1章 忍び寄るフュナンゼ国5
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「ミリアリア様、お口に合いますでしょうか。」
「ええ。とても美味しいわ。」
護衛2人は立ったままで、私はグレイル王子とアルムさんと3人で夕食を食べている。ここは宿の1階にある食堂だが、個室になっていて秘密の話をするにはうってつけだった。私は、引き続き態度を変えず、グレイル王子を気に入っているような素振りをしている。グレイル王子の感情は相変わらず、少しの緊張感があるだけだ。しかし、アルムさんの方は、私がグレイル王子に好意を見せると喜んでいる。私のことを扱いやすい駒になったとでも思っているのだろう。
「ギルドには問題なく報告ができましたか?」
「はい、大丈夫でした。ただ…原因と犯人を調査するため少し時間がかかるそうです。」
「そうですか。では、しばらくはこの街に滞在することになりそうですね。」
「はい。」
アルムさんは私をここに引き留めたいようだ。しかし。グレイル王子は何も反応を示さない。このまま時間をかけて情報を引き出すこともできるが、できれば早く帰りたい。そんなことを考えながら食事を続けた。
(…これは…睡眠薬が入っているわね。)
最後のデザートは、旬の果物を使ったケーキだった。女性なら喜んで食べるだろう。だが、この匂いは睡眠薬だ。果物の香りに隠れているが、確かに匂いがする。それに、デザートが出てきた時のアルムさんの感情に反応があった。睡眠薬だと知っていれば、食べてから吐くなり、魔法を使うなりすれば対処できるだろう。それに私の身体は丈夫なので睡眠薬の効果すらあまりないかもしれない。しかし、睡眠薬がどの程度の効果なのか分からない。こういうのは個人差があるだろうが、即効性なのか遅効性なのか…
(分かりやすいアルムさんの感情の変化に合わせて演技すればいけるかしら…?)
「とても美味しそうなケーキですね。いただきます。」
1口食べる。アルムさんは私がケーキを食べ進めるにつれて安心するようだった。このまま食べ進めて、アルムさんの感情に期待と焦りが見えてきたら眠るふりをすればいいだろう。
(それにしても…あまり、強い薬ではないのかしら?身体にも変化がないわね…私には効かない薬なのかもしれないわ。)
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」
「喜んでいただけたようで何よりです。」
結局、料理を全て食べてしまった。この宿は料理が有名なのだろうか。お世辞ではなく、とても美味しかった。この宿が問題ないことが分かれば、また食べに来たいと思うほどだった。さて、睡眠薬を入れたということは、何か行動を起こすはずだ。ポーションはあと1つ。服を買いに行った時にポーションを補充したかったが、グレイル王子がいたので買い足すことができなかった。魔力がそろそろ切れてしまう。
(一度、部屋に戻って…寝たふりをしましょうか。私が眠ったと判断すれば、情報を漏らしてくれるかもしれない。)
私は立ち上がると同時に、声をかける。
「私は部屋にもど……」
「そろそろ本音で話しませんか?ミリアリア・レノヴァティオ。」
「な!?」
(え?)
グレイル王子が私の名前を呼ぶ。少し驚いたが、グレイル王子含め4人対1人、私が不利な状況だ。正体を晒すには丁度良いタイミングとも言える。この夕食中に何か仕掛けてくる可能性はあると思っていたが、睡眠薬を忍ばせてきたので本性を出すのはもっと後だと思っていた。それにしても、アルムさんの方が私よりも驚いている。確かに、相談する時間を与えなかったのはお兄様と私だ。つまり、グレイル王子の独断ということだ。
「…本音、というのはどういうことでしょうか?」
私は、椅子に座り直してグレイル王子と向き合った。いつでもポーションが飲めるようにこっそり準備する。
「とぼけないでください。その殺気、他の者は欺けても私を欺くことはできません。」
(え?どういうこと?殺気?)
