1章 ミアとしての情報の開示1
更新です。
今回はちょっと短いかもです。
「セジル!今すぐ治療できる者を呼んできてくれ!あと、水の用意も!」
「分かりました!」
陛下が去った後、殿下とセジル様は私を治療するためにすぐに行動に移った。私の身体を支えてくれていた殿下の袖が赤く染まっている。思った以上に私は血を流しているようだ。
「やめてください!!」
「「なっ……」」
「……大丈夫です。人を呼ばないでください。自分で治療できますから。」
「しかし、怪我した状態で回復魔法を使うのは…」
「いいえ。この程度なら問題ありません。…慣れてますから。」
私は修復魔法を発動する。しかし、修復魔法については言いたくないので、回復魔法を使っているように見せるために詠唱する。
「治癒」
身体中の血管や皮膚が損傷していたが、治せない傷ではなかった。それに、今まで1番修復してきたのは自分の身体だ。フェレスとして活動し始めた当初は、盗賊と戦うことの過酷さを分かっておらず、数え切れないほど怪我をした。腕を切り落とされたことも骨を折られたことも、内臓を損傷したこともある。それに、修復魔法を習得するまでは、怪我を負ったまま生活をするしかなかった。嫌でも痛みに慣れるしかなかった。魔法契約の制裁はきつかったが、今までに比べると大したことはないと言えた。
時間はかかるが、私の皮膚が元通りの綺麗な状態に戻る。殿下とセジル様は私の傷が修復されていく過程と結果をじっと眺めていた。
「…治りました。そんなに心配していただかなくても大丈夫ですよ。」
殿下の前では、平民のふりをする必要はなくなったので言葉遣いを変える。貴族女性の言葉とまではいかないが、貴族に対して相応しい言葉遣いにする。役でいうと平民から騎士に変わったというところだろうか。
「ミア様の回復魔法はとてもレベルが高いのですね。宮廷魔導士や魔法騎士団にもここまで完璧に回復魔法を使える人はいませんよ。」
「魔力量は少ないですが、魔法は得意ですから。」
この世界の回復魔法はかなり拙い。それでも、今回は欠損した部分があるわけではないので、普通に修復魔法で治しきっても問題ないだろうと思ったが、そうではなかったようだ。最近、ずっとレオと一緒にいたせいで、普通の感覚がズレてきてしまっている。やり過ぎてしまわないように気をつけなければならない。
「ミア…説明して欲しい。父上とは…いや、陛下とは知り合いだったのか?それに、先程の傷。あれは、魔法契約の制裁だろう?」
殿下はじっと私の目を見つめる。殿下は、私が何を言っても聞き入れる覚悟をしてくれたようだ。私も開示する情報の線引きをはっきりさせたので、躊躇いなく答える。
「はい。陛下とは5年前に魔法契約を結んでいます。ただし、この魔法契約は対等な立場で結んだものですから、魔法契約自体を何とかしたいと思っているわけではありませんよ。」
魔法契約とは文字通り、魔法で契約をすることを意味する。ただの紙切れの契約ではなく、契約した者は魔法によって縛られる。基本的に、約束事で魔法契約を使うことはほとんどない。魔法契約の強制力は人の行動まで制限し、違反した時の制裁も発生するため、よっぽどのことがない限り、使用されることはなかった。
「何故、魔法契約を?嘘を言えないなんてかなり厳しい内容だと思うのですが…」
「細かい内容までは申し上げることが出来ませんが、私が18になればこの国を出ていけるように取り計らっていただきます。それが理由です。」
セジル様の言う通り、嘘を言えないなんてかなり厳しい条件だ。契約を結んだ当時の私は、日常生活で陛下と直接話すことなんて18になるまで2.3回だろうと思った上、元々、陛下に嘘を発言すること自体、身分上あり得ない。そう思って了承してしまった。あの時は、レノヴァティオ公爵家が襲撃された直後で、とにかく国を出て行かなければと必死だった。そして、同時期に、ひょんなことから陛下を助けることになり、褒美をいただけることになった私は、国を出て行けるように取り計らって欲しいと懇願した。最初は拒否していた陛下であったが、私も折れなかったので、最終的に陛下の口車に乗せられて魔法契約を結ぶことになったというわけだ。だが、おかげで国を出て行く確約を手に入れることができたので後悔はしていない。
「陛下は私に魔法契約を破棄させたいのでしょう。この契約は私からでないと破棄が出来ない条件となっております。また先程、陛下が周りくどい言い方や厳しい言い方をされたのは、陛下にも契約上、制限があるからです。」
陛下に制限がかかっているのは、私や魔法契約についての情報だった。相手に開示する私の情報は共通認識としてある情報に制限される。例えば、殿下やセジル様がいる前で、私をミリアと呼ぶのは契約違反だ。反対に、殿下やセジル様は私の名前をミアと知っているので、ミアと呼ぶのは違反ではない。また、魔法契約をしていることも言ってはいけない。しかし、方法が全くないわけではなく、先ほど陛下は「わかっているな?」と念押しすることで魔法契約があることを殿下に悟らせた。
「陛下の話し方に少し引っかかりがあるような気がしましたが、そういう理由があったのですね。とりあえず、私は水を用意してきます。しばらくお待ちください。」
セジル様は、陛下がいらっしゃった時にほとんど発言していない。それ故に、話し方等を気にする余裕があったのだろう。全部ではないが、少し納得した表情を見せ、セジル様は部屋から出ていった。
「ミア。聞きたいことが山ほどあるが、まず言わせてほしい。…あまり自分を犠牲にしないでくれ。私はミアが傷つく姿を見ていられない。…心が引き裂かれそうな気持ちだった…」
殿下は私の手を握って懇願する。セジル様がいた時と違い、身体を震わせて頭を垂れている。
「殿下、セジル様がいらっしゃる時とは様子が違いますね。」
「そうだな。私はセレリィブルグ王国の王太子で、それに相応しいように努めているが…ミアの前ではいつも弱いところばかり見せてしまっているな…」
以前に本音で話して欲しいと言ったことを思い出す。あの時は、殿下の身体のことが心配でつい、そう言ってしまった。それが、殿下の執着心を増幅させたのではないだろうか。私は、自分の首を自分で絞めていたようだ。
「そう…ですね…。私が受ける殿下の印象と、周りの印象に差異がありますから。きっと私のせいなのでしょう。」
「ああ。ミアのせいだな。…責任をとってくれないだろうか。」
「申し訳ございません。それはできません。」
「はは…そういうと思ったよ。ミアが変わらないのであれば、私が変わろう。傷つけさせないように努力するから見ていてほしい。」
私の手を握って、殿下は真っ直ぐ私を見つめる。殿下はいつも私を見るときに、真っ直ぐ目を見てくる。どういう顔をすればいいのか分からなくなるので、少し苦手だ。
「…分かりました。」
思わず返事をしてしまった。訂正しようにも、嬉しそうな顔をする殿下に、私は何も言えなくなった。
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次回は2日後を予定しています。




