1章 人身売買と麻薬取引5
更新です。
2日に1話更新で頑張ります。
(フェレスとしてここに来るのは1年ぶりかしら。)
私はフェレスの格好をして王都の冒険者ギルドにやってきた。リヒテンベルグ図形のような模様の仮面に麻色のローブ、そして髪はお父様と同じ枯葉色にして一つ結びにしている。普段はミアとして、冒険者ギルドと商人組合との会議にたまに参加させてもらっているが、誰一人として私がフェレスということは知らない。お兄様にも秘密にしている。
「おいおい…あれ…フェレスじゃねぇか?」
「え?死んだはずだろ?…って本当だ!」
「偽物か?仮面をしているから本物かどうか分からねぇ…」
周りがざわざわし始めた。1年前もこんな感じだったのだろうか。あの時の目的は修復魔法の実験だったので、報酬も気にせず、周りの目もほとんど気にしないようにしていた。それに、いつも人の生首を持っていたから自然と他の冒険者も私を避けていた…と思う。
私が歩くと道を譲るように冒険者が傍にそれる。正直かなり恥ずかしい。ハリウッドスターがレッドカーペットを歩く時の気持ちもこんなだったのだろうか。出来れば、私のことは気にせず談笑していて欲しい。初めて冒険者として活動する際、素性を隠すために仮面をすることにした。結局、仮面のおかげで目立ってしまったが、今はその仮面のおかげで表情を見られずに済んでいる。フェレスには戸惑った表情は似合わない。私はそのまま、レッドカーペットを抜けて依頼掲載板へと足を運んだ。
(…見つけた。ちゃんと依頼出来たようね。)
私は、ガイルさんが依頼人の【犯罪組織から娘救出】の依頼書を持って受付に向かった。依頼を受ける際は、依頼掲示板から受けたい依頼書を持って受付嬢に渡す。その際に身分証明としてランクカードも一緒に提示する。私は1年前と同じように、受付嬢に依頼書とランクカードを見せた。すると周りからドッと歓声が聞こえた。
「うおおおお!本物のフェレスじゃねえか!!」
「俺、フェレスと対決して勝つのが夢だったんだ!」
「握手してもらいてぇ!」
「一緒に依頼行ってくんねぇかなあ!」
急に歓声が聞こえたので吃驚してしまった。本当に仮面をしていて良かったと思う。絶対変な顔をしていたはずだ。私は周りに気付かれないように深呼吸をしてから受付嬢に尋ねた。ちなみにフェレスは顔と同様に性別も非公開にしているので中性的な声にしている。
「ここに来るのは1年ぶりだが、こんなだっただろうか…?」
「フェレスさんは死亡説が出ていましたからね。皆、戻ってきてくれて嬉しいんですよ。それに、フェレスさんに家族を助けられた人も多いですからね。この歓声は当然だと思います。」
「そうか。最近は依頼を受けていなかったからな。…この依頼を頼む。」
私は依頼書を見せて、依頼人がいるギルドの奥の部屋に案内してもらった。普通なら依頼人は自宅や職場にいることが多いので、依頼人のところまでこちらから向かう。今回は依頼を掲載したばかりで、依頼人がまだギルドに滞在している。そのためギルドこ奥の部屋を使わせてもらえることになった。これも計画のうちだが。
…
コンコンッ
「どうぞ。」
ガチャッ
「あなたがガイルだな。依頼をみた。私はフェレスという。」
「こ、こここんにちは!もちろん知ってます!ガイルです!依頼…ありがとうございます!」
ガイルさんはフェレスに会ってとても緊張しているようだ。フェレス=ミアということはガイルさんには告げていない。もしバレてしまった時は記憶を消すつもりでいる。ただ、ミアとフェレスが繋がっていることは今回で知られてしまっただろう。
私は後手で扉を閉め、鍵をかけた。そして防音の結果を張る。
「ミアから内容は聞いている。娘を助けるんだったな。」
「そうです。娘を…お願いします!」
