1章 エル
少し遅れましたが更新です。
森の奥に転移したが、まだギラは帰ってきていないようだった。
「レオはこれからどうするの?」
「んー、そうだな。俺の番に会いに行くわ。もうあいつのことを覚えているのは俺くらいだからな。」
「そう…番になった者同士でお話がしたかったわ。」
「ははっ!ミリアはあいつと気が合いそうだな!」
「そうなのね。私が会いたいって言ってたって伝えてくれる?」
「おう!」
レオの番は以前亡くなったと言っていた。お墓があるのだろう。いつ亡くなったのかは分からないがレオは長い間1人で生きてきたことは分かる。残される側の気持ちは、前世で嫌というほど経験した。その経験をこれ以上積み重ねないために私は行動しているのだ。もう、あんな思いはしたくない。
「それじゃあな。」
「ええ。色々助かったわ。ありがとう。」
レオはそのまま転移した。ドラゴンの一生は長い。人間からしたら永遠とも呼べるほどの年月を独りで過ごさないといけないかもしれないのだ。いつも彼は何でもないという風に笑っているが、心の内は分からない。普段は眠っているようだが、レオの感情の中には私にも読み取れない禍々しいものが底にあった。起こしてはいけない感情のような気がして、レオには言えていない。いつか起こしてしまう時が来るのだろうか。それとも、あの感情が消える時が来るのだろうか。私はレオの底にあるものを見て見ぬふりをしてこれからも過ごすのだろう。
「さて、私も行動しないと…お兄様に会いに行きましょう。」
私は気持ちを切り替えて、次の行動を考える。お兄様は公爵領にいるが、もしかしたら王都に向かって帰ってきている最中かもしれない。となると、公爵領に行くのではなく、道中を確認しながら領地に戻らないといけない。
(やっぱり、走って戻る方がいいかしら?ただ、魔力がほとんど残っていないし、手元にポーションもない。それに今の私の姿は、ミアというより、髪と瞳の色を変えたミリアに近いわ…どうするのが1番最適なのかしら…?)
行動するなら早く動いた方がいいが、私はどうするべきか悩んでいた。
ドドッドドッドドッ
足元が揺れて、勢いある足音がこちらに近づいてくる。ここに来ればいつも現れるキメラだった。
「ギェ!ギェ!」
「久しぶりね。好きなところに行っていいのに…素敵な翼が勿体無いわ。」
私はキメラを撫でながら話しかける。キメラは私に会えて嬉しいようで喉をグルグルと鳴らし私に擦り寄ってくる。このキメラはグリフォンの中でも大きな個体だ。レッサーブルードラゴンを混ぜたせいか、元よりも一回り大きくなっている。人を乗せても問題ないくらいに…
「ねぇ。私を乗せて飛べるのかしら?」
「ギェッ…キュルルルルル」
「……え。」
キメラは私が乗れるようにしゃがみ込んだ。私の言葉を理解したのだろうか。馬や犬は何度も同じ言葉を使って話しかけるからこそ主人の言葉を理解するようになるけれど、さっきのは初めて発した言葉だ。それに、今まで話しかけることはあったけれど、私の一方的な言葉だったはずだ。
「私の言葉を理解できるの?」
「ギェエ?」
「んー?」
言葉を理解しているわけではなさそうだ。ということは魔力だろうか。生き物は人間よりも感情に敏感だ。私は試しに言葉を発さず、立ち上がってほしいと心の中で強く思った。
「ギェ!」
キメラは命令されたようにスタッと立ち上がる。
「え?…ご、ごめんなさい。命令したいわけじゃなかったのよ…私の気持ちが伝わるの?」
私はキメラの顔を撫でる。キメラは頷くようにコクコクと顔を縦に揺らした。
「本当に私と一緒にいたいの?」
「ギェ!」
「私と一緒にいたら死ぬかもしれないわよ?」
「ギェ!」
「本当の本当?」
「ギェ!!」
「…そう。それじゃあ、私と一緒にお兄様を探してくれる?」
「ギェ!」
「……いつでも、私のことはおいて、飛んでいってしまってもいいからね。」
「ギェ…ェ。」
キメラは悲しそうな声を出す。私の側に居たいと思ってくれているのだろう。最近は、オズリオ様に正体がバレたり、殿下のこともあったりで、陛下に攻められたりで、気持ちが弱っていたようだ。本当は大好きな国を、家族を突き放したくない。一緒にいてくれるならそれがいい。でも私と一緒にいると死んでしまうかもしれない。皆を泣かせてしまうかもしれない。だから一緒にいられない。
でも…私は自分勝手だから…。やっぱり、独りは寂しい。キメラが死んでもいいから側に居たいと思ってくれて嬉しかった。キメラが死んでも、きっと私以外誰も困らないだろう。だから、私と一緒にいて、死んでしまっても悲しむのは私だけで済む。…そんなことを考える私は最低だ。結局はキメラの命より、自分の心の方が私は大切なのだ。
(貴方が亡くなったら、悲しいわ。でも精一杯泣いて、泣いて、泣くから、こんな最低な私を許してほしい。)
「この国を出て行った後は、2人で旅でもしようか。」
「ギェ!」
「ふふっ、今から楽しみだわ。」
キメラはまた嬉しそうに擦り寄ってくる。キメラは私が望まないとここから離れない。大きくて美しい翼を空に羽ばたかせることもない。だから、私が羽ばたかせよう。私といれば死が待っているのに、そんな言い訳をしながらキメラを撫でる。私の気持ちが伝わってしまうのか、キメラは私を励ますように顔を擦り寄せてきた。
(本当に…ごめんなさい。)
「……これから一緒にいるのなら、いつまでもキメラじゃ駄目よね。名前……鳥にちなんだ…いえ、翼………エル…そうね。エルはどうかしら?」
「ギェ!」
「気に入ってくれたのね。それじゃあ、エル。お兄様を探すために空を飛びたいのだけれどいいかしら?」
「ギェエ!!」
エルは翼を大きく広げて声を上げる。そして、私が乗りやすいようにしゃがみ込んだ。どこに足をかけて登ればいいのか分からず、恐る恐る背に乗る。グリフォンのふわふわな羽毛が心地いい。
「乗れたわ。重くないかしら?」
「ギェ!」
(…どっちかしら……?)
私が重いのか軽いのか分からないが、わざわざ聞かない方が自分のためだ。エルは私が落ち着いたと判断し、身体をグググッと飛び上がるための溜めをした。
ドッ
(わ…わわ……)
エルが空へ跳躍する。一瞬で森の木の高さを超えた。そして大きな翼を目一杯広げる。いつの間にか朝を迎え始めていたようだ。太陽の光に反射し、翼が宝石のようにキラキラと光る。
「エル!貴方の翼は本当に美しいわ!」
「ギェ!!」
しかし、空にグリフォンが飛んでいるとなれば、大事になる。ギルドに要請が入り、討伐隊が組まれる可能性もあった。美しい翼を隠すのは勿体ないが、仕方なく隠蔽するために魔力を使う。空を飛んでいるので、高度な魔法じゃなく、少し粗い魔法でもバレないはずだ。私は光を反射させるように魔力を操作して、姿を隠した。
「エル!このまま、公爵領までの道を進んでほしい!」
「ギェ!」
私達は空から、お兄様が利用する馬車を探しながら公爵領へ向かうことにした。
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次話は2日後を予定しています。




