1章 忍び寄るフュナンゼ国8
また遅れました。本当にすみません。
更新日は水・金・日です。
今回もグレイル王子目線です。思いの外、長くなってしまいました。
(ここで休憩か、後少しなのだが……私も焦っているな。)
ミリアリアの希望で、暗殺の直前に休憩になった。兄妹の会話からするに、ミリアリアはトイレに行きたいのだろう。生理現象は仕方がない。私は深呼吸をして自分を落ち着かせた後、前を進む荷台へ向かい、護衛に指示をする。
「ライル・レノヴァティオから目を離すな。向こうの護衛と会話でもしてろ。」
「はっ。」
本音を言えば、ミリアリアからも目を離したくはなかったが、流石にそれはできない。それに、暗殺対象はライルなので、ライルから目を離さなければ問題ない。私は誰にも聞かれないようにラルフに最後の確認をする。
「アルム、もう少しだ。問題ないな?」
「はい。あちらも問題ないとのことです。」
私が馬車と並走している間に、鳥を使って賊に扮した者と連絡が取れたようだ。計画は順調だ。何も問題ないはずだが、妙な胸騒ぎのせいで、何か見落としているのではないかと不安になる。そうこうしているうちに、すぐにミリアリアが戻ってきた。時間にして20分程度…妥当な時間だ。
(なっ!………おいおい…これは殺気か?)
冷や汗が背中を走っていく。戻ってきたミリアリアの様子は変わらないものの、かすかに殺気を放っていた。私は昔から命を狙われることが多かったので、敵の殺意には特に敏感だ。今までの経験上、これくらいなら殺気というよりは殺意に近いものだろう。しかし、いきなりなぜ殺意を持ったのか…まさか計画がバレてしまったのだろうか。心の臓が早輪を打つ。何かが起こる前に計画を実行させた方がいいと判断した私は、休憩をやめてすぐに出発するように指示を出した。
休憩前と同じように馬を30分走らせた。大きな問題もなく、このまま街に到着しそうな勢いだ。
(そろそろ襲われてもいいはずだが…どうなっている?確認しに行きたいが、先ほど休憩したばかりだ…言い訳を、上手い言い訳を考えなければ…)
「ん?何か血の匂いがしないか?」
ライルの護衛が匂いに発言した。確かに、血の匂いが茂みの方からする。
(茂みの方…確か、茂みに彼らは隠れて……まさか!!)
馬車は止まり、血の匂いがするところにライルの護衛と一緒に向かう。近付くにつれ、血の匂いが濃くなるどころか、吐き気がするほどに血生臭い。
「なっ何だこれは!!」
「これは…賊ですかね…皆殺しというやつですか。」
頭の一部が飛び出ている者、胸当てが破壊されている者、首を切り落とされている者、皆変わらず死んでいた。生い茂っている緑が赤に染まっており、血の匂いが充満している。私は目の前の惨状が信じられなかった。放置された死体の山。私が用意した者たちで間違いない。ラルフは直前に確かに「問題ない」と連絡をとっていた。となると、その後に殺されたというわけだ。
「殺されてからそんなに経っていないな…」
「一撃で全て倒しているので、相当な手練れでしょう。誰が一体こんなことを…」
隣にいたはずのライルの護衛が、いつの間にかラルフと私の護衛に変わっていた。ラルフにいたっては普段の言葉遣いになっていたので焦ったが、近くに私達しかいないのなら問題ない。
(それにしても……いや、私達しか!?まずい!)
