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1章 忍び寄るフュナンゼ国4

水・金・日に更新予定です。


「このような形になってしまい申し訳ございません。よろしくお願いいたします。」


「は、はい…。」


お兄様と護衛2人は王都へ向けて出発した。街に泊まるとグレイル王子達に追いつかれてしまうので、今日は一晩中馬車を走らせることになるだろう。夜になると活発化する魔獣もいるが、エルもいるし何とかなるはずだ。しかし、私の思いはどの距離までエルに届くのだろうか。調べる必要がありそうだ。


「では、まずギルドへの報告が必要です。どなたか先にギルドへ馬を走らせて報告をお願いします。その後…」


「ミリアリア様、話を遮ってしまい申し訳ございません。よろしいでしょうか。」


グレイル王子が手を挙げる。私は一般的な対応を発言したに過ぎない。彼らが今後どのように対処するのかはまだ分からないが、死体の処理・監督はさせてもらえないだろうと最初から分かっていた。


「どうぞ。」


「はい。私は、まだ若造と呼ばれることが多いですが、それなりに商人の経験をアルムと共に積んでいます。今日のような事態に遭遇したこともありますので、私たちに任せてもらえないでしょうか。」


「任せる…というのは、死体を見つけた責任を負うということでしょうか?」


「はい。ただ…先ほどもお伝えしたように私たちはただの商人。身分が低いので、何かと面倒を押し付けられることもあります。そういう時はミリアリア様の貴族の力を貸していただきたいのです。」


(流石、完璧な理由だわ…頭の回転が早いのね。)


表向きは、死体処理などの汚れた業務は商人である私たちに任せて、貴族の力は場合によって貸して欲しいということ…1人残された私のことを気遣った言葉だ。全てこちらで行うから貴方は何もしなくていいと言うと、残された私の立場がなくなってしまう。だが、この言い方なら貴族を敬った言葉になる。しかし、本当の意図は、死体についてギルドで調べられたら困るが、私を逃すわけにもいかないというところだろう。今ならお兄様を追いかけることもできる。その選択肢も潰してくるあたり、何か私に仕掛けてくるのは間違いない。


「分かりました。では、お任せします。」


「はい、お任せください。」


「…では、ミリアリア様とクイルはこのまま街へ向かってください。私はここに残ります。」


アルムさんが指示を出す。そして護衛はそれぞれに1人ずつ付き、私たちと一緒に街に向かう護衛がギルドへの報告を担うということになった。実際は報告などしないだろうが。


「では、クイルさん。よろしくお願いします。」


「こちらこそ、美しい方と一緒だなんて光栄です。」


そして、アルムさんの指示通り、私たちは街へ向かった。道中は馬車での移動の時と同じようにグレイル王子が話しかけてくるのでそれに答えるような形になった。ここでの質問も必要不可欠な当たり障りのないことばかりで、街には行ったことがあるのかとか、街での宿は決まっているのかということだった。私は街には行ったことがあるが、宿はお兄様に任せていたので分からないと答えた。本当は街に行ったことがないと無知なふりをしたかったが、不自然になるので正直に答えた。普通、行ったことがない街に妹を1人で残していくようなことはしない。貴族であるなら尚更だ。宿はもちろんとっていない。ただ、できるだけ無知を装うためにお兄様の名前を借りた。


(とりあえず、今のところは無知を装いましょう。グレイル王子には見抜かれているかもしれないけれど…)


そうして、私たちは街に到着し、護衛は表向きギルドへ向かった。グレイル王子は宿をとっているということで、私を誘導する。ただ懇意にしている宿なのか、フュナンゼ国に買収された宿なのか、気になるところだが、宿の確認はわざわざグレイル王子達がいる時じゃなくても確認ができるので後回しだ。貴族を誘導できる宿ならばそれなりに高級なところなのだろう。


