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1章 ミアとしての情報の開示2

更新です。

「ありがとうございます。」


セジル様が飲み物用と身体を拭く用の水と布を手渡してくれる。身体の傷は治っても、血は付着したままだったのでありがたかった。普通ならメイドの仕事だが、上手く言って用意してきたのだろう。


「疲れているかと思いますが、私も確認しなければなりません。」


「大丈夫ですよ。答えられるものであれば答えます。気にしないでください。」


「…。分かりました。まず…ミア様の身元を教えていただけますか?流石に平民というだけでは納得しかねます。」


私は何者なのか。これは王宮に連れてこられた時点で覚悟していた情報だ。ここまできて黙っているわけにはいかないだろう。


「殿下、今まで隠していて申し訳ございませんでした。私は…ライル様の部下をしております。」


(嘘ではないわ。真実でもないけれど…)


「…。」


「…父上からライルの名前が出た時はどういうことかと思ったが、部下…だったのか。」


「ライルが帰ってくるのは2日後ですね。」


殿下はお兄様を信頼しているし、お兄様も殿下を信頼している。それが、裏切りのような形で明かされてしまった。お兄様もいつかはバレると思っていたと思うが、こんな形で明かされるなんて思っていなかったはずだ。情報の擦り合わせをするために、できれば殿下やセジル様の前にお兄様に会った方がいいだろう。ただ…すぐには帰らせてもらえなさそうだ。


「そうか…ライルが…。」


「…。」


「…ライルには後でたっぷり話を聞かなければならないな。」


「そう…ですね。」


殿下とセジル様が考え込む。2人は何を考えているのだろう。きっと、お兄様は私のために黙っていてくれたのだろう。私のせいで信頼をなくしてしまうのは嫌だが、私には秘密が多すぎて何も話すことが出来なかった。それに私は部下だ。部下の立場では、何を言っても上司の立場を悪くする。部下に庇われる上司はお兄様の望む姿ではないだろう。今は、どうか、お兄様の立場が悪くならないようにと祈ることしかできない。


「まぁいい。……もしかして、ミアがイルと呼んでいたのは…ライルのことか?」


(名前が似ているものね。カイからも話を聞いているだろうし…)


「そうですね。私がイルと呼んでいた方がライル様です。ライル様は私に任務の指示や状況確認のために定期的に来られるのです。」


「そういえば、ライルには優秀な部下がいると言っておりましたね。ミア様のことだったのですね。」


優秀な部下…お兄様は私を褒めてくれることも多いが、兄として妹を可愛がっているだけかと思っていた。私は、本当にお兄様の役に立っているらしい。気を抜けない状況であるにも関わらず、嬉しくなって口元が緩んでしまう。


「…ミアはライルのことが好きなのか?」


「え…そ、うですね。尊敬しております。」


「…。」


「…………殿下。」


「あ、ああ。悪かった。話を戻そう。」


殿下の感情に嫉妬心が生まれた。もしかして、お兄様に嫉妬したのだろうか。私からすれば兄妹だが、殿下からすれば、お兄様と私は他人である。恋敵だと思ったのだろうか。


「ミア様はいつ、(つがい)であることを知ったのですか。」


(踏み込んできたわね…)


「つい最近ですよ。ですが、どうやって知ったのかはお答えすることができません。この件に関してはライル様も知りません。」


「この件に言及すると国が滅ぶ可能性もあるということですね。」


「おっしゃる通りです。」


「…分かった。」


私が嘘を言っていないことは、陛下とのやり取りで明らかだ。普通は信じてもらえないだろうが、魔法契約のおかげでギラやレオのことを話さずに済んだ。

その後、魔法契約やお兄様との普段のやり取りについて質問をされて、答えられる範囲で答えた。


「セジル、ここまでにしよう。ミアを休ませたい。」


「そうですね。寧ろ、疲労しているにも関わらず、答えていただきありがとうございます。」


「いえ、立場上、殿下やセジル様の命令を遂行するのは当然ですから気にしないでください。」


セジル様はもう少し融通の利かない方だと思っていたが、そんなことはなく、誠実な方だった。こういうところはオズリオ様に似ている。ワーナード伯爵家の性質なのだろう。


「ミア、この部屋は自由に使ってくれ。夕食を後でメイドに運ばせよう。今日は…いや、昨日から私のせいで…すまなかった。」


殿下が頭を下げる。この方は王族なのに平民にも頭を下げる方だ。身分で人を判断していないのだろう。ただ、他の貴族が見ている前で頭を下げるのはやってはいけないことだ。今はセジル様と私しかいないから頭を下げられたのだろう。


