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1章 ここから人生設計が狂い始める2

本日2話目です。

よろしくお願いします。


1章完結に合わせて、編集しました。内容は変わっていません。(2021/12/27)


2日後に1章完結予定です。

「重かったわね…雨のせいかしら。」


私は男性をベッドに寝かせて、息をついた。


なんとか…倒れていた男性を1人暮らしの部屋に運んで来ることができた。魔力はカツカツだが、おかげで誰にも見られていないはずだ。


1人暮らしをしている私の部屋。この部屋は、出来るだけ掃除をして綺麗にしているので、怪我人を運んでも問題ない。

物が少なく殺風景な部屋だが、夜に月明かりが見える小窓がお気に入りだった。



「うぅ…寒いわ……」



私はブルブルと身体を震わせた。


男性も私も、雨で濡れて髪と服が身体にへばりついている。今にも風邪をひきそうな格好だ。


私は魔力を回復させるため、ポーションを飲んで、魔法で身体を乾かした。寒いのでブランケットを肩にかける。男性には、魔法で身体を温めてあげた。


彼は今にも死にそうな様子だが、かなり鍛えているようで、死ぬことはないと思われる。だが、意識が戻ってない。



(さて、とりあえず魔力の残滓を確認しましょうか)



この世界には魔法が存在している。

攻撃魔法や生活魔法等、種類は様々だが、もし魔法で攻撃されたなら魔力の残滓が残っているはずだ。

私はこれでも魔力操作が得意で、残滓を見れば、どの魔法が使われたのか、魔力の性質や癖などもなんとなく分かる。だが、魔力は思わぬところで見つかった。



「傷跡は…きっと刃物ね。でも髪の毛に魔法がかかっているわ。これは偽装ね。今は綺麗な黒髪だけど、本来は違う色のよう……ん?綺麗な!?」



この国の人間は大きく分けて貴族と平民の2つに分類される。身なりにお金をかけられる綺麗な髪の毛は貴族か金持ちの商人等の特徴だ。



「偽装なんかするってことは、おそらく貴族…これはさっさと正体に当たりをつけて、治療するか……」



私は「んー」と目を瞑って、残酷な結論を出す。



「……もしくは、可哀想だけれど、元の場所に捨ててくる方がいいわね。」



貴族には派閥があり、考えなしに行動してたら後々大変なことになる。

本人にはそんなつもりがなくとも、気付いたら裏切ってました。スパイしてました。なんてよくある話だ。

貴族と関わる際は、よく考えて行動する必要があった。


男性の顔を再度確認する。意識はないが、苦しそうだ。でも何かがおかしい。怪我が痛くて苦しいっていうよりは、なんだか身体全体的?に苦しそうだ。



「原因は何かしら……とにかく、外に捨てても死なない程度には治療した方がいいわね。…明日、ポーションの買い足しは必須ね。」



棚の引き出しからポーションを出す。怪我の具合から5()()あれば治療できそうだ。


ちなみに、前世のゲームでは、ポーションを使えば傷・体力・魔力を回復させることができたが、この世界は魔力しか回復出来ない。

しかも薬を使って魔力を引き出すため、身体にかなりの負荷がかかる。そんなゲーム通りにはいかないことは、この世界に生まれてから17年の経験で嫌というほど学んできた。



「ポーションの準備は大丈夫。まず、傷口の修復を始めましょうか。筋肉の形は…かなり鍛えているけど、これくらいなら大丈夫そうね。次に魔力の性質は…あれ?魔力は…は?え?……え!?」



私だからこそ分かる異常。



「………こんなことって…ありえるのかしら?」



怪我を治すには、簡単にいうと魔力を編み上げていく必要があるが、その時に参考にするのが本人の筋肉の形や魔力の性質だ。しかし、この男性の魔力は一般人とは全く違っていた。



