1章 規格外な妹
作者の都合上、更新曜日を水・金・日に変更します。
頑張って更新するので読んでいただければ嬉しいです。
今回はライル視点になります。
「お兄様…!!」
妹が駆け寄ってくる。本当に俺のことを心配したようで、不安な表情をしている。ミリアは昔から家族の誰かが危険な目に遭うとこの世の終わりだというような表情をすることがよくあった。しかし、親しくない人間の命は軽いようなので情に厚いとかお人好しとかいうわけではない。今は、ミリアに対して「大丈夫だ」と言ってやりたいが、状況が状況なので、大丈夫なのかどうかの判断ができない。
「ミリア…色々聞きたいことがありすぎて、何から聞けばいいのか俺も混乱しているが!まず、後ろのグリフォンは何だ!?というかグリフォンなのか!?」
「え?あ、…そ、うね。グリフォンで合っているわ。他にも色々混ざってはいるけれど。この子はエル。私の……えーと、友達。」
「はぁ?友達!?どうやったらグリフォンと友達になるんだよ!……お前の奇行にはもう驚かされないと何回思い直したことか、一生叶わないな。」
「あはは……」
本当にミリアの生態はよく分からない。俺も非凡だとよく言われるが、ミリアに比べれば、俺なんてただの平凡な一般人だ。同じ両親から生まれたはずなのにどうしてこうも違うのだろうか。…今のミリアの回答から、ミリアはグリフォンに乗ってここまで来たということが分かる。空を飛べば障害がなく一直線に進むことができるのでかなり速く移動できるはずだ。それで、俺のことを見つけたのだろう。そして、おかげでもう1つ疑問が解消された。
「ミリア……お前…フェレスだろ?」
「え?何で…そ、ンな、ことあるわけ……ないじゃない。」
「あ?」
「…あるわけ………ない………コトモナイ…カモ?」
「は?なんて?声が小さくて聞こえない。」
声は小さいが実際は聞こえている。ミリアは秘密主義だ。まだまだ兄である俺に言っていないことがたくさんあるのだろう。俺がミリアについてある程度把握できているのは、ミリアが俺に対して詰めが甘いからだった。妹は、すぐに聞き捨てならないことをポロっと零す。もう爆弾をこぼされるのはこりごりだ。爆発する前に回収するのがどれだけ大変なのか妹は分かっていない。
「……おい。」
「私が…フェレスです。……ごめんなさい。」
「はぁ。どうやって国を数日で移動してるのか分からなかったが、グリフォンに乗って移動してたんだな。」
「え?あ……実は、そうなの。」
(おいおいおい。移動手段はグリフォンじゃないのかよ。はぁ……ったく。)
ミリアリアとして振る舞う時は、あんなに完璧なのに、俺の前ではいつも抜けている。特に今日のミリアはいつも以上に情けない。嘘をついたかどうか、こんなに分かりやすいことはない。王都で何かあったのだろうな。
「とりあえず、アーマードグリズリーは持って帰るぞ。ここに死体を放置すれば、他の魔獣を呼ぶからな。おい、魔法鞄は持っているな?」
「は……はい!」
「ミリア、お前の話は馬車の中で聞く。報告したいことがあってわざわざここまで来たんだろう。グリフォンは…空から馬車に追随できるか?」
「え、ええ。」
俺は護衛にアーマードグリズリーを片付けるように指示した。魔法鞄は質にもよるが、大きな荷物を手荷物程度の大きさにして運ぶことができる。俺は何かあった時のために護衛に魔法鞄を1つ持たせていた。まさか大型の魔獣を持って帰ることになるなんて思ってもいなかったが。そして、俺はグリフォンに近づく。
「エル…だったか。妹はいつも無茶をするから守ってやってくれ。心配性な兄からのお願いだ。」
「…ギェ!!」
「おぉ……」
エルは気前よく返事をして空に羽ばたいた。すぐに肉眼では見づらい高さで飛ぶ。
「エルは人の言葉が分かるのか?」
「いえ、私の気持ちが分かるみたい。今のはお兄様の言葉を理解したというよりは、お兄様の言葉を聞いた私の気持ちを理解したみたいね。」
「へー頭がいいんだな。何というか…お前の周りは何もかもが規格外だ。宰相補佐、王太子補佐、領地運営よりもお前の兄をするのが1番頭を悩ませる。」
「…えっと、ごめんなさい。その…お兄様は、エルが怖くないの?」