「ここが私たちが泊まるところの宿です。ミリアリア様はお1人ですし、私たちと一緒の方がいいでしょう。」


「わざわざありがとうございます。」


そうして、私の代わりにグレイル王子は私の泊まる部屋を用意してくれた。今のところは全て誘導されて、従っている。どこまで私の自由はあるのだろうか。部屋に違和感がないか魔力で確認した後、グレイル王子に話しかける。


「あの…今の服は目立つので、店に行ってきますね。ここまでありがとうございました。あとは大丈夫ですよ。」


私の服は王宮で用意されていた服だ。地味といっても平民からすれば豪華に見える。これを口実に1人になれるかどうかを確認する。


「それなら私もついていきます。この街は比較的治安はいいですが、絶対に安全というわけではないですから。」


やはり、1人にはさせてくれないようだ。このまま無知なふりをして情報を聞き出すか、強引に記憶を覗くか…私は悩んでいた。2人きりの今なら記憶を覗くことができるが、リスクが高い。魔力の消耗は激しいし、時間もかかる。それに記憶を覗いた後の処理が難しい。グレイル王子の記憶を除いたという記憶を消すこともできるが、数時間の記憶が消えるのは流石におかしいし、グレイル王子の身体にも違和感が残る。私はこのまま無知なふりを続けることにした。


「ありがとうございます。では、お願いします。」


私は、目立つ髪色を栗色に変えて、グレイル王子と宿を出る。外に出た後、グレイル王子は私の手を握って歩いた。


「変装するなら、手を繋いだ方がいいでしょう。髪色を変えても、ミリアリア様は美しいので、すぐに声をかけられてしまいますよ。」


「ふふっ、ありがとうございます。」


(さっきから私はお礼ばかり言っているわね…それにしてもこういうところは殿下に似ているわ。)


少し強引に距離を詰めてくるところがアレクシル殿下に似ていると思った。そういえば、最近殿下の魔力を整えていない。倒れるほどではないが、体調が悪いのは変わらないはずだ。最近は体調どころではないことばかりだったので忘れていたが、次に会った時は、お兄様の監視の下、魔力を調整しようと私はグレイル王子と手を繋いで歩きながら予定を立てた。


「ミリアリア様は貴族なのに、私のような平民にも分け隔てなく接してくれますよね。普段からこうやって街を歩くことに慣れているのですか?」


(やっと、探りを入れてきたわね。)


「ええ。私は普段、貴族としてあまり活動をしていませんから。貴族としてお恥ずかしい限りです。」


「いいえ、ミリアリア様の姿を見て、誰も恥ずかしいなんて思いませんよ。」


「…クイルさんはとても優しいのですね。そんな風に言ってくださる方は今までいませんでした。…嬉しいです。」


(好意があると思わせれば、どうなるかしら?)


「いえ、そんなことはございませんよ。」


手を繋がれたので、好意があるような言い方をしてみたが、グレイル王子にはあまり響いてはいないようだ。魔力を確認しても、ずっと同じような緊張感を持ったままで、私の言葉に響いたような感じはしなかった。


「クイルさんはいつから商人をされているのですか?」


「もう5年ほどになります。でも商人としてはまだまだ未熟者ですね。」


「いいえ、とても立派だと思います。」


「ありがとうございます。」


(…やっぱり何も響かないわね。好意を持っている風に装うのは無駄ということかしら?他の3人と比べて感情も読みづらいし、なかなか難しいわ。)


こうして、2人で会話をしながら必需品を買いに行くも、何も得られる情報はなかった。私について関心がないというわけでは無さそうだが、言及してくることもない。お兄様や私についての質問もされたが、調べればすぐに分かるような質問ばかりだった。お兄様を殺害しようとしている人がレノヴァティオ公爵家について調べていないわけがない。この質問に何の意味があるのだろうか。それとも私のことを計りかねているのだろうか。


そうこうしているうちに、アルムさんが私達を見つけ、護衛も含め、5人で宿に戻ってきた。

読んでいただきありがとうございます。

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次話以降も読んでいただければ嬉しいです。

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