1章 忍び寄るフュナンゼ国2
作者の都合により、今後の更新は土日になります。
「ライル様、200mほど前方に停車している商人らしき荷台がございます。」
「…分かった。少し速度を落として様子を伺いながら進め、どのみちこの道を通るしかない。」
「はっ!」
オウルがお兄様に状況を報告する。お兄様の命が狙われていると分かった以上、この道中は危険だ。王都と違って、大胆な行動に出ても証拠が残りにくい。敵にとって、「魔獣や盗賊に襲われた」という一言で片付けることができてしまうからだ。私は細心の注意を払うために、前方にある荷台や人物を魔力で探った。ただ、手元にはお兄様からもらったポーション2本しかない。魔力の無駄遣いはできない。
(荷台は…おそらく武器がメインの商品ね。でも特段怪しいものがあるわけではないわ。武器を扱う商人は多いものね…次は人…)
「お兄様、4人いるわ。…この魔力、セレリィブルグ王国の人間ではないわ…」
商人であるならば他国出身なんて普通だ。私は、ただの商人の可能性が高いと当たりを付けつつ、最後の4人目の魔力を探る。そして、どこかで感じたことのある魔力だと思い記憶をたどる。
(この魔力…どこかで…絶対にどこかで、いつだったか注視した気がする。…思い出すのよ…)
「ミリア?どうした?」
「どこかで感じたことのある魔力だわ。もう少しペースを落とせるかしら?」
私はお兄様に馬車の速度をさらに落としてもらう。他国の人間の魔力を注視したのはいつだったか。よくギラに他国に連れて行ってもらった時…でも街にいる時は魔力を感じても個人を注視することなんてほとんどない。気をつけなければいけない人物がいた時、もしくは…王宮に侵入した時くらいだ。そして今はフュナンゼ国にお兄様が狙われている。
(そうよ!フュナンゼ国の王宮で…確か、滅多に出てこない王族が……まさか!!!!)
私はお兄様に前方の人物が誰なのかを伝える。あと50mもない中、私とお兄様はこの後どうするのかを急いで話し合った。今はお兄様の命が狙われており、私は自分の身を守ることができる。お兄様は悔しそうな顔をされたが、今は時間がなかった。
そして、商人の荷台の横に馬車が到着する。お兄様と私は聞き耳を立てた。
「すみません。」
「どうした?」
「荷台の車輪が道の窪みに嵌まってしまって…いい方法がないかと途方に暮れているところなんです。ここら辺は魔獣も出るし…御礼はするので助けてもらえませんか?」
思った通り、商人たちは私たちに接触してきた。魔獣が出るとまで言われてしまえば、普通の貴族なら無視することなどできない。車輪を元に戻せば、別の理由を付けて一緒に次の街まで行こうと言うのか、それまでに何か仕掛けてくるのか、まだ分からない。
「確認するので待っていてください。」
オウルはお兄様に状況を報告しに馬車の小窓を開ける。正直、どのような会話をしていたのかは、伺っていたので知っているが、改めてオウルから報告を受ける。その後、お兄様は馬車から降りて状況の確認に向かった。お兄様の性格上、こういう時は自ら状況を確認したり、指示したりする。それは相手も知った上で接触してきているはずなので、ここでお兄様が姿を見せず、馬車に待機しているのであれば、「警戒していますよ」と相手に悟られる可能性があった。
「どうしましたか?」
「これはこれは…貴族の方でしたか、大変申し訳ございません。荷台の車輪か道の窪みに嵌まってしまったようで、困っていたところだったんです。」
「そうでしたか。それでしたら、少し荷物を荷台から下ろして皆で荷台を持ち上げましょう。この人数がいれば何とかなるでしょう。」
「ありがとうございます。助かります。」
お兄様が先に商人に扮している4人に会い、護衛も私もお兄様を守るために様子を伺う。護衛は直接お兄様の隣に、私は馬車から魔力を放っていつでも対応できるように構えていた。しかし、何事もなく作業は進み、荷台は元通りになった。相手は4人、もしかすると確実に殺すため、どこかで数人待ち構えているのかもしれない。私たちがアーマードグリズリーを無傷で倒してここまで来ていることは、知っているはずだ。相手も警戒しているのだろう。4人からはそのような感情を感じた。そして…私の存在を彼らはまだ知らない。
