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1章 人身売買と麻薬取引1

1話更新です。


「オズリオ様がいる…」


私はレオにこっそり伝える。結界を緩く張っており、周りの声も大きいが、念のために小声で話す。


「オズリオ?ああ。近衛騎士第一団長でお前のことを知っているやつか。」


「ええ。変装しているみたい。いつもかきあげている前髪を下ろして、平民のような格好をしているだけだけど、意外と分からないわ。」


どこかで見たことあるような気がすると思って、魔力を確認した。距離が遠いので正確性には欠けるけれど、オズリオ様の魔力は近くで確認したことがあるので間違いない。普通に話しているように見えるが、魔力からは緊張感が伝わる。…任務中のようだ。


「誰かを尾行しているようね。相手は…ここからは分からないけど、オズリオ様の他に何人かいるわ。」


「へーそれでどうするんだ?」


レオはニヤリとこちらを見る。私がどうしたいのか既に分かっており、賛成のようだ。見て分かるほどにわくわくしている。


「もちろん。オズリオ様を尾行するわ。」


私は尾行中のオズリオ様を尾行することに決めた。この街に私の知らない異変があるなら調べておいた方がいい。最近は殿下とレオとの時間が増えたので、もしかすると私の見落としがあるのかもしれない。今まで、騎士団が動いている時は、あの件かなと予想ができるくらいには既に情報を持っていた。しかし、今回はオズリオ様直々に動いているのに現時点では何も分からない。この街の人に慕われている身としては見過ごすわけにはいかない。お兄様なら既に任務内容を知っているかもしれないが、知らなければ報告した方が良い。これが大きな事件の前触れになるかもしれないのだから。


私たちは周囲の様子を気にしながらも、普通に夕食を終えて店を出た。魔力の消費は激しいけれど、店の外に隠れて、オズリオ様の魔力を尾行する。今までの経験上、相手の姿を目で確認しながら尾行すると相手に見つかる可能性があるが、魔力だけを追うと距離を取ることができるので、ほとんど相手に気付かれない。ちなみに、姿を消して尾行する場合もあるが、オズリオ様なら気配で気付く可能性があった。


「オズリオ様が店を出たわ。行きましょう。」


オズリオ様が路地裏の方へ向かう。それに合わせて3人ほど動いた。騎士団はオズリオ様を含めて4人のようで、おそらくオズリオ様の進む先に尾行相手がいるはずだ。私たちは全員に見つからないように、さらに距離をとって尾行する。



どんどん魔力が減っていく。相手の魔力を確認するためには、自分の魔力を薄く引き伸ばして、魔力と魔力を重ね合わせる必要がある。距離が遠いほど魔力は感じにくいし、消費も激しい。私はいつも持っているポーションを既に2本飲んだ。残りは3本。足りるだろうか。


(そういえば、前にポーションを飲み過ぎだとお兄様に叱られたわね。改善していないし、しようともしていないけれど。)


私は小さく笑った。尾行中なのですぐに気持ちを切り替える。そして3本目も飲み干した。


オズリオ様は…立ち止まったようだ。


「何か…建物に張り付いているわね。おそらく尾行相手が建物に入った…様子を伺っているところかしら。」


「へー!そんなことも分かるのか。」


「ええ。魔力を引き伸ばしているから、そこに何かがあるのかくらいは分かるわ。魔力で物を持ち上げるのは難しいけどね。」


魔力は圧縮して密度を上げれば手を使わずとも物を持ち上げることが出来る。ただ、オズリオ様までは距離が遠すぎるので、壁のような物があるという程度にしか分からなかった。


「オズリオ様が建物に入ったわ。他の3人はその建物に張り付いているわね。もっと近付きましょう。」


オズリオ様は建物の中に入り、遂に尾行相手に接触を試みたようだ。他の3人の騎士団も中の様子を伺うことに集中している。今ならば、かなり近づいても気付かれないだろう。私たちは姿を消して建物に近づいた。




「おい!そこにいるのは分かってるんだ。出てこい!」


腕が太く、強面の男が建物の入口に向かって叫ぶ。男の周りには同じような男が十数人で警戒体制をとっていた。そんな中、入口からはスラリと背の高い男が入ってくる。


「…。」


「俺を尾行していたのは知っている。何の用だ。」


「ここに悪人がいると聞いてきた。お前達には捕縛命令が出ている。大人しく投降は…しないよな。」


背の高い男が話している間にも、強面の男たちは武器をとって構える。投降するような素振りはなく、むしろ背の高い男を殺してやろうという意気込みを感じた。


「お前、この人数に相手が出来ると思ってんのか!」


「思っている。」


「!!……殺せえええ!!!」


強面集団のリーダーのような男がわなわなと肩を震わせた後、周りの男達に言い聞かせるように叫ぶ。背の高い男に向けて殺気を放ちながら強面集団は襲いかかった。多勢に無勢とはこのことだが、背の高い男…オズリオは臆せず対峙する。


キンッ


剣と剣がぶつかり合う音が聞こえたと思ったら、強面集団の1人が倒れる。大きく振りかぶった剣をオズリオが剣でいなしてギリギリで避け、ガラ空きの右懐に蹴りを入れた。


ゴリッ


肋骨が折れた音がする。


倒れた男はそのまま立ち上がってこない。死んではいないようだが、血を吐いて動かない。


「次は?」


他愛もないというようにオズリオが強面集団に問いかける。オズリオの予想外の強さに強面集団は一瞬怯むも、まだまだ人数が多い。


「一斉にかかれ!」


オズリオは複数の攻撃を同時にいなす。弾いた剣を別の敵に向けて投げ、相手の攻撃をオズリオの攻撃に変える。1人を倒せば、そのまま別の男に倒した男を投げつけるか、盾にして別の攻撃をかわす。しかし、流石に人数が多いようだ。オズリオは負けていないが、勝ってもいない。そんな均衡がしばらく続いた。


(何故…2人が入ってこない…他の入口を見つけたのだろうか。いや、入口はなかったはずだ!)


思考が邪魔をして目の前の敵に集中できていない。敵と対峙しながらオズリオは計画に問題が生じたのではと焦っていた。オズリオの役目は敵を惹きつけること。その間に他の2人が建物に侵入し地下にあるであろう物的証拠を押収する。残りの1人が逃げた敵を捉えるために建物の外に待機する。そういう計画だった。当初は外の待機を2人にするか、1人にするか迷ったが、地下に敵が隠れている可能性と人身売買のために捕らえられた人がいるかもしれないということで、地下に行くのは2人になった。そして、問題が生じた場合、外に待機している1人は建物内で応戦することになっている。…が、誰も応戦に来ない。


(外の様子を見に行きたいが、目の前の敵が邪魔だ!全員倒すしかない!)


オズリオは剣を握り直し、敵を惹きつけるためではなく倒すために気合を入れる。近衛騎士第一団長の地位は伊達ではなく、1人、また1人と敵を減らしていった。


(残りは奴だけだ!)


強面集団のリーダーのような男だけが残る。リーダーは強すぎるオズリオ相手に萎縮してしまっているようだ。一応剣を向けてはいるが、腰が引けている。こうなってしまえば、オズリオの相手などできるわけがない。


オズリオの剣がリーダー相手に振り下ろされる。


その瞬間……剣が弾かれた。


「なっ!」


オズリオとリーダーの間には黒髪の若い男が騎士団の剣を持って立っていた。

読んでいただきありがとうございます。

次話以降も読んでいただけると嬉しいです。

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