1章 ドラゴンの血
本編更新です。
2日に1話更新予定です。
「アシル様…?」
レオが物騒なことを言いかけ、カイが気になることを言いかけ、殿下が無視できない状態でこちらに近づいてくる。
(レオにも、カイにも詳しく話を聞きたいけれど、今の殿下を無視できないわ…タイミング悪すぎよ…)
どうすればいいのか悩んでるうちに、殿下はどんどんこちらに近づいてくる。カイも流石に殿下の様子を悟ったのか、表情から「ヤバイ!」と思っていることが読み取れる。
(ど、どうすれば…に、逃げたい…そうよ!カイを連れて走って逃げて…話を聞いた後に殿下に言い訳をすれば…)
卑怯ではあるが、私にも心の準備が必要だ。それに、逃げるが勝ちという言葉も前世ではあった。きっと今の状況を表すような言葉ではないが、この際そんなことはどうでもいい。
逃げようと覚悟を決めた時、後ろからレオに手を引かれる。レオも逃げようと考えているのかと思って振り返った。
「え………。」
レオの顔が間近にある。
(息が…あ……)
レオの唇が……私の唇に触れた。
口付け。しかも、レオの手が私の顎に添えられ、口を開くように促す。突然のことでついていけないし、抵抗もできていない。
(う……。)
ゴクンッ
血の味がする。口付けというより、レオのドラゴンの血を飲まされたようだ。
「ケホッ…レ、レオ………?」
レオがグッと口拭った。そして、私の耳元で、カイにも殿下にも聞こえないように小さく話す。
「番がどういうことか、1回経験しとけ。」
「え……それはどういう…………」
グイッ
「え…?」
また、腕を引かれる。先ほどと同じように振り返った。いつのまにか、殿下は真後ろまで来ていたようだ。
「ア、アシルさ…」
「転移」
身体が魔力に包まれる。逃げることもできず、何も現状を把握できないまま、というより、現状が悪化したまま私は殿下によって転移した。
「「…。」」
残されたレオとカイはお互いに顔を見合わす。
「あいつ、俺のこと睨みすぎだろ。」
「…赤髪のにーちゃんは先生のこと好きなの?」
「好きといえば好きだが、友達だな。…ちょっと煽りすぎたか?」
「あの綺麗なにーちゃん…ちょっとヤバイと思う。」
「ミアは自分に関して自覚があまりないからなー!まぁ大丈夫だろ!」
今日の勉強会は、皆に中止だと伝言に周らないと、と思うカイだった。
…
転移後、知らない部屋に到着した。殿下なら転移を使えるかもしれないと思ってはいたが、既に使えるとは思っていなかった。ただ、ギラやレオと違って、息をするように使えるわけではなく、顔色から疲労が伺える。
「あの…ここは……?」
「…。」
殿下は険しい顔でこちらを見るが、何も答えない。怒りと嫉妬で吐きそうになる程、感情が蠢いている。私の感情まで飲み込まれそうなほど…。
殿下が距離を詰めてくる。
詰めてきた分、後ろに下がろうとするが、ガッと両肩を掴まれてしまった。
「あの男は…誰なんだ…」
殿下が小さな声で話す。あまり聞き取れなかったが、何となく聞かれた内容は分かった。しかし、反射的に聞き返してしまう。
「…え?」
殿下の手に力が入った。
「あの男は!ミアの何なんだ!!」
殿下の大きな声が部屋に響く。激しい嫉妬を抑えきれておらず、怒りに昇華したようだ。
「…。」
いつもの殿下とはまるで違う。品行方正で完全無欠の王子様の面影が全くない。私はどう答えればいいのか分からず、口をつぐんだ。
「なぜ!何も言わない!!私と彼では何が違うんだ!ミアが!他の男に触れられるのが耐えられ…ない…」
叫んだと思えば、声が掠れて消えていく。レオのことを言っているのだろうが、彼はドラゴンで友達だ。人間じゃないから、話しやすいし頼ることができる。ただ、それをどう説明すればいいのだろう。ドラゴンということを明かすことは絶対に出来ない。友達と説明しても納得してもらえるとは思えない。