グレイル王子の言っている意味が本気で分からなかった。私は情報を得るためにグレイル王子達と同行しているが、殺そうとは思っていなかったからだ。アルムさんの方を見るも、彼も意味が分からないという顔をしていた。
「…まさか、自分で気付いていないのか?」
「何のことですか?」
私の返答に、堪え切れないというようにグレイル王子は笑う。何も状況が把握できていない今がとても不快に感じた。
「ははっ!!面白い!相当のブラコンか、それとも暗殺が気に食わなかったということでしょうか?」
グレイル王子はもう猫をかぶることを辞めたようだ。それにしても暗殺。お兄様を殺そうとしたことを隠すつもりはないらしい。しかし、アルムさんの表情が真っ青だ。
(色々考えるのが面倒くさくなってきたわ。早く帰りたいのに……もう、ポーションも少ないし、いっそのこと…)
私は覚悟を決める。どうせ、私を殺せる人はこの中にいない。
「分かるように教えていただけますか?…グレイル・フュナンゼ。」
「「!!」」
「…へぇ…………やはり私の勘違いではなかったようですね。……ミリアリア、貴女はずっと殺気を放っています。無意識のようだが…」
(私が、殺気を…?)
自問自答する。私は彼らを殺そうとは思っていなかった。でも、お兄様を殺害しようとした者をこの世に残しておくつもりもなかった。私が、心の奥で殺したいと思っていたことを感じとったということだろうか。
「そうですか。指摘されて初めて気付きました。お恥ずかしい限りですわ。お兄様の命を狙ったというのがどうしても許せなかったようです。」
「殺気を放っているくせに、好意があるような口ぶりをするので気味が悪かったですよ。…さて、本音で話そう。どこまで知っている?」
明らかに口調が変わる。周りの空気も比例して重くなった気がする。アルムさんも護衛2人も額に汗を流していた。
「どこまで…というのは?私も簡単に情報を漏らすような真似はしませんわ。グレイル様?」
「質問を質問で返すな。…死にたくないだろう?」
アルムさんが何度か発言しようと口をパクパクさせるが、何も声になっていない。独断で発言する王子に冷や冷やしているのだろう。グレイル王子は主導権を握っていると私に思わせるために、優位な者の話し方をする。だが、力関係はおそらく私の方が圧倒的に上だ。
「私を殺せると思っているのですか?アーマードグリズリーを一撃で倒す私を?賊を一瞬で皆殺しにする私を?…思い上がりも甚だしいですわ。」
「!!!」
「なっ!!あの死体は貴女がつくったというのですか!!」
やっとアルムさんが発言する。私の見たかぎり、アルムさんはグレイル王子の側近というところだろうか。私はグレイル王子の目を見て問う。
「信じられませんか?」
「……証拠がない。小娘がこの場を生き残るためにハッタリを言っているようにも思える。しかし……不可能ではない。」
私はポーションを彼らの目の前で飲んだ。そろそろ魔力が底を尽きかけていたし、ちょうど相手は怯んでいる。それにこの状況でポーションを飲むということは、魔法を発動していたという証拠にもなる。何の魔法を発動していたのか、何のためにポーションを飲んだのか、勝手に妄想して思考を止めてくれたら幸いだ。
(この場の主導権は絶対に渡さないわ。)
「私はケーキを食べました。しかし、未だに何の反応も異常もありませんわ。何故でしょうか?」
「……。」
「そ、それは…」
ケーキには睡眠薬が入っていた。彼らが用意したものだ。しかし、私は睡眠薬を吐いたり、魔法を使った素振りを見せていない。彼らはさらに混乱するはずだ。
(…もう一押し!)
「まだ、死にたくありませんよね?」
「「っ!!!」」
私はグレイル王子と同じ言葉を返してやった。お兄様を、私の愛する家族の命を狙ったのだ。相手は盗賊でも指名手配犯でもなく王子。殺したくても殺すことはできない。
(でも、脅すくらいはしてもいいでしょう?)
私は公爵令嬢として相応しい笑顔を彼らに向けた。
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