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1章 オズリオ・ワーナード目線

1話更新です。

(なぜ、私は馬車に乗ってレノヴァティオ公爵家へ向かっているのだろう。)


今日は休日だった。休日といっても騎士の宿舎で寝泊まりをしているので、勤務日と同じように王宮に足を運ぶ。実家は伯爵家で王都に屋敷があるので、必ずしも宿舎で寝泊まりをしなければならないというわけではない。しかし、実家にいれば次期ワーナード伯爵のための煩わしい小言を延々と聞かされるので、普段は宿舎で生活をしていた。


休日で、また急ぎ済まさなければならない用事もないので、今後のためにフュナンゼ国との戦争について調べていた。


…が、そこへレノヴァティオ公爵がやってきて、話をしているうちに、いつのまにか馬車に乗せられてしまった。


「書物なら公爵家(うち)にも沢山あるから戦争について調べるといい。」


「はい。ありがとうございます。」


馬車の中で、目の前に座っているのは、レノヴァティオ公爵である、エリオス・レノヴァティオ。私も近衛騎士第一団長をしているが、公爵の方が立場は上なので逆らうことが出来ない。公爵家に来いと言われれば「はい」以外の答えはない。そして、経験上、こうやって強引に連れられて行く時は、だいたい縁談の可能性が高い。28歳になってまだ婚約者もいないとなると、私ではなく周りが焦るようだ。気がつけば女性と顔合わせをさせられている。


そうこう考えているうちに公爵家に着き、書斎に案内された。レノヴァティオ公爵家の書斎は圧巻だと聞いたことがあるので、少し楽しみでもあった。しかし、書斎の入口の手前で公爵は立ち止まる。


「実は、娘に会ってほしい。今日は体調が良くてね。書斎に来ているよ。」


(やはりか…)


もしかしてと思っていたが、やはり縁談のようだ。正直、女性と顔を合わせることにうんざりしている。しかし、ここまで来て断ることも出来ないので、適当に理由をつけてすぐに帰ろうと考えた。しかも、レノヴァティオ公爵家の令嬢は噂では性格が悪いだの、醜い顔をしているだのと聞いたことがある。私は、兄のライルとはそれなりに仲がいいが、だからといって噂の妹と結婚したいとは思えない。


「初めまして。ミリアリア・レノヴァティオと申します。」


(噂とはまるで別人じゃないか。)


紹介されたのは、とても美しい人だった。容姿も所作も見入ってしまうほどに美しい。何か武芸をしているのか、歩き方の重心がブレず、隙がない。そして、一般的には知られていないはずのフュナンゼ国の武力についても把握している。この情報は機密に近い情報として扱われていた。私は目の前の公爵令嬢に疑惑を覚える。


ガチャンッ


メイドの入れた紅茶が私に降りかかる。目の前で紅茶をこぼされたので、避けることが出来ないと判断する。せめて直接皮膚にかからないように腕で顔を隠すように覆った。


…が、あり得ないことが起きた。机を挟んで向こう側にいたミリアリア様が目の前に移動して代わりに紅茶をかけられていた。


一瞬思考が止まる。


しかし、赤くなった彼女の腕を見て我に返った。私は近衛騎士の制服を着ているので袖は厚手の生地になっている。しかし、彼女は肩と腕が見えている綺麗なドレスを纏っていた。つまり、熱い紅茶が直接皮膚にかかっている。


「早く手当を!」


「これくらいは平気ですわ。それよりもオズリオ様、怪我はございませんか?」


平然と私の心配をしてくる。

彼女は痩せ我慢をしているわけでもなく、本当に何でもないというように返事をする。鍛えている騎士であっても熱い紅茶をかけられれば、顔を歪ませるなり、火傷の状態を心配するなり、何かしら反応をする。しかし、彼女にはそのような反応が一切ない。明らかにおかしい。それに、私を庇う動き。…全く見えなかった。剣捌きを目で毎日追っている私が反応できなかった。私は近衛騎士第一団長で、戦闘では誰よりも強くあらねばならない。そしてそのように努力もしてきた。結果、今まで様々な敵と対峙してきたが、五体満足で生き残ってきた。


(目の前の少女が……恐ろしい。)


彼女が本気で私の命を取りに来たら対処出来るだろうか。動きも見えていないのに、戦えるのだろうか。おそらく死んだことすら気付かないまま終わるだろう。


恐怖心が芽生え始めた頃、王城でよく聞く声が耳に入ってきた。


「ミリアー大丈夫か?」


ライルが書斎に入ってきた。背中に冷や汗をかいている状態だったので、見知った姿を見て安堵する。ミリアリア様はライルに駆け寄った。彼女と距離を取ることが出来てやっと落ち着いて彼女を観察することができた。彼女は本当にライルの妹で2人はかなり仲が良いようだ。それに、彼女はライルには敵わないらしく、良いように頭を撫でられていた。


