1章 愛情の再確認
かなり遅れてしまいました。
更新は水・金・日です。
「ほ、本当によろしいのでしょうか?」
「大丈夫だ。」
私はオズリオ様と一緒に王宮に来て、今は殿下の執務室に向かっている。王宮に来るのは2日ぶりだった。今の私の姿は、ミアからそばかすと眼鏡と三つ編みを外した状態、つまり、髪色と瞳色を変えただけのミリアリアだ。街と違って王宮では、皆綺麗に着飾っているので、ミアの姿ではかえって目立ってしまう。
「それじゃあ、そろそろ姿を消してもらえるかな。殿下も私ほどではないが、ある程度気配を探ることができる。特に、愛しの彼女なら尚更だろう。」
「分かりました。」
もう少しで殿下の執務室に到着するというところで、私は魔法で姿を消した。なおかつ、私を囲うように防音の結界も張ったので、相当な手練れでない限り、私の存在はバレないはずだ。私は2日前、殿下から逃げるように王宮を出た。手紙を残してきたが、気まずい気持ちがあり、心音がうるさくなる。
オズリオ様は小声で「入るよ。」と私に声をかけ、殿下の執務室をノックした。そして、入室者であるオズリオ様は名前を告げた。しかし、返事はなく、オズリオ様の弟で殿下の側近であるセジル様が扉から顔を出した。
「兄さん…今はちょっと…」
「ライルが来ていないか?もしかしたら殿下の想い人について話しているんじゃないかと思って来たんだが…私もライルから話は聞いているよ。」
「ああ、ちょうど今そのことで…。いや、私では収拾がつかない。手伝ってくれ。」
「やはりな。」
予想通り、お兄様はこちらに来ているようだった。それにしても収拾がつかないというとはどういうことだろうか。私は姿を消したまま、オズリオ様の後ろについていき、一緒に入室した。セジル様は私に気付いていないようでとりあえず一安心する。その時、大きな音が執務室に響いた。
ドガッ!!
お兄様が殿下を殴ったようだ。殿下は殴られた勢いで床に倒れ、衝撃で机の上にある書類が宙を舞う。私は思わず声をあげそうになった。続いてお兄様の怒声が響く。
「関係ない!?あいつは俺の大切な部下だ!あいつのことを何も知らない、分かっていないお前にはミアは渡さない。」
「ライル……。」
(どういうこと!?何でお兄様が…いくら親友だといってもこれは…)
殿下はお兄様の名前を呼ぶだけで言い返さない。その代わり苦いような憎いような顔でお兄様を睨んだ。
「なんだその目は!?反論があるなら言ってみろ!」
「分かっているのか?いくら親友でも、王太子を殴った罪は重いぞ。」
「どうでもいい。王太子補佐を辞めさせるなり、賠償金を請求するなり勝手にしろ。だが、ミアは俺のことになると目の色を変えるぞ。それでもいいなら好きにしろ。」
「ライル、…汚いぞ。」
「はっ…知るかよ。」
殿下はゆっくりと身体を起こし立ち上がる。殴られた際に口の中を切ったようだ。手の甲で口元を拭っている。状況が分からないが、お兄様は私のために怒ってくれているようだった。執務室にいるのは殿下とお兄様、そしてその様子を見ているオズリオ様とセジル様と私。重たい空気が流れる中、オズリオ様だけが状況を楽しんでいるようだった。オズリオ様はまだ2人を止めようとしない。
「ミアは生涯でたった1人の大切な…愛しい伴侶だ。誰にも渡したくない。見せたくない。触れてほしくない。」
「それはお前の都合だろ。ミアから見れば、お前はその他大勢の中の1人でしかない。むしろ、その中でも下だ。」
「それじゃあどうすればいい!どうすれば、私を選んでくれるんだ!」
「それこそ知るかよ。口説き方の正解が決まっていれば、誰も苦労はしない。でも、不正解が何なのかくらいは俺でも分かる。でも、お前は口説き方どころか、人としての不正解を選ぶくらい目が眩んでるんだよ。」
「………ライルは…ミアが好きなの…か…」
ドガッ
お兄様はまた殿下を殴った。今度は顔ではなくお腹を殴ったようだ。殿下はよろけて四つん這いになった。鳩尾に入ったのだろうか。苦しそうだ。だが、殴った側のお兄様も痛そうに顔を歪ませていた。
