1章 人身売買と麻薬取引4
2日後と言いながら続けて投稿です。
2話分に分けようかと思いましたが、まとめました。今回、ちょっと長いです。
「ちょっと埃っぽいな。」
「ごめんなさい。あまりここには来ないから、来た時に掃除するようにしてるのよ。」
そう言って私は男を壁にもたれさせ、簡単に掃除を始めた。ここは貧民街に借りている小さな部屋。今みたいに、姿を隠す必要や厄介ごとを持ち込む時に利用している。
「それじゃあ、まずこの男性を治療するわね。レオはどうする?一度帰る?」
「んー帰っても暇だしここに残る。元々、帰るって言ってもギラのところで野宿するだけだ。」
「分かったわ。」
私はこの部屋に常備しているポーションを取り出す。今日は既に5本のポーションを飲んでおり、規定本数である2本は超えてしまっていた。しかし、あと3本程度なら大丈夫だろう。私はポーションを飲み、男性の治療にかかった。
「肋骨が折れていたけれど、もう大丈夫ね。そろそろ起きるかしら?」
「おい、起きろ!」
「…ハッ!…はっ…は……」
レオは私が治療を終えるのを静かに待っていてくれたが、退屈だったようだ。声に殺気をのせて男を起こした。私は考えた末、男性の前ではミアとして接することにした。
「こんばんは。おじさん。気分はどう?」
「…な…お前たちは誰だ…私は何故ここにいる?」
私は簡単な自己紹介と今に至る過程を彼に話した。知り合いを尾行していたら男の集団を見つけたこと。争いを見ていたらおじさんが気になったこと。途中から介入して、地下の資料等を確認し、おじさんを攫ってきたこと。
彼は悔しいのか悲しいのかよく分からない表情をして項垂れてしまった。今の魔力の様子は、悲しくて悲しくて仕方がないようだ。
「…その様子だと、私の予測は当たらずも遠からずというところかな?よかったら事情を話してくれない?」
「…お前たちに話す事情なんて……いや、秘密にしたところでもう意味ないか…お嬢様ちゃんの言っていることは大体当たっている。俺は、近衛騎士第一団長のオズリオってやつを殺せと言われた。」
(私の予想通りということは、最悪な状況ということね。この男がオズリオ様の地位と名前を知っているということは名指しで命令されたということ。そして、オズリオ様は誘導されたということ。やっぱり、上級貴族に敵がいるわね。)
「誰に命令されたの?」
「誰かは分からない…。ただ、娘を人質に取られた。オズリオを殺さなければ娘を殺すと言われたんだ。ただ、その時のことを上手く思い出せない…」
(思い出せない。記憶がはっきりしていないということかしら…原因は……そういえばこの男は麻薬漬けだったわね。)
「その時に薬を飲まされなかった?麻薬取引の資料が地下にあったの。種類にもよるけど、麻薬は記憶を混濁させるものもあるのよ。」
「あ…ああ!そうだ!薬を大量に飲まされた!頭がぐちゃぐちゃになるような感覚で、誰が誰なのかも分からなくなって…でも娘が連れて行かれたのは覚えている。俺はアリーの名前をずっと叫んだんだ…あぁアリー…」
「アリーというのが娘さんの名前ね。どこに連れて行かれたのかも分からない?」
「ああ…分からない……もう、どうしようもない…」
それから男はぽつりぽつりと身の上話をした。奥さんの病気を治すためにお金をたくさん借りたこと。結局、奥さんは治らず亡くなり、娘さんと2人になったこと。残った借金を返すために奔走していたら、いつのまにか犯罪組織の一員として働いていたこと。それでも借金は減らず、気付けば娘を人質にされていたこと。
「で?どうするんだ?」
レオは私に問うてくる。レオからするとこの男の身の上話もどうでもいいことなのだろう。
「ただの犯罪組織なら騎士団に任せていたけど、上級貴族にも敵がいるみたい。オズリオ様を殺そうとしたということは王国の敵よ。見過ごすわけにはいかないわ。」
オズリオ様は騎士にとって憧れの存在。そんなオズリオ様が殺されたとなれば騎士全体の士気が大幅に下がる。もっと有力な地位の貴族が狙われたのなら派閥争いで済むが、近衛騎士第一団長が狙われたということは派閥ではなく王国全体の敵の可能性が高い。
