1章 忍び寄るフュナンゼ国7
数分遅れました。
更新日は水・金・日です。
グレイル王子目線です。2.3話くらい続きます。
「グレイル王子、ライル・レノヴァティオの暗殺を依頼します。」
「…いいだろう。こちらにも悪くない提案だ。」
セレリィブルグ王国の宰相と秘密裏に取引をするようになって早数年。ついに計画が佳境まできた。宰相であるキーシャス・レギイラ侯爵は今のセレリィブルグ王国に不満を持っているようで、使者としてフュナンゼ国にやってきた時に魅力的な提案をこちらから匂わせれば、すぐに取引を持ちかけてきた。誘導したのはこちらだが、取引に関しては、こちらがキーシャスの計画に便乗するような形に整えた。これで、キーシャスの計画が失敗しても私が被る罪は最小限に抑えられる。それに、国王の信頼も厚く、用心深いキーシャスの計画が失敗するとも思えなかった。
「キーシャスの計画通りならば、もう少しでセレリィブルグ王国の王都は混乱の渦に巻き込まれる。そして、その混乱を鎮める指揮者もいなくなるはずだ。」
「その隙に攻め込むのですか?」
「攻め込むのは状況を見てからだな。この隙にスパイをセレリィブルグ王国に大量投入しろ。あとは、今後障害になりそうな貴族も何人か暗殺すればいいだろう。全ての責任はキーシャスが仕立て上げた黒幕に押し付ければいい。」
「かしこまりました。」
私は側近のラルフに指示をした。理想を言えば、私がフュナンゼ国の王となった後にセレリィブルグ王国を攻め落としたいが、先ずは王にならなければ話にならない。キーシャスに便乗して、セレリィブルグ王国をある程度弱体化させた戦果で王太子の座をいただくことも考えていた。しかし、本命はスパイを使ってセレリィブルグ王国を裏から操り、後に大敗させることだ。
目先の欲に走れば、目が曇った状態のまま死ぬ。私はそんな阿呆な真似は絶対しない。
私は絶好の機会を待ち続けていた。
……
「本当にグレイル様も行かれるのですか?」
「ああ。上手くいけばアーマードグリズリーで片は付くが、確実に殺す必要がある。ライル・レノヴァティオは今後、大きな障害になるぞ。…盗賊に扮した者達の準備もできているな?」
「はい。抜かりありません。」
セレリィブルグ王国で権力を誇るレノヴァティオ公爵家の次期当主を殺害する。彼は宰相補佐官をしているのでキーシャスの方が暗殺しやすいだろうと思うが、その分証拠が残りやすい。レノヴァティオ公爵家の弱体化は私にとっても悪くないことだったので私の方で暗殺を請け負うことにした。
「王都からはまだ距離があると言っても、セレリィブルグ王国内であることには変わりありません。お気を付けください。」
「分かっている。」
ラルフから入念に確認される。自分の判断に間違いはないと自信を持っているが、一応ラルフには何度も確認するようにわざと言っていた。保険は多いほどいい。特に、自分の目で見て判断しないと気が済まない性質だとなおさらだった。
「アーマードグリズリーを誘導できているか?」
「はい。罪人に誘導させています。罪人は死ぬでしょうが、計画に支障はありません。」
「なら良し。お前はアルム、私はクイルだ。商人に扮するための物も準備できているな?」
「はい。十分すぎるほどです。本当にここまで必要なのでしょうか?」
「準備しすぎるに越したことはない。このまま向かうぞ。」
「「「はい!」」」
私は、ラルフもといアルムと護衛2人と一緒に目的地へ出発した。
殺害計画は、まずアーマードグリズリーをライル・レノヴァティオが通る道中に誘導させる。そして、保険として私達が囮になり、盗賊に扮した23名で確実に殺すというものだ。アーマードグリズリーはAランク冒険者パーティでも手こずると聞いた。キーシャスの情報が正しければ、ライルの護衛は少ないはずなので、これでも過剰戦力になるはずだ。実際、アーマードグリズリーを誘導するだけで、罪人10数名の命が失われる。しかし、私はさらに保険をかけ、私自ら誘導し、盗賊を待機させる。
目的地につき、私たちは保険を準備しながら、計画が順調に遂行されているか確認する。
「アーマードグリズリー誘導班からの連絡が来ません。連絡が遅れているのか、成功したが連絡係がアーマードグリズリーに殺されたか、失敗したか…」
「もう暫く待っていよう。もし、アーマードグリズリーがこちらに来たら馬に乗って逃げるぞ。」
「はい。」
ラルフは伝達用の鳥が来ないかとずっと空を見ている。護衛はアーマードグリズリーがやってきた時にすぐに反応できるように構えていた。ここは障害物が少ない場所なので遠目からでも魔獣の姿を視認できる。それに荷台から馬を外した状態で待機しているので、アーマードグリズリーが来たらそれぞれ馬に乗りすぐに逃げる体制も出来ていた。
私達はじっと待った。
しかし…1番可能性が低かったものが姿を表した。
「グレイル様、馬車が来ます。…まさか!アーマードグリズリーを倒して…」
「ここから見た限り、負傷者を伴っているわけでもありません。失敗した…のか?」
「落ち着け。ラルフ、連絡頼んだぞ。」
「はい。」