「お前の腹、硬いな…指がいてぇ。」
「…鍛えているからね。それにしても強く殴りすぎじゃないか?指から血が出ているぞ。」
「お前の頭がまだ冷えてないようだったからな。目が眩んでる奴にはちょうどいい。」
「そう…かもしれない。はは…情けない……。」
「ああ、情けないな。これが次期王とか…今後の俺の負担を考えろ。言っておくが、俺にとってもミアは唯一無二の存在だ。つまり、お前と同じで替えのきかない存在だ。」
(兄妹だもの。替えがきかなくて当然よ。でも、兄妹って知らなければ別の意味に聞こえるわね…)
隣を見ると、オズリオ様は笑いを堪えるので必死のようだった。咳払いをするふりをして笑っている口元を手で隠している。セジル様はそんなオズリオ様をみて不審に思っているようだ。
(お兄様は立場とか関係なく、私の味方になってくれるのね。オズリオ様はこれを私に見せたかったのかしら。)
お兄様は昔から私に優しかったけれど、殿下を平気で殴れるくらいに私のことを大切に想ってくれている。きっと今後も殿下が暴走したらお兄様が助けてくれる。殿下のことは自分で抱え込まず、最初から何を言われたのか、その時に私はどう思ったのかをお兄様にちゃんと相談すればよかったのかもしれない。むしろ、私が言わなかったから、こんなことになっているのかもしれない。
「こんな姿、ミアに見られたら恥ずかしさで死にそうだ。」
「アレクはもう十分情けない姿を見せているだろう。今更変わらないと思うぞ。むしろ恥ずかしいのは俺の方だ。はぁ…ほら。」
お兄様は手を伸ばして殿下を立たせる。笑い合っているところを見ると喧嘩ではなかったのだろうか。男の友情は難しい。それにしても、このままここに居続ければ、私の存在がバレてしまうかもしれない。私はこっそり出て行こうと後ろへ下がった。しかし、オズリオ様に腕を掴まれてしまう。まさか…
「…オズリオには見られてしまったがな。」
「そうだな。いつ入って来たんだ?」
「少し前にな。セジルに入れてもらった。一応声をかけたのだが、気付かなかったか。」
殿下とオズリオ様が2人一緒にいるところを初めて見たが、仲は悪くないようだった。そういえば、業務の合間に剣術を学んでいるとオズリオ様が言っていた。オズリオ様が殿下の相手をしているのだろう。それにしても、オズリオ様はもう隠せないほどニヤニヤしている。オズリオ様はこのような表情もするのかと少し驚いた。
「ああ。悪かったな。」
「いや?ははっ!好都合だ。」
「好都合…?それより、オズリオお前…その手何を掴んで…ってまさか!!」
(あ、お兄様にバレてしまったわ…うぅごめんなさい…)
私が姿を消せることはお兄様はもちろん知っている。それで気付いたのだろう。お兄様は顔を赤くした。その顔を見られないようにか、腕で隠す。でも、銀髪だからか赤くなった顔が目立つので全然隠せていない。殿下とセジル様はお兄様の変化の意味がまだ分からないようだった。
「悪いなライル。街で会ったから連れてきた。それで、面白そうだと思って姿を隠してもらったんだ。」
お兄様はガクッと頭を垂れた。そして私に近づいてくる。オズリオ様が掴んでいる手の向きから私の居場所を割り出したのだろう。いつものように私の頭に手を置いて撫でてきた。まだ姿を現さない私にそのまま話しかけてくる。
「失望したか?」
「…いえ。私がもっと…ちゃんと相談すればよかったの。おに……ライル様の手を傷つけてしまいました。あと…ありがとうございます。」
私の声に殿下とセジル様が目を大きく見開く。2日ぶりなので、声だけで私が誰なのか分かったはずだ。皆に、もう存在がバレてしまったのだが、私はまだ隠れたままだった。
「どうして姿を見せないんだ?」
「私も…顔が赤いので…いえ、そんなことも言ってられないですね。」
私は魔法を解除し、姿を見せた。
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