俺がグリフォンに対して怖がる素振りをしなかったのが不思議だったのだろうか。それとも簡単にエルの存在を受け入れたからなのだろうか。妹が心配するように聞いてくる。護衛は未だに状況を飲み込めていないようでミリアにびくびくしているが、兄として妹に格好悪い姿を見せることができない。それに、ずっと驚きっぱなしでもいられない。驚くのは最初だけで、後はすぐに対応しなければ、こいつの兄なんて務まらない。
「普通に出会えば怖いが、ミリアに懐いているようだったしな。だったら、ミリアが懐いている俺にも攻撃しないだろう。」
「そ、それは、そうかもしれないけれど…。私、いつもお兄様の掌の上で転がされてる気がする…」
「はっはっはっ!妹が兄に勝てると思うなよ!」
俺は、いつものようにミリアの頭をぐりぐりと撫でた。確かにミリアは口では俺に勝てないが、振り回されているのは俺の方だ。だが、兄の威厳を保てているようで安心する。ミリアが俺に口で勝てるようになってしまったら、誰がミリアを制御できるのか教えて欲しいくらいだ。
しばらくして、護衛が魔獣を魔法鞄に仕舞い込んで俺たちの方へ戻ってきた。前後が変わってしまったが、やっと顔合わせができる。
「ミリア、知ってると思うが、この2人が護衛のオウルとミストだ。俺のお抱えだから口は固い。秘密も守る。あまり人には言いたくないと思うが、この状況で黙っておくわけにもいかないだろう。」
「ええ、大丈夫よ。お兄様のお気に入りの護衛でしょう?私も後で報告するけど、2人には知っておいてもらったほうがいいと思うわ。」
もう少し渋るか、記憶を消すくらいのことをするかと思ったが、ミリアは素直に頷いた。やはり、王都で何かあったのだろう。俺は次にミリアについて紹介する。
「オウル、ミスト。もう分かっていると思うが、ミリアは俺の妹だ。ほとんど屋敷にいないから会ったことがないと思う。それで、今確信を得たが、ミリアが噂のフェレスの正体だ。もちろんここだけの秘密だから外部に漏らすなよ。」
「「……。」」
護衛2人は何も言わない。頭の処理が追いついていないのだろう。仕方がないことだ、気持ちはわかる。ミリアは、2人が話さないので代わりに発言する。分かりやすいように髪色も瞳の色も本来の色に戻したようだ。
「初めまして、妹のミリアリア・レノヴァティオと申します。そして、フェレスという名で冒険者もやっています。よろしくお願いいたします。」
「お、おオウルと申します。…本当にフェレス様なのですね…。フェ、フェレス…本当に…」
「…ミストと申します。先程は…ありがとうございました。」
オウルの意識が先に戻ってきたようだ。噛んではいるが自己紹介をする。それにつられてミストも名乗る。オウルが先に慌てたおかげでミストは少しだけ冷静になれたようだ。いつも自信満々な2人が妹に圧倒されている。少し面白い。
「あ、ああの!さっきの光は何だったのですか!?武器も持っていないのにどうやって頭を!あ、それで…」
「オウル!落ち着け!…申し訳ございません。」
オウルが興奮して、ミストが諫める。アーマードグリズリーが出現する前にもフェレスについて話していたが、ファンだったのだろうか。
「ふふっ。大丈夫ですよ。あれは魔法です。でも詳細は答えられません。」
「そ、そうですよね…」
ミリアが何も聞くなというように、笑顔で圧力をかけながら答える。一撃でアーマードグリズリーを倒せるほどの出力の魔法は脅威だ。他人に知られたくないのも分かる。
その後、俺たちはお互いのことについて少し話し合い、王都へ向けて再出発した。俺とミリアは馬車に乗り、防音の結界をして王都で何があったのか報告を受ける。
「はあ?陛下にバラされた?というか、はぁ…番について知ってたのかよ…」
「その…それで…王宮を黙って逃げてきちゃった…。」
「…。」
王宮では思ったよりも面倒臭そうなことになっているようだ。俺は、馬車の天井を仰いだ後、再度ミリアから詳細な報告を受けた。
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次回からミリア視点に戻ります。