「魔力量がドラゴン並み…なんて…」



目の前の事実を処理できず、頭がくらくらする。


前世のゲームだと魔力量が数字で現れたり、魔力の大小が目に見えたりするが、この世界はそうではない。

魔力の器の大きさは、身体の大きさに比例する。なので、どのような人間であっても器の大きさは大差ない。


では、魔力量はどうやって判断するのか。

それは魔力の密度だ。密度が大きすぎると魔力が器に収まらなくなってしまう。


そして器は壊れる。



「魔力はドラゴン並みだけれど、この人は人間。こんな魔力を持っていて精神や身体が平常でいられるはずが…あ、だからこんなに苦しんでいるのね。」



彼は「うぅ……」と唸って眉間に皺を寄せている。


かなり辛いだろう。ドラゴンの魔力量はドラゴンの肉体や器を持っているから成り立つのだ。この人は人間。ずっとこんな状態で耐えてきたのだろう。



でも、おかげで彼の正体が分かってしまった。



「これはさっさと治してあげて、お兄様に連絡を取った方がいいわね。今頃、慌てているかもしれないし…」



彼の額の汗を拭ってあげる。

顔を歪めているが、とても綺麗な顔立ちをしていた。



「…ついでにお父様へも、お兄様から言い訳してもらえば、怒られなくて済むわ。」



色々衝撃の事実に怯んでしまったが、お父様に許してもらえそうな材料も見つかった。

そして、今後の方針も見えてきたので、私は安心して治療に専念した。




男性を拾ってから1週間後、私はいつも通りに過ごしていた。


少しお父様に小言を言われたが、お兄様が上手く言ったようで、1人暮らしを辞めさせられることはなく、変わらない毎日を過ごしていた。



「いい天気ね。今日の予定は、昼から子どもたちに計算の仕方を教えるだけで、あとは予定なし。…何をして過ごそうかしら?」



窓から見える青空を見ながら、今日の予定を立てる。天気も良く、1日の始まりだからか気分が良い。



「久しぶりにギラに会いに行こうかしら…聞きたいこともあるし…いるか分からないけれど。」



私はいつものように、頬にそばかすを描き、髪は三つ編みにしていた。髪は黒に、瞳は黒褐色に変え、大きめの眼鏡をかける。独りで街中に暮らしており、子どもたちから先生と呼ばれている「ミア」という少女の完成だ。


ちょうど身支度を終えたところ、外から子どもたちの元気な声が聞こえた。



「「「せんせー!!!」」」


「はーい!」



私は子どもたちに聞こえるように大きめの声で返事をした。


この部屋は子どもたちや街の人から周知されており、何か頼み事やお誘い事など、訪ねてくる人はそれなりに多い。


私は再度、自分の格好に違和感がないか鏡で確認したあと、玄関の扉を開けた。


太陽の光が目に入る。私は反射的に目を細めた。手のひらで日差しを遮るが、なかなか前が見えない。



(……え………嘘でしょう…?)



目の前の子どもたちの姿をなかなか視認できないので、変わりに魔力を放って確認した結果…



1週間前、感じた魔力が目の前にあった。



ドクドクと心臓が鳴る中、光に目が慣れてきた。

私は、少しずつ瞼を持ち上げる。


目で見て、再度確認しても、事実は変わらなかった。



(あの時、彼には意識がなかったわ。お兄様が告げ口したとも思えない。それに…彼を運ぶ時は魔法を使ったから、誰にも見られていないはずなのに…)



彼の瞳が私を捉えている。

私に会えて、何がそんなに嬉しいのだろう。



私の前には…



端正な顔立ちの…セレリィブルグ王国の王太子。

アレクシル・セレリィブルグ殿下がいた。



(いかにも下級貴族ですと言わんばかりの格好ね。本来のブロンドの髪は、あの時と同じ黒色になっている。)



どう対応すべきなのか、頭の中で情報を精査する。



(あの時は、殿下に意識がなかったはずだから、初めましてで問題ないはず………初めましてで、彼は下級貴族。これで大丈夫…よね。)



とりあえず、彼の周りにいる子どもたちに声をかける。


貴族相手、ましてや王族を目の前にして、子どもを優先するのは失礼にあたる。しかし、平民から話しかけるわけにもいかない。

ここは、少し失礼な態度をとっても、平民だから礼儀を知らないということで許してもらおう。



「みんなおはよう。今日はどうしたの?あと、彼のことを紹介してくれる?」


「先生のこと探してたよー!」

「長い黒髪って先生じゃないのー?」

「先生そばかすついてるけど、眼鏡外したら美人だってお父さんが言ってたー」


「ええと………」

(何故彼がいるのか、なんとなく分かったわ…)



子どもたちの紹介で、殿下は小さく笑う。子どもは嫌いではないらしい。

殿下は一応どういう経緯でここにいるのか説明してくださった。



「私が長い黒髪で綺麗な女性という特徴で聞き回っていたんです。子どもたちが案内してくれました。私が探していたのは貴女で間違いないようです。この後のご予定は?」



相手は下級貴族に変装しているが、それでも貴族のような格好だ。なんて答えるべきか…


せっかく天気も良くて気分も上がっていたのに…

貴族に関わると碌なことがない。しかし、王族に関わると、もっと碌なことがない。



(はぁ。ため息だわ…)



目の前でため息をつくことが出来ないので、私は心の中で大きなため息をついた。

読んでいただきありがとうございます。

次話以降も読んでいただけると嬉しいです。

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