「おじさんの名前は?」
「…ガイルだ。」
「そう。ガイルさん。私は情報が欲しい。代わりに提供出来るのは…借金の肩代わりかな。できればアリーさんも助けたいと思ってる。どうかな?」
「そんなことができるのか?できるならなんだって協力してやる!だが、娘はどこにいるのかも分からないんだ…どうやって助けるというんだ…」
ガイルさんは泣き出してしまった。絶望に近い、深い悲しみを抱いている。
「大丈夫。私なら助けることができる…かもしれない。とりあえず…今日は疲れたと思うから休んだ方がいいかな。」
「助けに行くならすぐに!!もう…アリーは今にも殺されているかもしれないんだぞ!!!」
焦る気持ちは分かる。けれど今は助けに行く手段がない。レオを見るとやれやれという表情をしている。私はガイルさんを説き伏せるように言った。
「今日はもうポーションを飲めないからすぐにアリーさんを見つけることができないの。ただ、明日からは色々と動いてもらうつもり。だから今は休んでほしい……もう眠って。」
興奮していたガイルだったが、すぐに首をガクンッとして眠った。その後、レオがガイルをベッドに運んでくれた。レオが不思議そうに聞いてくる。
「今のも魔法か?」
「魔法というより、魔力を使った催眠術に近いわ。彼は麻薬を飲んでいるし、とても疲れているからすぐ効くと思ったのよ。」
「ふーん。で?どうするんだ?アリーを見つけるのは難しいと思うぞ。」
「大丈夫よ。彼の頭の中を直接覗くわ。とても疲れるし、魔力もかなり消耗するし、時間もかかるし、難しいし、条件もあるの。だから今は出来ないのよ。」
「へー!そんなことも出来るのか!お前、本当に人間なのか?」
「レオに言われたくないわ…とりあえず私は自分の部屋に戻るわね。準備して早朝に戻ってくるわ。レオはここに残る?」
「いや、おっさんと2人は嫌だな。ミリアの部屋で寝るわ。」
そうして私たちの1日が終わった。
…
「おはよう、レオ。」
私はレオを起こした。おはようと声をかけるには少し早い時間だが、出来るだけ早く準備したほうがいいだろう。そして今日は殿下がやってくる青の日。殿下には悪いが、ドタキャンさせてもらう。これからカイに伝言を頼むつもりだ。
「おはよーミリア。その仮面はなんだ?」
レオは私が手に持っている仮面を指す。白地にリヒテンベルグ図形のような葉の葉脈のような模様が描かれている。1年ほど前から使っていなかったが、まだ綺麗な状態で残っていてよかった。
「これから使うのよ。私は準備出来たわ。ガイルさんの元に戻りましょう。」
「ああ。」
そうして私たちはガイルさんがいる貧民街の部屋に向かった。朝早い時間だったが、途中でカイに会うことができ、殿下への伝言を頼むことができた。正直、ドタキャンなんて相手が王族でも貴族でも友達でも駄目だが、殿下に対してはもう気にしないことにした。
部屋に入ると、まだガイルさんは眠っていた。昨日眠らせた時に、かなり深い眠りになるようにしたせいだろう。私はガイルさんを起こし、水浴びをさせた。
「さっぱりした?」
「あ、ああ。昨日は悪かった。…それで、俺はどうしたらいい。」
「それじゃあまずこれを飲んでくれる?」
私はあらかじめ準備していた小瓶をガイルさんに渡した。中身は私の血液。頭の中の記憶を探るためには相手に私の血液を飲ませる必要がある。そして私の血液が身体に浸透した後、魔力操作をすると私の血液が媒介になり、記憶を消したり見たりすることができるようになる。ちなみに以前、私は紅茶に血液を入れてオズリオ様に飲ませようかと考えていた。
「これは何だ?血か?」
ガイルさんは飲んでから聞いてくる。すでに麻薬を飲んでいるからか抵抗がない。血を飲ますのに抵抗されると思っていたが杞憂だったようだ。
「気にしない方がいいよ。さて、次にガイルさんにはギルドに依頼を出しに行ってほしい。」
「依頼?まさか娘を助けてくれって?」
「正解。100ペギー渡すから依頼料と成功報酬に使えば大丈夫よ。」
