うん。ありがとう。」


お兄様は本を読んでいるが、集中しているわけではなさそうだ。片手で本を持ち、片手で私の頭を撫でている。私も寝ていなかったけれど、お兄様も全然寝ていないはずだ。なのに、こんなに優しくしてくれる。


「お兄様。私、お兄様に話していないことが沢山あるわ。でも話せないことも沢山あるの。」


「ああ。それで?何が言いたいんだ?」


「……でも、お兄様と話がしたい。我儘かしら?」


「…さっきも思ったが、今日のミリアは珍しいな。…でも、兄としてそれくらいの我儘は叶えてやらないとな。」


お兄様は本を閉じて、私を見下ろす。長いまつ毛が影になって、嬉しそうな声を出しているのに、悲しんでいるように見えた。私は身体を起こして、お兄様の隣に膝を曲げて抱え込むように座る。私がお兄様の方に身体を傾けると、お兄様も私の方へ身体を傾けた。まるで座り方が子どものようだと思い、小さく笑った後、そのまま子どもの時の話や、フェレスとして行った国々の感想等を話した。お兄様は嬉しそうに聞いてくれる。特に他国の王宮に忍び込んだ話は、興味があったみたいで盛り上がった。機密情報にはランランと目を輝かせて聞いてくれた。こんな風に話せるのは後何回だろう。夕食が到着した後もしばらくは話に花を咲かせた。


「それで…ミリア。早速、明日からギルドに行ってほしい。」


「ええ。大体やることは分かってるわ。前に言ってたことを実行するということね。ただ、あの時は時間をかけて体制を整えていくという計画だったと記憶しているわ。」


「そうだ。でも今はあまり時間がないから、フェレスの存在を条件に計画を強引に進ませる。フェレスの名を出せば、ギルドも商人も動くだろうし、これから人も増えるだろう。管理が難しくなるが、いけそうか?」


「大丈夫よ。状況は逐一報告するわ。その度に指示・修正をお兄様がしてくれれば何とかなると思う。」


私達は明日からの計画について話をつめていった。これからしばらくはミアとフェレスの2重生活になるだろう。街の子ども達への勉強会の回数が少なくなるが仕方ない。王都がなくなる方が問題だ。


(勉強会も難しいということは…殿下の体調も………)


「お兄様、殿下の体調についてなのだけれど…前回上手くできなかったの。だから、今かなり我慢されているはずよ。これから私は忙しくなるし、早めに魔力の調整をしに行きたいわ。」


「確かにそうだな…時間調整してみるわ。それにしても…何で前回上手くできなかったんだ?ミリアが魔力操作を失敗するなんて初めて聞いたぞ。」


「お兄様の前では完璧に習得したものしかやっていないわ。私だってお兄様と同じように格好つけたいと思うわよ。」


「同じようにって!今日のことか!忘れろよ!!」


「ふふっ嬉しかったから忘れてあげないわ!」


今日のこと。つまり私が姿を消して、殿下とお兄様のやり取りを見ていたことだ。お兄様は見られたくなかったようだが、正直、格好良いと思った。お兄様は赤い顔を隠すように俯いてわざとらしく咳をする。話を切り替える気だ。もう少し、兄の可愛い姿を見ていたかったが、攻めれば仕返しされる。自分のためにも兄に同調した。


「んん……。それで?何で魔力操作が上手くできなかったんだ?」


「魔力に触れるというのは、その人の感情に直接触れることになるのよ。殿下の私に対する感情は…ええっと…その…」


「あー……分かった。ものすごく理解した。俺が体調を気にしてやってくれって頼んだからな。悪かったよ…」


「いいえ、大丈夫よ。お兄様は悪くないわ。それで、次はお兄様にそばにいてほしいのだけど…」


「当たり前だ!」


お兄様は私の言葉に被せ気味に言ってきた。親友のはずなのに、殿下のことを全く信用していない。今も怒っている。むしろ親友だからこそ、こんな態度をとれるということなのだろう。そんなお兄様をみて、私は幸せだと思った。一緒にいられなくても、こんなに想ってくれる兄がいるなんて、それだけで十分贅沢で幸福なことだと改めて実感した。その後、お兄様は殿下に対する愚痴や他の貴族に対する考えを話し、私もそれに乗って…結局、自室に帰ったのは朝日が顔を出し始めてからだった。

読んでいただきありがとうございました。

ブックマーク&評価でやる気が上がるのでお願いします。


次話以降も読んでいただけると嬉しいです。

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