護衛が信じられないというように小声で様子を報告する。アーマードグリズリーを倒してきたのか、失敗したのか分からないが、保険を用意して正解だったようだ。ラルフには馬車を襲うため、後方に控えている者達に連絡をしてもらった。馬車が近付いてくる。しかし、かなり速度を落としているようだ。
(警戒されているな…)
「予定通り、ラルフが接触する。ぼろを出さないように気をつけろよ。」
「「「はい!」」」
そうして、馬車が荷台の横に来た時にラルフが馬車の護衛に接触した。警戒されているようだったので、何か理由をつけて通り過ぎられると思ったが、すんなりライル・レノヴァティオは馬車から降りてきた。家名は名乗らなかったが、名前と目立つ容姿、誰が見てもレノヴァティオ公爵家の次期当主様だと分かる。
(噂以上の貴公子だな…これで婚約者がいないとは。セレリィブルグ王国の令嬢達は気が気じゃないだろうな。)
以前からセレリィブルグ王国の有力貴族について調査はしていたが、この暗殺のため、ライル・レノヴァティオについては入念に調べ直していた。宰相補佐官・王太子補佐・領地運営を任されており、それらを完璧にこなしている。いつもどこかに呼ばれており、本人を探すのが大変だと聞いた。この道中をこの時間に通ることはライルの上司で取引相手のキーシャスからの情報だ。そして、ライルはそれなりに魔法を使い、それなりに鍛えているので、それなりに闘えるとのことだった。つまり、戦闘に関しては物量で押せば何とかなるということだ。護衛も2人しかいない。おそらく大丈夫だろう。
そんなことを考えていれば、ライルの指示により、わざとに動かなくさせた荷台は元通りになった。勿論御礼を言うが、言葉だけで終わらせないようにした。これも商人らしさをアピールするいい機会だ。少しでも警戒を解いておくのに越したことはない。
「私も商人ですので、ここにあるものしか用意できませんが、それなりに品数を揃えているつもりです。何でも仰ってください。」
「では、女性用の靴はありますか?妹の靴が道中で壊れてしまって、困っていたのです。」
(は?妹?まさか1人ではなかったのか!)
虚を突かれてしまった。私は驚愕を声にも顔にも出していないが、ラルフが動揺してしまった。ライル・レノヴァティオしか馬車には乗っていないと決めつけていたせいだ。これは痛いミスだ。ライルはラルフの反応を見てどう思ったのだろうか。表面上、ライルは何も反応せず、女性用の靴を受け取り馬車に向かった。
(まずいな…だが、あとは誘導すればいいだけだ。まだ修正できる。それにしても、妹か…)
「クイル、すみません。」
「いや…いい。過ぎたことだ。このままアルムとして誘導しろ。私が兄妹の相手をする。」
「分かりました。」
ライルが馬車に戻っている隙に、荷台の陰で簡単に指示を出す。ラルフはポーカーフェイスが苦手なので今後のやり取りは私がした方がいいだろう。しかし、ライル・レノヴァティオの妹となると、ミリアリア・レノヴァティオのことだろう。彼女についてはほとんど情報がなかった。社交界にも顔を出さず、姿を見たことがある者すらほとんどいない。
(噂では、醜い容姿だとか性格が悪いだとか…色々あったが、いい噂は全くなかったな。逆に不自然なくらい…さて、実物は……)
馬車からミリアリア・レノヴァティオが降りてくる。
「え………」
時間がゆっくり流れていくのを感じた。
ミリアリアの手、腕、足…そして横顔。馬車から順番に目に入ってくる。そして全身が馬車から現れた。
ライルと同じ艶やかな銀髪に切長で菫色の瞳。そして透き通った薄い皮膚に整った容姿。紛れもなく2人が兄妹だということが分かる。アクセサリーなどはしておらず、服装も綺麗ではあるが地味。しかし、今までに会った令嬢達よりもずっと美しく、魅了された。
「ミリアリアと申します。」
彼女は心地の良い声で簡単に挨拶をする。思っていた通り、彼女がミリアリア・レノヴァティオだった。そして、そのまま私達も偽名で自己紹介をしていく。ラルフも護衛も彼女に圧倒されているようだった。
(兄妹で仲も良さそうなところを見ると、噂とは真逆のようだ。それにしても…この容姿、どこから噂が立ったのやら、もしかすると私と同じなのかもしれないな。)
私も表舞台にはほとんど顔を出していない。しかし、私の容姿を見たことがある者はそれなりにいるし、社交界にもたまに顔を出している。彼女ほど徹底しているわけではない。
私は馬車の隣に馬でぴたりと並んで、彼女を観察することにした。それに、あとは馬車を誘導するだけなので、兄妹を逃がさないように監視する必要もあった。
「道中にこんな美しい方と巡り会えるなんて私はとても運がいいようです。それにしてもお2人は本当によく似ていますね。」
「ありがとうございます。銀髪は珍しいですから、こうやって並ぶと特に似ているように見えてしまうみたいですね。」
「そうですね。お2人が並ぶと、とても迫力があります。」
「ふふっよく言われます。」
(本当に…殺すには惜しい…)
私は、彼女を殺すのか生かすのか、彼女と話しながらずっと考えていた。
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