「はあ?たった100ペギーで依頼を受けるやつがいるわけないだろう!」
ガイルさんの言う通り、100ペギーで犯罪組織から娘を助け出すような冒険者はいない。それに依頼料も含めているから実際の成功報酬はもっと低い。実際、犯罪組織のレベルにもよるが、500ペギーは用意した方がいいだろう。しかし、今回依頼を受けるのは私だ。
「大丈夫よ。依頼を受けるのはフェレスだから。何もおかしくないわ。」
「な!!フェレスだと!?」
ガイルさんは驚愕の表情を浮かべた。そこまでびっくりするほどのことなのだろうか。フェレスというのは私が1年前まで使用していた冒険者の名前だ。目的は修復魔法の実験のためなので魔獣退治などは一切行わず、盗賊や犯罪組織を捕らえる依頼しか受けていない。なのでランクはそこまで上がらず、フェレスはCランクだった。ちなみにS,A,B,C,D,E,Fランクとある中で上から4番目、下からも4番目というなんともいえない位置にあるのがCランクだ。
「フェレスって有名なのか?」
レオが代わりに疑問に思ったことを聞いた。偏った依頼しか受けなかったので当時はそれなりに有名だったはずだがもう1年経つ。
「兄ちゃんお前フェレスを知らないのか!?」
「あ、あぁ。」
レオは私をチラリと見る。フェレス=私と知っているが、知らないふりをしてくれたようだ。それにしても私は周りからどう思われているのだろう。私はガイルさんに続きを促した。
「フェレスはな、盗賊退治の依頼ばかり受けるからランクは低いが、実力はSクラスだ。1人で盗賊を難なく皆殺し。人質は必ず救出するということでギルドからの信頼も厚い。しかも、活動範囲がかなり広い。他国でもフェレスは有名だぞ。他の依頼は受けないが、盗賊退治なら報酬が低くても受けてくれるという噂だ。ここ1年は活動していないから死んだという説を聞いたことがあるが…」
「へ、へぇー。」
「しかも、フェレスは仮面を被っていて誰も素顔を見たことがないらしい。華奢な体つきから男ではなく女という噂もあるくらいだ。」
「あぁ。なるほど…それで…」
私が持っていた仮面について思い出したらしい。それにしてもここまで私の評価が高いとは思っていなかった。私=フェレスと教えたらどうなるのだろう。私とフェレスの関係を聞かれる前に強制的に話を進める。
「はい!それじゃあガイルさんはギルドに依頼を出しに行ってね。依頼名は【犯罪組織から娘救出】にしてくれたら分かると思うから。レオもガイルさんを守るためにギルドまで一緒について行ってくれる?」
「ああ。分かった。」
何故わざわざ依頼をギルドに出す必要があるのか。それは責任を全てガイルさんに押し付けるためだ。このまま私とレオでアリーさんの救出に向かってもいいが、救出に成功しても、残党から報復されるリスクがある。しかし、ガイルさんがギルドに依頼を出せば、私が救出に成功した後に敵から報復される可能性が低くなる。もし、依頼を受けた冒険者に報復すれば、冒険者を保護しているギルドを敵に回すことになる。それは敵も分かっているだろうから、報復するなら依頼を出したガイルさんを標的にするだろう。それに、ギルドに依頼が掲載されるということは、犯罪組織が公になるということだ。そうなれば、犯罪組織は国に摘発されないために活動を縮小せざるを得ない。
「それじゃあ、いってらっしゃい。」
念のため、レオの髪色は甘栗色にした。元々の赤色は普段から目立ちすぎているし、黒色はオズリオ様に見られている。ないとは思うが、オズリオ様と鉢合わせた時のために別の色にした。
2人を見送ったあと、私はフェレスの格好になり、フェレスの時の馴染みである武器屋に行く。1年活動していないので、使っていた武器が錆びてしまっていた。武器屋の後にギルドに行けば、ちょうどお目当ての依頼が掲載されている頃だろう。
ガイルさんの様子から、私はそれなりに有名人らしいので、姿を消して部屋を出た。
読んでいただきありがとうございました。
次話以降も読んでいただけると嬉しいです。
次話は2日後に更新予定です。




