1章 友達1
やっとギラとレオについてのお話です。
今日から図書館でセレリィブルグ王国の王族について調べる予定だ。この街には王立図書館があり、調べ物をするには最適な場所である。昔は貴族しか利用出来なかったが、今では平民も利用できるようになっている。ただ、入館時のチェックがあり、先に入館料の支払いと簡単な身だしなみチェックをされる。
私はいつものようにミアの姿になって図書館の開館時間まで、紅茶を飲んで部屋で過ごしていた。
「先生ー!!!」
「はーい!」
この大きな声はカイだ。カイが扉の前で私を呼んでいる。何かあったのだろうか。ミアであることを鏡で再度確認し、扉を開ける。
「おはよう。カイ、どうしたの?」
「おはよー。なんか汚い人が落ちてる。ミリアとかミアとかなんか言ってて、もしかして先生に用があるのかなって。」
(え。ミリア?私の名前を知ってる人?誰?とにかく私の名前を広められる前にすぐに行かないと!)
「とりあえず案内してくれる?」
「わかったーついてきてー。」
私はカイについて急ぎ足で汚い人の下へ向かった。私の名前を知っている人は少ない。でも汚い人というイメージが誰に対しても湧かない。鼓動がいつもより速く鳴っている。オズリオ様に姿を見られた時より焦っているかもしれない。
カイは街はずれの冒険者が行き交う通りに私を案内した。目の前には確かにボロボロの男性が倒れている。服は元々素材が良くない上に、汚れて埃色になってしまっている。元の色はどのような色だったのか想像もできないほどだ。顔も汚れているため、人相の判別が難しいが、見たことのない顔だった。一応魔力も確認する。人は指紋と同じようにそれぞれ魔力の質が違う。私は、一度確認したことがある魔力なら誰なのかだいたい判別ができる。目の前の汚い人は…見知った魔力の持ち主だった。
「あなた…もしかして…レオ!?」
「え、ミリ…」
ドガッ
汚い人は意識を失った。
私が思いっきりコメカミに蹴りを入れたからだ。こんなに人が見てる中で私の本名を呼ぶなんて許さない。それに、彼はこんなことで怪我をするような人じゃない。というか人間じゃない。
「え…ちょ…大丈夫なの…か?」
カイが慌てて聞いてくる。流石に急に人を蹴り上げたらびっくりするだろう。
「うん。大丈夫よ。ありがとう。この人、私の知り合いだから。教えてくれてありがとう。」
「いや、ならいいんだ…けど。」
「ちなみに、セルー川の水ってもう冷たいかな?この人を洗おうと思うんだけど…」
「冷たいと思うけど、我慢できないほどじゃないよ。まだ凍る時期でもないしね。石鹸とか買ってこようか?」
私の部屋にあるお風呂でもいいけれど、流石にここまで汚い人を洗うとお風呂が逆に汚れてしまう。レオの身体は意味わからないほど丈夫なので、いっそのこと川で洗うことにした。桃太郎に出てくるお婆さんのように洗濯をする感じで。セルー川は冬には凍ってしまうが、まだ冬の序盤。カイもああ言ってるし大丈夫だろう。私はカイに石鹸を買うお金を渡してお遣いを頼んだ。
「お願いね。お釣りは好きにつかっていいからね。」
「りょーかい!セルー川に持ってくわ!」
カイは石鹸を買うために駆け出していった。こういう時に手伝ってくれるのは本当にありがたい。それに、カイが真っ先に私にレオのことを教えてくれたのも助かった。感謝も込めて私はお金を多めに渡した。
「さてと…レオをセルー川に運ばなきゃね。」
正直、触りたいとは思えないほど汚れているが、意識を飛ばしたのは私だ。レオを担いでセルー川に向かう。オズリオ様の前で瞬間移動をした時と同様に、筋肉に魔力を巡らせて筋力をあげる。ちなみに殿下を運んだ時と同じ方法だ。あと、人を担ぐと流石に人目につくので、姿も魔法で消した。
…
「さてと…とりあえず頭を洗おうかしら?」
セルー川のほとりに到着した私は魔法で水をくんでレオの髪を濡らす。水洗いだけでかなり見た目がマシになった。それでも汚いが。ちなみに洗浄の魔法は、効果範囲が小さいか、そこまで汚れていない場合に使う。化粧を落としたり、こぼした紅茶を綺麗にするには最適だが、部屋の掃除や身体を洗うには適していない。
「…ミ、ミリア…?」
流石に冷たい水をかけられれば、意識が戻るようだ。
「おはよう。レオ。久しぶりね。」
「あー…ごめん…怒ってる?」
「まぁ、そうね。必死で隠している本名をバラされれば怒るわよね。」
「…ごめんなさい。」
「まぁいいわ。カイがすぐ見つけてくれたようだし…っと噂をすれば来たわ。」
向こう側から走ってくるカイを見つける。頼んだのは石鹸だけなはずだが、大荷物に見える。
「お待たせ!はい!石鹸。んで、服も汚そうだったから新しいの持ってきたよ。お金はギリギリ足りた。」
まさか服まで用意してくれるなんて思わなかった。子どもは気付けば立派に成長している。でも、ここまで気が利く男性もなかなかいない。
(もとから周りをよく見る子だったけれど、ここまでだったかしら?本当に助かるわ。)
「お前、カイっていうのか。ありがとう!助かった!お礼に俺の鱗を…」
バコッ
「ありがとう。助かったわ。お礼に…そうね。何か要望はある?」
「いや?今度俺が困った時に助けてよ!それじゃあ行くわ!またね!」
(返答まで男前だわ…誰に似たのかしら…)
「いてぇなー何すんだよ。」
レオは私が殴った頭をさすりながら抗議してくる。しかし、抗議したいのはこちらの方だ。
「ただの平民がドラゴンの鱗を持ってるとおかしいでしょう。それなら大金を渡す方がまだマシだわ…」
「え?そうなのか?俺、人間の金がなくなった時は自分の鱗を売ってたんだけど…」
「…そんなことしてたのね。」
レオはこう見えて実は、この世界で圧倒的強者に君臨しているドラゴンである。私はレオのドラゴンの姿を知っているが、人間の姿を見るのは初めてだった。だから、魔力を確認するまでこの汚い人がレオだと分からなかった。
この世界には日本のゲームに出てくるような魔獣が多く存在している。魔獣のほとんどは人間に害をなす存在で、ギルドではよく討伐要請が出されていた。ドラゴン種の魔獣も多く存在しており、討伐難易度はいずれも高い。しかし、その中でも人間と同等の知能を持ち、意思疎通ができるドラゴンは限られている。というか存在が過去に確認されているだけで、ドラゴンに出会って生きているだけで英雄扱いされる。
「ほらっ!頭を洗ってあげるから、これで顔を洗いなさい。」
私はレオに洗剤を渡す。ちなみに防音の結界はすでに張ってある。レオとの会話はほとんどが他人に聞かれてはまずいことだ。
「お、ありがとう。そういえば、ギラがしばらく会えないって言ってたぞ。直接言うつもりだったみたいだが、無理だったみたいだな。」
「そうなのね。何度か会いに行ったのだけど、会えなかったのよね。」
レオはギラの息子にあたる。といっても人間の姿になると2人とも見た目が若い。ギラが20代後半で、レオが20代前半といったところだろうか。ちなみにレオと会うのはこれが2回目で、まだ知り合いという程度だが、前回の出会いが出会いなので既に打ち解けて話すことができていた。
(それでもまさかギラより先にレオに会えるとは思ってもいなかったわ。)
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