「…ミアの…周りにいる男を全て殺してしまおうか。それとも…ミアを閉じ込めてしまえばいいのかな。」
物騒な2択の提示。今まで、殿下が悲しそうに愛を語ることはあったが、これは許容範囲を超えている。それとも、本心で言っているのだろうか。勿論、どちらも『はい』と頷くわけがない。
「やっぱりだめかな。それなら…ミアを殺せばいいのかな。そうしたら誰も、ミアに触れなくなる。」
「…っ!」
殿下の指が、肩に食い込む。もしかすると、血が滲んでいるかもしれない。殿下は…完全に壊れてしまっているみたいだ。
(こんな風にしてしまったのは、私の責任…なのでしょうね。)
…殿下がただの一目惚れなら。
…私が番でなければ。
…私が転生なんてしなければ。
…あの時、確実に死んでいれば。
…私に…私に、こんな呪いがなければ。
殿下が肩から私の首元に手を近づける。私を殺そうとしているのだろう。殿下の瞳に光がなく、あれだけ激しかった感情も無くなっている。私は首を絞められると思い、咄嗟に後ろに下がろうとした…が、足がもつれてしまった。
「あ…」
後ろに転倒する。そう思ったが、腕を前にグイッと引かれ、殿下の胸に飛び込む形になった。
「あ…アシ………ぅ…」
声が出ないほど強く抱きしめられる。
殿下は何も話さず、離さなかった。私に分かるのは、殿下の心音だけ。
「…。」
「…。」
「私の腕の中にいるのはミアか…?」
殿下がぽつりと呟く。
(どういうこと…?)
「ミアは間違いなく私の腕の中にいるんだな。」
苦しそうで、掠れた声が、上から降ってきた。殿下の身体も少し震えているようだ。私を抱きしめているのは殿下なのに、なぜそんなことを聞くのか分からなかった。私を殺すのはやめたのだろうか。しかも、きつく抱きしめられているせいで声が出ない。私は、何とか頷くように返事をした。
「…ん……」
私の返事に納得したのか、抱きしめている腕が緩む。彼の感情は、嫉妬・喜び・怒り・愛情がぐちゃぐちゃになっている。表情も怒っているようにも見えるし、喜んでいるようにも見えた。それとも、何か私に期待しているのだろうか。
(なんて…声をかければいいの…?)
いくつか言葉が出てくるが、どれも正解とは思えない。正解を求めること自体、間違っているのかもしれない。
ドクンッ
「ゔっ…」
「ミア…?……どうした!?」
口元に手をあてる。平衡感覚がなくなって、床に足をつけて立っているはずなのに浮遊感が襲う。そういえば、レオにドラゴンの血を飲まされたことを思い出した。以前、ギラに初めてドラゴンの血を飲まされた時は、意識を失い、起きた時には2日経っていた。今回は初めてではないので前回ほどではないにしろ、身体に影響が出ることは間違いない。殿下は私の様子を見て、ハッとした表情を見せる。いつもの殿下に戻ったのだろうか。
「大丈夫…です。…気にしないで…ください。」
「そんなわけにはいかないだろう!」
殿下は私を抱き上げ、近くのソファに連れて行った。その時に、部屋の様子が目に入って驚愕する。
(ここって…もしかして…殿下の自室!?平民をこんなところに連れてくるなんて…)
「水を持ってこよう…ここにいてくれ。」
殿下は私を残して部屋を出て行った。王太子に水の用意をさせるなんて…他の貴族が知れば卒倒してしまうだろう。
ドクンッ
「ゔぅ…」
じわじわと身体が熱くなってきた。意識も朦朧とする。
(レオは何がしたいのよ…)
汗が止まらない。いつもの私なら、殿下が戻ってくる前に、街に戻って姿をくらましているだろう。だが、今はそんなこと出来るはずもなかった。
(も、う…だめ……)
私は意識を失った。
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