1章 王太子の決意1
久しぶりに0時に間に合いました。
更新日は水・金・日です。
アレク目線です。しばらく続きます。
コンコンッ
執務室をノックする音がし、セジルが代わりに出た。いつもならもう業務を切り上げて自室に戻っているが、私が王宮にミアを無理矢理連れてきてしまったせいで色々あり、業務の進行が遅れていた。今、客室にはミアがいる。寝る前にもう一度会えるだろうか。私は業務が終わった後、どうしようかと考えていたが、セジルの一言によって崖から突き落とされた。
「殿下、ミア様が部屋にいないようです。夕食のために部屋に入ったメイドが書き置きも発見したということで…」
「何!?」
(ミアが…いない…?)
私はセジルの言葉を最後まで聞くことなく、客室へ走った。今日の彼女はまともに動ける状態ではないはずだ。私は数日は寝込むだろうと勝手に思っていた。
「ミア!!」
客室の扉を思い切り音を立てて開く。セジルの言った通り、ミアどころか誰もいない。元から誰もいなかったかのように寂しい部屋だった。頭の中で、「どうして」「何故」「どうやって」「誰の仕業」などと頭の中でぐるぐると考える。セジルが遅れて部屋に到着し、メイドから受け取っただろう書き置きを渡された。
『お世話になりました。』
たった一言。しかし、その一言でミアが自ら出て行ったことが分かる。書き置きに何かが落ちて、パタ、パタと音がした。
(あぁ…私は泣いているのか。)
涙のせいでミアの美しい文字が滲む。もう会えないのだろうか。彼女には酷いことをしたし、言った。彼女が出て行ってしまった理由の心当たりなんてありすぎて、どうしようもない。
「殿……」
「業務の続きをやるぞ。もうすぐライルが帰ってくるはずだ。まだ……まだ…私は大丈夫だ。」
「…はい。」
私は執務室に帰り、寝る間も惜しんで業務に邁進した。必死に書類に向かうことで、ミアが私のことを認めてくれるわけではないし、戻ってきてくれるわけでもないが、王太子として恥じない行動をしなければと必死だった。それに、常に何かに必死になっていなければ、視界が滲んで仕方なかった。
朝になって、父上に呼び出された。昨日の様子だと父上はかなり以前からミアのことを知っていたようだった。今日の呼び出しもおそらくそのことだろう。
「来たか、アレクシル。何で呼び出したのかは分かっているな?」
「ミアのことでしょうか?」
父親といっても、気さくに話せる仲ではない。聞きたいことがたくさんあるが、質問できる機会はあるだろうか。はやる気持ちを私は必死に抑えた。反して父上は揶揄うように話し出す。
「ミアに逃げられたようだな。はははっ…お前はミアを王太子妃にしたいのか?…いや、愚問だったな。それにしてもミアが番か。クククッ」
「はい。ミア以外考えておりません。」
父上もミアをこの国に引き留めたいと考えていることは分かっている。それに番という存在が私達にとってどれほど重要なのかは父上も重々承知のはずだ。
「いいだろう。ミアを説得できれば、王太子妃に出来るよう色々手を回してやろう。」
「!!…ありがとうございます!!でも…何故…そこまでしてくださるのですか?」
「それは言えないことになっている。理由は…分かるな?」
「…制裁。」
「そうだ。ミアは耐えたようだが、あれは本来…死に至らしめるものだ。私には無理だろう。お前には悪いが、ミアのことを知りたければ、ライルか本人に聞くことだな。」
「…分かりました。」
話はそれで終わり、執務室に戻ってきた。本当はもっと詳しく聞きたかったが、魔法契約があるなら仕方がない。結局、父上は味方だが、ミアを引き留めるには私が本人を説得するしかないということだ。それにしても、死ぬかもしれないと分かって制裁を2回も受けたということは、彼女の意思は死んでも変わらないということだ。目の前が真っ暗になる。この国に残るということは彼女にとって死ぬよりも恐ろしいということなのだろうか。
(何が…出来るのだろうか……こんな私に…彼女を傷付けることしか出来なかった私に…)
「っ……」
涙を我慢しているせいだろうか。喉が渇いて…追い討ちをかけるように余計に苦しかった。
ミアがいなくなって2日。あれから一睡もできていない。
「殿下。ライルが戻ったようです。報告が終わり次第、こちらに顔を出すように伝えました。」
「分かった。」