「ありがとうございました!これで問題なく進むことができます。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。こういうのは助け合いですから。」
「ありがとうございます。御礼をさせていただきたいのですが、何かお望みのものはありますか?私も商人ですので、ここにあるものしか用意できませんが、それなりに品数を揃えているつもりです。何でも仰ってください。」
(さすが、商人らしい回答ね。普通はここまでされれば誰も商人に扮しているとは思わないだろうけど、甘かったわね。ただ、アーマードグリズリーを用意し、失敗した時のためにこうやって偽装の準備もしている。相手はお兄様を全く舐めていない。正直、1貴族を殺すには過剰戦力だわ。)
「では、女性用の靴はありますか?妹の靴が道中で壊れてしまって、困っていたのです。」
「え?妹さん?あ…ああ、ございますよ。サイズが合えばいいのですが…。」
そうして、商人は女性用の靴をお兄様に渡す。やはり妹が同乗しているとは思っていなかったのだろう。少し焦った動きを見せた。お兄様は靴を持って私がいる馬車にやってくる。正直、靴をもらえたのはありがたい。王宮から転移したので私は外を歩く用の靴を履いていなかったからだ。
「お兄様…。」
「ミリアの言う通りだろうな。すまない…頼めるか?」
「ええ。もちろんよ。」
私はお兄様から靴を受け取り履いた。今の服には合わないが、外を歩くには十分で、サイズも問題ないようだった。そして私は、お兄様に手を引かれ、馬車から降りて姿を表す。
「こんにちは。私はミリアリアと申します。靴、どうもありがとうございました。助かりました。」
「あ…いえいえ、こんなに美しい妹さんがいらしていたとは…私は商人のアルムと申します。」
アルムさんは見た目30歳くらいだが、苦労人のようで人生経験を積まれた貫禄のある方だった。ただ、商人のような話し方をしているが、実際は違うのだろう。私を見て相当焦っているようだった。商人であれば、お金を持っていそうな若い女性は物を売り込むチャンスであることが多いので、喜ばれることが多いのだが、アルムさんは何もしない。代わりに、アルムさんは他の3人を紹介してくれた。
「こちらは、商いを手伝ってくれている者で、クイルです。そして後の2人は護衛として雇いました。」
「クイルと申します。お見知り置きを。」
(クイル……確か、本名はグレイル・フュナンゼ。フュナンゼ国の幻の第2王子。こんな大物が、こんなところにいるなんて…)
彼はフュナンゼ国では、あまり姿を表さないことで有名だった。フュナンゼ国では派閥争いが激しく第1王子から第12王子まで継承権がある。そして、その中でも次期王として有力視されているのが第1王子と第4王子だった。今、目の前にいる第2王子はどちらかというと表舞台に姿を表さず、病弱と言われている。しかし、水面下では活動的で虎視眈々と次期王の座を狙っていた。以前、私がフュナンゼ国の王宮に忍び込んだ時、彼を見たことがあったが、第4王子を裏で操っているようだった。その時、王でも第1王子でも第4王子でもなく、1番危険なのは第2王子だと私の脳が警鐘を鳴らした。今は商人のような格好をしており、頭にターバンのような布を巻いている。顔は整ってはいるが、普段からよく偽装をしているのだろう。特に目立つ特徴がない。強いていうなら、深い海のような瞳が美しい。彼は自己紹介後、すぐに提案をしてきた。
「もし、よろしければ次の街まで一緒に向かいませんか?ここら辺は魔獣も盗賊も出ると言われています。護衛もいますし、一緒の方が何かと安全でしょう。」
(予想通りだわ。)
正直、すぐに彼らと離れて急いで王都に向かいたいが、普通はここで「一緒に行きましょう」となる。貴族の体面というのは厄介だ。ただ、一緒にいれば私たちも彼らを監視することができる。それに、こうなるだろうと予想していたので、先ほどお兄様と立てた計画を実践することになったというだけだ。
「そうですね。私たちもその方が安心です。ね、お兄様。」
「そうだな。道はそこまで広くないのでどちらが先頭を行きますか?私たちはどちらでも構いませんよ。」
「では、私たちが先頭を行きましょう。」
こうして、グレイル王子達が先頭を、私たちはその後ろを進む形となった。
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次話は土曜日更新予定です。




