1章 想い人2
本日1話更新です。
殿下の問いに一瞬固まってしまう。声に出していただろうか。あの人の名前を呼んでしまったのだろうか。私は何も答えられずにいた。
「私の魔力は誰かを彷彿させるものだったのかな。」
「どうして…」
「ミアの声、表情、仕草は私にとってとても大切だからね。何を考えているのか気になるよ。それで、誰かを思い出しているのかなと思ったんだ。」
「私のことよく見ているんですね。」
「そうだね。ミアについて1番知っているのは私でありたいと思っているよ。まだまだ私の順位は低いけれどね。」
殿下は本音で話している。姿は貴族として偽ってはいるけれど、私に誠実に対等に話をしてくれている。こんな彼に私はたくさん嘘をついている。そしてこれからも嘘を重ねるのだろう。それならばせめて私の気持ちだけは誤魔化さないようにしたい。先程、汗をかいたからなのか緊張しているからなのか喉が乾く。
「私には…以前、想いを寄せてくれた人がいたんです。…私は彼に応えなかった。でも、彼に依存していたんです。」
「その彼は、イルとかいう人とは違う人だね?」
「はい。その…先程は、アシル様とその彼を重ねてしまって…。アシル様には、とても失礼なことをしました。…すみませんでした。」
「そう。終わったことだしもういいよ。話してくれてありがとう。ただ、私といるのに他の男を思い出されるのは気分がいいものじゃない。」
「はい。」
「その彼は今どこにいるのかな?」
「…亡くなりました。もう彼を覚えている人は私しかいません。」
前世で存在した人のことを覚えているのは私しかいないだろう。そう思うと彼の存在を忘れないようにしたいと思った。
「…そう。話し辛いことを聞いてしまったね。」
「いいえ。大丈夫です。むしろ聞いてもらえて良かったです。」
「そうか。…ごめん。そんなことも知らずに私は、ミアが考えていた彼に対して嫉妬をして聞いたんだよ。謝るべきは私の方だ。」
嫉妬をしたと聞いて鼓動が鳴る。殿下に対して何も想っていないのに、反応してしまったのは、彼と重ねてしまったからだろうか。殿下の言葉は1つ1つが私を好きだと言っているようだ。こんなに想われると流石に心がゆらゆらと揺れる。でも、私のせいで◼️◼️◼️が死んだ。同じ過ちはしない。私は必ずこの街を、国を出て行く。
「ミアは…半年後にこの街を出ていく予定なのか?」
「え…」
ちょうど今考えていたことを聞かれたのでびっくりしてしまった。
「カイから聞いたんだよ。この部屋の契約はあと半年。ミアはその後、この街を出て行くんだろうなって大人達が言ってるっていうのを教えてもらった。本当なのか?」
殿下とカイが仲良いとは思っていたけれど、私が知らないところでも交流していたのかと感心する。そういえば、この部屋に来た時に、広場のおばちゃん達からお裾分けで食材をたくさんもらっていたことを思い出した。
「本当です。半年後にこの街どころか、国も出て行く予定です。ずっと前から考えていたことです。」
殿下が黙ってしまった。何か思いつめるように見えるが下を向いているので表情が分からない。代わりに魔力を確認しようとしたが、先に返事が返ってきた。
「嫌だ。」
ガタッ
殿下は私の両手を掴んでベッドに押し倒した。いきなりのことで驚いて反応することができなかった。殿下の顔を見上げる。とても苦しそうな表情だ。涙が出ているわけではないけれど泣きそうな顔をしている。なぜそんな顔をしているのだろう。なぜそこまで私のことを想っているのだろう。
「どうしてそこまで私を好いてくれるんですか?」
「分からない。君のことが頭から離れないんだ。どこにも行かないでほしい。私のそばにいてほしい。」
(心が…揺れているわ…私だって本当は家族と皆と離れたくない。)
「いいえ。私は国を出て行きます。誰に何を言われようとも考えを改めるつもりはありません。」
殿下に対して態度をはっきりさせるためではなく、自分に対して考えを変えないように、覚悟を決めるように、言い切った。
(曖昧な態度をとってはいけない。期待を持たせてはいけない。殿下にも…私自身にも…)
「国を出てどうするの?何か目的があるのか?」
「目的はありません。国を出て旅をして暮らします。強いていうなら、この街を離れることが目的です。理由をお話しすることはできません。」
「この街が、国が嫌いというわけではないよね。」
「はい。この街も、国も、皆を愛しています。この街で生まれて、暮らせて、私は幸せです。」
「なら!どうして…!」
絞り出すように殿下は声を出した。声が掠れて、私まで悲しくなってくる。殿下はしばらく黙り込んだあと、深く息をゆっくり吐いた。私の手首を捉えている殿下の手が緩む。ゆっくりと手を解いて私の上から殿下が離れた。そのまま横になっている私の手を引いて起き上がらせてくれた。
「…あと半年あるんだよね。その間に君を説得するよ。」
「説得されても考えは変わりませんよ。」
「そう。なら最終的に私の権限で、君はこの街から出られないようにするよ。」
「…そんなことができるのは一部の貴族か……王族だけです。」
冗談で言っているのか、本気で言っているのか分からない。殿下は私の言葉に何も答えず、ただただ悲しそうに笑った。何を考えているのだろう。返答を促すように殿下の目を真っ直ぐ見つめる。
「ミアが何者なのか教えてくれたら答えるよ。」
「私は…ただの街娘ですよ。」
「…そう。今はそういうことにしておくよ。」
そうして、殿下は部屋を出て行った。来週は予定があるそうで、次は再来週に来るそうだ。殿下がやってくるたびに、少しずつ私の正体を暴かれていっている気がする。このままではいつか正体を知られてしまいそうだ。
それにしても流石に殿下の態度は異常だ。なぜ私にそこまで執着するのだろう。何か、王族には秘密がある気がする。
「そういえば…セレリィブルグ王国の王族には一夫多妻制が導入されているけれど、妻が1人であることがあるわね。」
今の王もそうだ。王妃様1人しかいらっしゃらない。今までの歴史上、権力者には多くの妻がいる。しかし、妻が1人だけというのはあまり聞かない。王妃は1人だが側室は何人もいるのが普通だ。
(前に殿下に見せてもらった神話といい、セレリィブルグ王国の王族には何かあるはずね。お兄様は知っているだろうけど、きっと教えてもらえない。)
「図書館に行ってみようかしら?正直、図書館の本もほとんど読んでいるけれど、新しいことが何か見つかるかもしれないわ。」
今日はこの後、子ども達との勉強会がある。明日から調べようと意気込んだ。
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