顔を洗い、気持ちを切り替えるが、鏡に映る私の顔はひどい顔をしていた。ポーカーフェイスは得意だが、ライルには寝ていないことがバレてしまうだろう。元から体調が良くないのもあって、身体の節々が痛む。そろそろ執務室にライルが到着しているだろう。私は何とも言い難い気持ちを胸に仕舞い込んで執務室に戻った。
「アレク…ひどい顔をしているぞ。」
「まぁな。ライル…聞きたいことが…」
「ミアのことだろ。何があったのかは本人から聞いた。…はぁ……まさか陛下まで首を突っ込んでくるとは…」
「ミア!?ミアに会ったのか!?」
ライルはやれやれというように両手を広げてわざとらしくポーズをとっている。本当はミアのことを何故言わなかったのかと最初に聞こうと思っていた。しかし、ミアに会ったと聞いて、彼女が今どこで何をしているかということで頭がいっぱいになった。
「あぁ。王宮から出た後、すぐに俺のところに来たらしい。だが、詳しい内容までは聞いていない。それよりも片付けるべきことができたからな。」
「ミアは…ミアはどこにいる!?」
私はライルの両肩に手を置いて回答を迫った。ライルは私の様子に狼狽したようで、回答に詰まる。私はその様子を目の前で見て、自分のやったことに後から気づき、ゆっくりとライルから離れた。
「今は別のことをさせている。いつ戻るかは分からない。アレク、もう1回言うが、俺は詳しく聞いていない。片方から話を聞いても意味がないだろう。…お前からも何があったのか教えてくれ。」
「あ、あぁ…すまない…」
私は、カイから伝言を渡された時から今に至るまでのことをライルに説明した。例え、相手が幼馴染でも自分の格好悪いところを説明するのは恥ずかしい。しかし、今はプライドなんて言っている場合ではないし、ミアがライルに既に話しているかもしれない。私が何をして、何を言ったのか、出来るだけ詳細に伝えた。
「アレク、いや…陛下もか…そんなことをしていたらミアがいつか壊れる。…あいつもちゃんと言えよな。お前が思っている以上にミアはそこまで大人じゃない。何でも受け入れてくれると甘えるな。」
ライルの「大人じゃない」という言葉に引っかかりを覚える。ライルは、私が知らないミアを知っている。ふつふつと醜い嫉妬心が沸き立つが理性でそれを抑え込む。
「ああ…反省している。それで、ミアはライルの部下ということは本当なんだな?」
「そうだ。ミアがアレクを拾って傷を治した時に、初めて報告を受けた。ミアは貴族と会うのを出来るだけ避けている。だから、セジルが通るであろう場所にお前を運ぶように指示をした。」
「はは…お前は最初から知っていたんだな。最初から…何故言わなかったんだ?」
「それがお前にとってもミアにとっても最善だと判断した。それだけだ。」
「最善…?これが、今の状況が最善だっていうのか!?」
嫉妬心の次には怒りが湧き立つ。これ以上、私を醜くさせないでほしい。ライルの仕事はいつも完璧だ。疑ったことなんてないし、信頼している。1番頼りにしているのはライルだ。今後、私が王になった時、宰相として私を支えてくれるのはライルしかいないと考えている。その考えは今も変わらない。でも…
「今の状況というが、アレク、これはお前が行動した結果だ。それに、ミアの事情なんてお前は知らなかっただろう。」
ライルの言葉が全て悪いものに解釈されて私の耳に届く。もう理性が働いてはくれなかった。
「ああ、知らなかった!何も!!知らなかったんだ!!…何も知らない私が滑稽に踊っている姿を見るのは楽しかったか!?」
ライルは私よりも多くのことを考えて、その時の最善を選んだに違いない。結果なんて最初から分かるわけではないし、行動するのはライル自身ではなく私だったから尚更だ。それでも、ライルがミアのことを教えてくれなかったことと、ミアのことを私よりもよく知っているということに、嫉妬心が溢れてくる。言葉が止まりそうにない。
「ミアは私の番だ。ライルは関係ないだろう!!!」
(これは嫉妬だ。自分でも分かっている。でも、どうすればこの気持ちを沈めることが……)
その時、私はライルに思い切り顔を殴られた。ライルが怒るのも無理はない。怒らせたのは私だ。私は誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。
「あぁ…自分が嫌いだ…。」
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