1章 王太子の憂鬱
更新です。
今回は王太子目線です。
今日は青の日。本来ならばミアに会いに行っている日であったが、外せない予定があった。
『王国法審議会』1年に4回開催され、爵位を持つ貴族が参加する。名前の通り、セレリィブルグ王国の法律について審議する会だ。年に4回開催するといっても、1番重要なのは冬の終わり…つまり、1年の終わりに開催される回であって、その他の3回はあまり重要視されない。小さな法案なら決議されるが、重要な法案は審議のみで決議は冬の回に行われている。今日の王国法審議会は今年3回目になるので、重要視されない会ではあるが、私は王太子なので欠席するわけにはいかなかった。
「セジル。今日の会議で審議される法で目星いのはあるか?」
「いえ…特にありません。やはり、主要な法は次回の審議会で決議されるようですね。」
一応、セジルに確認するが、前回と同様で特に気負う必要はなさそうだ。出席するだけというわけではないが、本格的な議論は冬の終わりの会でするため、今回は話を聞いて少し意見を言うだけで済みそうだった。
「そうか。次の審議会には王太子妃について話し合いができればいいんだが…」
「それは…今日の審議会でも話し合うことになるでしょう。殿下の望む内容ではないと思いますが。」
私の望まない内容というのは、誰を王太子妃にするのかということだろう。やはり皆、自分の娘を推薦したいので、私が望む相手について話し合うことはない。私はミアについて話し合いたいと思っているが、ミア自身に意見を聞くどころか、私のことを何も伝えられていない。自分の知らないところで勝手に話を進められれば誰でも不快な思いをするだろう。それに、彼女は貴族ではないので、話し合うためにはある程度の根回しが必要だ。
「そうだろうな。だが、私はミア以外を王太子妃にするつもりはない。今回も無駄な話し合いになるだろう。」
「…その、失礼ですが、平民であるミア様を王太子妃にするのはかなり難しいと思いますが…」
セジルは私の意見に賛同してくれるが、やはり平民を王太子妃にすることを快く思っていないのだろう。ただ、彼の現実的な意見はありがたいと思っている。彼が納得できないようであれば、他の貴族が納得するわけないからだ。
「分かっている。ただ…気になることがある。もしかすると、ミアはただの平民ではないのかもしれない。」
セジルが左眉を反応させる。
「それはどういうことでしょうか。」
「確か…前に会いに行った時、ミアは『申し訳ございません。ぼーっとしておりました。』と、心ここに在らずの状態で謝ったんだ。本当に平民だったらこんな言葉遣いはしないだろう。」
「それは…そうですね。心ここに在らずであったのならば、普段からそのような言葉遣いをされていて、思わず話してしまったということでしょうか。ですが、平民出身でもメイドならそのような言葉遣いはあり得ますよ。」
やはり、セジルの現実的な意見はありがたい。丁寧な言葉遣い=貴族、と安直に結びつけていたが、過去にメイドをしていたならあり得るということか。どうにも、ミアに関しては、自分の都合のいいように解釈をしてしまいがちのようだ。都合の良い事実だけを見ると悪政になるが、私が行いたいのは善政だ。都合の悪い真実を告げる者こそ大事にしなければならない。
「それもそうだな。とりあえず今は…王国審議会だな。」
「はい。」
こうして青の日が終わり、次の青の日までは、王国審議会で議論された法案について処理をした。いつもの業務に加えて、法案の処理と、しばらくミアに会えていないという事実がストレスになっていた。私は、もう少しでミアに会えると思いながら1週間をなんとか乗り越えた。
…
…
「え、ミアに会えない!?」
「あ、ああ。先生から伝言。急な予定が入ったみたいで会えなくなったって言ってた。」
ミアにやっと会えると思い、街に来たが、途中で出会ったカイから信じたくないことを伝えられた。カイとはミアに会いにくるたびに、会って話していたので気軽に話す仲になっていた。
「予定って何かな?」
普通、予定が何なのかを聞くのはマナー違反だが、業務量と2週間会えていないことのストレス、そして私よりも優先すべき予定があることに腹が立ってしまい思わず聞いてしまった。それに、彼がミアの予定を知っているとは限らない。質問してから自分を情けなく思ったが、聞いてしまったのなら仕方がない。
「予定については言ってなかったよ。ただ、急いでるようではあったかな。そういえば赤髪のにーちゃんもいたな。」