「分かっている。じゃあ、時間も惜しい。直接見せてもらおう。気分が悪くなると思うが我慢しろ。」
「え………!!!!」
私はガイルさんの後頭部を両手で掴んだ。今からガイルさんの記憶を直接閲覧する。今朝、ガイルさんに飲ませた私の血液は十分浸透しているだろう。その血液を媒介し、直接私の魔力をガイルさんの脳に送り込む。これは修復魔法と同レベルの魔力操作が必要となる上、かなり疲労してしまう。例えるなら仕事の徹夜明けのようになる。
ガイルさんの脳に魔力を送ることに集中する。記憶を徐々にだが暴いていく。
(これかしら…?いいえ…この記憶?……これも違うわ。)
私はガイルさんの記憶をざっと遡る。動画をものすごいスピードで巻き戻している感覚だ。そして…激しい悲しみが私を襲った。記憶を見ている時は、追体験になるのでガイルさんの当時の感情を知ることになる。私が体験したことではないのに、ガイルさんの感情に引っ張られて涙が零れ落ちそうになった。しかし、悲しいということは求めている記憶の可能性が高い。ガイルさんはアリーさんを連れて行かれたことに深い悲しみを覚えていたからだ。
(…連れて行かないでくれ……やめて………)
(大切な……娘を……何でもするから…!)
(………ここだわ!!)
私はガイルさんがアリーさんと引き離された記憶を追った。そしてガイルさんの周りにいる人の会話にも注意する。麻薬のせいか記憶が混同しているので、あまりはっきりしていないが、ちゃんと脳には記憶として保存されていたようだ。
(ここは…どこかしら?でもこの人どこかで…確か……でも、まさか!!)
私はガイルさんにオズリオ様を殺すように命令した男に見覚えがあった。ただ、未確定なので一旦この男については保留にする。それよりも今はアリーさんの居場所だ。
記憶の中でアリーさんの腕を握っている男が話す。
(こいつ…から商品にしろ。そう……ジノ……うだ?ヤルマ…だ。ちょうど……ああ。)
(見つけたわ!!)
私は欲しい情報を見つけ、すぐにガイルさんの記憶から抜け出す。必要以上に記憶に潜ってもいいことなんてない。疲労するだけだ。私は一気に現実に引き戻された。
「はっ……はっ…は……」
急に疲労が身体を襲う。滝のように汗をかいていた。
バタンッ
記憶を見られるということは見る側よりも負担が大きいのだろう。目を開いて、手を離すと、そのままガイルさんが後ろへ倒れてしまった。隣で寝ていたレオが音にびっくりして起きる。
「おかえり…やっと帰ってきたな。」
「ただいま。どのくらい経ったの?」
「1時間半くらい?2時間かな?」
大きな欠伸をしながらレオが教えてくれる。思っていた以上に時間が経っていた。もう昼食の時間になっている。とりあえず、魔力が枯渇しているので持ってきていたポーションを飲んだ。
その後、倒れたガイルさんをギルド職員に引き渡し、目を覚ますまで介抱を頼んだ。職員は何があったのか不思議そうにしていたが、フェレスの信頼は厚いようで何も聞かずに受け持ってくれた。私とレオはこのままアリーさんの救出に向かう。私たちはギルドを出て昼食を済まし、そのまま王都の外へ出た。
「レオ。コゼリ村に向かうわ。少し遠いけど、走れば4時間くらいで着くと思う。」
「村の名前は分からない。どの方角だ?」
「南西よ。」
「あー…じゃあ転移でき…ないな。…走るか。」
「そうね。」
私たちは、コゼリ村に走って向かった。レオの転移が使えたらと少し期待していたが、現実はそんなに甘くない。4時間は相当な時間だ。前世ではフルマラソンを4時間で走っていたが、今世では魔力を消費しながらになる。明日は筋肉痛になりそうだ。
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