その後、ライルとミリアの秘密を知り、協力者になった。ミリアにはまだまだ秘密がありそうだったが、ライルに話を切られ、レノヴァティオ公爵家を後にすることになった。


(ミリア)を見て驚いたか?」


「驚いたどころの話じゃない。噂とはまるで別人じゃないか。特にあの動き…彼女と闘うことになったら私は…負ける。恐怖心を抱いたのは久しぶりだ。」


私は自分の手のひらを見ながらライルに答える。手の震えがやっと落ち着いてきたようだ。


「近衛騎士第一団長が情けないこと言ってやがる。まぁ気持ちは分からんでもないがな。ミリアの魔法は天才的だ。…本当に有能な部下だ。」


「…そのようだな。それにしても何故殿下にミリアのことを伝えてないんだ?」


「あー…それなんだが…」


普段はズバズバ確信をついてくることばかり言うくせに、珍しく歯切れが悪い。言いにくいことなのだろうか。


「ミリアはな…アレクの(つがい)なんだよ。平民の格好をしているミリアを見て確信したらしい。」


(つがい)!?それじゃあ、王太子妃はミリアになるのか。」


まさか(つがい)だとは思わなかった。しかし、彼女は1人暮らしをしている。平民の格好で会ったということは…


「もしかして殿下はミリアが公爵令嬢ということを知らないのか?」


「ああ。知らない。ミリアにも(つがい)ということは言っていない。アレクの一目惚れと言ってある。」


殿下がずっと(つがい)を望んできたことは知っている。たとえ、本当にミリアが平民だとしても殿下は簡単に諦めないだろう。それに、ミリアに対しても殿下の一目惚れという理由でずっと騙せるとも思えない。


「…ややこしいと言っていたのはそういうことか。でも殿下が望むならずっと黙っていることはできないだろう。」


「まぁ、そうなんだが…ミリアの今までの努力を見過ごすことは出来ない。お前ならミリアが今までどれだけ努力してきたのか分かるだろ。」


兄として悩んでいるようだ。基本的には殿下を優先しなければならない。それはライルも重々承知しているはずだが…本当に(ミリア)が可愛いようだ。


「そうだな。さっきの動き、練習したというだけで出来るはずがない。それに彼女は痛みに強すぎる。まるで鍛え上げた傭兵のようだ。」


ミリアが何故1人暮らしをして、王太子妃を拒むのかは分からない。だが、生半可な覚悟で行動しているわけではないことは分かる。何が彼女をそこまで駆り立てるのだろうか。


気付けば、馬車は王城に到着していた。


「とりあえず、今日のことは黙っておくよ。何か手伝えることがあるなら言ってくれ。」


「頼むわ。」




レノヴァティオ公爵家に行った後、何か手伝わされるのかと構えていたが、そんなことはなくいつも通りの日常を送っていた。


目の前には近衛騎士団統括のカレオ・ハイノール伯爵が座っている。カレオ統括は今年で40歳。経験豊富な方で、私はこの方に闘い方を教えてもらった。ここは彼の執務室で、私は騎士団への連絡事項や業務報告のために毎日この部屋に来ている。しかし、今日は定型業務とは違うようだ。


「オズリオ。上から任務が来ている。相手は麻薬取引や人身売買をしているらしい。見つけ次第、捕縛だ。やむを得ない場合は殺してしまっても構わん。」


「私にくるということは…近衛騎士の宣伝のためでしょうか。それとも、相手が強いのでしょうか。」


近衛騎士は王城を守護するのが役目だ。普通の騎士と違って人数が少ない分、実力を求められる。その代わり、罪人の捕縛などの任務は一般の騎士か任務を請け負った家の部隊が引き受ける。しかし、たまに今のような任務が近衛騎士にくることがある。理由としては主に2つで、華やかな近衛騎士の優秀さを世間に見せつけるためか、ただ単に、一般の騎士に負えない難しい任務かだった。


「さあな。どちらかの理由か、両方だな。やってくれるか?」


「拝命いたします。」


上からの任務であれば拒否権はない。私はカレオ統括に詳細を確認する。ある程度の情報は掴めており、組織の幹部も絞り込めているようだ。過去には、酷い任務だと、1から情報を集めなければならない場合がある。今回は事前情報があるので、そこまで難しくない任務になりそうだと考えていた。

読んでいただきありがとうございます。

次話以降も読んでいただけると嬉しいです。

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