「赤髪?」
知らない男の存在を匂わせられる。胸の奥の黒い嫌な何かが膨らんだのを感じた。
「ああそうだよ。先生はここ最近、赤髪のにーちゃんとずっと一緒にいるよ。朝から晩までご飯もずっと一緒に食べてる。」
「へー…仲がいいんだ。」
どんどん黒い何かが膨らんでいく。
ただ、私の様子にカイは気付いていないようだった。王族として、毎日偽の表情を作っているおかげだろう。
「赤髪の男について、もう少し詳しく教えてもらえるかい?」
「お、おう。」
訂正。しつこい男と思われたかもしれない。
…
バンッ
私は王宮にある執務室の扉を思い切り開いた。執務室には、雑用を私に任せられたセジルがいたが、驚いた顔をしてこちらを見ている。乱暴に扉を開いたからだろう。
「何か…あったのですか。…ミア様に会えなかったのでしょうか。」
「ああ。急用ができたと伝言をもらったよ。…クソッ!」
「何かあったのでしょうか。」
セジルは私を落ち着かせるために再度、同じ質問をした。私も自分の荒れた気持ちを落ち着かせるために、赤髪の男について聞いた話を1つ1つ話していった。
「しかも、今日の早朝にミアの部屋から2人で出てきたらしい。街の人曰く、恋人というより友達のような雰囲気らしいが…」
「ミア様には以前、恋人がいるとおっしゃっておりませんでしたか?」
「ああ。そうだったな。この前会った時も別の男の話をしていた。私の番はどうやら…ライルに負けないくらい人気のようだ。」
私は「はぁ」とため息をこぼした。今まで、何もしなくても女性達の方から群がってきていたので、女性の落とし方が全く分からない。ライルなら分かるだろうか。
「それに、彼女は国を出て行くつもりだ。時間をかけて気持ちを伝えることも出来ない。どう…すればいいんだ。」
「まだ…ミア様の素性も分かっていませんしね。」
「ゔっ…」
セジルの言葉がズキリと胸に刺さる。容赦がない。
コンコンッ
ノックされる。入ってきたのは近衛騎士だった。
「報告いたします。王都のギルドにフェレスが現れたと情報が入りました。犯罪組織に関する依頼を受けたようです。」
「フェレス!?もう1年以上現れていなかった筈だが…それよりも犯罪組織か。詳細は?」
「犯罪組織からの娘救出しか分かりません。また、どこの何の組織かも分かりません。犯罪組織を探すのも依頼の範疇のようです。」
「親として最後の頼みの綱なのだろう。普通なら無理な依頼だが…フェレスなら達成するだろうな。」
フェレスが受けた依頼で達成されなかったものはない筈だ。そして、1年前までは国同士でフェレスの争奪戦が水面下で行われていた。ランクは低いものの圧倒的な戦力、そして民衆からの圧倒的な支持。政治利用したい国は多い。
「騎士団を待機させろ!依頼が達成され次第、昼夜問わずすぐに対応へ向かえ!」
「は!」
近衛騎士は執務室から退出し、伝達のため近衛騎士団総括の下へ向かった。その様子を見てから、セジルが私に問いかける。
「フェレスが初めて出現したのはこの王都のギルドです。そして、1年の沈黙の末、出現したのもこの王都。何か因果関係があるのかもしれません。」
「そうだな。だが、フェレスは各国のギルドで依頼を受けている。素性を探ろうと部隊を送った国は少なくない筈だ。全て返り討ちだがな…」
返り討ちといっても死亡者はおらず、皆、治療後に部隊復帰できる程度の傷で無力化されている。Cランクであるフェレスを有名にしたのは各国の囲い込みが理由でもあった。
「ならば、刺激はせずにセレリィブルグ王国は居心地が良いと思ってもらえるように対応するのが1番だろう。」
「そうですね。……また、仕事が増えそうですね。」
「……ああ。」
私はガクッと項垂れた。やっとミアに会えると思ったのに会えず、結局仕事をする羽目になっている。体調は以前に比べればマシにはなったが、悪くなってきているのは間違いない。私はすぐにミアに会えるように今できる業務を処理していった。
今日会えないならば明日、明日会えないならば明後日、諦めずに会いに行こう。フェレスについても依頼達成までに数日はかかる筈だ。それまでに1回は会えるように時間を作ろう。私はそう決めて仕事を再開した。
しかしまさか、フェレスが1日で犯罪組織を見つけ、全員を捕縛し、娘を救出し、ついでに指名手配犯を見つけるとは思っておらず、ほぼ徹夜で仕事をする羽目になるとこの時は考えてもいなかった。
読んでいただきありがとうございます。
次話以降も読んでいただけると嬉しいです。
次話は2日後を予定しています。