焦って馬車の方に戻ると、馬車は既に出発準備が整っていた。引き止めようとするも、ライルは適当な理由をつけて出発した。逃してしまった。しかし、頭にあるのは、誰が・いつ・どうやって彼らを皆殺しにしたのか、何故妹のミリアリアだけ残されたのか…ライルを殺さなければいけないという計画がどうでもいいと思えるくらいに、頭は別のことを考えるのに必死だった。
私はまた深呼吸をする。正常に思考ができるように時間をかけて頭を整理する。
(タイミングよく出発したあたり、ライルの指示であることは間違いない。やられた…一体いつからこちらの思惑に気付いていたのだろう。)
計画は失敗したが、今できる最善を考える。ミリアリアがこの場を収めると言ったので、上手く丸め込み、街へ誘導した。ラルフには死体の検分を頼み、私はミリアリアを観察する。普通、妹を暗殺集団の中に1人置き去りにするはずがない。おそらく、何か目的があってミリアリアはここにいるのだろう。今は様子を見るしかない。
「あの…今の服は目立つので、店に行ってきますね。ここまでありがとうございました。あとは大丈夫ですよ。」
宿に着いてすぐ、ミリアリアは買い物に出かけるという。目を離すわけにはいかないので、一緒に着いていくことにした。頭の悪い無知な女性なら、惚れさせて言うことを聞かせるということもできるが、今の私は商人のクイル、フュナンゼ国第2王子グレイルの姿ではない。それに、一応無知なふりをしているようだが、貴公子の兄を持つミリアリアを誘惑できるとも思えなかった。
ミリアリアは髪を栗色に変える。髪色を変える魔法は、貴族御用達だ。しかし、魔法の力量により変更できる髪色は限られる。その場限りの色なら簡単だが、栗色や金髪は塩梅が難しく、魔法をかけるたびに濃淡が変わってしまうという難点があった。
「変装するなら、手を繋いだ方がいいでしょう。髪色を変えても、ミリアリア様は美しいので、すぐに声をかけられてしまいますよ。」
「ふふっありがとうございます。」
彼女の手はとても冷たく、夏なら心地の良い温度だっただろう。しかし、今は冬。それに彼女の目的も正体も分からない今の状態は……私には、彼女の手の冷たさが気味悪く思えた。
「髪色はよく変えているのですか?とても自然に魔法を使われていましたので…」
「髪色の変更は貴族御用達ですもの。それに、どこでも銀髪は目立ってしまいますからね。」
彼女の銀髪はどこへ行っても目立ってしまう。その彼女の姿を見たという話は聞いたことがないので、普段から髪色を変えて生活しているのだろう。社交界では羨ましがられるだろうが、ひっそりと生きるなら邪魔な髪色だろう。
その後、彼女とは何事もなく買い物を終わらせた。今のうちに踏み込んだ質問をしようかとも思ったが、途中でやめた。彼女は変わらず殺意を私に向けている。好意があるようなことも言うが、全て演技なのだろう。彼女の目的は未だに分からないが、こちらを探っているのかもしれない。どこまでこちらのことを把握しているのだろう。ラルフと合流次第、こちらから踏み込んでもいいのかもしれない。
「ミリアリア様、お口に合いますでしょうか。」
「ええ。とても美味しいわ。」
結局、ラルフと合流し、こちらの体制が整った夕食で勝負に出ることにした。ラルフは殺気を感じていないようで、私の話す意味を理解できないだろう。ラルフには何も伝えず、一応、睡眠薬をデザートに混ぜるように指示をした。睡眠薬の効果があれば、手足を縛った状態で脅すなり、フュナンゼ国に連れ帰るなりすればいいが、もし、ミリアリアが想定以上の何かをすれば、その度に考えて行動すればいい。
食事が終わり、ミリアリアが席を立つ。睡眠薬の効果は個人差があるが、彼女にはまだ効果が見られない。彼女から感じる得体の知れない恐怖がじわじわと近づいてくる。
(今しかない…!)
彼女を馬鹿にするように、挑発するように発言した。ラルフからの視線が痛いが、私はラルフのことを無視して彼女の仕草、目線、表情の筋肉、全てに集中する。彼女から得られるものは見逃さない。これ以上、失態を晒すのはごめんだった。しかし、彼女は殺気についても意味がわからないと言うような表情をする。まさかの彼女は無自覚だった。今日、私は彼女から殺気を向けられて気が気じゃなかった。それなのに彼女は分からないと言う。
(腹が立つ…私だけ振り回されたというわけか……くそっ!)
煮え立つ心を抑えながら、私は彼女への挑発をやめなかった。話をする限り、彼女はライルのように頭が特別優秀というわけではないらしい。貴族特有の言葉遊びも苦手のようだ。机で距離をとり、後ろには護衛も含めて3人が私を守っている。臆することはない。
「分かるように教えていただけますか?…グレイル・フュナンゼ。」
ミリアリアはあっさりと私の正体を吐露する。まさか、私の正体まで見破られているとは思っていなかったが、情報の優位性は会話をする上で大事だ。かなり驚いてしまったが、簡単に情報を漏らすミリアリアに対し、口では負けないという自信がつく。
(この場の主導権は渡さないぞ。)
しかし、予想以上にミリアリアが規格外の化け物だということを知り、会話での主導権なんて何も意味を成さないということを私は数分後に知ることになった。
読んでいただきありがとうございました。
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次話でグレイル王子の話が終わります。