「殿下、気にしないでください。元々、私が殿下を騙していたのです。殿下の責任ではありませんよ。…でも、流石に私も疲れました。今日はもうゆっくり休みますね。」


「ああ。そうだな。」


殿下は私のこめかみにキスをした。一瞬、セジル様が目を大きく見開いたが、何も言わなかった。私も何も言えなかった。心も動かなかった。



殿下とセジル様が部屋を出て行った後、私は身体を水で洗う。魔法を使って綺麗にしても良かったが、水を使いたい気分だった。ゆっくり、現状を整理したかった。


身体を綺麗にした後、部屋に用意されていた服の中で1番地味なものを選ぶ。着ていた服は血だらけだったので、畳んでベッドの上に置いた。


新しい服を着て、ボタンを留めている途中で、身体に魔力が宿る。


(そういうことね…)


ドサッ


身体に人1人分くらいの重さがのしかかる。ちょうど人を背負っているような…前世でいうと、あすなろ抱きのような体勢になってしまっている。


「レオ、重いわ…」


「ごめんごめん。人を魔法陣の媒介にしたのは初めてだから上手くいかなかった!」


レオが私の背から離れて、私の正面に立つ。私に血を飲ませたのは、私のところへ直接、転移(テレポート)できるようにするためだった。私はギラの血を飲んだことがあるが、ギラは私へ転移(テレポート)してきたことがない。ただ、そういえばギラからは、どこからでも私の位置を把握できるようだった。


「で、どうだった?」


「レオの言っていた意味が分かったわ。…私の周りの人を殺すとか、私を殺すとか色々言われたわ。」


「あー…分かる。俺も(つがい)に言ったことがあるな。」


「え!?分かるの!?…私には…分からないわ。猟奇的なのね。」


殿下の行動は強い嫉妬心から生まれたものというのは理解できていた。しかし、共感は出来ない。私には、人を愛すること自体、どうすればいいのかよく分からない。


「これからどうするんだ?」


「王宮を脱出して、お兄様に会いに行くわ。報告しないといけないことが出来たの。ただ、お兄様が今どこにいるかなのよね…」


「脱出?せっかく捕まえたミリアを逃すのか。王太子に同情するわ。」


「捕まったのはレオの責任でもあると思うのだけど…」


殿下と転移(テレポート)する直前、レオが私にドラゴンの血を飲まさなければ、ここまで状況は悪くなかったはずだ。


(ただ…レオには頼ってばかりで、助けられた方が多いから何も文句言えないのだけれど。)


「まぁいいわ。殿下へは、置き手紙でも置いていくわ。分かってくれるでしょう。レオは私を連れ出してくれるの?」


「ミリアが出たいなら転移(テレポート)してやるよ。どうせ、俺がいてもいなくても、結果は変わらないだろうしな。」


「ふふっそうね。でも、レオのおかげで随分楽をさせてもらっているわ。ありがとう。」


レオがいてもいなくても私は王宮を出て行く。何のために殿下とセジル様に部屋を出て行ってもらうように言ったのか。他国の王宮にも侵入したことがある私にとっては、自国の王宮なんて目を閉じても抜け出すことができる。ただ、これからお兄様を探すために魔力はできるだけ温存しておきたい。レオに手伝ってもらえることに越したことはない。


(…何を書けばいいかしら?)


私は少し悩んだ後、殿下への手紙をベッドの上の服と一緒に置いた。何も言わず、こっそりレオの手を握る。一瞬で王宮からギラの住む森へ移動した。

読んでいただきありがとうございます。

次話以降も読んでいただけると嬉しいです。

次回は2日後!

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